WISC-Ⅳで知覚推理指標(PRI)が低かった子の困りごとやサポートを解説します
世界的に実施されている知能検査「WISC-Ⅳ(ウィスク フォー)」。同検査で分かることのひとつに知覚推理指標(PRI)があります。しかし、知覚推理指標が低かった場合、どんな困りごとがあって、その後、どのようにサポートすることができるのでしょうか? そこで、WISC-Ⅳ検査を行っている鈴木こずえさんが、知覚推理指標(PRI)について解説します。
知覚推理指標(PRI)とは
5歳0か月から16歳11か月の子どもを対象にした知能検査「WISC‐Ⅳ(ウィスクフォー)」。同検査では、下記のようなことが分かります。
- 同年齢の集団の中における子どもの知的な発達段階(全検査IQ)
- 能力の凸凹(得意なところや苦手なところ)
- 下記の4つの指標からなる一人一人の認知的な特徴
4つの指標
- 言語理解:言葉の理解力・説明力・推理力、言語的習得知識など
- 知覚推理:視覚情報を処理する力・視覚情報から推理する力
- ワーキングメモリー:聞いたこと(聴覚的な情報)を記憶し処理する力、注意・集中力など
- 処理速度:見たもの(視覚情報)を素早く正確に処理し、作業を速やかに進める力、注意・集中力など
※2022年2月にWISC検査の最新版である「WISC-V」の日本版が発売されました。指標などについて、WISC-Ⅳから一部変更となっています。
<最新版WISC-Vについて詳しい記事はこちら>
WISC(ウィスク)-Ⅴとは?WISC-Ⅳとの違いや検査内容・指標をWISC検査の専門家が解説
<最新版WISC-Vで知覚推理指標(PRI)にあたる指標の詳しい記事はこちら>
今回は4つの指標の中から、”見る力”といわれる知覚推理指標について解説します。
知覚推理指標=見る力とは
知覚推理指標から分かる“見る力”とは、下記のようなことを意味しています。
見る力とは
- 非言語(見たもの)を理解する力
- 非言語(見たもの)を表出する力
- 非言語(見たもの)で考え推理する力
それぞれの力をもう少し詳しく見ていきましょう。
非言語(見たもの)を理解する力
見たものを理解するためには、まず物の形が正しく分かる(見える)ことと、見たものの位置が正しくわかること、空間を把握する力(空間認知)が必要になります。
非言語(見たもの)を表す力
理解したものを表すためには、視覚的な情報をまとめていく力や、それを基に視覚(目)と運動(手)を協応させていく力が必要です。一度で上手くいかなければ視点を変えるといった、解決に向けて試行錯誤する力も必要になります。
非言語(見たもの)で考え推理する力
見たものから考える(推理する)ためには、直感的に考えが浮かぶといった”ひらめき”のようなもの(直感的推理力)や、新しい場面における問題を柔軟に解決していく能力(応用力)といったものが必要となります。
このように、ひとことで”見る力”といっても知覚推理指標で測る力には、いくつもの要素が含まれています。
知覚推理指標が低いと起こりやすい困りごと
次に、知覚推理指標が低いとどんな困りごとが起きやすいのか考えていきましょう。
困りごとは、知覚推理の中のどの領域が弱いのかによって異なりますが、WISC-Ⅳの検査だけでは、詳しいところまでは分かりません。
そこで今回は、知覚推理指標(PRI)が低いと起こりやすい困りごと全般に触れていきます。次のようなことが苦手となることがあります。
知覚推理指標(PRI)が低いと苦手を感じやすいこと
- 字を書くこと、黒板の字を写すこと(処理速度指標との関連あり)
- 漢字を覚えたり書いたりすること
- 「ここ」「あそこ」など指示された場所を見ること
(注意集中力との関連あり) - 自分が今どこにいるのか位置関係を把握すること
例:何度も行ったり来たり、移動すると自分がどこにいるか分からなくなる - 机の上や中、ロッカー、自分の部屋の片付け
- 分類やパターンを理解すること
- 図形を描く、グラフや地図を読み取ること
- 定規や分度器、コンパスといったツールを使うこと
- 観察時のスケッチや絵を描くこと
- 算数の位取りや応用問題
- 物事の関連性や状況の理解、場を読むこと
- 見通しをもつこと
上記のようなことの背景にはさまざまな理由が考えられます。いくつか例を挙げてみていきましょう。
書字(板書)が苦手な場合
<理由①黒板や教科書のどこに注目していいかが分からない>
注目すべき箇所をすぐに探せないといった視覚検索の弱さや、指示の聞き漏らしや注目を保持することができないといった注意集中の問題などがあり、分からなくなります。
<理由②書くことに時間がかかる>
目の動きがスムーズではなかったり、目と手の協応の問題があったり(不器用さ)、一度見たものを少しの間覚えておくことが苦手(視覚的短期記憶)、どこにどの順番で書いたらいいのかやり方が分からないなどのため、時間がかかります。
漢字を書いたり覚えたりすることが苦手
<理由①形を正確に覚えられない>
見え方(視覚認知)の問題や、部分から全体を想像していく(見えない箇所を補う)力や空間を把握する力などの弱さなどから、形をイメージしにくく、なかなか覚えられなかったり、間違った字を覚えてしまったりしやすくなります。
<理由②覚えた漢字を表出することが苦手>
思い出すのに時間がかかったり(想起の問題)、文脈の中で漢字を正しく使うことができなかったり、ノートや原稿用紙の大きさや罫線に使いにくさを感じていたり、運筆(目と手の協応)の課題などにより、表出することが苦手となります。
算数の応用問題が苦手
<理由①式を立てることが難しい>
文書を理解することが難しかったり、注目すべき箇所(言葉や数字)をすぐに見つけられなかったり、ルールを発見して応用することの苦手さなどから、立式の難しさがあります。
<理由②立式ができても計算がスムーズにできない>
計算パターン(手順)の定着に時間がかかったり、位どりが苦手だったり、書いているうちに数表記がずれてしまったりすることなどから、スムーズにできません。
このように、さまざまな理由で困っている可能性があります。子どもの様子をよく観察してみましょう。どんな場面でどんなところにやりにくさを抱えているのか、子どもの視点に立ち具体的な困りごとを見つけてあげることが、サポートの最初の一歩となります。
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鈴木こずえさんへの相談はこちらから知覚推理指標が高くても困ることがある
知覚推理指標が高い場合、見る力が強く、得意な力となります。ですが、下記のようなやりにくさを感じることもあるようです。
- 見た記憶がいつまでも強く残ってしまう
→マイナスな出来事を忘れることができない(たびたび思い出す)
- 周りのことが気になって仕方がない
→周囲の反応や状況が常に目に入ってきてしまう(ただし常に状況を正しく理解できるわけではない)
- 気になること(点)があると、そこだけをフォーカスしてしまう
→全体をみることが苦手
知覚推理指標が高いと、目から入る膨大な情報量(刺激)を上手くコントロールすることが難しいときもあるようです。
結果、とてもエネルギーを消耗し疲れてしまうという声をよく聞きます。一方で本当は疲れているのに、疲れを感じにくい子もいます。
普段の子どもの様子を見ながら、刺激やスケジュールを調整して休息できる時間を作れるといいですね。
子どもに合った対応のために必要なこと
WISC-Ⅳでは、1つの指標だけを見るのではなく、4つの指標間の凸凹を総合的に見ていくことが大切です。
凸凹が出た場合は、得意苦手な力があるということになりますが、差がどのくらいあるのか、ほかのどの指標と比べて得意なのか苦手なのか、丁寧に見ていくことが大切です。
例えば、知覚推理指標が同じ数値(低い場合)でも、高い指標が違えばサポートの仕方も違います。
プロフィール(凸凹のパターン)が同じようなパターンでも、FSIQ(全検査IQ)の数値によって対応も全く違います。
さらに、一番高い指標得点が平均よりもかなり上という結果が出たときには、その差に関して、知覚推理指標が低い(苦手)と言い切れないこともあるため、注意が必要です。
また、結果から得られた発達特性と、子どもの学校や家庭で見られる特徴を結び付け、一人ひとりの子どもが抱えているその子の困りごとの原因を可能な限り見つけ、どのようなサポートができるかを考えていくことが本人に適した対応に繋がっていきます。
知覚推理指標は変わっていくか
WISC‐Ⅳの結果は現時点の子どもの力が表されています。5つの合成得点にはプラスマイナス10程度の誤差があり、子どもの発達や環境にともない今後変動が生じる可能性もあります。
ほかの子との差が気になると思いますが、子どもの中の能力間の差、凸凹に注目し、苦手な力を補うために得意な力をどのように活用していけるかを考え、少しでもやりにくさが改善されるようにサポートをしていきましょう。得意な力に着目し、それを伸ばしていくことも大切ですね。
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鈴木こずえさんへの相談はこちらから知覚推理指標が低い子への対応例を紹介
困りごとを解決・軽減するための、具体的なサポートの方法をいくつか紹介します。
サポートをするときのポイントは、下記の4点です。
- 見やすくなる(書きやすく)なる工夫
- 探しやすくなる(見つけやすくなる)工夫
- 使いやすくなる工夫
- パターンに気づきやすく、覚えやすく、活用しやすくなる工夫
例えば、下記を参考にしてみて下さい。
【対応例①】書字(板書)が苦手な場合
黒板に書いてある字を、手元のノートに写すことが大変な場合は、なるべく手元の近くに見本を置けるといいですね。
席の配慮だけではなく、タブレットを使ったり、友達のノートを見せてもらったりする方法もあります。
もし、書くスピードが遅くて授業についていけない場合は、書く量を減らす配慮が必要になることもあります。
【対応例②】漢字を覚えたり書いたりするのが苦手
漢字の練習では、下記の方法を試してみてください。
- 見本を拡大し、「横に1本、縦に2本…」というように書く内容を声に出して唱えながら書く
- 漢字の成り立ちや由来を学ぶ
- 「男」という字の場合、田んぼに入って力仕事をしている男の人をイメージして「田+力=男」と覚えていく足し算学習
- 魚の中で腐りやすくて弱そうなのは鰯(いわし)だから、「魚+弱=鰯」と覚える意味づけ学習
- なぞると音がでたり色が変わったりするアプリやソフトを使う
- 切り抜かれたり突起していたり凹凸のある字を指でなぞり触感に訴えていく
形をイメージしやすく、記憶に残りやすくなるような覚え方をいろいろと試してみてください。教えるときは、その子の言葉の力がどのくらいあるのかにも注意するようにしましょう。
また、正しく覚えられているかどうかを確認するときは、2つの字を書いて間違った字を選ぶ(間違い探し)課題や、一部分がかけている字に、選択肢から正しいものを選んで完成させる(虫食い)課題など、よく見る練習ができるものにクイズ感覚で取り組んでみてくださいね。
もし、間違った字を書いたときは、どこが違うのかを丁寧に説明し、記憶エラーを早めに修正できるといいですね。
- 鉛筆やノートに注目する
書き方だけでなく、鉛筆の濃さや形、長さを変えて、持ちやすさや書きやすさを追求してみましょう。
ノートは、フォントや罫線の種類が違う中から、一番書きやすいものを選んでみてください。
低学年の子どもがよく使うドリルやノートには、マスの中央に十字に罫線がありますが、罫線があまりないシンプルなノートの方が書きやすい子もいます。
また、高学年以上になると、線だけのレポート用紙や線がなく枠だけの用紙を使うことがあり、バランスがとりにくく書きにくいこともあります。
学齢が変わるごとにチェックして、子どもに合った教材(ノートや鉛筆など)を選びましょう。規定の文具と違うものを使う場合は、事前に学校にも相談してみてくださいね。
【対応例③】「ここ」「あそこ」など指示された場所や注目すべきところを探すのが苦手
また、黒板や教科書のどこに注目すればよいのかが分からないと、指示をされてもすぐに取り組むことができません。ワンテンポ遅れた結果、時間内に終わらないこともあります。
可能であれば、「ここに注目」という指さしや視覚的ツール(ポストイット、マグネット、枠で囲むなど)を使うポインティングサポートをしてもらえるか学校に相談をしてみてください。
テスト用紙などは、まず取り組む問題だけが見える(ほかの部分が隠れる)工夫ができるとよいでしょう。宿題をやる時に、紙を折る・物で隠すなどのやり方を教えてあげて、情報を絞ることで見やすくやりやすくなるかどうか、また自分一人でできるかどうか、みてあげてください。
算数の文章問題では、数字や単位を〇で囲ったり、答えを導き出すために必要となる表現(表記)にアンダーラインを引いたりして、注目すべき箇所に気づけるようにしてあげましょう。
【対応例④】机の上や中、ロッカー、自分の部屋の片付けが苦手
机の上や中、ロッカーや部屋の整理、明日の授業の準備をするときは、情報を視覚的に分かりやすく整理していく方法とコーチングがポイントとなります。
例えば、片づける場所にシールや写真を貼ったり、色や印をつけたりして物の場所や種類がひと目で分かるようにします。片付ける物の方にもできれば色や印をつけて、同じ色や印で場所とマッチング(国語の教科書・ノート・資料など関連しているものに赤印をつけ、置く場所に赤のマスキングテープを貼るなど)ができるとよいでしょう。
片づける場所の中は仕切りなどで区切り、しまいやすく・取り出しやすくするのもいいですね。
また、子どもの意見を聞くことも大切です。
どういうやり方だったら続けられそうか、どこまで細かく分類できそうか、どっちが見やすいか、忘れないで“そこを見る”ためのアイディアはないか、などを子どもと一緒に考え、なるべく子ども自身のアイディアを生かしてあげてください。
上手くいかないときは、うまくいかない原因を一緒に考え、子ども自身が気付けるように質問をしながら作戦を立て直しましょう。
逆に、少しでも片づけられたときは、「○○ができるようになってすごいね」などと、具体的に褒めてあげながら、子どもが継続して取り組めるようにサポートしていきましょう。
子どもだけでなく、コーチングする保護者側の負担を大きくし過ぎないことが、長く続けるためには大切です。完璧にできなくてもいいので「このぐらいできればいいかな…」という、大らかさも持てたらいいですね。
私たちが生活している中で、インプットされる情報の8割は視覚的情報といわれています。
見る力が弱く不安定だと、学習だけでなく、生活のさまざまな場で、さまざまな困りごとを抱えながら過ごしていると思います。子どもによっては、なぜできないのか、どうヘルプをだしていいのかもわからず、不安な気持ちでいることがあるでしょう。
そんなとき、周りの大人や友だちからの「大丈夫?」「一緒に行こう」「一緒にやろう」「こうすればいいよ」といった何気ない声かけに、どれほど安堵することでしょう。
自分からヘルプを出すことができなくても、家庭で「困っていない?」といったヘルプを出せるようなきっかけを作ってあげることで、将来自分から言えるようになっていくかもしれません。
「苦手なことは助けてもらっていいんだよ」ということを伝えて、子どもが安心して日常生活を送れるようになるとよいですね。
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