2019.12.02

ゆっくり・じっくり教えるのがいいはウソ!? 学びに大切な“テンポ”とは

小学校低学年の子どもに授業をする時「ゆっくり・じっくりと教えてあげた方が学習内容を理解・習得しやすいだろう」と考える人が多いのではないでしょうか。しかし実際に低学年の子どもたちに授業をし続けていると、この考えが間違いであることに気付かされます。中学年・高学年でも同じです。なぜ、速いテンポの教え方の方が良いのでしょうか。

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小学生に教える時は“ゆっくり・じっくり”がいいのか?

小学1~2年生の子どもへの教え方について、考えてみましょう。

 

ゆっくり教えてあげた方が子どもは学習内容をよく分かってくれると思っている人、結構多いのではないでしょうか。

 

私も最近まで、ゆっくりしたテンポ、遅いテンポの教え方が良いと思っていました。授業参観、公開授業などで小学1~2年生の授業や朝の会、帰りの会などを見たことのある保護者は分かると思いますが挨拶の時、子どもたちは「おはようございます!」と流れるようには言いません。「おーはーよーうーごーざーい、まっ、す」のようにゆっくりしたテンポで言います。

 

私も、「低学年だからこのような言い方になる」とずっと思っていました。こういう状態の子どもたちを相手にして授業するのですから、普段の授業でも「ゆっくり・じっくり」と教えてあげなければいけないと思い込んでいました。国語の授業で音読させる時は「昔、あるところに」とさらっと音読させるのではなく「むっかっーしぃ、あーるーと-こーろーにっ…」という子どもの読み方をそのまま受け入れていました。

 

算数で計算の仕方(アルゴリズム)を言わせる時も、スローテンポで言わせていました。アルゴリズムとは簡単に言えば「計算方法の文章」のようなもの。「9+5の計算は5を1と4に分ける。9に1たして10。10と4で14です」とある決まったパターンで言わせる、暗唱させるための文句のようなものです。「9+5の計算は…」とスラっとは言わせていませんでした。「ごーたーすうきゅうのけーさんは…」のような感じで言わせていました。

 

ところが、私が子どもにスローテンポで言わせている授業を見た先生から「子どもに言わせるのが遅い! 遅すぎる!」と言われたのです。どうして、遅いゆっくりとしたテンポで言わせるのはいけないのでしょうか。私の授業を見た先生から教わったことを含め、明らかにしてみます。

 

 

 

 

スローテンポでは習得力が落ちる!         

ゆっくり・じっくりな教え方では子どもの頭の中に学習内容が残らない、あるいは習得のスピードが遅くなってしまうのです。

 

英語の授業を見ているとよく分かります。ネイティブの先生は英語とイラストが書いてあるカード(オレンジのイラストとorangeという英語が書いてあるようなカード)をフラッシュのように見せていきます。子どもたちは遅れることもなく、カードに合わせてどんどん英語を言っていきます。同時に、イラストも見て英語で何と言うのかをすぐに覚えてしまいます。つまり、早いスピードの学習についていけているということ。大人の目から見ると「速すぎるよ」と思うかもしれませんが実態は逆。速い方が良いのです。

 

英語だけでなく、他の教科についても同じです。私の体験談を紹介します。算数の授業で計算の仕方を覚えさせることがあります。計算の仕方をアルゴリズムにしてスローテンポで唱えさせました。「みんなで声をそろえて言ってごらん」と言っても、なかなかそろいません。ゆっくりと言わせてもそろわないのです。

 

先ほどの私の授業を参観しに来た先生から、スローテンポの教え方が良くない理由を教えてもらいました。「アルゴリズムを覚えなていない、だからそろわない。そろわないのは、ゆっくり唱えさえているからだ」と! 私が「小学1年生の子に言わせるのだから、ゆっくりしか言えないんじゃないかなと思ったんだけど」と応えると、「いや、鍛えれば言えるよ!」と言われました。実際に1年生を教えていたことのある先生だったので、「じゃあ、やってみよう」と私も試してみることにしました。

 

 


リズミカルでテンポの良い教え方を実践した結果は?

実際にアップテンポで授業をして、驚きました。計算の仕方などのアルゴリズムを言わせると、スローテンポで授業をしていた時よりも子どもたちの声がそろうのです。ごく普通に、大人が普通に話す時と同じように言えたのです。

 

「皆で計算の手順を速いスピードで言ってみよう。声もそろえてね」と教師に言われると、子どもたちは、「えーっ!」と言いながらも(子どもたちの表情は笑顔。楽しそうです)必死について来ようとします。

 

しかし、速いスピードで唱えるためには計算の手順を一人ひとりの子が分かっていないと言えません。「速く唱えようとするので、早く覚えよう」となるのでしょう。だからこそ、子どもたちはアップテンポの授業の方が学習内容を早く理解し、習得も早くなるのだと考えられます。

 

スローテンポの授業であれば皆に合わせよう、早く覚えようという気持ちは生まれません。子どもたちは早く言うこと、唱えることを喜びます。これは私が実際にアップテンポの授業、速いスピードでアルゴリズムを唱えさせて気付いたことですが、子どもの「脳」の仕組みも大きく影響しているようです。

 

音と脳の研究者&Dr.DJ宮﨑敦子さんは「速いテンポの曲を聞いた後だと脳がわずか0.1秒で反応するのに対し、遅いテンポの曲だと0.3秒もかかる。速いテンポの曲を聞いた後と遅いテンポの曲を聞いた後とでは0.2秒もの差が出る」という研究結果を出しています。速いテンポの曲を聞いた後に作業をすると、脳の活動が速くなって作業効率が上がるとも言っています。

 

小学校中学年、高学年でも同じでしょう。計算の手順のアルゴリズムを唱えさせる時だけではなく国語の授業での音読、九九を唱えさせる時なども、アップテンポで読ませたり唱えさせたりした方が良いのです。私も今は、アップテンポな教え方を意識して授業を行っています。教え方・覚え方のコツとも言えるでしょう。

 

中には、「授業についていけない子どももいるんじゃないか」と疑問を持たれた人もいるかもしれません。アップテンポの授業が基本ですが、学習内容によっては1時間の授業だけで覚えさせるのでななく、じっくりと時間をかけて教えることもあります。次で詳しく書きまましょう。

 

 

 

 

“テンポ”は学習の質によって使い分ける            

スローテンポの授業では、そもそも授業に集中できなくなる子が出てきます。「ゆっくり・じっくりとしたテンポの教え方ならどの子も集中できるんじゃない?」と思われがちですが、実態は逆。スローテンポの授業では、集中できなくなる子を増やしてしまうのです。

 

作業の遅い子がひとつの作業を仕上げるまで待っていたら、作業が済んでしまっている子が騒ぎ出す、というのは授業中よく見られる光景です。「先生は待ってくれるから大丈夫」と思わせてしまうと、そこから授業が成立しなくなるのです。私は、作業の遅い子を待つことはしません。

 

子どもたちによく言われます。「先生!待って」。それに対する私の返事は決まっています。「待ちません」。冷たいようですが、笑顔で言っています。今では子どもたちも待ってくれないことを分かっているので「気をつけた方がいいよ! 先生、待ってくれないから!」と言っている子もいました。

 

本当についていけない子がいた時は、ある先生から教えてもらったことをします。「待って!」と言われた時に「待ってほしい人!」と聞くのです。「分かりました。待ちません!」などとふざけるときもあります。「えー!」と言われますが、クラスの雰囲気は悪くありません。私も子どもも笑顔です。実はこのやりとりをしている間、待ってあげていることにもなるのです。作業の遅い子は、このやりとりの間に作業を少し進めることができます。

 

学校の授業では、作業を早く終わった子がまだできていない子を手伝ったり問題の答えを黒板に書かせてまだの子が見て写せるようにさせたりすることもあります。こうすると、早くできた子が暇になることもなく作業の遅い子もどんどん進めていくことができるのです。これも、先輩教師から教わったことです。

 

授業ではリズム・テンポ良く、アップテンポで教えることが基本。1時間の授業で習得させることが基本ですが、学習内容によっては1時間の授業で完結させるのでなく時間をかけてゆっくり・じっくりと教えるものもあります。

 

1時間で完結させるのを“点”とすると、ゆっくり・じっくり教えるのは“線”に例えることができます。“点でなく線で教える”と言われることがあります。九九など1時間の授業ではテンポ・リズム良く教え、アップテンポで唱えさせます。しかし、その時間に完璧に九九を唱えることができなくても良いのです。九九は2年生が終わるまでの間に覚えられれば良いという捉え方で、ゆっくり・じっくり教えることもあります。

 

 

九九や音読など、家庭でもアップテンポな学習法を活用しよう

家庭で教える時は、学校の授業とは違って集団の子を相手にするわけではないため待ってあげても大丈夫。ただし、アルゴリズムなどはアップテンポで唱えさせた方が良いのは学校と同じです。九九を覚えさせるまでには時間や日をかけてゆっくり・じっくり教えます。その上で九九を唱えさせる時には、印象に残る速いテンポやリズムの方が子どもの脳、理解する力にアプローチできるでしょう。

 

漢字輪郭カードなどのフラッシュカードや学習内容を歌にして覚えるような時(例えば、年号を「もしもしかめよ」に合わせて覚えるような時、「縄文、弥生、古墳、飛鳥、奈良…」と。平成で歌い終わった後に最後に「令和!」がつきます)などは、もともとリズムがあるのですぐにできるでしょう。   

 

ぜひ、家庭での学習にも取り入れてみてください。

 

須貝 誠

須貝 誠

東京都小学校準常勤講師・塾講師・ライター。30校以上の教育現場で教えてきた経験があり、進学塾では主に国語を担当。教師が集まる民間教育団体であるTOSS相模原・和(のどか)会員として指導法を学んでいる。https://www.toss.or.jp/

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