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2022.01.13

ピアカウンセリングとは?やり方やルールを専門家が解説。子育て経験が活きるピアカウンセラーへ

同じような悩みをもつ人同士が支援を行うピアカウンセリング。参加する人の中には、「もっと力になれる話の聞き方や声のかけ方はできないのだろうか」と思う人もいるようです。ここでは、ピアカウンセリングのやり方や効果、共感疲労に陥らないコツを専門家の新井寛規さんが解説します。

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ピアカウンセリングとは

ピアという言葉が“仲間”という意味を表すピアカウンセリング。1970年代にアメリカで始まった「自立生活運動(障身者同士が支え合い、隔離されることなく平等な社会参加を目指す活動)」の中でスタートしました。

一般的なカウンセリングは、提供する側(カウンセラーや専門職者)と受ける側(クライエント)が存在しますが、ピアカウンセリングをするのは、専門者ではありません

また、カウンセラーや専門職が行うカウンセリングも下記の2パターンがあります。

①社会・経済・生活の各分野における専門職が提供する相談援助行為

パラカウンセリングと呼ぶこともあり、専門職が必要な情報を提供するカウンセリングです。就職関連(キャリア・カウンセリング)、法律関連(リーガル・カウンセリング)、美容関連、結婚・夫婦関連、福祉関係ほか、さまざまなものが含まれます。

②心理カウンセリング

心理的な相談援助、すなわち心理カウンセリングを指します。主に臨床心理学が中心的に用いられ、公認心理師や臨床心理士などの資格を持つ専門職が活躍しています。クライエントは心理的なケアが必要な人々となり、医療機関と連携することもしばしばです。

分かりやすくまとめると下記のような分類になります。

専門性学術的なメンタルケア形態必要な資格共感性
精神医学や心理学以外の専門家による相談援助カウンセリングありなし1対1が多い各専門分野が証明できる資格あり
心理カウンセリングありあり1対1が多い公認心理師、臨床心理士等の心理資格あり
ピアカウンセリングなしなし複数人で行う必要なし。特にあり

同じような体験や経験をしてきた当事者が、同じ立場でサポートすることであり、ピアカウンセリングには「当事者こそが1番の理解者である」という基本概念があります

ピアカウンセリングが誕生した当時に比べ、現在は障害福祉分野だけでなく、実際に子育てを経験している親同士が行う子育てピアカウンセリング、自身がアルコール依存で苦しむ経験を持つ人による断酒セラピー、近年はコロナウイルスの影響で、思うように学生生活が送れない苦しむ学生を学生自身が支える活動(ピア・サポート)なども行われています。

さらに、ピアカウンセリングは、その名の通り仲間によるカウンセリングです。通常カウンセリングは1対1で行うものですが、ピアカウンセリングはグループで行うものがほとんどです。

ピアカウンセリングだからできること

ピア・カウンセリングは、素人同士で行うカウンセリングのため、あまり効果がなさそうに感じる人もいるかもしれませんが、そんなこともありません。

なぜなら、熟練のカウンセラーといえどすべての分野に精通することは難しいからです。

例えば、難病患者の場合、国内で症例自体が少なく、対処法も限られています。その病気に精通する専門カウンセラーもいない場合も多く、当事者によるピアカウンセリングが最も有効といえるでしょう。

また、人によってはカウンセリングを受けることや、心療内科での治療を何らかの理由で嫌がる人や、敷居が高いと思う人もいます。

そんなときに、同じような悩みを抱える人からの言葉によって、治療などにつながるケースもあります。

専門家からのカウンセリングは、心理学の発達によって確かに効果のある療法が提供されるのですが、全てのケースに同じように適応するものではないのです。

また、ピアカウンセリングの場合、専門職によるカウンセリングでは気づきにくい、当事者ならではの困りや課題に気づくことができます

考えれば当然のことですが、野球をやったことがない指導者は、実際に野球をやっている人の気持ちは想像することしかできません。目が良い人は目が悪い人の困りを全て理解することは大変困難を極めます。

同じく経験者でしか気付けないクライエントの気持ちに共感でき、より具体的な助言や経験則からくる提案が可能となるのです。

ピアカウンセリングと自助グループの違い

さらに、ピアカウンセリングと同じく”同じ悩みをもつ者同士が支え合う”という意味の自助グループがありますが、自助グループの参加者は参加者みんなが対等であるのに対して、ピアカウンセラーは同じ悩みも抱えつつも、それを乗り越えた経験があったり、最低限の専門知識があったりする存在を指す場合が多いです。

例えば、アルコール依存症などの自助グループなどでは、回復プログラムに基づいて話し合うのに対して、ピアカウンセリングはピアカウンセラーはクライエントの気持ちを聞き、悩みを抽出して気付きに導くことが目的になります。

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ピアカウンセリングのやり方

ピアカウンセリングのやり方や進め方を紹介します。

通常のカウンセリングは、カウンセラーとクライエントの2人で行います。心理カウンセリングであれば、特に刺激の少ない部屋の中で椅子に座ってカウンセラーが相談援助技術や認知行動療法等を活用して、クライエントと落ち着いた会話をします。

一方、ピアカウンセリングは形態がしっかりと決まっているものではありません

最初はお題(題目)を掲げ、ファシリテーターを中心とした話合いや意見交換会のような場を設けることもありますし、最初は困りごとに関する基礎講座やセミナーを実施するところもしばしばです。

また、ピア(仲間)と共に過ごすこと自体がピアカウンセリングだという人もいるなど、さまざまな形式があることは、下記の表からも分かります。

上記の表を見る限り、目的や人数、対象によって変わるということですね。この研究は思春期の若者向けのものですが、分野によって多少の違いはあるものの、充分参考にできるものだと思います。

また、実際にピアカウンセリングを実践したいと考えているのであれば、全国自立生活センターをはじめ、さまざまなNPO団体や福祉団体などではピアカウンセリングへの理解を深め、体得できる講座なども行われています。前述の通り、分野によって違いますので、まずは興味がある分野の講座へ参加してみるのもいいですね。

私は主に情報提供型のピアカウンセリングや、まれにカウンセリング提供型(個別)を実施していました。ピアカウンセラーに興味のある人は、実施している場が何を対象にどのように行うのかを確認する必要があるかもしれません。

※表の引用元:「ピアカウンセリング手法を用いた思春期性教育とその実践」川崎医療福祉学会誌 より

ピアカウンセリングを行う際の3つのルール

ピアカウンセリングを行う上で大切なことはいくつかあります。これから「ピアカウンセリングに参加したい!」「自分と同じような境遇の人を救いたい!」と思っている人は、参考にしてみてください。

【ルール①】120%の力で話を聞く(傾聴する)

ピアカウンセリングを行う上で、一番大切なスキルが”傾聴(耳・目・心を傾けて真摯な姿勢で相手の話を聴くコミュニケーションの技法)”です。カウンセリングや相談援助技法の基本であり、医療、福祉、教育等の現場で多くの方が実践しています。

傾聴は「ただ話を聞くだけ」「頷いて肯定すれば良い」というものではありません。話を聞いたり頷くことも大切ですが、それだけでは傾聴とはいえません。

オウム返し(バックトラッキング)を併用してクライエントと共感したり、相手とペースを合わせて同調したり(ページング)、別の言葉で同じ話題を言い換えてクライエントの声なき声を言語化したり(パラフレーズ)、その時の環境、心情、空気感などを読みながら行うこともしばしばです。

つまり、傾聴は誰にでもできそうでありつつ、大変奥深い手法でもあります。

ただし、上記のような相談援助技法を全て理解しなければいけないとなると、相当な知識と経験が必要ですよね。ピアカウンセリングを行うのであれば、やってみることも大切です。まずは真摯な気持ちをもって、120%の力で人の話を聞くことから始めてみましょう

【ルール②】自分の経験が全てだと思わない

前述しているように、当事者が自身の経験を踏まえて行うことがピアカウンセリングの強みですが、反対に専門家ではないということが裏目にでることもあります。

ピアカウンセラーはクライエントの気持ちが痛いほど分かるため、ついつい気持ちが入りすぎてしまう側面があります。しかし、クライエントに入れ込みすぎると、視野が狭くなり適切な言葉をかけることができないことあります。

自分のときはAという方法で課題を解決できた。だからAというやり方が良い

と悪い意味で決めつけてしまうと、課題解決へ進むことはできませんし、

あなたの辛さはとても分かる。私もそうだもの。でも、それって私達は悪くないの。制度や社会が悪いのよ!

と批判的意識を強めたり、傷の舐め合いをするだけで終わってしまっては、良くない方向に進んでしまう可能性も高いのです。

当事者の経験を伝えることは大事ですが、あくまで一例であるという意識を持っておくことが必要です。

【ルール③】自己決定を尊重する

カウンセラーの最大の役割は、クライエントに気付きを与えることではないかと私は考えています。

多くのカウンセラーはとても意味のある方法で日々実践されているのですが、カウンセラーとしての専門的訓練をあまり受ける機会がないピアカウンセラーは、まるで事件を解決する刑事のように、クライエントの困りを解決することが最大のミッションだと考えていることがあります

私が某市で父子のピアサポート活動をしていた際も、「その問題は〜すれば解決できる!」「なぜ私の言う通りにしないのか」と半ば指導のように助言をする人がいました。

困りを解決へ促すことは間違っていませんが、解決するのはクライエント自身だということを念頭に置いておくとよいでしょう。

専門者としての意見と当事者同士の意見交換の2つのバランスをどうとっていくべきなのかは、よくよく開始前に確認しておくべきでしょう。

ピアカウンセリングをする上で気を付けること

ピアカウンセリングを行う際、下記の点に気を付けましょう。

役割を理解する

ピアカウンセリングの最大の特徴は、当事者によるクライエントへの共感性の高さです。心理カウンセリングによるメンタルケアや、専門家による知見の提供は、ピアカウンセラーのや役割ではありません。

当事者の話を聞いて、気持ちに寄り添い共感し、自分の経験を伝えて気付きを促してあげればいいのです。

「指導」や「指示」をすると、平等な立ち位置が崩れてしまい、まるで教師と生徒のような、或いは上司と部下のような関係になってしまいます。これではピアカウンセリングとはいえません。

共感疲労に注意する

ピアカウンセラーは、「自分と同じような悩みをもつ人の力になりたい」と思っている献身的な方が多いと感じます。

だからこそ、ピアカウンセリングを行うことによって、ピアカウンセラー自身の過去のトラウマが呼び起こされてしまったり、クライエントの感じている痛みや悲しみに共感しすぎてしまい、過度なストレスを受けることもあります。

ピアカウンセラーの心が病んでしまっては、クライエントにカウンセリングを施すことはできません。

場面によってON-OFFを切り替えること、自身が共感疲労を受けた場合は絶対に無理をしないこと、ピアカウンセラーの仲間たちの中でサポート体制を決めておくこと(あるいはファシリテートしている専門者が決めておくこと)などが必要です。

ピアカウンセリングの場合、グループによって行うことが多いため、1人抜けたとしても、大きな被害とならないよう工夫することができます。

具体的な「強み」をつくる

私は、これまでに「家庭の中で父ができること」や、「男性保育士による保育の課題を考える」などの複数のピアサポートイベント等をファシリテートしましたが、ピアカウンセラーやピアサポーターの中には、「今よりもっと当事者のための力になりたい」という人もいます。

その場合、相談援助技術や対人コミュニケーションの講座などに足を運び、学んでみてはいかがでしょうか。

学んだ後は、またピアカウンセリングに参加してみてください。以前とは違う”気づき”があるはずです。

仲間内で相談援助を実践してみるのも良いでしょう。きっと相談援助の難しさや、カウンセリングの難しさに直面することもあるでしょうが、それ以上のやりがいを感じる人も多いでしょう。

「傾聴なら自身がある!」
「精神疾患についての知識がついてきた!」

と、自身の強みを実感していきましょう。

「子どもが愚図ったときにあやす方法を20個言える」
「若い人が仕事を探すための方法を10通り知っている。やり方も説明できる」

など具体的なものも良いですね。

最終的に、本当にそれを生業にしてみたいと思うのであれば、国家資格や権威のある民間資格にチャレンジし、取得を目指してみるのも良いかと思います。下記のような資格保持者は、心理カウンセリングや相談援助手法を使って社会に貢献する資格の一例です。

        

  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 社会福祉士
  • 精神保健福祉士
  • キャリアカウンセラー
  • 弁護士
  • 税理士

カウンセラーのニーズは、年々増加しています。しかし、日本にはカウンセリングが必要な人のすべてが受けられる環境ではありません。

そんな中、利害関係(どちらかが利益と損害を受ける関係)がなく、平等に当事者のために実施するピアカウンセリングは、さまざまな可能性を持つカウンセリング手法のひとつといえるでしょう。

気をつけるべきことはいくつかありますが、「誰かのためになりたい」という純粋な気持ちは、データでは表すことのできない気付きをクライエントに提供することができると私は考えます。

ぜひ、自身の強みをや経験を生かして、ピアカウンセリングにチャレンジしてくださいね。

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新井 寛規

小規模フリースクール「ろぐはうす」センター長。家庭教育師。小学校教員、児童養護施設児童指導員、学童保育士、市家庭相談員を経て、2018年大阪府に学習生活支援センターろぐはうすを設立。現在、大学教育学部非常勤教員、保育士・教員養成専門学校の教員、保育士国家試験予備校非常勤講師、市府県放課後支援員研修講師、市府県子育て支援員研修講師、保育教育児童福祉コンサルティング、啓発活動を行っているほか、「境界に生きるー。」(UTSUWA出版)などの著書も手掛けている。

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