神戸市の小中学校で始まる「学年(チーム)担任制」で学校の何が変わるの?
複数の教師がチームとなってクラスを受け持つ「学年(チーム)担任制」。いじめ、不登校、不適切な指導、教師の働き化改革など、学校現場を取り巻くさまざまな社会問題。その解決策のひとつとして関心を集めています。そこで、2023年度より同制度の導入を発表している神戸市教育委員会事務局の担当者に「学年(チーム)担任制」の意義や期待される効果、課題などについて話を聞きました。
「学年(チーム)担任制」の目的とは
そもそも、「学年(チーム)担任制」とは、学級担任をひとりに固定せず、学年を受け持つ複数の教員がチームとなり、ローテーションを組むなどをして担当する学級運営の方法のこと。
日本で「学年(チーム)担任制」が注目を集めたきっかけは、定期テストの廃止、宿題の廃止など、画期的な教育改革を実施する千代田区麹町中学校が、2018年度に固定担任制を廃止し、学年の全教員で学年の全生徒を見る「全員担任制」の導入を行ったことでした。
そんな麹町中学校の取り組みを知り、「わが市でも取り組みを進めていく必要があるかもしれない」と検討を始めたのが神戸市教育委員会です。
GIGAスクール構想による児童生徒1人1台の端末導入、英語教育におけるALT(外国語指導助手)の設置などにもいち早く対応し、新しい教育を積極的に検討、導入している神戸市教育委員会。
2022年6月に準備会を立ち上げ検討を重ね、11月には先駆的に取り組んでいる富山県南砺市の教育委員会を通じて現地の小・中学校での取組を視察、12⽉に翌年度からの「学年(チーム)担任制」導入を発表。初年度となる2023年度は市内の小・中各2校、計4校での導入が始まります。
「『学年(チーム)担任制』を導入することで、担任だけに責務を負わせるのではなく、学年や学校全体で児童生徒ひとりひとりと向き合うことで、学びの個別最適化が実現しやすくなったり、いじめ、不登校、教員の労働環境の改善につながったりなど、学校が抱えるさまざまな課題の克服につながるのではないかと考えています」(神戸市教育委員会事務局担当者、以下略)
「学年(チーム)担任制」の導入イメージとは
固定担任制を廃止し、複数の教員で担任を受け持つ学校はすでに全国にもありますが、教育委員会が主導的に方針を示し取り組むのは、政令市では神戸市が全国初となります。
ただし、教育委員会が方針を示すといっても、同じ市内でも学校の規模や取り巻く環境は各校によって異なります。そのため、どのようにチームが編成され、どのような割り当てで生徒を担当していくかは各校の判断に委ねられます。
「クラス数にもよりますし、例えば各学年でチームを作るのか、⼩学校であれば5、6年⽣を⾼学年という1つのチームと考えて担任をローテーションしていくのかなど、学校の状況で変わっていくと思います」
また、すでに導入している学校では、下記のように運用しているようです。
鹿児島市立城西中学校の場合
- 教師6人程度のチームで3〜4クラスを担当
- 従来の学級担任の業務は,ローテーションや分割で実施
- 道徳と学級活動は、学年の全職員で担当
- 生徒指導等の案件には、状況に応じて弾力的にチームを編成
- 子供の希望による教育相談を実施(指名実績は延べ2割程)
- 生徒理解を深め、意思疎通を図る学級運営委員会を設置 「鹿児島市立城西中学校」資料参照
徳島県板野郡松茂町立松茂中学校の場合
- 学年のすべての教員が担任になる
- 通常の担任業務は教員が1日交代で行う
- 困ったことがあるときはどの教員に相談してもいい
- 道徳や総合学習もいろいろな教員が授業を行う
- 三者面談や家庭訪問は担当教員を決めて行い、情報は教職員間で共有する 徳島県板野郡松茂町立松茂中学校HP参照
「(上記の学校ではないですが)他都市には、学校それぞれの判断で取り組んでいるために教育委員会が把握できていないケースもあるようですが、神戸市は『教育委員会も一緒に推進していこう』というスタンスです。
授業の進め方を担当している課、生活指導を担当する課、全体をコーディネートする課など、各課からアドバイザーを用意して教育委員会事務局総出でサポートをしていく予定です。学校と教育委員会事務局が議論をしながら良い案を模索していきます」
担任・副担任制と何が違うの?
複数の教員が子ども達を見るといえば、担任・副担任性もありますが、「学年(チーム)担任制」とは違うのでしょうか?
「担任と学年担当(副担任)というやり方は、役割分担が明確になっています。担任業務は担任、学年全体の業務は学年担当が担うので、それぞれの負担感に大きな違いが出てくる場合があります。ですが、『学年(チーム)担任制』の場合は担任業務をローテーションする事によって教職員の負担感が均⼀化・平準化されるのではないかと思います。
また、『学年(チーム)担任制』で複数の教職員が複数の角度から児童生徒と関わることによって、気づきにくかった児童生徒の変化に気づくことが増えることも期待できると考えています」
「学年(チーム)担任制」のメリットとは
神戸市教育委員会では、「学年(チーム)担任制」導入のメリットを次のように考えています。
【メリット①】子ども、友人関係の変化に気付きやすくなる
「ひとりの教員が児童生徒の生活の様子を見続ける場合、どうしても教員の先入観や思い込みが入ってしまい、小さな変化、トラブルの予兆を見落としてしまう可能性があります。
しかし、『学年(チーム)担任制』が導入されると児童生徒に対して常に複数の教員が関わる状況になるので、児童生徒の様子、友人関係の変化、家庭の影響をいろいろな角度から総合的に見ることが出来るのが大きなメリットだと考えています」
【メリット②】教員と子どものよりよい関係が築ける
「教科担任制ではない小学校は、児童が接するのがほとんど担任1人になるので、児童との関係が固定化してしまい、人間関係づくりが上手くいかなかったとき、児童も教員も逃げ道がない状態になってしまいます。
ですが、「学年(チーム)担任制」を導入することで児童生徒がいろいろな教員と関わる事によって、児童生徒が“話しやすい先生”“気が合う先生”を見つけやすくなります。
児童生徒と教員の関係づくりが上手くいかないと、楽しいはずの学校生活がお互いに辛い時間になってしまいますが、複数の教員がローテーションで受け持つことによって、お互いに少し距離を置いて様子を見ながら環境を改善していったり、ほかの教員が間に立って関係を修復したりすることが可能になっていくと思います。
特に小学校高学年になってくると⾃⽴⼼が芽生えてくるので、ひとりの担任が児童の生活の様子を見た方が良い場面もあれば、多くの教員が関わっていろいろな関係性を作ってあげる方が良い場面もあると思います」
ちなみに子どもが相談できる教員を選べるようになると、人気がある教員に集中して業務の偏りができてしまいそうですが、すでに「学年(チーム)担任制」を取り入れている学校で、そのような状況になっているケースはほとんどないそうです。
【メリット③】さまざまな考え方や人間性を知ることができる
⼤⼈の影響を受けやすい子供時代。「学年(チーム)担任制」になり、⽇常的にいろいろな教員(⼤⼈)と関わることで、⼈それぞれ考え⽅が違うことに気づいたり、⼈⽣観を深めたりすることができそうです。
【メリット④】教員の働き方改革につながる
「家庭の事情などで早く帰らなければならないような事情がある教員や、逆に早い時間の出勤が難しい教員は、なかなか担任を受け持つことが難しかったですが、『学年(チーム)担任制』にすることで時差出勤を取り入れるなどをして補い合うことが出来るようになるかもしれません。
また、得意なことは教員によって違うので、お互いが専門分野を活かすことで苦手を補っていくことができ、精神的な負担も軽くなっていくと思います」
【メリット⑤】教員同士の学び合いになる
教員にとっては業務負担の軽減だけでなく、業務の透明化にもつながります。
「固定担任制の場合、学級の運営方法には1枚ベールがかかっているような状態でした。ですが、チームで業務を行うことで、お互いの仕事ぶりを見ることができて教員同士の学び合いにもつながります。例えば、学級運営が得意なベテラン教員のやり方を経験の少ない若い教員が見たり、まねたりすることで成長が促進されると思います」
前述のメリットに反して、すでに導入をしている学校の中には「誰が担任(相談相手)なのかはっきりしない」「教員間での情報共有に手間がかかる」などのデメリットも課題として挙げられていますが、いずれもシステムに慣れていくことによって解決していきそうです。
保護者世代が学生時代にはなかった「学年(チーム)担任制」。今後の公立小中学校のスタンダードになっていくかもしれません。
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エディター、ライター、環境アレルギーアドバイザー。新聞社勤務を経て、女性のライフスタイルや医療、金融、教育、福祉関連の書籍・雑誌・Webサイト記事の編集・執筆を手掛ける。プライベートでは2児の母。