兄弟姉妹に障害がある「きょうだい児」のつらさやストレス、将来のために親ができること
「障害の有無に関わらず平等に愛情を注ぎたい」と思っていても、障害児に手がかかり、きょうだい児(障害がある子の兄弟姉妹)に寂しい思いや苦労を強いてしまうケースは少なくありません。そのことに罪悪感や葛藤を抱える保護者も多いことでしょう。そこで、きょうだい児のつらさやストレスに向き合い、兄弟姉妹それぞれの幸せをどう考えていけばいいのか、障害児支援の専門家である吉田綾子さんに話を伺いました。
きょうだい児に対する親の思い
障害がある子(人)の兄弟姉妹を指す言葉「きょうだい児」。親としては、障害の有無に関わらず、平等にわが子へ愛情を注ぎたいと思っていても、どうしても障害のある子を優先しなくてはならない場面も多く、きょうだい児にさびしい思いをさせたり、気を遣わせたりしてしまうケースも少なくありません。
障害児やその家族の支援を行う吉田綾子さんは、きょうだい児に対する親の思いを次のように話します。
「母親の中には、障害がある子を産んだことへの罪悪感に苦しんでいる人もいます。その反動で定型発達のきょうだい児に対して『この子は大丈夫』と思いたい。きょうだい児から安心感や自己肯定感を得ようとしているのかなと感じることがあります。そのため、『この子は大丈夫』という思いが、過度な”期待”になっているケースも見かけます」(吉田さん、以下略)
ただし、そんな母親たちもきょうだい児のことを軽んじているわけではありません。
「みなさん一生懸命なんですよね。もう十分なのに、『もっと愛情をかけなきゃ』『まだ足りないんじゃないか』と自分を追い込んでいるお母さんは非常に多いです。『お母さん、もう十分だよ』という一言で涙を流してしまうほど、ギリギリのところで踏ん張っています。そんなお母さんたちを責めることはできません」
しかし、障害の有無に関わらず、愛情が深い分だけ、わが子のことには焦点が狭くなりがちです。一歩引いてみるために、次からはきょうだい児の置かれている状況や、吉田さんが見てきたさまざまなケースを紹介していきましょう。
きょうだい児が抱えるつらさ、ストレス
吉田さんはきょうだい児だからこそのストレスやつらさには次のようなことがあると話します。
障害傾向があっても見過ごされる
「専門家から見ると、きょうだい児の子に発達の面で気になるところがあっても、保護者が気づいてないことや見て見ぬ振りをしていることがあります。
うまく検査や療育に繋げることができればいいのですが、保護者自身がそのことを受け入れられない場合は、まずは保護者の心をほぐすことから取り組んでいきます」
「兄弟姉妹を守る」という使命感
きょうだい児に共通してあるのは、『僕(私)が障害がある家族を守らなければいけない』という思いです。
「この使命感は親が強要したり、教えたりしたものではなく、自然と身に付くものだと思います」
学校での立ち位置が決まってしまう
自分が兄弟姉妹を守るという使命感があるこそ、学校など社会の中で生きづらさを抱えるきょうだい児もいます。
「例えば、ある小学生姉弟(弟に軽度の発達障害・知的障害がある)のケースでは、お姉ちゃんが学校の中で問題行動を起こす弟を目の当たりにしていました。周りの子どもたちも、その子の弟が周囲に迷惑をかけていることを知っているので、いつの間にか学校内で『迷惑をかける子のお姉ちゃん』というレッテルを貼られるようになり、お姉ちゃんは『〇〇のお姉ちゃん、と言われるのが嫌だから転校したい』と訴えるようになりました」
ほかにも、レッテルを貼られるだけでなく、からかいやいじめに発展してしまうケースもあります。
兄弟姉妹間で不平等を感じている
障害がある兄弟姉妹に比べて自分だけが注意されたり、怒られたりすると感じているケースも少なくありません。
「お父さんお母さんの注目が障害のある子にばかりいってしまうことで、疎外感を感じているじょうだい児も結構います」
「できて当たり前」というプレッシャー
『あなたはできるから』『あなたは大丈夫だから』という保護者からのプレッシャーで引きこもりや不登校になるきょうだい児もいるそう。
「本人(きょうだい児)としては、『そこまで自分はできるほうじゃないけど、(両親からの期待に)応えなきゃ』とがんばり続けて、限界がきて心が折れてしまうケースも少なくありません」
将来への不安、悩み
「きょうだい児は、いわゆるヤングケアラーなんですよね。中高生になり、家の中でやってきたことが、実は兄弟姉妹のケアだったということに気づいたとき、『お父さんやお母さんがいなくなったときにこの子どうするの?』という悩みを漠然と考えるようになる傾向があります」
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吉田 綾子さんへの相談ページを見てみるきょうだい児のために親ができること
上記のようなつらさやストレスを抱えているきょうだい児ですが、彼らに対する愛情を心の中で”思う”だけでなく、うまく表現する方法はあるのでしょうか。
これまで見てきたケースを参考に吉田さんが、きょうだい児のために親ができることを紹介します。
きょうだい児のための時間をつくる
やはり、根本に寂しさを抱えているきょうだい児は少なくありません。
「障害がある子はショートステイに預けるなどして、きょうだい児と二人だけの時間をつくってあげてください。預けることに抵抗がある保護者もいるかもしれませんが、ほかの家族はどう思っているでしょう? 両親は『わが子のことだから…』とがんばれるかもしれませんが、同じく大切なわが子である兄弟姉妹も限界までがんばらせたいと思っていますか? 保護者や障害のある当事者だけの気持ちではなく、家族としてどう考えるかという視点をもつことも大切です」
言葉やハグで愛情表現はストレートに
実際の行動が障害がある子のお世話に偏ってしまうと、心の中でいくら『あなたのことも大事なのよ』と思っていても、子どもにはなかなか伝わりにくいものです。
「親子といえども伝えたい思いは言葉にするのが一番です。『あなたが大事よ』と伝えるのもいいですし、今まで担当してきたケースの中には、口癖や合図のように『あなたは私の宝物よ』と言っているお母さんや、『あなたに何があっても、お父さんお母さんがいる場所は、あなたの安全基地よ』と伝えているお母さんがいました。
また、小学生だけでなく中学生でも『抱っこして』『ぎゅーってして』と言う子は多いです。抱きしめられるのは恥ずかしいという子なら、ボディタッチや頭をなでてあげるなど、ちょっとしたスキンシップでもいいので、子どもひとりずつにしてあげることでみんなの心が安定していきます」
思春期の気持ちを尊重する
いくら『障害のある家族は私(僕)が守らければ』と思っている子でも、思春期になると周りの目が気になるようになってきて、障害がある兄弟姉妹がいることを隠したくなってしまう子も少なくないそう。
「『兄弟姉妹のことを隠そうとするなんて…』とショックかもしれませんが、思春期を乗り越えれば、向き合い方はまた変わるので、彼らの気持ちを尊重してあげてください」
親自身が休息を取る
親だって人間です。たまには息抜きをしないと子どもに優しくなれないかもしれません。
「がんばっている人こそ、息抜きを抜くために『何かしなくちゃいけない』と思いがちです。でも、何もしなくていいんです。デイサービスやショートステイを利用して、そのときのご飯は総菜を買ってきて昼寝をしたり、ぼーっとテレビを見たり。お父さんやお母さんも自分を甘やかしてください」
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吉田 綾子さんへの相談ページを見てみる将来への不安との向き合い方
兄弟や家族の縁は簡単に切れるものではありません。きょうだい児の中には、親が亡くなった後、自分が面倒を見なければならないと感じている子もいることでしょう。
「思春期を越えると、障害がある子自身も、きょうだい児も、『自分の道(将来)をどうしていこうか』と考え始めます。そのとき、親子でじっくり話をして、『あなた(きょうだい児)とこの子(障害ある兄弟姉妹)は、それぞれの人生を歩んでいいだよ』ということを明確に伝えてあげてください。伝え続けることで、きょうだい児が抱える将来への葛藤も少しずつ解消していくと思います」
吉田さんが出会った家庭には、次のような選択をしている家庭がありました。
「重度の知的障害がある弟さんとお姉ちゃんの家庭ですが、お姉ちゃんは、お父さんお母さんが大変なのを見ているので、地元に残って家から就職すると話していました。でも本当はお姉ちゃんにはやりたいことがあり、それは地元から離れないとできないことでした。そのことを知った両親は『今までで十分よくやってきてくれたよ。自分の人生を生きて』という話をして笑顔で送り出し、お姉ちゃんは離れて暮らすようになっても遠隔からできるサポートをしているそう。
また、両親自身も『自分たちがもう無理だなと思ったらその時点で、すぐに施設入所をすぐ考えたい』と話しています。“家族みんなが無理のない人生を送りたい”という考えをブレずに持ち続けることも選択肢のひとつです」
吉田さんによると、家族のことは家族が世話をするべきという考え方から、地域共生社会に向けて地域みんなで支え合って生活していこうと社会が変わってきており、利用できる施設や支援は年々増えているそう。
「グループホームなどの施設入所をする人もいれば、通所施設や訪問介護、利用しながら自宅で暮らしていく人もいますし、一人暮らしをしている知的障害の方もいます。早い段階から、いろんなサービスを利用し、申請だけでもしてみるなど、相談支援専門員たちと一緒に先のことを考えていく体制をつくるのが一番いいと思います。
障害児(者)は、さまざまなサポートや支援を使いながら生活したほうが安心ですし、先の見通しも持てます。きょうだい児も両親も、それぞれが幸せに生きる権利があることを忘れずに家族の未来を描いていってくださいね」
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エディター、ライター、環境アレルギーアドバイザー。新聞社勤務を経て、女性のライフスタイルや医療、金融、教育、福祉関連の書籍・雑誌・Webサイト記事の編集・執筆を手掛ける。プライベートでは2児の母。