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2022.02.25

小中学生の自傷行為|リストカットする子どもの心理や悪化させない親の対応を専門家がアドバイス

わが子がリストカットなどの自傷行為をしている…。その事実を知った保護者は驚きと悲しみに襲われることでしょう。それが小学生となれば、ショックはさらに大きいはず。子どもの自傷行為との向き合い方について養護教諭・公認心理師として自傷行為をする子どもたちと向き合ってきた高橋智世さんが解説します。

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話を伺ったのは…

高橋智世さん

株式会社ココロの保健室代表取締役、公認心理師、健康経営アドバイザー。大学在学中にベトナムで孤児院運営活動に携わり、その後、専門性を深めるために心と体の健康教育についての学んだ後、家庭教師・塾講師・個別指導塾の教室長を経て、養護教諭として6年間勤務。2019年より個人事業として「出前保健室」というスタイルで心の健康教育を始める。

子どもの自傷行為とは

自傷行為というとリストカットや自殺未遂というイメージがある人もいるかもしれませんが、自傷行為と自殺未遂はイコールではありません。

公認心理師の高橋智世さんは、「これまで自傷行為をする子どもたちと関わってきましたが、ほとんどの子が死にたくて行っているわけではありません」と話します。

自傷行為といわれている行為には、リストカットのように体を切って傷つける行為以外にも下記のような行為があります。

  • 自分の髪の毛をむしる、抜く
  • 壁に頭を打ち付ける
  • 自分の顔を殴る
  • ドライヤーやライターで髪、皮膚を焼く
  • 腕を壁にぶつける
  • 手や重い物で足を叩く
  • 自分の首を絞める
  • かさぶたを強引にはがす
  • 体を噛む
  • 皮膚をほじくってめくる

いかがでしょう?

自傷行為の中には死とは直結して考えにくい行為もあることが分かります。

「血を出したら優しくしてもらえるという成功体験を求めて、何度も同じ部分から出血をして保健室にやってくるという子もいます。何を求めているのかは一人一人違うので、『自傷行為は〇〇のためにするもの』という決めつけはしないようにしています」(高橋さん、以下略)

自傷行為をする子どもの心理

では、なぜ子ども達は自傷行為をするのでしょうか。高橋さんが出会ってきた子どもたちには、大きく分けて2つのパターンがあったそうです。

【自傷行為の理由①】安心感や生きてる実感を得るため

ひとつめのパターンは、気づいたら体を傷つける行為をしていたという子どもたちです。

「寂しくて、苦しくて、何も感じられなくなって生きている感覚がもてないとき、自分を傷つけて”痛み”を感じて”生きている”実感を取り戻そうとするのです。心の中のつらさや苦しさに比べれば、体の痛みのほうが軽いため、『痛くてやめる』ことはありません。

また、自傷行為をすると脳内麻酔といわれるようなホルモンが分泌されるので、自分を傷つけた後は、安心感を得られて気持ちが落ち着くため、繰り返してしまうのです」

【自傷行為の理由②】生きていくバランスを取るため

ふたつめのパターンは、学校へ行くための対処法として自傷行為をする子どもたちです。

「自傷行為も自殺もしてはいけないことだと分かっているものの、心のバランスを取るために行うのです。度合いは違いますが、ストレスを抱えた大人が意識がなくなるまでお酒を飲むことに似ています。

例えば、翌日も学校へ行くためなど、しなければならないことをするために自傷行為をする状態になっています。中高生の自傷行為に多いですね」

どちらのパターンも、意識は“死”ではなく“生”に向けて行われていることが共通しています。

明日もがんばるため、今の苦しみやつらさから抜け出すために自傷行為をしています。本人にとっては前向きな行動だからこそ、なかなか1人でやめることは難しい思います」

子どもの自傷行為は保健室では日常的

また、「自傷行為をしている子は大人が思っているよりも多い印象」と高橋さんは続けます。

「養護教員が集まって話すと、小学校でも中学校でも、”子どもの自傷行為は、日常的にあるもの“という認識をみんなもっています。最近は、SNSやYouTubeの自傷行為チャンネルの影響でより気軽なものになりつつあるかもしれませんが、子どもの自傷行為は昔から身近にありました」

SNSの影響とは、例えば、ひとりの子がLINEグループで「私、つらいときに〇〇をしたら気持ちがラクになったよ」という情報を流したら、ほかの子も「へぇ、そうなの?」と試すことがあるそう。

「表面的には、『ずいぶん気軽に怖いことをするのね』と思うかもしれませんが、言葉にできないつらさを抱えていて、どうしていいか分からないときに、友達やYouTubeで『自傷行為をすると楽になれる』という情報が出てきたら試してしまうのです」

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自傷行為が自殺につながる統計もある

自傷行為は自殺するためではないとのことですが、一方で、自傷行為が自殺につながりやすいという説もあります。

児童精神科医の坂野真里さんによると、「子どものこころの分野では世界的に有名な『ALSPAC』によると、1990年代に出生した1万5千人以上を追跡調査したところ、自傷行為を1度もしたことがない子どもに比べ、自傷行為をしたことがある子どもは”希死念慮の頻度”が4.8倍高く、”自殺の計画を立てたことがある子ども”が12.4倍多い(※1)とされています。

また、別の調査では、意図的な自傷行為後の自殺率は、0.24%~4.30%で、自傷行為のない一般的な人口と比較して少なくとも10倍高い(※2)とされています」

<中学生の自殺についての記事はこちら>
もし中学生のわが子が「死にたい」と感じていたら?親ができることを精神科医が解説

高橋さんは、自傷行為と自殺の関係について次のように話します。

「対処法を自傷行為しか知らないまま、つらい気持ちを溜め続けていた場合、体の痛みには慣れていき、『もっと深く、もっと痛く』という欲求がわいてきて、命に危険が及ぶ傷になる場合があります。

また、何年も自傷行為を続けていても『自傷行為では楽になれないな』と思ったとき、『自殺をする以外に方法が無い』と思って命を絶つ選択をしてしまう子もいることでしょう」

※1:Kidger, Judi, et al. “Adolescent self-harm and suicidal thoughts in the ALSPAC cohort: a self-report survey in England.” BMC psychiatry 12.1 (2012): 1-12.
※2:Hawton, Keith, and Anthony James. “Suicide and deliberate self harm in young people.” Bmj 330.7496 (2005): 891-894.

自傷行為を知った親の対応とは

子どもが自傷行為をしていることを知ったとき、親はどのような対応をすればよいのでしょうか?

【対応①】伝えるのは「大好き」という言葉で十分

自傷行為を知る方法は、傷を見てしまったとき、子どもの見せられたとき、学校からの連絡で知ったときなど、さまざまなケースが考えられますが、伝えるのは「大好きだよ」という思いだけにして欲しいと高橋さんは言います。

「言葉にするのが不自然なのであれば、行動で示すだけでもいいので『大好きだよ』という気持ちを伝えてください。具体的には、隣りに座って背中をさするだけでもいいです。大切に思っているという気持ちを伝えることや、話を聞く姿勢があることを示すことから始めてください」

【対応②】傷の手当は本人に聞いてから

外傷がある場合、きちんと手当ができていないと悪化する場合もあるので、傷の手当は必要です。しかし、「勝手に手を出すのではなく、子どもに選ばせてあげて意思を尊重したほうがいい」と高橋さん。

「悪化させないための手段として『自分で手当をするなら、こういう方法があるよ』『お母さんが手当をしていいなら、いつしたらいい?』と提案してみるのはどうでしょう」

【対応③】行為ではなく背景に目を向けよう

「不登校や摂食障害でもそうですが、行為に目が向いてしまうと、『行為を改善しよう』ということに意識が集中してしまいます。ですが、大事なのは『行為に至るまでの背景に目を向けること』です。『自傷行為をしなければならなかった子どもの心のサポートはできないか』という方向へ意識を変えてください」

自傷行為の場合は、つらさや苦しさ、不安を表現したり、出したりすることが苦手な子が多いので、感情の出し方に目を向けるのもいいそうです。

【対応④】専門家に相談をする

親がよかれと思ってしていることと子どもが求めていることが合っていない場合もあります。

「一度、専門家にこれまでしてきた声掛けや、親自身が大切って思っていることについて話をして客観的なアドバイスをもらうのもよいでしょう。『こういう場面では、こういう方法もありますよ』と、関わり方を違うスタイルに変えるようなアドバイスをしてくれることでしょう」

専門家のアドバイスを受けながら、いつもと違うアプローチを試したとき、子どもの反応を見れば、合っているかどうかは分かるそう。

「子どもは心の発達具合が日々変わっていくので。これまでは問題なかった声のかけ方も、少し変えた方がいいケースもあります。子どもの反応を見て、『変えた方が良いかな。相談した方が良いかな』と感じたことを相談していくと、いいアドバイスがもらいやすくなると思います」

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状況を悪化させるNGな親の対応

親としてはよかれと思ってする行為が、状況を悪化させてしまう場合もあります。

【NGな対応①】先走った声掛けをする

「どうしてそんなことをしたの?」「何があったの?」と、いろいろと聞きたくなるかもしれませんが、子どもを追い詰めるだけなのでやめましょう。大人は、自傷行為の原因を特定させたくなりますが、何が原因かということは本人すら分からないケースも多いですよ。

また、「大丈夫?」という言葉もNGワードです。「大丈夫?」と聞かれたら、子どもは「大丈夫」と答えるしかありえません。自分の気持ちを余計に話せなくなってしまいます。

【NGな対応②】アドバイスをする

子どもの気持ちを勝手に決めつけてジャッジすることや、アドバイスをすることはやめましょう。

「周囲からのアドバイスが、子どもには負担になる場合があります。『こうしたら良いんじゃない』『次はこうしてみようか』ということを考えるのは、自傷行為が落ち着いた後の段階の話です。まずは、愛を伝えて安心してもらうということに時間をかけてください」

【NGな対応③】勝手にジャッジをする

教育熱心で情報収集も怠らない人ほど、解決のために動きたくなりますが、勝手なジャッジはNGです。下記のようなことに気を付けましょう。

  • 結論を飛躍させない
    「思春期外来に連れて行かなければいけない」など、結論を先に決めてしまうのはやめましょう。
  • べき思考をやめる
    「自傷行為をやめさせなければ、この子は幸せになれない」「薬を飲まなれば治らない」など、「〇〇なときは〇〇すべき」という教科書のようなフォーマットを刷り込まれてしまう人もいますが、それぞれ事情も性格も違う中、万能な対応はありません。

    目の前の子どもが、どんな表情をしていて、何を求めているかということを観察し、子どもの思いを受け取ることにエネルギーを使いましょう。
  • 否定的な思い込みをしない
    子どもさんの”今の状況”だけを見て、「このままだったら、自殺するんじゃないか」など、ネガティブな思い込みをしてしまうこともありますが、子どもの将来のことは誰にも分かりません。先のことを考えるのは一旦止めましょう。

【NGな対応④】子どもの行動に反応する

「自傷行為をしたときは悲しむ、しなかった日はほめるというような、子どもの行為に良い悪いで反応をすると、罪悪感を感じて悪化させてしまう可能性があります。なかなか難しいですが、『どっちのあなたも大好きだよ』というスタンスで接するように心がけてください」

自傷行為をやめた家庭がしたこと

高橋さんがこれまで見てきた自傷行為をやめたケースでは、下記のようなことをしていたようです。

親子で感情を出す練習をした

前述の通り、自傷行為をする子どもは感情や気持ちを外に出すことが苦手な傾向があるので、溜め込んだ感情の吐き出し方を別の方法に移行させるのは有効そうです。

「自傷行為をしている子の中には、苦しさや不安を外に出すことはいけないことだと思っている子もいます。わざとらしく『苦しいときや不安なときはこうしているんだよ』と伝えるのではなく、ひとりごとを言うようなさりげないイメージで感情の出し方を見せてあげられたらいいですね。

私は、粘土で自分の気持ちの形を作ってみるなどをします。自傷行為の対応とは直接的に気付かれないことで気持ちをアウトプットする方法を一緒に体験することが気持ちを外に出すことに繋がります」

ただし、効果があるのは、自傷行為が習慣になっていない段階の子に対してなのだそう。自傷行為をした後のスッキリ感や安心感を脳が覚えてしまっていて、クセになってしまっている子に対しては、専門家の定期的な支援が必要です。

自傷行為を別の行動に移行させた

自傷行為は、自傷行為で埋めていたものを別の行動で埋めることが改善へとつながります。

「私が関わってきた子の中には、介護の仕事体験に行き、おじいさんやおばあさんから『ありがとう』と言われたり、人から頼られたりしたことがきっかけに自傷行為をやめられた子がいました。すごくうれしかったようで、お手伝いをする時間を増やしていくと、自然に『もうやりたくなくなった』そうです」

その子に合った行動をするには、その子が自傷行為をするようになった背景を見る必要があり、子どもの心理の知識があったり、経験が多い専門家の力を借りたほうがよさそうです。

「例えば、前述の子は『自分は存在してても意味が無い』という気持ちから自傷行為をした子でした。だから『存在してもいいんだ』『必要とされているんだ』ということが分かったことで自傷行為が必要なくなりました

親の気持ちを安定させることも大切

どうしても子どもに対するケアばかりに目がいきがちですが、周囲の大人が自分自身をケアすることも大切です。

親が心のバランスを常に保っていることが、子ども達の行動を変えていくことに繋がります

保護者が自分のメンタルを保つためにカウンセリングを受けることも結果的に自傷行為を改善していくことにつながります。

「すぐに改善しなくても、長い目で子どもの変化を見守っていくためにも、親の心の健康やゆとりがとても大切です」

自傷行為を自分のせいと思わないで

中には、自分の子育てのせいで子どもが自傷行為をしているのではないかと自分を責めている保護者もいるかもしれません。

「何をつらい、苦しいと思うかは、子どもによって違います。なので、親が原因かどうかということは一概にはいえません。例えば、『お母さんは私のことを一生懸命に考えてくれて、いつも応援してくれている』という親子関係の場合、だから安心して過ごしている子がいれば、『愛情をくれて、応援してくれているのに私は出来ないことが多いからつらい』というパターンの自傷行為もあります。

愛情の表現方法も受け取り方も、一人ずつ違います。親と子のどっちが悪いという話ではなく、たまたまかみ合わなかったという認識でいいと思います」

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子どもの人生は子ども自身のもの

例えば、「リストカットの跡が体にある」「いつか本当に自殺をしてしまうのではないか」と、自傷行為が子どもの将来に影響を与えないか心配になることでしょう。高橋さんはその気持ちを理解しつつ、「子どもの未来は誰にも分からない」と話します。

「わが子の将来を考えて、不安を先取りしてしまうと思いますが、自傷行為は一生懸命生きようとしてる証です。今、目の前にいるわが子のことを受け止めることに集中してあげてください。もし今、目を逸らしてしまうと、もっと大きなことに繋がるかもしれません。今は医療も進んでいるので、子どもが大人になったときに体の傷跡は消せるかもしれません」

また、高橋さんが出会ってきた子の中には、あえて傷跡を消したくないという子もいるそう。

「『自分が乗り越えてきた証を残したい』という子がいれば、傷跡を次の世代の子どもたちに見せることで、『私はこういう子をなくしたい』と活動している子もいます。子ども自身の意志で『消したい』と思ったときに、一緒に病院を探すなど、全力で協力してあげてください」

ただし、保護者の心配する気持ちを否定したり、押し込めたりする必要はありません。

「カウンセラーは話を聞くための存在です。ぜひ、不安や心配を話せる場所にして頂きつつ、子どもの前では堂々としていてください。子どもの人生は長く、これから大人の想像の何倍も成長していきます。大人が心配するよりも何倍も、いい人生を送ると信じて見守っていきましょう」

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浜田彩

エディター、ライター、環境アレルギーアドバイザー。新聞社勤務を経て、女性のライフスタイルや医療、金融、教育、福祉関連の書籍・雑誌・Webサイト記事の編集・執筆を手掛ける。プライベートでは2児の母。

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