通級指導教室とは?対象の子供は?指導内容は?元担当教員がわかりやすく解説

特別支援関係の教室は、似ている名前の施設や制度が多く、一度聞いただけではなかなか把握しづらいものです。そんななか、お子さんの障害やグレーゾーンで悩む保護者から聞くのが「学校や教育相談センターなどで教えてもらった『通級指導教室』が、どんなところか分からない」という声です。文科省の調査によると、利用者が毎年増加傾向にあるという「通級指導教室」。この記事では、通級指導教室でどんなことを行っているのか、対象となるのはどんな子なのかなど「通級指導教室」の基礎知識を、元担当教員が分かりやすく解説します。
目次
通級指導教室とは
まずは、通級指導教室がどのようなところなのかということ、どんな子どもが対象なのかを紹介します。
通級指導教室(通級)とは、小・中学校に通う比較的障害の程度が軽い子どもが、一人ひとりの障害に合わせた個別の指導を受ける教室のこと。通っている生徒は通常学級のクラスに籍を置いているため、学校生活のほとんどは通常学級にいて、週に何時間かだけ通級指導教室へ通います。
子どもの困りごとに合わせて指導内容が異なるため、「ことばの教室」「きこえの教室」などの名称で、小中学校や特別支援学校に設置されています。在籍する学校にその子のニーズに合った通級指導教室が設置されていない場合は、近隣の他校に通うこともあります。
文部科学省の「令和2年度 通級による指導実施状況調査結果(概要)」によれば、全国の国公私立の小・中・高等学校(※1)で164,697名の児童生徒が通級による指導を受けています。この人数は毎年増加傾向にあることから通級指導教室の需要が高まっていることが分かります。

- (出典)文部科学省 令和2年度 通級による指導実施状況調査結果(概要)
- (※1)平成29年度までと平成30年度以降で調査形式が変更されたため、高等学校の人数も含まれている。(参考:文部科学省 令和2~3年度 特別支援教育に関する調査の結果について)
通級の対象となる子ども
対象となる子どもは、学校教育法施行規則で以下のように定められています。
第百四十条 小学校、中学校若しくは義務教育学校又は中等教育学校の前期課程において、次の各号のいずれかに該当する児童又は生徒(特別支援学級の児童及び生徒を除く。)のうち当該障害に応じた特別の指導を行う必要があるものを教育する場合には、文部科学大臣が別に定めるところにより、第五十条第一項(第七十九条の六第一項において準用する場合を含む。)、第五十一条、第五十二条(第七十九条の六第一項において準用する場合を含む。)、第五十二条の三、第七十二条(第七十九条の六第二項及び第百八条第一項において準用する場合を含む。)、第七十三条、第七十四条(第七十九条の六第二項及び第百八条第一項において準用する場合を含む。)、第七十四条の三、第七十六条、第七十九条の五(第七十九条の十二において準用する場合を含む。)及び第百七条(第百十七条において準用する場合を含む。)の規定にかかわらず、特別の教育課程によることができる。
一 言語障害者
二 自閉症者
三 情緒障害者
四 弱視者
五 難聴者
六 学習障害者
七 注意欠陥多動性障害者
八 その他障害のある者で、この条の規定により特別の教育課程による教育を行うことが適当なもの引用元:学校教育法施行規則|e-Gov
学校教育法施行規則|e-Gov
要約すると、通常の小中学校に通っていて、特別支援学級に在籍しておらず、障害に応じた特別の指導を行う必要がある生徒・児童が、通級指導教室の対象になります。
主な障害の種別としては、吃音などの言語障害や、弱視・難聴の子ども、そして発達障害(自閉症・ADHD・学習障害)や、選択性かん黙などの情緒障害をもつ子どもとなります。
重要なことは、通級指導教室は、勉強の遅れを補習するための場ではないということです。周囲や子ども自身が、自分の特性を理解し、得意な部分を生かして苦手なことを補うための具体的な方法を学ぶことで、学習上又は生活上の困難を和らげることが目的です。
そのため、たとえ障害があったとしても、適切な対処方法を子ども自身や周囲が理解していて、学校生活に困難を感じていなければ、通級指導教室に通う必要はありません。 逆に、学力は問題なかったとしても、感覚過敏などによって通常の教室でストレスを抱えているケースでは、通級指導教室を活用することで、学校生活の苦しさが和らぐケースもあります。
特別に指導を行う必要があるかどうかは、個々の子どもの状況によってケースバイケースです。多くの場合、保護者の意見をふまえ、通級指導教室の担当者、臨床心理士、作業療法士などの専門家が総合的に「通級が必要かどうか」を判断します。
そのため、子どもが学校において、学習面や生活面で困り感を抱えていると感じられる場合には、まず学校に相談するのがおすすめです。通常学級で適切な配慮をすれば問題が解決する場合もあります。また、地域の実情を踏まえた通級指導の選択肢を教えてくれるでしょう。

通級指導教室の指導内容|「教育支援計画」と「指導計画」
通級指導教室では、通う子どもを適切に支援するために「個別の教育支援計画」と「個別の指導計画」を作成します。これらに基づいて指導内容が決まります。
個別の教育支援計画
保護者・学校・福祉医療等の関係機関が連携して作成する、子どもを効果的に支援するためのツールです。1〜3年間程度の長期的な計画となります。
個別の指導計画
「個別の教育支援計画」を踏まえて作成し、学期毎、または、学年毎に目標を立て、学校での指導と評価を行う短期的な計画です。
2つの個別の計画に基づく、通級指導教室の指導内容
二つの計画を活用しながら、子どもの学習上・生活上の困難を改善する指導を行います。
例えば、漢字を覚えるのが難しいという児童の場合には、漢字の覚え方について学習したり、眼球運動をスムーズにするトレーニングを行うことがあります。
また手先の不器用さで困っている児童には、手と足を同時に動かす活動を行ったり、気持ちを落ち着けるのが難しい児童には、自分の気持ちを俯瞰してみられるような方法を一緒に考えたりします。
先述したとおり、苦手な教科があるからといって塾や予備校のように成績を上げるための教科の補充は行いません。子どもに合った学び方を習得することが目的です。
上の例からわかるように、指導内容はさまざまです。通級指導教室で行われる活動は、「自立活動」と呼ばれ、障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服するために行われています。指導内容は、担当教師が一人ひとりの子どもに合わせて最適なものを選んでいきます。子どもの特性に合わせた指導を継続する中で、子どもの自立を促すことが最終目的です。
通級指導教室の利用方法
今回は、横浜市を例にあげて、通級指導教室の利用方法を説明していきます。それぞれの自治体で利用方法が異なるため、実際に利用を考えている場合、詳細は住んでいる自治体に問い合わせることをおすすめします。
横浜市の例
横浜市では、特別支援教育センターという施設で相談を受ける必要があります。学校に入学する前であれば郵送で申込書を送付。すでに学校に入学している場合には、担任教師を経由して特別支援コーディネーター担当の教師に相談をし、学校長から特別支援教育センターに書類が送られます。
特別支援教育センターでの相談とは、保護者(子ども同伴の場合もあり)への聞き取りのこと。具体的には、家庭での様子や、保護者の方が気になっていることや困りごとを共有します。また、生育歴や通院歴を尋ねられる場合もあります。この相談後に、特別支援教育センターが通級指導教室に入る必要のある児童かどうかを審議します。
そして、入級の必要があると判断されると通級指導教室の利用ができるようになります。ただし、横浜市の場合、原則として翌年度からの利用となります。
住んでいる自治体の通級指導教室を調べる方法
インターネットで検索する場合には、「●●市 通級指導教室」など自治体名で検索するとサイトや案内が出てくるでしょう。多くの自治体では、教育委員会のページに説明があるようです。ただし、サイト上で見つからない場合もあるので注意が必要です。
インターネット上以外で調べたい場合には、現在通っている学校、あるいは居住地にある通学圏の学校に問い合わせるとよいでしょう。担任の先生に相談しやすい場合には、担任の先生に確認するのが一番です。子どもの学校での様子と合わせて確認してみるとよいでしょう。学校に相談したくない場合には、教育委員会の特別支援に関する部署などに問い合わせるのが確実です。

通級指導教室に関するよくある質問
ここでは、通級指導教室にかかわる質問について紹介します。ただし、ここでの回答は筆者が勤めていた自治体の例です。自治体ごとに差もあるので、詳細は必ずお住まいの自治体に問い合わせてください。
通級指導教室ってどこにあるの?
教室の多くは、通常学校内にあります。通常の小・中学校に設置されている場合には、通常の学校と同じ建物の中に教室が設けられているケースと、敷地内に専用の校舎が設けられているケースがあります。
また、自治体によっては、特別支援学校内や教育センター内に設けられているケースもあるので、教育委員会等に確認することをおすすめします。
多くの場合、わが子が通う教室を利用者側から指定することはできません。あらかじめ通級指導教室ごとに担当校が決まっている場合がほとんどです。今通っている学校から近い場所が指定の教室となっていることが多いので、教育委員会または特別支援コーディネーター担当教師に確認するとよいでしょう。
通級指導教室の利用にお金はかかるの?
学校の授業と同じで、無料です。ただし、教材費等がかかることもあるかもしれません。
通常学級の授業を抜けなければならないとき、抜けた時間の勉強はどうするの?
通級指導教室に通っていることは担任教師も知っています。そのため、抜けた時間の分は補習をしてくれる場合もあるでしょう。ただし、必ず補習をしてくれるとは限らないので、通級指導教室が始まる前に、担任の先生や通級指導教室の先生それぞれに確認することをおすすめします。
通級指導教室に行く日は、遅刻や早退扱いになるの?
基本的にはなりません。授業の一部を通級指導教室での活動に替えているからです。心配な場合には確認してみるとよいでしょう。
通級指導教室の先生は教員免許をもっているの?
担任の先生と同じように、教員の免許を持っています。それ以外の資格を持っている先生もいます。
利用できるのは週に何時間?
子どもの障害の程度や通級指導教室の状況によっても異なります。通級指導教室がはじまる前に、通級の曜日や時間帯を相談することになるので、その際に確認するとよいでしょう。

まとめ|通級指導教室は困り感を共有し、克服へ導く場所
今回の記事では、通級指導教室について紹介してきました。
通級指導教室の指導方針については、児童一人ひとりに合わせた専用のものが作成されるので、明確な指導方針はありません。この、一律に指導方針を固定せず、お子さんに合わせた対応ができるところが通級指導教室の良さでもあります。細かな指導の枠組みが決められていないからこそ、通常学級ではできない支援ができるのです。もちろん、見通しを持って指導はしていきますが、子どもの状況に応じて臨機応変に指導を変えていけるのは通級指導教室ならではのことといえます。
実際に私が指導した児童も、計画通りに授業が進まないことがあると思えば、急にできることが増えていくこともありました。そのように、子ども一人ひとりの進み具合に合わせて支援をしていき、障害の症状を和らげていけることが、通級指導教室の良いところです。
通常学級で生活をしながら、こまかな部分を一対一又は少人数でカバーしていく通級指導教室。困り感が障害によるものだと思う場合や、一部の教科がどれだけがんばってもうまくいかないなど不安な点があれば、担任の教師や特別支援コーディネーターに相談してみてくださいね。
なお、以下の参考資料には、この記事で説明した横浜市の資料をピックアップしました。特に網島東小学校のリーフレットは、通級指導教室の概要をわかりやすく説明したものとなっています。気になった方はアクセスしてみてください。
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<参考資料>
特別支援学級及び通級指導に関する規定:文部科学省
通級指導教室 横浜市
よくあるご質問 横浜市
教室要覧 横浜市立綱島東小学校 通級指導教室

教育大学を卒業後、公立小学校にて発達障害・学習障害・吃音の児童を中心に携わる。 現在は、教員時代の経験や教育の最新の知識を学びながら、フリーライターとして活動中。 Twitter:@suzuyou_writer ブログ:https://suzuyou.com/