大切なのは学校?教科書?学習は新たな成長を遂げる時を迎えている/陰山ラボ代表・陰山英男
陰山英男
百ます計算をはじめ反復学習や規則正しい生活習慣の定着で基礎学力の向上を目指す「隂山メソッド」で知られる陰山英男さん。コロナ禍においては、Youtubeに「陰山英男公式チャンネル」を開設して学習動画を公開するなど学力支援を行っています。今回の休校が学校の学びが新たに成長していくきっかけになると実感していると話す陰山さんの真意とは?
突然の休校で私も大変驚きました。しかも、日を追うごとに深刻さは増してきており、何かをしないといけないという責任感のようなものを感じました。
そうした折、以前からやりたいと思っていたことをやれるチャンスではないか、とも思ったのです。それは、インターネット上に全学年の授業コンテンツを上げ、そして、それを通じて多くの子どもたちに学習をしてもらうということです。
私の場合、幸いなことに私の企画した教材を子どもたちは手元に置くことができます。また学校ではできないような指導を実現することによって、学校の授業が大きく転換するきっかけになるのではないか、とも考えるようになりました。そこで、スマホひとつで学習動画を作り、どんどんアップしていきました。
強くメッセージしたかったことは、教科書や学校にこだわらなければ、学習しなければならないことは意外に少ないこと、少ないけれど重要なことをきちんと習得することが大切なんだ、ということです。
Twitterとyoutubeを使って、多くのご家庭で1年分の漢字を1カ月で覚えるということができるようになってきました。中には小学2年生になったばかりの子どもが私の提起した学習法に変えることによって小学4年生の漢字を4日間で覚えたというような驚きの報告も受けるようになりました。
これは学校の授業を否定するものではなく、むしろ授業の在り方を大胆に転換する提案でもあるのです。
福岡県の筑豊地区、飯塚市と田川市は近年私の指導法を取り入れている市ですが、今回は休校が長引くという困難な状況の中、それでも例年並みまたはそれ以上の学力向上を果たそうと、私の教材を活用したり、またその活用法を教育委員会や教員方が独自に動画にして提案したりと、今まで全くなかった展開も起きてきました。
田川市においては家庭学習で学年の新出漢字を学習してしまい、7月には一年分の漢字がどれだけ覚えられているかということを確かめるために90点を目標に市内一斉漢字テストを予定しているそうです。
こうした大胆な目標を地域で共有するというのは私も想像しなかったダイナミックな動きです。
しかもそれは教育委員会が提案したのではなく、近年自主的な漢字学習を指導してきた教員方らの提案であったというところも大きな驚きでした。
そうした地道な学習方法の指導がこの困難な状況の中では最大限に生かされ、新しい学習方法となって表れてきているのです。
子どもたち同士もオンラインでつながりながら学習を進めているという話も伝わってきています。困難で条件も厳しい中だからこそ今までとは全く違う工夫が始まっているのです。
コロナ後の社会は今までと大きく異なったものになる、と言われていますが、私は新しい学び方が一気に花開くという成長の道筋になっていくのではないかと思っています。
陰山ラボ代表、一般財団法人基礎力財団理事長。小学校教師時代から、百ます計算や漢字練習の反復学習や規則正しい生活習慣の定着で基礎学力の向上を目指す「隂山メソッド」を確立。過去、文部科学省中央教育審議会教育課程部会委員、内閣官房教育再生会議委員、大阪府教育委員会委員長などを歴任。2006年4月から2016年まで、立命館大学教授。現在は、講演会等を実施するほか、全国各地で教育アドバイザーなどにも就任、子どもたちの学力向上に成果をあげている。「 子どもの頭が45分でよくなるお父さんの行動」(PHP研究所)「学力は1年で伸びる!」(朝日新聞出版)「隂山メソッド たったこれだけプリント」(小学館)ほか著書も多い。