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2024.05.28

大人の知能検査「WAIS-IV」とは?検査を受けるメリットや検査内容などを、専門家が解説

成人を対象とした知能検査である、WAIS(ウェイス)。WAISの最新版であるWAIS‐Ⅳについて、どんな検査をして何が分かるのか気になる人も多いことでしょう。
そこで今回は、「WAISってそもそも何?」「WAISを受けることでどんなメリットがあるの?」「検査内容は?」といった疑問について、長年、発達障害や学習障害、精神疾患の子どもや大人のサポートや指導に従事し、WAISのスペシャリストでもある心理士の車重徳さんにおこたえいただきました。

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監修者

車 重徳さん

発達障害ラボ代表、心理士、カウンセラー、教員、 保育士、介護福祉士。長年、発達障害や学習障害、精神疾患の子ど もや大人のサポートや指導に従事。 「WISC-Ⅴ検査」については、公認心理師や臨床心理士に対しての研修や指導も行っている。

WAISとは何か?

WAIS(ウェイス)とは、(Wechsler Adult Intelligence Scale)の頭文字をとった名称でデビッド・ウェクスラー博士が作成した16歳以上90歳11ヶ月以下の成人を対象にした知能検査(ウェクスラー式知能検査)で、全世界で使用されています。

WAISを受けることで、総合的な知能指数だけでなく、言語能力、抽象的思考力、記憶能力、処理速度など、「何が得意で不得意か」を詳細に把握することが可能です。なおWAISの最新版はWAIS-IVで、WAIS以外でウェクスラー博士が作成した知能検査には、2歳6か月から7歳3カ月を対象としたWPPSI(ウィプシ)、5歳0か月~16歳11か月を対象としたWISC(ウィスク)があります。

WAIS検査を受けるメリット

WAIS検査を受けるメリット

1.自分の特性や知能のレベルが分かる

自分は何が得意で、不得意かということをなんとなく認識していても、正確には分からないものです。WAISを受けることでそれを客観的に数値データとして確認することができますし、周りと比べての知能のレベルを把握することができます。WAISを受けた結果IQが高いことが判明し、MENSA(※)へ入会することなった人もいます。

※高いIQ(全体の上位2%)を持つ人達が参加する、知的交流を目的とした国際グループ

2.仕事や人間関係がうまくいかない原因や対策が分かる

会社で上司によく怒られる、友人とのトラブルが絶えない、問題を抱えることが多いなど、日常生活で支障を感じたり困りごとが多い、という人もいることでしょう。そんな人がWAISを受け、自分の得意不得意など特性を把握することで、苦手なことをどのように対応するか、または苦手なことや弱みを切り捨てて強みだけに力を注ぐ、というように今後の方針を考えることができます。
自分の特性を知っていれば、苦手なことを対応する場合でも逆に得意なことで補う、ということもできるのです。

3.発達障害の傾向があるか把握できる

WAISの検査結果だけで、発達障害かどうかを診断・判定することはできません。しかし検査を受けた結果、数値にばらつきがあったり、特定の数値だけが低かったりするなど、発達障害の可能性があると思われることもあります。

WAIS-IVで何が分かる?4つの指標について

WAISの最新版であるWAIS-IVでは、

  • FSIQ(全検査IQ)…総合的な知能指数
  • 4つの指標(言語理解・知覚推理・ワーキングメモリー・処理速度)

を調べます。
WAIS-Ⅳを構成する4つの指標により、「どういったことが得意で、どういったことが苦手か」を知ることができます。また、各指標の数値を調べるにあたり必要な下位検査は基本検査(10)と補助検査(5)の計15です。
FSIQとはいわゆるIQのことで、最小値が40で最高値は160、グレーゾーンは70から80と言われています。なおWAIS-IVの具体的な検査方法は公表されておりません。

1:言語理解指標(VCI)

言語での理解・推理・表現・思考力など、言語を用いる力がどれぐらいあるかをしめしたものです。

この言語理解の数値が低いと

  • 人とのコミュニケーションがうまくはかれない
  • 自分の伝えたいことをうまく伝えらえず、相手にも理解してもらえない
  • 一般常識力に欠けている

といった傾向があります。

【言語理解(VCI)の検査について】

●基本検査で分かること

検査項目検査で分かること
【1】類似抽象的な概念を理解する力
【2】単語①語彙力
②適切な言葉選びの能力
③話を聞く際の理解力
④自分の意図することを正確に伝える能力
【3】知識基礎知識力

●補助検査で分かること

検査項目検査で分かること
理解①社会のルール
②一般常識の知識力

2:知覚推理指標(PRI)

視覚的な情報を処理し、それに応じて適切な行動をとる能力のことをさします。

この知覚推理の数値が低いと

  • 図や表、地図などを読み取ることが苦手
  • 先の見通しを立てることが苦手
  • 空気を読むことが苦手

といった傾向があります。

【知覚推理(PRI)の検査について】

●基本検査で分かること

検査項目検査で分かること
【1】積木模様立体的なものを自分で作り上げる能力
【2】行列推理目で見た情報をもとにその先の見通しを立てる能力
【3】パズル頭の中に設計図を思い描き、様々な考察をする能力

●補助検査で分かること

検査項目検査で分かること
【1】バランス量的な推理能力
【2】絵の完成視覚の長期記憶力

3:ワーキングメモリー指標(WMI)

口頭での指示など、聴覚からの情報を短期的に記憶する力のことをさします。

このワーキングメモリーの数値が低いと

  • 口頭での指示が覚えられない
  • 読み書きや計算が苦手
  • 集中力、注意力が持続しにくい

といった傾向があります。

【ワーキングメモリー指標(WMI)の検査について】

●基本検査で分かること

検査項目検査で分かること
【1】数唱聴覚の短期記憶力
【2】算数耳で聞いた情報をもとにその先の見通しを立てる能力

●補助検査で分かること

検査項目検査で分かること
語音整列耳から入った情報をもとに適切な行動をする能力

4:処理速度指標(PSI)

見たものをスピーディーかつ正確に遂行する能力のことをさします。

この処理速度の数値が低いと

  • 作業が遅く、ミスが多い
  • 黒板の文字をノートに書き写すことが遅い

といった傾向があります。

【処理速度指標(PSI)の検査について】

●基本検査で分かること

検査項目検査で分かること
【1】記号探し同時処理能力
【2】符号視覚的な認知力

●補助検査で分かること

検査項目検査で分かること
絵の抹消たくさんあるものの中から必要なものを見つけ出す能力

WAIS検査結果の具体的な活用例

WAIS検査結果の具体的な活用例

検査結果をもとに、日常生活や仕事などでうまくいかないことの原因を探り、その対策について考えることができます。たとえば「仕事で上司によく怒られる」ことで悩んでいるとしたら、どういった自分の特性のせいで怒られるのか、ということを分析できるのです。具体的には、以下のようなことが挙げられます。

例:「上司によく怒られる」原因として考えられること
  1. 言語理解の「単語」の数値が低い場合
    語彙力が足りず、自分が伝えたいことをうまく伝えられない
  2. 言語理解の「知識」の数値が低い場合
    一般常識、対社会的な常識力が足りない
  3. 知覚推理の「行列推理」の数値が低い場合
    視覚情報により先の見通しを立てるのが苦手(期日までに資料を用意できなかった、できると思って引き受けた仕事を結局できなかったなど)
  4. 知覚推理の「パズル」の数値が低い場合
    要領や仕事の効率が悪く、仕事が遅い
  5. 知覚推理の「絵の完成」の数値が低い場合
    指示(視覚による)を覚えていないため
  6. ワーキングメモリーの「数唱」の数値が低い場合
    口頭での指示を忘れてしまう
  7. ワーキングメモリーの「算数」の数値が低い場合
    聴覚情報により先の見通しを立てるのが苦手(「君がお客様にこういう言葉遣いをしたらお客様はどう思うと思う?」といったことを言われても、答えられないなど)
  8. 処理速度の「記号探し」「符号」の数値が低い場合
    作業スピードが遅い、納期に遅れてしまうため

たとえば「記号探し」や「符号」の数値が低くて作業スピードが遅いのであれば、作業スピードを求められない職場や職種を選んだ方がいいですし、「数唱」「算数」の数値が低いのであれば口頭による指示が少ない仕事を選んだ方がいいでしょう。またはスマホなどで録音するようにする、というのも有効な手段です。

WAIS検査はどこで受けられる?所要時間や費用は?

まず前提としてWAISの検査は、検査を作成した日本文化科学社が定めた厳しい基準に沿った、公認心理師を始めとする資格保持者しか実施することができません。そのため検査を受けるには、前出の資格保持者が在籍する施設などに出向く必要があります(出張で検査を行っている施設も一部あります)。具体的には病院・クリニックの精神科や民間のカウンセリングルームなどで、公認心理師や臨床心理士のもと受けることができます。

検査自体の所要時間は一般的に60分~90分程度ですが、人によって異なるので受ける場合は時間に余裕をもってのぞみましょう。
費用は受ける施設により異なるため、ホームページや電話で問い合わせてみることをおすすめします。

WAIS-IVを受ける際の注意点

検査の前日の夜は十分に睡眠を取って、検査に備えましょう。平日であれば、できれば仕事は休むのが望ましいでしょう。疲れている、体調が悪いといった場合は正確な数値が出ないことがあります。
なお検査結果として出される数値は参考にはなるものの、IQの値が必ずしも社会生活や学業成績などに直結するかというと、そうとは限りません。また検査を受けた環境や条件によって数値が揺らぐこともありますので、数値に一喜一憂されすぎないことも大事です。

検査を受けたあとにすべき対応とは?

検査を受けたあとにすべき対応とは?

検査結果を見て自身の得意・不得意を把握し、今後の生活に役立てていきましょう。
また検査の結果発達障害の可能性があり、専門家に相談したい場合は、精神科や心療内科にかかるのも良いですし、以下のような支援機関にサポートをお願いすることもできます。

  1. 発達障害者支援センター
  2. 障害者就業・生活支援センター
  3. 精神保健福祉センター

1.発達障害者支援センター

発達障害者支援センターでは、発達障害と診断されていなくても、発達障害の可能性があれば相談が可能です。身の回りの困りごとから就労に関するまで幅広い内容に関して相談ができますし、ハローワークなどと連携しているため就労についての情報やアドバイスも得ることができます。

2.障害者就業・生活支援センター

障害者就業・生活支援センターでは、就労や就労に伴う生活でのサポートが必要な障害のある人に対し、窓口での相談を受け付け、ときに職場・家庭訪問などを実施しています。日常で不安なことがある場合にも気軽に相談できますし、必要に応じて適切な支援を受けられます。

3.精神保健福祉センター

精神保健福祉センターは、「精神障害がある人のサポート」を行うための支援機関です。発達障害のある人は、二次障害として精神疾患になることが少なからずあるため、今後もし何かあった時に頼れる場所として知っておくといいかもしれません。なおこちらでは本人からだけではなく、家族からの相談も受け付けています。

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