小学生の読書感想文の書き方、コツが身に付く「山田式」とは
夏休みの宿題や国語の授業で書く読書感想文。多くの小学生が苦労し、原稿用紙を目の前に時間ばかりが過ぎてしまう子を前にやきもきする保護者もいることでしょう。そんな親子を少しでもサポートできるように読書感想文の書き方を解説します。
目次
「作文」と「読書感想文」はどう違う?
読書感想文の書き方を解説する前に、作文との違いを整理しておきましょう。
- 「作文」は、自分が体験したことや体験を通して自分が考えたことなどを伝える文。
- 「読書感想文は」は、自分が読んだ本のどこに感動したのかやその本の良さを伝える文。
と、一般的には上記のように考えられています。
このように分けると「読書感想文」には自分の意見や体験を書いてはいけないのか?と思う方もいるかもしれませんが、読書感想文にも書いて問題はありません。
筑波大学附属小学校の先生を長年務められ、児童への読書推進活動でも著名な白坂先生は、読書感想文を書く意義について「読書を通して自分自身を見つめること」とおっしゃっています。
白坂先生の言葉をかみ砕くと、読書感想文とは「自分自身の経験も重ねながら、その本の良さを伝えるもの」とも言えますね。
小学生の読書感想文の採点基準とは
そもそも、どうして小学生の宿題に読書感想文があり、教師は感想文のどんな点で評価していると思いますか。それは下記のようなことです。
読書感想文のねらい、評価ポイント
- 課題図書を読むことができるか
- 読んだ上で自分の考えや意見を持つことができるか
- 考えや意見を文章にして相手に伝えられるか
読書感想文を評価するときの一番のポイントは、漢字や語句の使い方、表現の仕方ではありません(見ないわけではありませんが)。
教師によって違いはありますが、“読んだ本の内容をまとめただけ、説明しただけになっていないか”という点が評価ポイントになります。
読書感想文が苦手と感じる4つのパターン
一方で、読書感想文が苦手な子は下記のようなケースが多いように感じます。
読書感想文が苦手な子のパターン
- 課題図書に興味がなくて読む気がしない
- 課題図書に興味がないので感想(考えや意見)がない
- 何を書けばいいか分からずあらすじを書いてしまう
- そもそも文章を書くのが苦手
評価ポイントやねらいと苦手なポイントを照らし合わせてみてみると、見事に“書かせるねらい”を外してしまっていますよね。
ですが、「うちの子は、苦手なパターンに当てはまってる!」と思っても大丈夫です。読書感想文が苦手な子でも、迷わずに書き進めやすくなるのが今回紹介する「山田式・読書感想文」です。
「山田式・読書感想文」の工程は2つ
上記のねらいを抑える上でポイントになるのが、自分の意見や考えをどのように感想文の中に盛り込むのかということです。その点、「山田式・読書感想文」は、自分の体験や考えを主に構成を組み立てていくので、あらすじばかり、という感想文にはなりません。
そもそも、「山田式・読書感想文」とは、新潟市立東曽野木小学校で勤務されていた山田加代子さんによる指導方法。全国読書感想文コンク-ルで、多くの小学生に総理大臣賞や文部大臣賞などを受賞させたという実績があります。
では、早速、「山田式・読書感想文」では、どのように書き進めていくのか紹介しましょう。
【工程①】本を読み、メモをする
いきなり原稿用紙に書き始めようとしても「何を書けばいいのか分からない!」という子がほとんどですよね。本の内容だけでなく、読後の自分自身の感情もうまく言語化できる子は少ないと思います。
そこで、まずは原稿用紙に書く前に、本を一通り読んで分かったこと、気づいたこと、思ったことをたくさんメモし、書き出しを決めます。
「分かったこと、気づいたこと、思ったことをメモしてごらん?」と言うと、「分かったこととは」「気づいたこととは」と、別々に考えようとする子もいますが、難しく考える必要はありません。
「何を書いてもいいんだよ」と声かけをし、どんどん書いていきましょう。
なお、後の項目でも触れますが本を読んだ直後に「付箋」に感想を書かせていくようにするのもおすすめの方法です。直後であれば自分が思ったことを忘れにくいですし、感想文の構成も考えやすくなります。
【工程②】全体の構成を考える
実は、読書感想文は、ただ書き進めればいいわけではありません。どんな順番で何を書いていけばいいのか、構成のパターンがあります。
原稿用紙に書いていく順番(全体の構成)
- 【工程①】のメモを基にした書き出し(分かったこと・感じたこと・気づいたこと)
- 書き出しで書いたことと同じまたは似たような体験
- 「書き出し」と「自分の体験」を比べて自分の考え、意見、感想など
- 本を読んで得たこと。今後、自分がどうしていきたいかなど気持ちや決意
この書き方は、小学生向けの学校指定図書で書く場合を含め、あらゆる本に対応できます。
「山田式・読書感想文」を実例で紹介
次に、上記をさらに分かりやすくするために、国語の教科書で定番の作品である「もちもちの木」を例に見ていきましょう。
【工程①】本を読み、メモをする
まずは、「分かったこと」「気づいたこと」「思ったこと」を下記のような感じで、どんどん付箋に書いていきましょう。
メモ書きの例(「もちもちの木」の場合)
- 豆太はおくびょうだった
- 豆太は自分と似ている
- もちもちの木がこわいと豆太は思っていた
- 僕もこわいビデオで見たおばけがこわかった
- 豆太は本当は勇気のある子だった
- ぼくも勇気のある子になりたい
- 豆太は心優しい子だと思った
- 主人公は豆太
- おじいちゃんを助けた豆太
- じいさまが病気になったかもと思った
- 豆太には「こわい」という気持ちがあったのに夜中に医者をよんだのがすごい
【工程②-1】書き出しを決める
こちらのメモを基に、読書感想文全体を構成していきます。
まずは、書き出しです。分かったこと、気づいたこと、感じたことを書いていけばいいですが、メモは思いついたままに書いたものになるので、実際に原稿用紙に書くときには順序は変えましょう。
また、メモに書いたことを全部使う必要はありません。必要な部分だけ、必要な付箋だけ取り出して書くようにしましょう。特に”自身の経験や思いと似た(同じ)こと”を書き出しに選ぶと、その後が書き進めやすくなります。
さらに、メモに書かれたことをなるべく具体的に書くようにすれば、感想文としてのレベルが高くなるだけでなく、感想文が長くなります。
例えば、上記のメモを使うと、次のような「書き出し(感想文の冒頭)」になります。
書き方例
はじめは、おくびょうだった豆太がじさまが病気だと思って、夜中に医者様をよびにいけるようになった豆太はすごかったです。
【工程②-2】書き出しに合わせて、同じ(似た)体験を書く
まったく同じ心境や体験ではなくても、書き出しにある内容にちなんでいれば構いません。
今回の場合は、主人公の「おくびょう」という部分を自分に照らし合わせて、似たようなことを感じた体験談を書きます。
書き方例
小学一年生の時、ぼくはおばけがこわくて一人では自分の部屋に入れませんでした。そのわけは、小さいときに家族がいる大きな部屋、リビングでこわいビデオを見たからです。それからはこわくて一人では、自分の部屋に行けなくなりました。自分の部屋におばけが出てくるように思えたからです。
【工程②-3】自分の考え、意見、感想などを書く
次に、ここまで書き進めてきた「書き出し」と「自身の体験を」比べて、自分の考えや意見を書いていきましょう。
書き方例
三自分の部屋におばけが出て来くるように、思えたからです。ぼくは豆太とくらべて思ったことがあります。豆太はさいしょはモチモチの木がこわかったけど、医者様をよびにいける勇気のある子になりました。ぼくも自分の部屋に入るとき、おじいちゃんは病気にはなっていないけど豆太にまけないようにしようと思いました。そうしたら、一人で自分の部屋に入れるようになりました。。豆太と自分は勇気を出したら、おばけがこわくなくなったところがにているなあと思いました。
【工程②-4】読んで得たこと、今後への気持ちや決意を書く
最後は、この本を読んで得たことや、今後の自分はどうしていきたいかなどの決意を書きます。
書き方例
これからは、広いリビングで怖いビデオを見たあとでも、一人で自分部屋に入るようにします。どうしてかというと、ぼくは、この本を読んで、いつでも勇気のある子になりたいと思ったからです。がんばります。
これで、読書感想文のできあがりです。このような読書感想文を書くことができれば、あらすじばかりだけを書いた感想文ではなくなり、印象も評価もアップするでしょう。
正しい原稿用紙の使い方で感想文を書こう
次に、改めて原稿用紙の使い方をおさらいしておきましょう。
原稿用紙の使い方のルールはさまざまあり、一概にはいえませんが、下記のような点に注意します。
原稿用紙の注意点
- 題名(タイトル)の上は3マス空ける(1マスのときもある)
- 題名(タイトル)の前に一行空けることもある
- 苗字と名前の間は1マス空ける
- 名前を書いたあとに1行あけてから本文に入ることもある
- 会話文を書くときの「 」は1マス空けて書くこともある
- 「 」のあとにマス目が空いていても、その下には続けては書かない
- 話の内容が変わるときは、1マス空けてから書く
どうすればいいか迷ったよきは、学校で教わった通りに書かせるのがよいでしょう。
原稿用紙の使い方についてはこちらの記事にも書いているのでチェックしてみてください。
読書感想文が書きやすい本はどう選ぶ?
読書感想文を書く際、自由に本を選べる場合もありますよね。その場合、山田式を実践するのであれば、子どもが感動するような場面あるいは似たような体験をした本を選ぶと書きやすくなります。
小学校低学年の本の選び方
筑波大学附属小学校国語科教諭だった(現在は明星大学教授)の白坂洋一先生は、著書『子どもを読書好きにするために親ができること』(小学館)の中で、次のように書いています。
幼児期から低学年にかけて、子どもたちはおもに「音」の響きによって想像を膨らませます。音によって、物語の内容をイメージしたり、味わったりしながら本の世界に浸っていくのです。この時期は、文字を追うのではなく、挿絵を身ながら読み聞かせを通して想像力を高めていきます。それによって言葉を獲得していくのです。読み聞かせをするときは、音のリズムにも注意を払いましょう。日本語では5音と7音が繰り返されると心地よく響いてきます
「子どもを読書好きにするために親ができること」(小学館)
このことからも、低学年の子どもたちには音のリズムがある本を選んだほうがいいことが分かります。
音のリズムがよく低学年の子どもが好む登場人物、中心人物が、何かを解決する明るい本を選ぶのがページを進めやすいということも分かります。
小学校中学年の本の選び方
中学年では、ジャンル、好みの幅を広げて本を選ぶのがいいとのことです。
主人公が冒険したり、不思議な世界に迷い込んだりする物語に興味を示す子どもが増えていくのも、この時期の特徴です。こうした物語を読みながら、子どもたちは主人公の気持ちに寄り添い、一体化しながらストーリー展開を楽しんでいくのです。
「子どもを読書好きにするために親ができること」(小学館)
中学年では、冒険的な本を選ぶのが良いということになるでしょう。
小学校高学年での本の選び方
高学年では、視野を広げられるような本選びをするといいとのこと。子どもが自分で考え、自分の興味にそって選ばせましょう。
読書感想文が書きやすくなる親のサポート
子どもが読書感想文を書けるようになるために、親はどのようにサポートをすればいいのでしょうか?教え方のコツや、普段の関わりのなかでできることを紹介します。
子どもへの教え方のポイント
筆者がよく聞く書き方を教える際のポイントは3つあります。
1、質問して感想を聞き出す
感想や思ったことを言葉にするのは子どもにはなかなか難しいものです。そのため親が質問をして子どもの感想を引き出してあげるとよいでしょう。
2、あらすじは書かせない
「感想」ではなく「あらすじ」ばかりを書いてしまう子どもはよくいます。まずは感想とあらすじの違いから教えてあげるのもいいかもしれません。
3、付箋に感想を書かせておく
「山田式・読書感想文」2つの工程のなかでも紹介しましたが、読書後すぐに付箋に感想を書くことで、「思ったことを忘れないうちに書ける」「感想文の構成を考えやすくなる」といったメリットがあります。
付箋でなく「読書ノート」に感想を書くという方法もあります。ノートに書く場合は箇条書きにすることで原稿用紙に書く順番を決めやすくなるので、より感想文を書きやすくできます。
上記に追加して筆者がおすすめしたいのは、「原稿用紙を赤のブロックで分ける」方法です(参考:『お父さんが教える読書感想文の書きかた』赤木かん子・著 自由国民社)。この方法は「山田式」で下書きをするときにも使えます。
図のように、「ここはあらすじを書く部分」「このブロックは自分の体験談を書く部分」などと区切っていきます。
各赤ブロックの行数は、最初に作った付箋の枚数でおよその行数を決めましょう。自分の体験談の付箋が多ければ行数を2倍にするなどしてもかまいません。
各ブロックに書くことが決まっているので、ただ文章を書いていくよりも手を動かしやすくなり、スムーズに感想文を書くことができます。
子どもにいろんな体験をさせよう
今回紹介した「山田式・読書感想文」の書き方でも、自分の体験を書かせることが難しいという声があります。物語内の出来事と自分が経験した同じようなことを見つけるのに苦労する子がいるのです。
今まで自分がどのような体験をしてきたのか、似ている体験はどんなことだったのかが思い出せなかったり分からなかったりするからでしょう。その結果、子どもは戸惑ってしまうのではないでしょうか。
この戸惑いを解消するためには、普段から子どもに多くの体験をさせておきましょう。体験したことが多ければ多いほど、読んだ本の中に書かれていることと同じようなこと、似ていることが探しやすくなるからです。
ある年、夏休みの課題が話題となった高校があります。
栃木県立宇都宮高校の物理の課題で「あなたの人生を謳歌しなさい」(提出は不要。良い成果があれば担任等に報告してもよい)という内容でした。
夏休みを、本当にやりたいことにチャレンジするよい機会ととらえ、有意義に過ごすことを願うというねらいがあったようです。さまざまな体験をしておきなさいということでもあるのでしょう。
読書感想文のレベルを上げる方法は?
小学生の子どもには普段から「なぜだろう?」「どうしてだろう?」と考える習慣をつけさせておくとよいでしょう。「なぜだろう?」「どうしてだろう?」と思ったこと、そこから考えたことが自分の感想や意見となり、作文にも書くことができるからです。
私は、この原稿を教育ライターとして書いています。普段から疑問を持ち、人の意見に賛成したり反対したりしながら自分の考えを持つようにしています。逆に言うと、考えないと文章を書けないのです。
山田式で読書感想文を書くときにも自分の考え、意見、感想を書きます。普段から疑問を持つ習慣がついていれば自分の感想、考えや意見もわりとすぐに浮かんでくるのではないでしょうか。
「どうして」「なぜだろう」と考える前には、あらゆるものをよく見ておくことも大切です。たとえば、信号機。自動車用の信号の赤は右端か左端どちらにあるのか。歩行者用の信号機の赤、青はどちらが上でどちらが下なのか。それはどうしてなのか。外国でも同じなのかなどと考えることができます。考える前に信号機をよく見ていなければ、このような疑問は出てこないでしょう。
このように普段から細かいところまでよく見ることができる観察力と「どうして」「なぜ」と考える力をつけておくことが読書感想文を書く上でも大切になってくるのです。
また「観察力」と「なぜ」「どうして」と考えることは読書感想文を書くときだけでなく、普段の作文やスピーチなどにも生かしていけることでもあるのです。
読書感想文だけでなく、作文など何かを書くときにも必要になる力です。ぜひ、子どもには多くの体験をさせ、普段から物事をよく見てよく考えるということを子どもに伝えておきましょう。
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