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現代のソクラテス
2021.02.15

先生は学校で教えるだけの存在?公立小教員が挑み続ける学校“外”活動

既成概念にとらわれずに教育と向き合い、挑戦する個人にクローズアップする「現代のソクラテス」。今回紹介するのは、公立小学校教諭の二川佳祐さん。学校での仕事以外に、地域の大人が学びを通してつながるコミュニティを立ち上げ活動するなど、学校の“外”にも世界を広げ、発信を続けています。そんな二川さんに、活動への思いやこれからの学校教育について聞きました。

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二川佳祐さん都内公立小学校主任教諭

東京学芸大学卒業後、府中市、武蔵野市の小学校教員を経て2020年4月より練馬区に勤務。大人の学び場「BeYond Labo」主宰。妻と二人の娘を愛するパパ。教師を目指したきっかけは、「中学時代、先生がなんでも任せてくれ自分が成長でき、何より先生たちが楽しそうだったから。そんな姿に憧れました」とのこと。

週末は「コミュニティ主宰」としてイベントを企画・運営

教員になり12年目を迎える二川さん。府中市、武蔵野市の小学校を経て、2020年春から練馬区の小学校に勤務しています。

6年生の担任として日々教壇に上がるかたわら、週末は「BeYond Labo(ビヨンド ラボ)」というコミュニティの主宰者として、「教育と社会の垣根をなくす」「今までの自分を越える」をビジョンに定期的にイベントを企画・運営をしています。

「『BeYond Labo』では、教育、家族、環境問題、街づくり、エンタテインメントなど、さまざまな分野のキーパーソンを『BeYonder』(=何かを越えている人)と位置づけてゲストに招き、ワークショップを行っています。2017年に活動をスタートし、昨年12月に3周年を迎えました」(二川さん、以下同)

「BeYond Labo」3周年記念イベントの様子。Photo by Tomoya Suzuki

イベントでは毎回、「BeYonder」の話を聞くだけでなく、参加者同士の対話の時間が必ず設けられています。そして会の終わりには、参加者全員で今日のイベントを振り返り、「明日から自分に何ができるか」を紙に書き、共有しています。

「イベントが、参加してくれた人同士でつながる場、ほんの少しでも自分を変えるきっかけとなる場になってほしい」。そんな思いが込められています。

学校の中だけでなく、社会から求められる存在に

一般的に教師という仕事はブラックだといわれ、多忙なイメージしかありません。にも関わらず教師という仕事を全うしながら、なぜ、学校という枠をこえた活動を精力的に行うのでしょう。

「わがままな言い方になるかもしれませんが、一番の原動力は、僕自身の『学びたい』という気持ちです。実際、これまでのイベントにおよびしたBeYonderの皆さんは、僕が『会って話を聞きたい!』『応援したい!』と思った方々ばかりなんです」

このような二川さんの思いの背景には、教育実習生時代にお世話になった“ぬまっち先生”こと沼田晶弘さん(※)の影響があるのだそう。

「教育実習生時代に沼田先生から言われた『学校の中だけで求められるのではなく、社会から求められる先生になりなさい』という言葉がずっと心に残っています。

『BeYond Labo』の活動を通して学校の外での世界を広げ、学び続けることで自分が成長し、ゆくゆくは、学校だけでなく社会から求められる存在になりたいという思いがあります」。

新しいことを始めるには苦労や困難がつきものですが、「それらも含め、人生を豊かにするものだと思います」と話します。

※沼田晶弘さん/小学校教諭。子どもたちの自主性・自立性を引き出す授業が知られ、教育関連イベント、講演も精力的に行うカリスマ教師。

学校外の活動が教育につながるとき

さらに「始めたからには、続けること、習慣化することがとても大切」と話を続けます。

「試行錯誤しながら活動を続けるうち、新しいことに踏み出すことが怖くなくなりましたね。困難なことに出くわしても、習慣化してきたことで“経験値”が上がり、自分や周りとうまく折り合いをつけるテクニックのようなものも身についたと思います」

そんな経験値やテクニックは教育現場でも生かされています。

「前任校では、『BeYond Labo』で知り合ったプログラミング塾を運営している方を招いて、パソコンクラブの子どもたちとプログラミングに挑戦したり、ドローンを飛ばしたりしたこともあり、大いに盛り上がりました。学校の外でのつながりから、子どもたちに新たな刺激やワクワク感を届けられるようになったことも、大きな成果です。今後もこのような取り組みを増やしていきたいですね」

手を取り合ってICT教育を進めていくために

2020年度の「学習指導要領」の改訂、「GIGAスクール構想」(変化の激しい時代に合わせ、教育現場でICTを活用し、すべての小・中・高等学校、特別支援学校で1人1台の学習用PCの導入をめざす)の前倒し実施など、今まさに、教育改革の波が押し寄せているともいえる学校現場。

2020年春の突然のコロナ休校は記憶に新しいところですが、ICT活用指導力にも秀でた二川さんは、武蔵野市から練馬区への異動直後だったにもかかわらず、休校中はzoomを使ってオンライン朝の会を実施。練馬区の全教室にあるモニターや書画カメラを使い、公立小学校でも可能な形で行いました。

その後、練馬区教育委員会のスピード感ある働きかけで、区内の全校でzoomが使えるように。現在は各校での朝会や集会に使われたり、校長会や副校長会もzoomで行うのが定例となりました。

「練馬区では、1月から順次、区内の小・中学生全員にノート型パソコン・GoogleのChromebookが配布されています。

ICTを活用することで、教師は児童一人ひとりの解答や習熟度を見ながら授業を進めることができ、子どもたちは、子どもたち同士がお互いの考え方を共有し、理解を深めながら解答を導き出していくことができます。ですが、ICT教育で子どもたちがより良い学びを進めていくためには、まずは僕たち教師が学ぶ必要があります」

しかし、ひとりで学んでいくのはとても大変。二川さんは、一緒にGoogleを学べる仲間を区内で募り、地域の教育者が共に学び、情報を交換し、お互いを高めるためのコミュニティ『Google Educators Group Nerima』=GEG Nerimaを立ち上げました。

「練馬区は人口が多く学校がたくさんあるがゆえに、一人ひとりの先生の顔が見えづらい。僕が発信することで、今、一人で机に向かいICT教育について一生懸命学んでいる先生にこのコミュニティの存在を知ってもらい、繋がり、一緒に学びたいんです」

「GEG Nerima」の立ち上げには、『BeYond Labo』の活動で知り合った同じ区内の人々との縁もきっかけなのだとか。

「『会いたい』『やりたい』を続け、習慣化していくと、ふとしたタイミングで化学変化が起こり、新たな一歩を踏み出すことができることを実感しました」

子どもたちが安心していろいろなことに挑戦できる環境を

ポジティブで正義感にあふれつつ、謙虚さも合わせもち、取材を通して人間的魅力が伝わってくる二川さん。

これまで順風満帆の教員生活を歩んできたのかと思いきや、悩み、もがき、苦しんだ時期もあったそう。

「若手のとき、クラス運営がうまくいかず学級崩壊を起こしたことがあります。自分の力の無さから、子どもたちが安心して学べる環境がつくれず信頼関係を築くことができませんでした。子どもたちや保護者の皆さん、同僚たちに迷惑をかけてしまい、『このままではいけない』『自分が学ばないといけない』と痛感したんです」

ちょうどその頃、高校の同級生で、脳神経科学の専門家である青砥瑞人さんと再会する機会があったそう。

「彼は、元千代田区立麹町中学校校長の工藤勇一先生と組んで『脳科学が教育に対してどのようなアプローチができるか』の検証を行うなど、多方面で注目されている人物です。

彼にクラス運営や教師としての自分のあり方などについて、定期的にコンサルティングをしてもらいました。彼からのアドバイスを実践しながら授業を進めるうち、子どもたちと一緒に僕自身の成長も実感できるようになり、少しずつ自信を取り戻せるようになりました。

彼とのワークを通して『自分を深く知ること』の大切さに気づき、目の前の霧が少しずつ晴れていった気がします。これを機に学校外の人との出会いを積極的に求めるようになり、『BeYond Labo』の設立に行き着きました

二川さんは、挫折経験を機に自分と深く向き合い、進化を遂げ、今では公教育のフロントランナーとして走り続けています。

「“吉祥寺人”と青空のもとで考えるまちづくり」のイベント。吉祥寺で活動する「かるたプロデューサー」、プロ阿波踊り集団とのコラボを実現/武蔵野市開発公社青空サロンより

教師が自分らしく生きることが子どもにプラスになる

最後に、二川先生が考える「先生の役割」について聞きました。

「子どもたちが、教室で安心していろいろなことに挑戦でき、友達と楽しく関われる環境をつくることですね。僕たち教師は、子どもたちから、立ちふるまい、表情、接し方、言葉のかけ方、ユーモアなど全てを総合して見られています。

教師自身が自分の人生を自分らしく生きることで、それらが子どもたちにプラスの影響を与え、子どもたちにとってより良い学びの環境につながっていくのではないかと思います」

その上で、「さまざまな“習慣”を子どもたちにプレゼントすることも、教師の大きな役割だと思っています」と二川さん。

「挨拶や『ありがとう』を言葉にする習慣、学びを振り返る習慣、行動を起こす習慣に加え、友達と協力する習慣、友達を助けてあげる習慣などを育み、学校という枠組みの中で子どもは人との関わり方を学んでいきます

教師は、“上から目線で教える人”ではなく、“子どもたちの良き伴走者”。環境に加え、このような“習慣”を育んでいく中で初めて、『自分でやってみたい!』『挑戦してみたい!』という主体性が自然と湧き出るのだと思います。その 瞬間をとらえ、一緒に走り続けていきたいですね」

<クレジット>
トップ画像:photo by: Kentaro Kase

長島 ともこ

フリーライター、エディター、認定子育てアドバイザー。妊娠&出産、育児、教育などの分野の企画、編集、執筆を行う。PTA活動にも数多く携わり、その経験をもとに、書籍『PTA広報誌づくりがウソのように楽しくラクになる本』『卒対を楽しくラクに乗り切る本』(厚有出版)などを出版。「PTA」「広報」をテーマに講演活動も行う。2児の母。

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