不登校特例校(学びの多様化学校)とは? 入学条件や費用、進路について解説
令和4年に文部科学省が実施した調査によると、不登校の児童・生徒数は過去最多の29万9048人に達し、10年連続で増加しています。親として不登校の子どもの学びが心配になるのは当然です。この記事では、不登校の児童や生徒が通う「不登校特例校(学びの多様化学校)」について詳しく紹介します。
令和4年に文部科学省が実施した調査によると、不登校の児童・生徒の数は29万9048人といわれています。10年連続の右肩上がりで、令和4年は過去最多を更新しました。(文部科学省 令和4年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」より)
不登校になることは悪いことではありませんが、わが子が不登校になると、「子どもの学びがストップしてしまうのでは」と不安になってしまいますよね。今回は、不登校の児童や生徒が通う学びの場、「不登校特例校(学びの多様化学校)」について紹介します。
目次
不登校の背景と現状
不登校の児童・生徒が増えている現状について、文部科学省は背景を大きく3つに分類しています。もっとも多い原因は「本人の問題」。次に「学校生活」、「家庭環境」と続きます。
■本人の問題が原因
・無気力、不安 51.8%
・生活リズムの乱れ、あそび、非行 11.4%
■学校生活が原因
・いじめを除く友人関係をめぐる問題 9.2%
・学業の不振 4.9%
・入学、転編入学、進級時の不適応 3.1%
■家庭環境が原因
・親子の関わり方 7.4%
・家庭の生活環境の急激な変化 2.6%
・家庭内の不和 1.6%
どんなことが原因であっても、子どもが不登校になると親は心配になるもの。しかし不登校を悪いことと捉えず、子ども自身が学校に行かないことを希望するなら、別の方法でサポートしてもいいでしょう。
不登校特例校(学びの多様化学校)も、その選択肢の1つ。ひとりひとりの学習状況に合った指導や支援が受けられるので、不登校の児童や生徒の新しい学びの場として定着しつつあります。
不登校特例校(学びの多様化学校)とは
児童・生徒によっては、不登校期間が休息期間となる場合もあり、不登校であることは決して悪いことではありませんが、学校に行かないと勉強面で遅れを取ったり、進路選択が狭まってしまうのは事実のひとつ。そこで文部科学省が設置したのが「不登校特例校(学びの多様化学校)」です。
不登校特例校(学びの多様化学校)の定義
不登校特例校(学びの多様化学校)とは、学校教育法施行規則第56条又は第86条に基づき文部科学大臣が指定した「教育課程の特例を認める学校」です。不登校の児童・生徒にも等しく学びの機会を提供することを目的に、平成17年7月6日に文部科学省(初等中等教育局長通知)によって設立されました。
設定当時より「不登校特例校」と呼ばれていましたが、令和5年8月31日に、当事者の目線に立った名称とするため「学びの多様化学校」へと名称が変更されました。
指定校の数は年々増え、令和6年5月時点での設置数は35校(うち、公立学校21校、私立学校14校)となっています。不登校の児童・生徒が増加していることを鑑みても、今後さらなる設置が期待できるでしょう。
不登校特例校(学びの多様化学校)の入学条件
不登校特例校(学びの多様化学校)へは、保護者や児童・生徒本人が希望しても入学できません。入学の対象になるのは「在籍校に不登校の認定を得た生徒」のみです。その目安は、「年間30日以上の欠席があるかどうか」だとされています。
しかし厳密な基準はなく、より多くの事例の児童・生徒が入学できるように、各学校や教育委員会などがそれぞれのケースに応じて柔軟に判断しているのが現状です。
不登校特例校(学びの多様化学校)の学校生活やカリキュラム
不登校特例校(学びの多様化学校)は、一般的な学校よりも授業時間が短く、少人数指導や個別指導を行い、児童・生徒ひとりひとりに配慮したカリキュラムを組むのが一般的です。
また授業内容もユニークで、「自然、生命、芸術に触れる体験」(楽器演奏、工芸品づくり、アート作品制作、アウトドアなど)や「職業体験」(工場見学、農業体験、パソコン講座など)、「ソーシャルスキルトレーニング」(ディスカッションやワークショップなど)というように、体験型の授業が多くなっています。
自分の興味のある分野を追求できたり、社会に出たときに役立つスキルが学べたりするので、児童・生徒たちは飽きずに取り組めるでしょう。
不登校特例校(学びの多様化学校)の進路サポート
不登校特例校(学びの多様化学校)では、一般的な学校よりも進路指導が手厚くなっています。今後どうしたいのか、児童・生徒ひとりひとりの意向や希望を丁寧にヒアリングし、進学希望の場合は内申書など必要書類をすべて作成してくれます。
中学生は一般の高校への進学も可能です。卒業時には卒業証書を受け取れるので、「頑張って通った!」という達成感も得られるでしょう。
不登校特例校(学びの多様化学校)の小学校・中学校・高校の特徴
不登校特例校(学びの多様化学校)は、学校によってさまざまな取り組みをしています。東京シューレ江戸川小学校、西濃学園中学校、星槎高校を例に、それぞれの特徴を見ていきましょう。
小学校
令和2年4月に開校した東京シューレ江戸川小学校(東京都葛飾区)は、「こどもがつくる・こどもとつくる」をモットーにしています。体験を通して学びを得る「いろいろタイム」や自分の興味のあるテーマを深掘りする「プロジェクト」など、体験を中心とした授業が特徴です。
中学校
平成29年4月に開校した西濃学園中学校(岐阜県揖斐郡)では、「ライフプランニング」「リカバリー」「コラボライト」など、学校独自のカリキュラムを設けています。また、全ての教職員がカウンセリングマインドを学び、臨床心理学の手法を用いて相談しやすい環境づくりを行っています。
高校
令和2年4月に学びの多様化学校に指定された星槎高等学校(神奈川県横浜市)は、全国に先がけて「個別の指導計画(IEP)」を導入しました。生徒が自分に合った目標を独自に設定することで、自分の目標に取り組みやすいような工夫が行われています。学習も個々に合わせた手づくりの教材で、「わかる」「できる」を増やしています。
不登校特例校(学びの多様化学校)の教育方針や活動の具体例
小学校・中学校・高校の例で見てきたように、不登校特例校(学びの多様化学校)ではひとりひとりに合った支援をしています。児童・生徒の学習ペースに合わせて、始業時間を遅らせたり、授業時間を短くしたりなど、「ここでなら学びを続けられそう」という工夫がたくさん。
教育方針や活動は学校ごとに多少異なりますが、参考までに具体例を紹介します。
学習支援プログラム
平成26年4月に開校した星槎もみじ中学校(北海道札幌市)では、主要5教科の授業は生徒ひとりひとりのレベルに合わせてクラス分けしています。個別に復習や補習する時間も設けているので、不登校だった時期の学びまでカバーが可能。
とはいえ、「このクラスのこの椅子に座って学ばなければならない」ということはありません。生徒は配布されたタブレットから、好きな教室や自宅などからリモートで学習できるのです。校舎内のハンモックに揺られながら授業を受けるなど、自由な学習スタイルを満喫している生徒もいます。
地域活動やボランティア
令和5年4月に開校したろりぽっぷ学園小学校(宮城県仙台市)では、コミュニティースクール(学校運営協議会制度)を活用して、地域活動も積極的におこなっています。さまざまな世代の方と触れ合うことで、人間に対する信頼感を培うのが目的です。
不登校特例校(学びの多様化学校)とフリースクールの違い
不登校特例校(学びの多様化学校)と似た教育機関に、「フリースクール」があります。
フリースクールは、学校に通えない小学生~高校生が過ごす場所です。授業内容は施設によって異なりますが、不登校特例校(学びの多様化学校)同様、個別学習や自然との触れあい、体験活動などをおこなう施設が多いようです。不登校、ひきこもり、発達障害など、事情に関わらず広く受け入れているのが特徴です。
費用も教育方針も施設ごとに違い、社会とのつながり、学校復帰、専門家のサポート、医療機関との連携など、支援の形もさまざま。
不登校特例校(学びの多様化学校)との主な違いは、文部科学省が指定した学校か否かという点です。高校生が通える施設もあるとはいえ、フリースクールに通うのは大半が小学生、中学生です。なぜなら、フリースクールへ登校すると、本来の在籍校を出席扱いにしてもらえる「出席扱い制度」があるから。一方、高校生は出席扱いにならないケースが多いので、通う生徒はあまり多くないようです。
不登校特例校(学びの多様化学校)の費用と入学方法
不登校特例校(学びの多様化学校)への通学を検討するのなら、費用はどれくらいかかるのか、そして入学するための方法についても知っておきたいですね。文部科学省の調査の結果に基づき、かかる費用や入学方法をご紹介します。
不登校特例校(学びの多様化学校)にかかる費用
不登校特例校(学びの多様化学校)に通うのにかかる費用は、公立校か私立校かによって異なります。
- 公立小学校・中学校:無料
- 私立小学校・中学校:学校により異なる
- 公立の高校、私立高校:国による支援あり(所得制限があるものの授業料に応じて最大39万6000円まで補助)
文部科学省が平成28年に行った調査によると、授業料の平均は私立中学校で約47万6000円、私立高校は約37万4600円、授業料以外の納付金(入学金・設備費等)は平均29万4000円となっています。
ちなみに前述のフリースクールに通う場合、入会金が約5万3000円、月額約3万3000円ほどかかるようです。
不登校特例校(学びの多様化学校)の入学方法
不登校特例校(学びの多様化学校)への入学方法は施設によって異なります。文部科学省の調査によると、面談・面接による選考をおこなうケースが5割、学力検査による選考が1割超、選考なしで入学できるケースは3割です。
4月しか入学できないというわけでもなく、約6割の不登校特例校(学びの多様化学校)は年に2回以上の入学可能月を設けています。毎月入学できるという学校も約3割あります。気になる学校があれば、まずは問い合わせてみると良いでしょう。
不登校特例校(学びの多様化学校)は全国的にまだ少なめですが、数は今後増えていくと考えられています。子どもに合った学びの場を見つけて、将来の選択肢を増やしてあげられると良いですね。
不登校特例校(学びの多様化学校)の設置者一覧(令和6年5月時点)
■北海道
・星槎もみじ中学校(北海道札幌市)
■宮城県
・宮城県富谷市立富谷中学校(宮城県富谷市)
・白石市立白石南小学校・白石市立白石南中学校(宮城県白石市)
・ろりぽっぷ学園小学校(宮城県仙台市)
■東京都
・八王子市立高尾山学園小学部・中学部(東京都八王子市)
・東京シューレ葛飾中学校(東京都葛飾区)
・NHK学園高等学校(東京都国立市)
・調布市立第七中学校はしうち教室(東京都調布市)
・東京シューレ江戸川小学校(東京都江戸川区)
・福生市立福生第一中学校(東京都福生市)
・大田区立御園中学校(東京都大田区)
・世田谷区立世田谷中学校(東京都世田谷区)
・東京みらい中学校(東京都足立区)
・大田区立大森第四小学校学びの多様化学校分教室みらい学園初等部(東京都大田区)
■神奈川県
・星槎中学校(神奈川県横浜市)
・星槎高等学校(神奈川県横浜市)
・大和市立引地台中学校(神奈川県大和市)
■岐阜県
・西濃学園中学校(岐阜県揖斐郡)
・岐阜市立草潤中学校(岐阜県岐阜市)
・北方町立北学園特例教室「オンリー1」(岐阜県北方町)
・高山市立学びの多様化教室「にじ色」(岐阜県高山市)
■愛知県
・星槎名古屋中学校(愛知県名古屋市)
■京都府
・京都市立洛風中学校(京都府京都市)
・京都市立洛友中学校(京都府京都市)
■大阪府
・大阪市立心和中学校(大阪府大阪市)
・精華高等学校普通科(フリーアカデミーコース))(大阪府堺市)
■兵庫県
・生野学園高等学校(兵庫県朝来市)
■奈良県
・大和郡山市立郡山北小学校 分教室「ASU」(奈良県大和郡山市)
・大和郡山市立郡山中学校 分教室「ASU」(奈良県大和郡山市)
■岡山県
・岡山県美作高等学校普通科(Bloomコース)(岡山県津山市)
■香川県
・三豊市立高瀬中学校(香川県三豊市)
■福岡県
・大牟田市立宅峰中学校ほしぞら分校(福岡県大牟田市)
■大分県
・玖珠町立学びの多様化学校(大分県玖珠町)
■宮崎県
・延岡市立南浦中学校学びの多様化学校分教室「熊野江教室」(宮崎県延岡市)
■鹿児島県
・鹿児島城西高等学校 普通科(ドリームコース)(鹿児島県日置市)
【参考サイト】
・令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要|文部科学省
・不登校になる原因は?文科省の情報から増加の背景や対応法を解説!|サブスタ
・不登校特例校とは? 不登校対策の背景とその取り組み|日本教育新聞
・不登校特例校とはどんなところ?特徴や取り組みについて紹介|WILL学園
・不登校特例校(学びの多様化学校)とは?特徴と授業の内容を知りたい|ID学園高等学校
・フリースクールってどんなところ?|不登校サポートナビ
・フリースクールとは?授業内容や費用は?不登校の子どものための支援や相談先も解説|LITALICOジュニア
・国は設置促進しているけれど……不登校特例校進まぬ埼玉|朝日新聞デジタル
・“学び”の新たな選択肢「学びの多様化学校」とは?|NHK
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