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2022.08.23

登校しぶりを早期解決!教員が取った対応とは【体験談】

子どもは、明確な理由の有無に関わらず、学校へ行きしぶることがあります。ですが、それは、子どもからの「気づいて」のサインかもしれません。さまざまな登校しぶりの子どもたちと出会ってきた元教員が対応について解説します。

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登校しぶりの理由はそれぞれ複雑

いくら学校へ行くことが好きでも、一度くらい「学校へ行きたくない」と思ったことがあるのではないでしょうか? また、子どもに「学校に行きたくない」とぐずられた経験がある保護者もいると思います。

学校に行きたくない理由は、その子によって、また状況によってさまざまで、何が原因かは分かりづらいものです。本人すら理由がはっきり分からないという場合も少なくありません。

それは、心に何かひっかかることがあるものの本人の中で整理されないまま、いくつかの事情が重なってしまい、「行きたくない」という考えに至るからだと考えられます。

学校へ行きたくない理由が多いほど取り除いていくには、時間と労力がかかります。したがって、まわりの大人が、その子が学校へ行きしぶるような心理的状態にあることを、なるべく早く気付くことが大切です。

そこで次からは、私が教員をしていた頃の出来事を例にあげて学校への登校しぶりの原因の見極め方と対応を解説したいと思います。

登校しぶりに気付いたらまずは情報収集

かつて私が担任をしていた中学1年生の男子生徒Aさんのケースです。

入学して1週間ほど経った頃、その日は健康診断でした。いつもより学校に来る時間が遅くてもよい日でしたが、Aさんは集合時間近くになっても登校して来ません。そこで、クラスの生徒に彼の事情を知っているかを聞きました。

すると、小学校からAさんを知っている友人が、下記のように教えてくれました。

情報1

Aは、ときどき、お腹が痛くなって遅刻することがあるよ

また、次のような背景も分かりました。

情報2

健康診断は、体操着を必ず着用しなければならないことになっており、忘れた場合は、体育教師に申し出なければなりません。ですが、諸事情により、Aさんの体操着の注文が遅れてしまい、前日の時点でまだ届いていませんでした。

登校しぶりの対応のために原因調査を行っているイメージ

情報から登校しぶりの理由を推察

それでは、このケースについて、学校に行き渋った原因がどこにあるか、<情報1><情報2>に注目してみていきます。

<情報1>にあるように、Aさんは、小学校時代から、ときどきお腹が痛くなって遅刻することがあったようです。このことから、心配なことや不安なことがあると、体調不良になることがある生徒だと考えられます。

次に、健康診断には必ず体操着が必要でしたが、<情報2>にあるように、当日、どうしても用意することができないことが分かっていました。間に合わない場合、小学校時代のもので問題ないことは、本人に伝えてありましたが、不安になっている要因が“体操着が用意できないこと”にあることは予測できます

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理由をもとに不安を解消してあげる

そこで、私は、Aさんがもしかしたらまだ家にいるのではと思い家庭に連絡しました。

すると、電話に出たのはAさん本人。「どうしたの?」と聞くと「お腹が痛かったんです」とひとこと。しかし、Aさんの友達も「お腹が痛いのではないか」と心配していたことを伝え、「今からでも間に合うから、ゆっくりおいで」と話してもAさんは黙ったまま。

その反応から、Aさんが行き渋る本当の理由は“お腹が痛いから”ではなく、体操着のことが心配という予測が確信に変わりました。

Aさんに、「体操着がないのはAさんのせいじゃないよ。待っているからとにかくおいで」と伝えると、少しためらっていましたが、「じゃあ、ゆっくり行きます」と言ってくれました。

体操着が用意できないのは、Aさんのせいではありません。しかし、Aさんが、みんなと同じ体操着を着ていないことで、体操着を忘れたと周囲に思われるのが嫌だと感じていたと推測した私は、Aさんのせいではないことをハッキリ言葉で伝えたのでした。

登校後の周囲の対応とは

30分ほどして、Aさんは学校に登校しました。多くの生徒は、健康診断の受診のため教室にはいませんでしたが、Aさんを心配して待っていた友達が「僕、体操着を2枚持っているから貸すよ」と言ってくれたのです。

Aさんは、最初戸惑った様子でしたが、「健康診断をする先生たちも、体操着の名札はあまり良く見ていないから、大丈夫だよ」と伝えたところ、とても安心した様子で、「ありがとう」と言って、友人の体操着を借りて、健康診断を受診することになりました。

Aさんに、お腹の調子について確認したところ、もう大丈夫とのこと。「先生達には、お腹が痛かったから少し遅れてしまったけど、もう収まったから大丈夫と伝えておくね」と言って、少し不安を取り除くように声掛けをしました。Aさんを悩ませていた“体操着がない”ということも、クラスメイトの協力があって解決されたのです。

そして、Aさんは友達に借りた体操着を着て、無事健康診断を受診。下校する頃には、すっかり元気になっていました。

不安が大きく、複雑になる前に対応を

今回の事例では、A君が学校に行き渋ったのは、体操着が用意できなかったことに加え、それが本人の責任ではないのに、教員たちから本人の不注意で忘れたと思われたり、叱られたりすることに対する不安感が原因でした。

発見が遅ければ、「周りの大人は事情を分かっているのに、どうして分かってくれないのだろう」「自分のせいではないのに、なぜ叱られるのだろう」という気持ちが増し、親・教員に対する不信感を抱きかねません。

多感で繊細な思春期の子どもは、周囲に自分がどう見られるのかが気になることから、自分に対する評価が低いことが不本意だと感じると、不登校につながることがあります。

学校へ行き渋る要素は、その発見が早ければ早いほど、少ないと思われます。できる限りその要因に早く気づき、要因を取り除くことが、早期解決につながると言えます。

家庭と学校の情報共有も大切

「行き渋り」の要素を見つけるには、教員・家庭・友人などさまざまな立場からの視点と情報が必要です。

家庭で気になる事情がある場合は、家庭から学校へ、学校で気になる様子がみられたら、学校から家庭へ情報を共有してください、そして、場合によっては周囲の友人(生徒たち)からも情報収集をすることが効果的だといえます。

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萩原真美

聖徳大学大学院教職研究科准教授。博士(社会科学)。専門は沖縄近現代教育史。 沖縄戦直後の沖縄が、教育によっていかに復興しようとしたかを主な研究テーマとし、沖縄独自の教科書など、沖縄戦前後に散逸した希少史料の発掘とその分析作業に取り組んでいる。 著書に『占領下沖縄の学校教育』(六花出版)、『つながる沖縄近現代史』(ボーダーインク社)、『ワークで学ぶ教育課程論』(ナカニシヤ出版)など。 第43回沖縄協会沖縄研究奨励賞社会科学部門受賞(2022年1月)。 https://www.hagiwaramami-lab.com/

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