WISC-Vの言語理解指標(VCI)とは?高い子の特徴や低い子への対応を発達の専門家が解説
「言語理解指標(VCI)」は、WISC-V検査における指標のひとつで、言葉に関する能力がわかるものです。言語理解が高い子と低い子にはどのような特徴があるのか、低い場合に鍛える方法はあるのか、WISC-Vの検査を多数実施し、WISCのスペシャリストである心理士の車重徳さんに解説してもらいました。
目次
WISC-Vの言語理解指標(VCI)とは?
言葉を扱う能力を表す指標
言語理解指標(VCI)とは、言葉を扱う能力がどれぐらいあるかをあらわした指標です。言語理解指標(VCI)により、単語力や抽象的な言語概念の理解力、一般常識があるかなどが分かります。また相手が発した言葉を聞く能力だけではなく、自分が伝えたいことを正確に伝えられるか、ということも知ることができます。
この検査では、まず語彙力と抽象的な 言葉の理解力について数値で出します。そして必要に応じて、一般常識があるか見ていきます。
例えば「道端にゴミが落ちているのを見て、そのゴミを拾って捨てる」ことがいいことかどうか、またいいと思ったらその理由まで分かっているか、といった一般常識があるのかを調べるのです。
長期記憶力が高いかどうかも分かる
また、言葉を扱う力だけでなく、短時間で記憶した情報を長期間覚えていられるか(長期記憶力)についても、検査結果で分かります。長期記憶が得意な子もいれば、苦手ですぐに忘れてしまう子もいるためです。
さらに言語理解指標(VCI)では、言葉でのコミュニケーションがうまくいかない・難しそうな場合の原因をつきとめることもできます。その原因は語彙力が少ないからなのか、指示された内容が分かっていないからなのか、指示代名詞が分からないのか、常識がないからなのか、などといったことが分かるのです。
そもそもWISC-Ⅴ検査(ウィスク5検査)とは?
WISC検査とは、5歳0ヵ月~16歳11ヵ月の子どもを対象とした知能検査です。同検査では、全体的な知能指数のみならず5つの指標についても知ることができ、「子どもの得意なこと・苦手なこと」を把握できます。
WISC-Vは、このWISCの最新版として2022年2月に発売されました。
言語理解指標(VCI)の数値が高い子どもの特徴
言葉を扱う能力が高いので、口頭での説明や、文章の読み書きが得意な傾向にあります。また語彙が豊富でいろんなことを知っているため、時に年齢より大人びて見えることもあります。
わが子の知能や特性、どこまで知っていますか?
WISCは、子どもの発達状況や得意・不得意を知るのにとても役立つ検査。WISCを受けるメリットや検査でわかること、生活面や学習面にどう活かせるのか、詳しくチェックしてみませんか?
WISC検査について詳しくはこちら言語理解指標(VCI)に関するWISCの検査項目
言語理解の力をはかる4つの検査
言語理解指標(VCI)の数値を出すために必ず受ける検査は、類似・単語の2つです。「主要下位検査」と呼ばれるこの2つの基本検査のほかに、必要に応じて補助的な検査である「二次下位検査」を実施することもあります。
※注 WISC-Ⅳにおいて基本検査と呼ばれていたものはWISC-Vで主要下位検査となり、WISC-Ⅳにおいて補助検査と呼ばれていたものはWISC-Vで二次下位検査となっています。
必ず受ける検査(主要下位検査)
検査項目 | 検査で分かること |
---|---|
類似 | 抽象的な言い回しの理解力 |
単語 | ①語彙力②適切な言葉選びの能力 ③話を聞く際の理解力④自分の意図することを正確に伝える能力 |
必要に応じて受ける検査(二次下位検査)
検査項目 | 検査で分かること |
---|---|
知識 | 学校で教わるようなことの基礎知識力 |
理解 | 社会のルール、一般常識の知識力 |
WISC-IVからの検査内容の変更点
ひとつ前のWISC-Ⅳから最新のWISC-Ⅴになったことで、言語理解指標に関する検査項目に以下のような変更点がありました。
- 「語の推理」の検査の廃止…WISC-Ⅳの言語理解指標(VCI)の検査にあった「語の推理」がなくなりました。
- 検査必須項目の変更…WISC-Ⅳでは類似・単語・理解の3つの検査が必須でしたが、WISC-Ⅴでは類似・単語の検査の2つだけになりました(理解の項目について、補助的に検査を受けること自体は可能です)。
<関連記事>WISC-VとWISC-Ⅳの違いについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
言語理解指標(VCI)の数値が高い子の困りごと
EQとのバランスによっては周りから反感を買うことがある
言語理解指標(VCI)の数値が高いと困ることについて説明をする前に、心の知能指数と言われる「EQ」について触れておく必要があります。
言語能力が高いということは、難しい単語も含めていろんなことを知っていることをあらわします。ですがEQが年齢相応(高くない)だと「こんなの分かっていて当然だ。なんで周りの子は分からないのだろうか」と思ってしまい、それを口に出してしまうため、周りから反感を買うことがあります。
発達心理学において、「自分と他人は違う」という概念は、小学校高学年頃から芽生えると言われています。小学校低学年ぐらいだと、まだ自分と他人の明確な区別がつきにくいのです。
同年代の子と遊べないことも
言語能力が高いといいこともありますが、あまりに高いと同年代の子どもと一緒に遊べなかったり、会話が成り立たなくなったりすることがあります。言語理解指標(VCI)では一般常識力をはかることができますが、一般常識力が実年齢よりも高いと、同年代の子と遊ぶのが難しい、というのは想像がつきますよね。
大人であれば「そんなことは口に出すべきではない」と分かるような言葉でも、小学校低学年頃であれば平気で言ってしまう、ということはよくあります。
そして一般的には「そんなこと口に出すべきじゃない」と大人が思うようなことを平気で言ってしまいがちな小学校低学年でも、言語理解指標(VCI)の数値が高い子の場合は「そんなことをしたら怒られるからやめよう」と、他の子を注意してしまうことがあります。その結果「生意気だ」と思われ、周りの同年代の子にはじかれる、ということも起こることがあるのです。
そのため、日頃から「人と自分は違うのだ」ということを教えてあげたり、自分の特性について理解させたりするようなコミュニケーションを取ってみるといいかもしれません。
言語理解指標の数値だけが高い子の特徴
WISC検査のほかの指標の数値とのバランスによっても、得意・不得意が表れることがあります。
例えば、言語理解の数値だけが高いと、理屈では色々と分かってはいるものの「分かってはいても行動できない」ということがあります。
また、ワーキングメモリーが低いと学校で学習した内容をすぐに忘れてしまう傾向がありますが、同時に言語理解の数値が高ければ、きちんと体系立てて記憶していった場合、長期化された後の情報が周囲のお友だちよりも保持されやすくなる場合があるのです。
言語理解指標(VCI)の数値が低い子の困りごと
語彙力が低い場合
語彙力が足りないと、会話や何か指示があったときに、その単語の意味が分からないから反応できない、行動できない、ということが起こりがちです。
また言語理解指標の数値が低い子は、自分が思い描いている状況を相手にうまく伝えられないことがあります。例えば自分は激怒しているのに「ちょっとぷんぷんしてる」と言っても、相手には伝わらないですよね。
そういった言葉選びやちょっとしたニュアンスの違いを理解しているかどうか、というのも言語能力に含まれるのです。そして意思疎通がうまくいかずに、日常生活の中ですれ違いやトラブルが生じることがあります。
抽象的な言葉の理解力が低い場合
言語理解指標の数値が低い子の場合、抽象的な言葉の理解が難しいことがあります。例えば、相手が「あれ」「それ」といった指示代名詞や、「ママは鬼だ」のような暗喩や隠喩などを使ってしまうと、その意味が分からなくなってしまうのです。
家庭内で多いのが、お母さんが子どもに対して「ちょっと、あそこのあれ、早くなんとかしなさいよ」と言ったときに、「あそこ」も「あれ」も「なんとかしなさい」も分からない、というケースです。その結果、子どもは適当なことをしてしまいお母さんに怒られてしまう、なんてことがあります。
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結果解説&アドバイスを受けたい方はこちら言語理解力を伸ばすトレーニング方法
検査を受けた結果、数値が低かったら落ち込んでしまうかもしれません。しかしトレーニングをすることで、苦手な部分を改善できる場合があります。ここでは具体的にどのようなことをすればいいのかについて紹介します。
語彙力を上げる
まずは、たくさんの言葉を覚えることが大事です。学校の教科書には出てこないような単語までインプットする、ということをやってみてください。
インプットするものは、いわゆる単語カードがおすすめです。市販のものであれば、いろいろな種類がある「公文カード」でもいいと思います。また本を読める子であれば、本でインプットするというのも有効です。とにかくたくさんの言葉を学習しインプットする、ということから始めましょう。
抽象的な言葉の理解力を上げる
抽象的な言語概念の理解力を伸ばすには、単語を取り巻く「拡張言語」というのを知る必要があります。
例えばリンゴであれば、「果物だよね、赤いよね、丸いよね、木になるよね、青森だよね、フジとかあるよね」といった感じで、ひとつの言葉からどんどん拡張させた言語をインプットしていくのです。それにより、総合的な言語能力が上がります。
一般常識力を上げる
一般常識力を伸ばすには、誰もが無意識の中で行っていることに対し「なぜそうするのか」という問いを持ち、その回答を得るトレーニングが有効です。
例えば「なぜ人に優しくするのか」「なぜ何かしてもらったらお礼を言うのか」「挨拶をするのはなぜか」というのも、一度説明したら分かるかというと、そうでもありません。しかし、親は「この前言ったよね」「先週も言ったよね」と言いがちです。そうではなく、子どもが分かるまで説明し続けるのです。もう子どもは理解したなと思っても、それでも説明し続けるぐらいでちょうどいいと思います。
無意識下でもすらすら説明できる、ぐらいのレベルになってようやく「真に理解している」と言えるのです。
言語理解指標(VCI)が低く、発達が心配な場合の相談先
家庭でトレーニングするだけでは不安、といった場合などは、専門家に相談してみてください。学校や専門機関、スクールカウンセラーなどに相談し、どう支援していうかなどの対応を検討していきましょう。
またソクたま相談室に在籍する専門家に、相談することも可能です。WISC-Ⅴを受けた後、手元にある検査の結果をもとにアドバイスをもらう、ということもできますよ。
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結果解説&アドバイスを受けたい方はこちら<関連記事>WISC-Vのその他の指標について、数値が高い子・低い子の特徴などは以下の記事で詳しく解説しています。
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