なぜ小学生にプログラミング教育が必要なの?授業例や令和に求められる力とは
2020年度より小学校にも導入されるプログラミング教育。しかし、実際に小学校の授業がどう変わるのか分かっている保護者は少ないのではないでしょうか。そこで、今回は、プログラミング教室を主宰する筆者が、プログラミング教育の導入で小学校の授業がどう変わるのか、また、子どもの成長にどんな影響を与えるのかを分かりやすく解説します。
目次
プログラミング教育を必修化する2つの理由
2019年11月に文科省が全国市町村の教育委員会を対象に行った調査によると、約93%の教育委員会が2019年度末までに教員に実践的な研修を実施し、教員による授業の実践や模擬授業を実施済み・実施予定だとしています。
このように2020年度4月に向けて、着実に現場の準備も進むプログラミング教育ですが、一方で、小学校の教師など現場の声を聞いていると、まだ指導に対して不安を感じているような印象です。
では、保護者側の理解の程はいかがでしょうか。プログラミング教育で子どもがどんな経験をして、何を学んでくるのか分かっていますか? そこでまずは、プログラミング教育がなぜ必修化されるのか、その理由から改めて説明をしていきたいと思います。
文部科学省によると、プログラミング教育の目的とは「プログラミング的思考の育成」と「プログラミングで動いているものが身近にたくさんあることを理解すること」としています。
【目的①】プログラミング的思考の育成
文科省は、プログラミング的思考について下記のように説明しています。
プログラミング思考とは…
自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要であり、ひとつひとつの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組合せをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力
つまり、自分の目的を実現するために必要な動作が何かということを挙げていき、それをどのように組み合わせればよいのかということを考えるのが、プログラミング的思考ということです。
【目的②】プログラミングで動いているものが身近にたくさんあることを理解すること
身近な機械の多くがプログラミングで動いているということを理解することも目的のひとつです。例えば、駅の改札で使用しているPASMOやSuicaなどICカードの計算がプログラミングで行われています。そのことを知り、仕組みを理解することで、“プログラミングを社会の中でどう生かしていくのか”という思考に後々つながっていきます。
以上のように、プログラミング的思考で目的を達成するまでの過程を考えていくこと。プログラミングが生活の中にあることを知って基本的な知識を身につけることが、プログラミング教育では期待されているのです。
この記事の筆者・福井俊保さんの著書
パソコンがなくてもプログラミング教育はできる!?
しかし、プログラミングがひとつの教科になるわけではありません。各教科の一部でプログラミングを使った学びが行われることになります。
文科省のホームページによると、すでに一部の学校では、算数や理科などの教科で行われているところもありますが、プログラミング教育の可能性はそれだけにとどまりません。コンピュータを使わないアンプラグドなプログラミング教育の導入されていく可能性もあることでしょう。
アンプラグドとは、コンピュータを全員が使えない状況であったり、体育などコンピュータを使うよりも体力をつけることが重視されたりする授業では有効なプログラミング教育方法です。
例えば、体育の授業なら“サッカーでゴールをする”という目的達成のために必要な動作をカードに書いておき、それを並べ替える(作戦を練る)ことで“ゴールを奪えるか”を考えます。このように、パソコンがなくてもさまざまな教科でプログラミング教育を取り入れていくことができるのです。
プログラミング教育の授業例を見てみよう
前述の通り、すでに一部の学校で試験導入されているプログラミング教育ですが、文科省のサイトでは、実際の教育現場で行われた事例がいくつも紹介されています。そのなかから今回の記事では、小学校5年生の算数の授業内で行われたプログラミングを用いて正多角形を描く事例を取り上げましょう。
【事例】小学5年生の算数~正多角形の意味と描き方
授業の流れは次の通りです。まず、紙に正三角形を描きます。正三角形は、すべての辺を同じ長さにして角度を60度にしなければなりませんよね。授業では、定規と分度器を使って決まった辺の長さと角度を測り、紙に正三角形を描いていきます。
次に、パソコン上で正三角形を描いていきます。その場合も、紙に描いたときと同じように、辺の長さと角度の情報が必要です。しかし、「辺の長さを10センチにして角度を60度に」とプログラミング(入力)するだけでは、プログラミングソフトは動きません。この命令をさらに細分化して、組み合わせていく必要があるのです。
ではどのようにすればよいのでしょうか。
先ほども述べたように、「横に線を10センチ引く」と伝えるだけでは、コンピュータはどのような線を引いて良いか分かりません。「どの地点から、どの方向に、何度の角度で何センチの線を」など具体的に指示を出さなければならないのです。
このように、コンピュータを正しく動作させるための指示する内容と組み合わせを考えることこそ「プログラミング的思考」であり、正多角形の授業を通して、正しく具体的な指示を考え、組み合わせることを学ぶことで、「プログラミング的思考」が育成できます。
人との違いや間違いもすべてを成長の糧にできる
また、プログラミングを用いた授業では、お互いのプログラムを比べることができます。
プログラミングは、結果(完成した正三角形)が同じでも、中身(プログラミングの内容)は違う場合が多く、答えはひとつではありません。描けたから終わりではなく、人のプログラミングを見て、自分と何が違うのか、また違うことでどう動きかが変わるのか自分の中にはない思考やプロセスを理解することもできます。
さらに、間違えたとき(正三角形が描けなかったとき)には、何をどう間違えたのかということを確認できるのもプログラミングのいいところです。プログラミングは、ひとつでも理解を間違えて違う指示を出すと全く違う図形になってしまいます。どこで間違え、何が違うのだろうかと、客観的に自分の間違いを見直すことも思考の育成、心の成長につながります。
プログラミング教育で考え続けられる子に
実際にプログラミング教室で教えていると、プログラミングを学習することで、壁にぶつかっても考えることを諦めずに前へ進もうと変化していく子どもの姿をよく見かけます。今までは、どうすればいいのか分からないことがあるとフリーズして何もできなかったのが、手を動かして挑戦するようになっていくのです。
また、自分なりの意見が言えるようになった子もいます。今までは講師からの「こうしたらどうかな」というアドバイスに従っていたのが、「それだとここでおかしくなるよ」と自分でプログラムのおかしなところを発見し、自分の意見として人に伝えることができるようになっていくわけです。
プログラミングの間違いに気づけるようになったということは、以前と比べて、考える力がついたということです。プログラミングで身に付けた“諦めずに考える”習慣は、ほかの教科を学ぶ際にも成長をみせるはずですよ。
【おすすめソフト&例題付き】親子で一緒にプログラミングをしてみよう
プログラミングは、子どもだけでなく大人がやっても勉強になるものです。子どもと一緒にプログラミングをすることで、算数を含めてイマドキの学校の勉強について改めて学ぶことができ、親子でのコミュニケーションのきっかけにもなります。
そこで、まず、ダウンロードをオススメするのが、前述の事例授業でも使われているソフト「スクラッチ」です。アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボのグループが作成し、小学生でも簡単にプログラミングができます。
動きや音、変数などが日本語で書かれたブロックを組み合わせてプログラムをしていきます。
ダウンロードができたら、まずは、ソフト内のチュートリアルに従いながら実際にスクラッチを使ってみましょう!。
好奇心をもっていろいろなブロックを組み合わせて慣れていくうちに、こういうときはどうすればいいのかということが分かってきます。
そして、慣れてきたら、親子で下記の例題にトライしてみてください。
<例題> きれいな円を描いてみましょう
プログラミング的思考のヒント
必要な命令を考えてみましょう。
1. 最初の場所と角度を指定します
2. 図形を描くのでペンを下ろします
3. 「〇回繰り返す」のブロック、「〇歩動かす」のブロック、「〇度回す」のブロックを組み合わせてスプライトが1周回るようにします。
さらにヒント!
きれいな円は、角度と繰り返しの回数の関係が分からないとプログラムできません。下記は、正三角形のプログラミングです。参考にしながら「〇回繰り返す」「〇歩動かす」「〇度回す」の数字をどうすればいいか考えてみてください。
円は描けましたか?
それでは、解答例を見てみましょう
スクラッチプログラミング解答例
いかがでしたか?
前述の通り、プログラミングの内容が解答例と違っていてもきれいな円が描けていれば間違いではありません。また、気づいた方もいると思いますが、問いの図は円に見えますが円ではありません。円に近づいているだけで、実は正360角形です。応用編として、何角形から円に見えるようになるのか、スクラッチで試してみるのも面白いですよ。
プログラミングは正確に命令を出さなければ正しく動いてくれません。そのため、会社で指示を正確に伝える訓練にもなります。これを機に子どもと一緒にプログラミングに挑戦してみるのはどうでしょうか。意外と大人の方がはまるかもしれませんよ。
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<参考文献>
小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)(文部科学省)
小学校を中心としたプログラミングポータル(文部科学省)
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プログラミング教室スモールトレイン代表。1976年生まれ。横浜市立大学大学院博士後期課程単位取得退学。 大学では数学、大学院では文系(国際政治)を学ぶ。大学院時代から中学受験塾で4教科を15年間指導した後、子どもたちが「考える力」を身につけるためのプログラムを開発したいと思い、プログラミング教室「スモールトレイン」を開校。著書に「エラーする力──AI時代に幸せになる子のすごいプログラミング教育」(自由国民社)などがある。 スモールトレイン https://www.smalltrain.com/