ワーキングメモリー指標が低い子の特徴とは?対応方法や発達障害との関係【WISC-V検査】
ワーキングメモリーとは、情報を一時的に記憶し処理する能力のこと。この能力が低いと、日常生活や勉強面でどんな困り事があるのでしょうか。
知能検査のひとつであるWISC-V検査のワーキングメモリー指標(WMI)について、低い子・高い子の特徴や発達障害との関係、トレーニングで鍛えることはできるのかについてWISCのスペシャリストである心理士の車重徳さんが解説します。
目次
ワーキングメモリーとは?WISC検査でわかること
ワーキングメモリーとは?
ワーキングメモリーとは、目や耳などから取り入れた情報を一時的に頭の中に保存し、その情報を保存するか削除するかを整理して別の作業につなげる能力です。ワーキングメモリーは「作業記憶」とも呼ばれ、広い意味では「短期記憶」に含まれます。
短期記憶力が高いと、例えば明日テストがあるとして、テストのための単語の暗記を今日の夜に(一夜漬けなどで)行い、時間が空いた翌日のテスト本番まで暗記した内容をしっかり覚えていたりします。
一方で暗記したことを1か月後、3か月後など先までどれぐらい覚えているかをあらわしたものは「長期記憶力」と言います。なお、短期記憶で一時的に保持した情報の中から脳が「これは必要だ」と認識したものだけが、長期記憶へと移行します。
<関連記事>ワーキングメモリーとは何かについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
ワーキングメモリーが低いってどういうこと?特徴や発達障害との関係
WISC検査のワーキングメモリー指標(WMI)とは?
ワーキングメモリー指標(WMI)とは、WISC検査の5つの主要指標のひとつで、短期的に物事を記憶する力(短期記憶力)がどれぐらいあるかを数値で示したものです。
ワーキングメモリー指標は学習面と密接に関連しており、文章の読み書きや複雑な計算が苦手である場合、このワーキングメモリー指標の数値が低く出やすい傾向があります。
そもそもWISC-V検査とは?
WISC-Ⅴ検査(ウィスク5検査)とは、5歳0ヵ月~16歳11ヵ月の子どもを対象にした知能検査です。「言語理解指標」「視空間指標」「流動性推理指標」「ワーキングメモリー指標」「処理速度指標」の5つの指標に関する検査を受けることで、同年齢の子どもと比べたIQや発達の状態を客観的な数値で知ることができます。
子どもの発達の状況や得意・不得意の傾向がわかるので、生活面や学習面での的確なサポートに役立つ検査です。
<関連記事>最新のWISC-V検査については、こちらの記事で詳しく解説しています。
WISC-V(ウィスク5)とは?検査内容・指標をWISC検査の専門家が解説
ワーキングメモリー指標(WMI)に関する検査項目
必ず受ける2つの検査と必要に応じて受ける検査
ワーキングメモリー指標の数値を出すにあたって必ず受ける検査の内容は「数唱」と「絵のスパン」の二つです。補足検査である「二次下位検査」に関しては必要に応じて実施されます。
※注 WISC-Ⅳにおいて基本検査と呼ばれていたものはWISC-Vで主要下位検査となり、WISC-Ⅳにおいて補助検査と呼ばれていたものはWISC-Vで二次下位検査となっています。
必ず受ける検査(主要下位検査)
検査項目 | 検査で分かること |
---|---|
数唱 | 聴覚の短期記憶力 |
絵のスパン | 視覚の短期記憶力 |
必要に応じて受ける検査(二次下位検査)
検査項目 | 検査で分かること |
---|---|
語音整列 | 耳から入った情報をもとに適切な行動をする能力 |
わが子の知能や特性、どこまで知っていますか?
WISCは、子どもの発達状況や得意・不得意を知るのにとても役立つ検査。WISCを受けるメリットや検査でわかること、生活面や学習面にどう活かせるのか、詳しくチェックしてみませんか?
WISC検査について詳しくはこちらWISC-IV(ウィスク4)検査からの変更点
ひとつ前のWISC-Ⅳにおいてワーキングメモリー指標は、聴覚(耳で聞いて得た情報)の短期記憶の能力についてのみを扱っていましたが、最新のWISC-Vでは聴覚と視覚(目で見て得た情報)の両方の短期記憶を対象としています。
ワーキングメモリーが低い子の困りごと
ワーキングメモリーが低い子は、どのような悩みを抱えやすいのでしょうか。生活面と学習面に分けて解説します。
日常生活での困りごとの例
- 渡されたプリントなどを学校に忘れてしまう
- 体操着や給食着など、持ち帰るべきものを学校に忘れてしまう
- 会話のなかで質問の内容と回答がずれてしまう
ワーキングメモリーが低い子は、忘れ物が多い傾向があります。例えば、渡されたプリントなどを学校に忘れてしまい親に渡すことができないため、授業参観や保護者会など保護者が全く把握できないこともあります。体操着や給食着など、持ち帰って洗う必要があるものを学校に忘れてしまうことも珍しくありません。
また、人の話を中途半端に聞いてしまう上、聞いていなかったところは自身で自分に都合の良いように勝手に書き換えてしまうことがあるため、日常生活の会話のなかで質問の内容と回答がずれてしまったり、相手との認識の齟齬が大きい場合には信頼を損なってしまったりすることもあります。
学習面や学校での困りごとの例
- 授業での確認テストやテストなどで点数がとれない
- 授業に集中できない
- 口頭での指示を聞き取り記憶することが苦手で、勝手と思われる行動をとってしまう
ワーキングメモリーが低い子は、覚えるべきことがなかなか覚えられず授業での確認テストなどでなかなか点数がとれなかったり、授業で集中力が持続しにくかったりします。
また、口頭での行動指示を聞き取った上で記憶することが苦手なので、自分勝手だと思われる行動をとって先生に叱られるなど、本人に悪気はないのに集団生活の中で苦労することもあるでしょう。
ワーキングメモリー指標の数値が低い子は、こちらの指示を理解する、記憶することが苦手な傾向があります。そのため、勉強が苦手な子や覚えてもすぐ忘れてしまう子は、ワーキングメモリー指標の数値が低い可能性があります。
他の指標に比べてワーキングメモリー指標だけが低い子の特徴
WISC検査の各指標のなかでワーキングメモリーの数値だけが特に低い場合、どのような困りごとを感じることがあるのでしょうか。
例えば、落ち着いていれば授業の内容などを十分に理解することができる一方、授業を集中して受けられないことで授業の内容が分からなくなってしまうことがあります。
また、宿題に集中して取り組むことができず、提出の直前になって慌ててしまったり、そもそも宿題の場所をきちんと聞いていなくて、宿題はやったものの、指定された場所ではない場所をやってしまったりということもあります。
WISC検査のほかの指標ではかる能力とのバランスによっても、困ってしまうポイントが異なるのです。
短期記憶が苦手なのではなく、「本人の性格」でやらないことも
しかし、「子どもに指示してもすぐ忘れてしまう」「片づけなさいと言ってもすぐ忘れてしまう」という場合=ワーキングメモリー指標の数値が低いとは限りません。ワーキングメモリー指標の数値が高くても、「言われたのは覚えているけど、面倒くさくてやらない」ということも、往々にしてあるからです。
ワーキングメモリーが高い子の困りごと
ワーキングメモリー指標の数値が高い子どもは短期記憶力に優れ、集中力が高い傾向にあります。そのため、計算や読み書きなど、学校の勉強が得意な子が多いのですが、この点がマイナスに作用することがあります。
嫌なことや細かいことが忘れられない
人の脳はうまくできているもので、マイナスのイメージや感情と同時に入れた情報は、寝ている間に脳が忘れさせてくれるものです。それによりうつ病などになるのを防いでくれるわけです。
しかし短期記憶力があまりにも高いと、寝ても嫌なことを忘れられなかったりするのです。
また、「お母さん、あのときああ言っていたよね」など細かいことを全部覚えていて、「今はもう状況が違うんだよ」と伝えても、「いや、あのときああ言った。なんで今回は違うんだ。納得がいかない」のように思ってしまう子もいます。
自己肯定感ととあわせて考える必要がある
ワーキングメモリー指標の数値が高くても自己肯定感が低いと、人のミスや間違い、言われた悪口を覚えていたりするなど、嫌なことをずっと記憶にとどめてしまい、それによって苦しんだりすることがあります。
一方で自己肯定感が高い場合は、自分にとってプラスなことやポジティブなことをどんどん覚えていきます。
このように自己肯定感が低いか高いかによりマイナスにもプラスにも働くので、ワーキングメモリー指標については、数値の高さだけではなく自己肯定感とあわせて考える必要があります。
発達障害とワーキングメモリーの関係は?
WISCの検査結果でワーキングメモリー指標の数値が低いと、学習面で困難さがあったり、集中するのが難しい場合があったりする、ということはすでにお伝えしました。そしてそういった特徴は、発達障害の特性と重なるため、ワーキングメモリー指標の数値が低い子の場合、発達障害や発達障害のグレーゾーンである可能性もあるのです。
例えば発達障害であるADHD(注意欠如・多動症)の子の注意散漫・衝動的という特徴や、LD(学習障害)の子の計算や推論に困難さがあるといった特徴は、ワーキングメモリー指標の数値が低い子でも見られることがよくあります。
とはいえ「ワーキングメモリー指標の数値が低い=発達障害がある」というわけではありませんので、ワーキングメモリー指標が低くて気になるようであれば、専門家に相談してみましょう。
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結果解説&アドバイスを受けたい方はこちら鍛えることはできる?ワーキングメモリーのトレーニング方法
ワーキングメモリー指標の数値が低いと、生活面・勉強面で困ることが多々あるため、できるだけ改善してあげたいですよね。聴覚と視覚のワーキングメモリに分けて、できることを紹介します。
聴覚からの短期記憶力を上げるためにできること
耳で聞いた情報の短期記憶力を上げるには、ディクテーション(書き取り)が効果的です。例えば何かのセリフや文章を子どもに伝え、それをそのまま紙に書く、または口頭で繰り返す、といった方法です。
それが難しいようであれば簡単な文章を話して、その文章にまつわる問題を出すのでもいいと思います。
例えば「太郎君と次郎君が夏休みに九州に住むおばあちゃんの家に新幹線で行きました」という話を伝えた後に、「太郎君と次郎君ってどこに行ったの?」「太郎君と次郎君はいつ行ったの?」「太郎君と次郎君は何に乗って行ったの?」という質問をして答えてもらうのです。
視覚からの短期記憶力を上げるためにできること
目で見た情報の短期記憶力を上げるのに手っ取り早く、一番効果的なのは、トランプの神経衰弱です。普通のトランプだと面白くない場合は、その子が好きなもののカードを2セット用意して、それで神経衰弱をやる、というのもおすすめです。車が好きな子であれば消防車2枚、パトカー2枚などを用意して、神経衰弱をやらせてみましょう。
また神経衰弱以外では、間違い探しもおすすめです。遊び感覚でワーキングメモリーを鍛えることができるので、試してみましょう。
ワーキングメモリーが低い子の勉強方法
ワーキングメモリーが低い子は短期的な記憶が苦手であるため、勉強の中でも暗記などに苦労することがあります。効率的に勉強するためには、以下のような工夫を取り入れるとよいでしょう。
- リズムやメロディとあわせて覚える
- 連想記憶法や頭文字記憶法などで覚える
- 覚えるべき情報に色を付ける
- 日常的にイメージできることをつなぎ合わせて覚える
ワーキングメモリーが低い子どもでも、覚える事柄にリズムやメロディ、ラップソングなどを組み合わせると脳の仕組み的に記憶の効率が上がります。
また、イメージ記憶法や連想記憶法、頭文字記憶法など、本人にあった記憶法を用いることで記憶の補助になるのでおすすめです。
そのほか、覚えるべき情報に色を付けることでイメージ化して記憶する、覚えるべき事柄と日常的にイメージできることをつなぎ合わせて、思考できるように記憶していく、といった方法も効果的です。
子どもの認知の特性に合った方法を見つけることで、効率的に知識を定着できるようになります。
ワーキングメモリーが低い子への接し方のポイント
ワーキングメモリーが低い子が過ごしやすくなるためにはどのように接するのがよいのか、親の接し方のポイントを紹介します。
- ワーキングメモリーを鍛えるトレーニングを実践する
- 他の数値が高い指標の能力でのカバー方法を伝える
- ワーキングメモリーの低さをカバーする方法を伝える(例:メモをとる)
ワーキングメモリーが低くてもトレーニングで伸ばすことができるので、小学生の間くらいまでであればトレーニングを実践していくとよいでしょう。また、ワーキングメモリーだけではなく、低い指標については、高い指標でカバーすることもできるので、日常生活や勉強の面でのカバーの方法を教えてあげることも大切です。
ワーキングメモリーの低さをカバーするために必要なものを用意し、その使い方を伝えることも有効です。たとえば、重要なことは忘れないようにメモに書いて覚える、といったことが挙げられます。
何かを覚える際にどうすれば覚えやすいのかを「子どもの環境を調整する」という思考で考えていくことで子どもがすごしやすくなる対策が取れるので、保護者の方は意識してみるとよいでしょう。
ワーキングメモリーが低く発達が心配な場合の相談・支援先
家庭でのトレーニングだけでは不安、具体的なアドバイスが欲しいといった場合は、専門家に相談してみてください。学校やスクールカウンセラー、専門機関などに相談して、対応を検討していくのが良いでしょう。
また「ソクたま相談室」の専門家にも相談が可能です。手元にあるWISC検査の結果を活用してアドバイスをもらう、ということもできます。気になることや不安なことがあれば、気軽に利用してみてくださいね。
わが子の知能や特性、どこまで知っていますか?
WISCは、子どもの発達状況や得意・不得意を知るのにとても役立つ検査。WISCを受けるメリットや検査でわかること、生活面や学習面にどう活かせるのか、詳しくチェックしてみませんか?
WISC検査について詳しくはこちら<関連記事>WISC-Vのその他の各指標の意味や特性については、こちらの記事で詳しく紹介しています。
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