WISC-V検査の流動性推理指標(FRI)でわかることは?高い子・低い子の特徴や対応を解説

5~16歳11ヵ月の子どもを対象とした知能検査WISC-V(ウィスク5)。その5つの主要指標のひとつ「流動性推理(FRI)」の結果からわかることや数値が高い子、低い子の特徴や困りごとについて、WISC-Vの検査を多数実施している心理士の車重徳さんに解説してもらいました。
目次
WISC-Vの流動性推理指標(FRI)とは?

WISC-Vの流動性推理指標(FRI)とは、場の空気を読む力や人の気持ちを推察する力、先の見通しを立てる力、新しい場面に適応する力を数値としてあらわしたものです。
たとえば、スマホを見ながら歩いている人の先に、大きな穴があるとします。このような場合、
- 歩いている
- スマホを見ている
- その先に穴がある
- どうなるか?
- 穴に落ちる可能性がある
というのを推測できるのが「先の見通しを立てる力がある」ということになります。
しかし、穴がある・人がいる・スマホを見ているという3つの事象をうまく統合して考えられない子もいます。そういう子は流動性推理指標(FRI)の数値は低く出やすいようです。
子どもが学校から帰っても宿題をせず、テレビを見てだらだら過ごして結局翌朝になって慌てていたり、友達につい暴言を吐いてしまうことが多かったりすると、「この子は先の見通しを立てる力があるのかな」「人の気持ちを推察できるのかな」と思ってしまうかもしれません。そういう場合は、まず検査を受けて、数値がどうかを見てみてもいいかもしれません。

ちなみに、この流動性推理指標はWISC-Vになり初めて登場した指標です。
WISC-Ⅴの5つの主要指標 | WISC-Ⅳの4つの主要指標 |
---|---|
・言語理解指標(VCI) ・流動性推理指標(FRI) ・視覚空間指標(VSI) ・ワーキングメモリ指標(WMI) ・処理速度指標(PSI) | ・言語理解指標(VCI) ・知覚推理指標(PRI) ・ワーキングメモリ指標(WMI) ・処理速度指標(PSI) |
ひとつ前のバージョンであるWISC-IVには、「視覚からとりいれた情報をどれぐらい処理できるか」をはかる知覚推理指標(PRI)がありました。これをWISC-Vでは「空間認識能力を見る」視空間指標(VSI)と、「場の空気を読んだり先の見通しを立てたりする能力を見る」流動性推理指標(FRI)の2つにわけたのです。
▶関連記事:WISC-Vの検査内容やWISC-Ⅳとの違い
流動性推理に関する検査項目は?
流動性推理指標の数値を出すために受ける検査の内容は、「行列推理」と「バランス」の2つです。「主要下位検査」と呼ばれるこの2つの基本検査のほかに、必要に応じて補助的な検査である「二次下位検査」を実施することもあります。
必ず受ける検査(主要下位検査)
検査項目 | 検査で分かること |
行列推理 | 先の見通しを立てる能力 |
バランス | 人の気持ちを推察する能力 |
絵の概念(二次下位検査)
検査項目 | 検査で分かること |
絵の概念 | 場の空気を読む能力 |
算数 | 耳で聞いた情報をもとにその先の見通しを立てる能力 |
※注 WISC-Ⅳにおいて基本検査と呼ばれていたものはWISC-Vで主要下位検査となり、WISC-Ⅳにおいて補助検査と呼ばれていたものはWISC-Vで二次下位検査となっています。
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流動性推理の数値が高い子どもの特徴

流動性推理指標の数値が高い子は、場の空気を読む力に長けているため、どんな集団の中に入ってもうまくやれる傾向にあります。また計画的に物事を進めたり、リスクを察知して行動する、ということも得意だったりします。
他には、新しいことに直面しても柔軟に対応できたりするなど、日常生活をスムーズに送る力、社会にうまく適応する力が備わっている子が多いようです。
流動性推理の数値が高い子のよくある困りごと
流動性推理指標の数値が高いがゆえに、困りごとが生じることもあります。それは、自己肯定感が低い場合です。
場の空気を読む力、先を見通す力に長けていても自己肯定感が低いと、周りの言動をネガティブにとらえてしまう、ということがあるのです。
自己肯定感が低いと、マイナスに作用することも

たとえば周りに褒められたとしても、「何か裏がある」「本当はそう思っていないのに、自分を騙すために言っているのだ」などと勘ぐってしまうことがあります。場合によっては褒められているのに「叱られた」などと思ってしまうのです。
また、先の見通しを立てるのが得意でも「私が先回りをしてこんなことをしたら変な奴とか悪い奴、嫌な奴だと思われるかな」とマイナスに考えてしまい、行動に出られないこともあります。
そのため流動性推理指標の数値が高くても、自己肯定感が低そうに見える場合は注意が必要です。ちょっとしたことでも褒めてあげる、子どもの話を最後までしっかり聞くなどといったことを心がけ、自己肯定感を上げる取り組みをすることをおすすめします。
一方で流動性推理指標の数値が低くても自己肯定感が高い場合は、周りのことが眼中になく我が道を突っ走れる傾向があります。そして、周りに何か言われても気付かないため、そういう意味では傷つくこともあまりありません。
▶関連記事:子どもの自己肯定感を高める声掛け・接し方
流動性推理の数値が低い子のよくある困りごと

場の空気を読むことや人の気持ちを察するのが苦手なため、学校生活でうまくいかないことや、友達との関係が難しくなることがあります。集団から仲間外れにされることもあるようです。
また先の見通しを立てるのが苦手だと、宿題や課題を提出期限ギリギリまでやらず、慌ててやるなど計画的に行動することが難しくなります。そのため何でも場当たり的な対応になってしまう、ということもあります。
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流動性推理の数値が低い子どもの対応方法・力を伸ばすには?
検査を受けた結果、数値が低かったら落ち込んでしまうかもしれません。しかしトレーニングをすることで、苦手な部分を改善できる場合があります。ここでは具体的にどのようなことをすればいいのかについて紹介します。
場の空気を読むのが苦手な子どもの対応法
場の空気が読めないと、対人関係で苦労することが少なからず出てきそうで心配になりますよね。トレーニングで場の空気を読めるよう改善する方法もありますが、なかなか簡単にはいきません。そこでおすすめなのは「得意なところでカバーする」という対応の仕方です。
たとえば流動性推理指標の数値が低くても言語理解指標(VCI)が高く、一般常識力が高い子での場合は、「こういう場面ではこう振舞った方がいい・こういうことは言わない方がいい」ということを、理解できたりします。
そのため場の空気が読めないとしても、知識として「適切な振舞い方」が分かります。その強みを活かして対人場面のさまざまなシチュエーションにおいて、「こういう場合は○○する」と、知識の中から当てはめていけるようにする、という感じです。
流動性推理の力を鍛える方法
流動性推理指標の数値は、大人になってから伸ばすのは極めて難しいものです。流動性推理指標の数値が低いので伸ばしたい=場の空気を読んだり、先を見通す力をつけたりしたいという場合は、できるだけ早い段階でトレーニングしましょう。小学生であればまだ間に合います。
そしてその力や数値は、市販の「コグトレパズル」で伸ばすことができます。コグトレパズルにはいろいろな種類がありますが、パズルをする際は時間制限を設けて進めるようにしましょう。

※医者が考案したコグトレ・パズル(宮口幸治著・SBクリエイティブ)
コグトレパズル以外では、ピタゴラスイッチの装置を作ってみたり、迷路を活用したりすることも数値を伸ばすことに繋がります。
▶関連記事:認知機能を高める【コグトレ➀】
家庭で保護者と一緒にトレーニングするだけでは不安な場合は、専門家に相談して対応を検討してみてください。相談先・支援先としては学校やスクールカウンセラー、専門機関などがあります。
また、「ソクたま相談室」の専門家に相談することも可能です。手元にあるWISC-Ⅴの検査の結果をもとに、子どもとの接し方や生活上でできる工夫、効果的な学習方法などについてアドバイスをもらうこともできますよ。
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