発達障害の子育てで感じる“絶望”の正体とは何なのだろう
わが子が発達障害だと分かった時、最初に抱くのは「なぜ、うちの子が…」「これからどう育てていけばいいんだろう」という絶望を抱く親は少なくありません。誰にも相談できない、わが子の将来が不安。錯綜するさまざまな悩みやつらさと、どう向き合えば良いのでしょうか。15年以上、知育・療育に携わってきた三好恵子さんが届けたいメッセージとは…。
目次
発達障害のわが子に抱く絶望感は、親だからこその気持ち
わが子に発達障害があるかどうかというのは、一般的に1歳くらいまでは分からないことが多いものです。「他の子より発語や発達が遅い気がする」といった違和感から、少しずつ気が付いていきます。
しかし、“違和感”としては受け止めていても小・中学生になるまで気が付かないケースも少なくありません。核家族であったり、第一子であったり、健診などで見逃されたり。また、親自身があまり社交的でなく、情報が少ない場合にも気が付かないということはあるでしょう。
そしてはっきりと診断された時、わが子が発達障害であるという現実に絶望してしまう人は少なくありません。
初めての子育てだったり、共働きであったりすると「これからどのように育てたら良いのか」と悩み、「何がいけなかったのだろう」と親である自分自身にベクトルを向けることで抱く気持ちです。
「子どもが小中高大と進学し、結婚…という普通の幸せが望めないかもしれない」
「このまま仕事を続けられるだろうか」
「周りの子どもたちをうらやましく感じてしまう」
「夫が協力してくれない」
「義両親から浴びせられる発言がつらい」
孤独や不安から、出口の見えないトンネルに入ったかのような気持ちになることでしょう。
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三好恵子さんへの相談ページを見てみるではなぜ、絶望するのか。それは社会との関わりがあり、その子以外の子どもも知っているからです。きょうだいや親戚の子、近所の子、友人の子ども、幼稚園や保育園、小学校、中学校…そんなふうに外の集団や社会に子どもが入った時、多かれ少なかれ比較や競争をしてしまいます。
つまり、絶望というワードの根本にあるのは“比較”や“競争”です。
もちろん、発達障害の有無に関わらず、親というものは多かれ少なかれ他の子と比較をしてしまうもの。なぜなら、そこには“期待”があるからです。学校や塾、習い事の先生も子どもたちに期待はします。けれど、親ほどの期待度合いではないでしょう。
絶望は、親だからこその気持ち。そういう感情を抱いてしまったことで自己嫌悪に陥る人はいますが、子どもを大事に思っているからこその感情です。わが子に心を寄せ、心配している気持ちの表れでもあるのです。
誰にも相談できない、絶望の最中にいるなら…
一方、絶望というワードには“存在否定”も含まれています。「私が親じゃなきゃ良かったかも」「どうしてこんなふうに産んでしまったんだろう」など、絶望を抱くタイプは精神的に追い詰められる傾向が強いため自分にベクトルを向けてしまいます。また、そのベクトルがわが子に向いてしまうこともあるでしょう。
絶望感を抱いてしまう人の多くは、「自分は運が悪い」と思ってしまう自己肯定感の低い状態にあると感じます。目的や目標はあるけれどその過程や周りが見えない、観察力が鈍っている状態です。しかし、そうすると挑戦意欲が湧かずに「どうせ…」とせっかくのチャンスを逃すことにもなってしまうのです。
療育の現場に長くいた私としては、どんな小さな悩みでも相談してほしいという思いがあります。しかし、絶望の真っ只中の暗いトンネルにいる時、誰かに相談するという行動にはなかなか到達しないものです。事実として受け止められない、受け入れたくないという気持ちが強いからです。前に進めない状況に陥っているからこそ、自分やわが子の存在を否定してしまう考えも生じてしまいます。
辛い気持ちや悲しみ、あるいは子育てへの孤独感に苦しんでいるときに是非読んでみてもらいたいのが産婦人科医である池川 明氏の『子どもは親を選んで生まれてくる』という本です。
「このママだったら自分のことをちゃんと分かってくれる、育ててくれる」。赤ちゃんは親を選んで生まれてくるというお話です。子育てに自信がなくなってしまった時、子どもを叱り過ぎた時、子どもへの接し方に悩んだ時…。
悩みや辛い気持ちを和らげる、温かなエッセンスになるはずです。
気付きはチャンス! まずは相談することから考えてみて
子育ては、みんなそれぞれに悩みがあります。私の息子は大学生ですが、それでもまだ心配が尽きません…。「まさか」「何で…」と思う気持ちは、わが子を思う親だからこそ抱くもの。でも、その気持ちのまま立ち止まっていてはずっと苦しいままですよね。
今の日本には、相談できる機関がたくさんあります。その一方で、日本人は誰かに相談するということにハードルを感じてしまう人が多いのも現実。でも、理解してくれる人、相談できる人がいるだけで辛さや不安が和らいだり、進むべき方向が見えてきたりすることもあります。だから、自分だけで悩まずに相談してほしいのです。
相談することで見つけた小さなきっかけは、子育てのヒントになります。心が軽くなります。柔らかくなります。そして、それを積み重ねていくことで大きなきっかけが見つかる可能性が出てきます。
また、子どもの発達障害に早期に気付いたのであればそれはラッキーなことでもあると思うんです。
中には、大人になるまで気付いてもらえない子もいます。また、わが子の発達障害を認めたくない気持ちが強い親は他者にベクトルを向けがちです。わが子が集団生活にうまくなじめなかったりトラブルが起こったりしたときに、学校や先生、友達が悪いと考える傾向もあります。
だから、わが子の特性に気が付いたということは実はとても素晴らしいことでもあるんです。わが子としっかり向き合っているという証です。大人になるまでの間に訓練やトレーニングといった療育を行うこともできますし、絶望という気持ちの中にある“将来への不安”を前向きな視点に切り替えることができると思うのです。
絶望という気持ちから一歩進み、現実として受け入れることができると周りに相談しやすくなりますし、周りから助けてもらえることも増えます。そうすると、いろいろな情報が入ってくるようにもなりますし、同じ悩みを持つ親同士の交流も生まれます。私の元に来てくれるお父さんお母さんも、紹介での来所ということが多いんですよ。
自分一人で何とかしようと頑張らなくて大丈夫! 自分の思いを発信することで、良い循環が生まれます。
誰かに相談し、共有することでその子にとって大切な環境、仲間、先生に必ず出会うことができますから。
どの親子にも「いいね」は必ずあるから
もちろん、一歩進んだからといって悩みが解消するわけではありません。悩みの内容も千差万別。先述したように次のステージに期待や希望を見出すため、子育て中に悩みが尽きることはありません。でも、これはどんな親でも心当たりがあるものです。
相談者の中に、夫の転勤で海外移住することになった親子がいました。発達障害があることから、子どもの通える学校を見つけるのに大変苦労はしましたが今では多様性に対応してくれる学校も見つかり、とても充実した時間を過ごしています。当初、お母さんは「日本語も上手に使えないわが子が、海外で生活ができるのか」と心配していました。
発達障害を持つ子どもを連れての海外生活は、大変な部分が少なくないでしょう。でも、見方を変えると子どもの間に海外で生活ができるのは貴重な経験です。誰もができる経験ではないし、海外移住したくてもできない人も多いですよね。
どんなに悩みがないように見える親でも、周りからは分からない悩みはあります。逆に、周囲の人たちが「いいな」と感じる部分はどの親子も持っているはず。
他者比較をすると、落ち込むことは絶対にあります。期待や希望があるから「〇〇ができたから、次は△△までできるようになってほしい」と思い、それができないと絶望してしまいます。
けれど、永遠にトップで走り続けることはどんな人でも不可能ではないでしょうか。だから、まずはわが子だけの成長を見るように意識してみませんか?
一回乗り越えて、それで終わりじゃないのが子育て。これは、自分の人生にも当てはまるものではないでしょうか。高校に合格しても、次は大学受験。大学に合格したら次は就職活動…。どんな人生にも、山あり谷あり。
例えば、毎日おいしいフルコースを食べてたら飽きてきますよね。毎日、普通の家庭食を食べてるからこそおいしいと感じる。「おいしかったから、また今度行けるように頑張ろうね」と思えるんです。ずっとご褒美だけだったら、当たり前になってしまってご褒美になりませんから。
一つの変化に、一つのご褒美。わが子が一つ成長したら褒め、自分も褒めてあげましょう。周りと同じようにとか、「〇〇ができたら、△△もできてほしい」と焦らなくても大丈夫。“平均”にする必要はないんです。
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三好恵子さんへの相談ページを見てみる親には他の誰にも負けない子どもを見る目、観察力があります。わが子と関わる積み重ねで、必ず良い方向に進んでいきます。
成功と幸せは違うもの。成功しても気持ちが満たされていなければ幸せではありませんよね。「わが子に願うのは成功か、幸せか」。ほとんどの親は、“幸せ”を願うのではないでしょうか。オールマイティだったり平均的だったりということが、幸せにつながるとは限りません。
ゆっくりでも一歩ずつ進むことで、わが子の成長に対する他者比較をせずオンリーワンで見守れるようになります。
まずは誰かに自分の気持ちを話してみませんか? 専門家に相談することにまだハードルを感じるなら家族、友人でもいいんです。誰かに話を聞いてもらうことで、肩の荷が少し下りるかもしれません。「この子の親に選ばれた」という自信、楽しむ気持ちを持ってくださいね。
<取材・執筆 ソクラテスのたまご編集部>
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岩手県出身。大学卒業後、ゲーム会社で広報宣伝職を経験した後、ママ向け雑誌やブライダル誌を手掛ける編プロに所属。現在はフリーランスのエディター&ライターとして活動中。一人息子の中学受験で気持ちに全く余裕がない中、唯一の癒しとなっているのが愛犬と過ごす時間です。