WISC-Vのワーキングメモリー指標(WMI)とは?高い子の特徴や低い子への対応を発達の専門家が解説
5~16歳11ヵ月の子どもの知能検査である、WISC(ウィスク)。2022年2月に発売されたWISC-Vは、このWISCの最新版です。総合的な知能指数のみならず5つに細分化した指標をもとに「子どもの得意なこと・苦手なこと」を把握できます。
今回は、「ワーキングメモリー指標(WMI)」について、数値が高い子・低い子の特徴や発達障害との関連をWISCのスペシャリストである心理士の車重徳さんに解説してもらいました。
目次
WISC-Vのワーキングメモリー指標(WMI)とは?
ワーキングメモリー指標(WMI)とは、短期的に物事を記憶する力(短期記憶力)がどれぐらいあるかを数値で示したものです。
短期記憶力が高いと、例えば明日テストがあるとして、テストのための単語の暗記を今日の夜に(一夜漬けなどで)行い、明日のテスト本番まで暗記した内容をしっかり覚えていたりします。
一方で暗記したことを1か月後、3か月後など先までどれぐらい覚えているかをあらわしたものは「長期記憶力」と言います。なお、短期記憶で一時的に保持した情報の中から脳が「これは必要だ」と認識したものだけが、長期記憶へと移行します。
ワーキングメモリー指標は学習面と密接に関連しており、文章の読み書きや複雑な計算が苦手である場合、このワーキングメモリー指標の数値が低く出やすいようです。
ワーキングメモリー指標(WMI)に関する検査項目は?
ワーキングメモリー指標の数値を出すにあたり必ず受ける検査の内容は「数唱」と「絵のスパン」の二つです。補足検査である「二次下位検査」に関しては必要に応じて実施されます。
※注 WISC-Ⅳにおいて基本検査と呼ばれていたものはWISC-Vで主要下位検査となり、WISC-Ⅳにおいて補助検査と呼ばれていたものはWISC-Vで二次下位検査となっています。
必ず受ける検査(主要下位検査)
検査項目 | 検査で分かること |
数唱 | 聴覚の短期記憶力 |
絵のスパン | 視覚の短期記憶力 |
必要に応じて受ける検査(二次下位検査)
検査項目 | 検査で分かること |
語音整列 | 耳から入った情報をもとに適切な行動をする能力 |
わが子の知能や特性、どこまで知っていますか?
WISCは、子どもの発達状況や得意・不得意を知るのにとても役立つ検査。WISCを受けるメリットや検査でわかること、生活面や学習面にどう活かせるのか、詳しくチェックしてみませんか?
WISC検査について詳しくはこちらWISC-IVからの変更点は?
WISC-Ⅳにおいてワーキングメモリー指標は、聴覚(耳で聞いて得た情報)の短期記憶の能力についてのみを扱っていましたが、WISC-Vでは聴覚と視覚(目で見て得た情報)の両方の短期記憶を対象としています。
※WISC-Vについて、WISC-Ⅳとの違いや結果の見方、料金・かかる時間などはこちらの記事で詳しく解説しています。
ワーキングメモリー指標(WMI)の数値が高い子どもの特徴・よくある困りごとは?
ワーキングメモリー指標の数値が高い子どもは短期記憶力に優れ、集中力が高い傾向にあります。そのため、計算や読み書きなど、学校の勉強が得意な子が多いのですが、この点がマイナスに作用することがあります。
短期記憶力の良さ故に大変なことも
人の脳はうまくできているもので、マイナスのイメージや感情と同時に入れた情報は、寝ている間に脳が忘れさせてくれるものです。それによりうつ病などになるのを防いでくれるわけです。
しかし短期記憶力があまりにも高いと、寝ても嫌なことを忘れられなかったりするのです。
また、「お母さん、あのときああ言っていたよね」など細かいことを全部覚えていて、「今はもう状況が違うんだよ」と伝えても、「いや、あのときああ言った。なんで今回は違うんだ。納得がいかない」のように思ってしまう子もいます。
自己肯定感とあわせて考える必要がある
ワーキングメモリー指標の数値が高くても自己肯定感が低いと、人のミスや間違い、言われた悪口を覚えていたりするなど、嫌なことをずっと記憶にとどめてしまい、それによって苦しんだりすることがあります。
一方で自己肯定感が高い場合は、自分にとってプラスなことやポジティブなことをどんどん覚えていきます。
このように自己肯定感が低いか高いかによりマイナスにもプラスにも働くので、ワーキングメモリー指標については、数値の高さだけではなく自己肯定感とあわせて考える必要があります。
ワーキングメモリー指標(WMI)の数値が低い子のよくある困りごとは?
ワーキングメモリー指標の数値が低い子は、こちらの指示を理解する、記憶することが苦手な傾向があります。そのため、勉強が苦手な子や覚えてもすぐ忘れてしまう子は、ワーキングメモリー指標の数値が低い可能性があります。
また、日常生活で質問の内容と回答がずれてしまったり、学校の授業で集中力が持続しにくかったりすることもあるようです。
短期記憶が苦手なのではなく、「本人の性格」でやらないことも
しかし、「子どもに指示してもすぐ忘れてしまう」「片づけなさいと言ってもすぐ忘れてしまう」という場合=ワーキングメモリー指標の数値が低いとは限りません。ワーキングメモリー指標の数値が高くても、「言われたのは覚えているけど、面倒くさくてやらない」ということも、往々にしてあるからです。
ワーキングメモリーと発達障害の関係は?
ワーキングメモリー指標の数値が低いと、学習面で困難さがあったり、集中するのが難しい場合があったりする、ということはすでにお伝えしました。そしてそういった特徴は、発達障害の特性と重なるため、ワーキングメモリー指標の数値が低い子の場合、発達障害である可能性もあるのです。
例えば発達障害であるADHD(注意欠如・多動症)の子の注意散漫・衝動的という特徴や、LD(学習障害)の子の計算や推論に困難さがあるといった特徴は、ワーキングメモリー指標の数値が低い子でも見られることがよくあります。
とはいえ「ワーキングメモリー指標の数値が低い=発達障害がある」というわけではありませんので、ワーキングメモリー指標が低くて気になるようであれば、専門家に相談してみましょう。
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「ソクたま相談室」には、WISCの検査結果を分析し、子どもへの接し方やサポート方法など具体的なアドバイスをしてくれる専門家が多数在籍しています。手元のWISC検査の結果を最大限に活かしませんか?
結果解説&アドバイスを受けたい方はこちらワーキングメモリー指標(WMI)の数値を伸ばすには?
ワーキングメモリー指標の数値が低いと、生活面・勉強面で困ることが多々あるため、できるだけ改善してあげたいですよね。聴覚と視覚のワーキングメモリに分けて、できることを紹介します。
聴覚からの短期記憶力を上げるためにできること
耳で聞いた情報の短期記憶力を上げるには、ディクテーション(書き取り)が効果的です。例えば何かのセリフや文章を子どもに伝え、それをそのまま紙に書く、または口頭で繰り返す、といった方法です。
それが難しいようであれば簡単な文章を話して、その文章にまつわる問題を出すのでもいいと思います。
例えば「太郎君と次郎君が夏休みに九州に住むおばあちゃんの家に新幹線で行きました」という話を伝えた後に、「太郎君と次郎君ってどこに行ったの?」「太郎君と次郎君はいつ行ったの?」「太郎君と次郎君は何に乗って行ったの?」という質問をして答えてもらうのです。
視覚からの短期記憶力を上げるためにできること
目で見た情報の短期記憶力を上げるのに手っ取り早く、一番効果的なのは、トランプの神経衰弱です。普通のトランプだと面白くない場合は、その子が好きなもののカードを2セット用意して、それで神経衰弱をやる、というのもおすすめです。車が好きな子であれば消防車2枚、パトカー2枚などを用意して、神経衰弱をやらせてみましょう。
また神経衰弱以外では、間違い探しもおすすめです。
ワーキングメモリー指標(WMI)の数値が低く、発達に心配がある場合の相談・支援先
家庭でのトレーニングだけでは不安、具体的なアドバイスが欲しいといった場合は、専門家に相談してみてください。学校やスクールカウンセラー、専門機関などに相談して、対応を検討していくのが良いでしょう。
また「ソクたま相談室」の専門家にも相談が可能です。手元にあるWISC検査の結果を活用してアドバイスをもらう、ということもできます。気になることや不安なことがあれば、気軽に相談してみてくださいね。
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WISC検査について詳しくはこちら※WISC-Vのその他の各指標の意味や特性については、こちらの記事で詳しく紹介しています。
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