探究学習とは?取り組み内容や目的、テーマ事例を紹介します
「探究学習」は新学習指導要領にもとづき、小学校では2020年、中学校では2021年から「総合的な学習の時間」として、高校では2022年から「総合的な探究の時間」として進められている取り組みです。
この記事では、探究学習の目標や授業の進め方、テーマ事例とともに、現場で教員が感じている課題についても解説します。
目次
探究学習とは?位置づけや目標
小中高校の探究学習の位置づけ
今は、情報化・グローバル化などにより、新しい価値観が次々に創造される変化が激しい社会です。この社会の中で生き抜くためにも、受け身ではなく主体的に動き、未来を切り開く力が求められています。
探究学習とは、このような力を育成する、探究の見方・考え方を働かせる総合的、横断的な学習のことです。
探究学習を行う時間は小学校、中学校では「総合的な学習の時間」、高等学校では「総合的な探究の時間」と呼ばれています。
探究学習は新学習指導要領に基づき全国でスタートしたものです。小学校では2020年から、中学校では2021年から、高等学校では2022年からと段階的に全国で導入されました。
探究学習の目標
自分の生き方を考えながら課題発見・課題解決していく、つまり未来を生きる力を育成することが探究学習の目標になります。
探究学習の目標である課題解決力等の育成したい力を具体化したものが、次の3つです。
- 学びに向かう力、人間性等
- 知識及び技能
- 思考力、判断力、表現力等
探究学習では、自分で学ぶ情報を取捨選択したり、学んだ知識を他者と対話で共有し、協働で探究していきます。また自分の学んだ知識が実際の社会でどのように役立つのかを考えることも大事になります。
このような従来の方法とは異なるアプローチで、生きる力を育てていくことが探究学習の目標となります。
探究学習を進めるときの4つの過程
探究学習には4つの過程があります。
これは、単に知識を獲得するためのプロセスが4段階あるという意味ではありません。探究学習では自主的に課題を発見し、主体的に取り組んでいくというプロセスが重視されており、過程自体が学びであるといえます。
なお、ここで紹介する4つのプロセスは必ずしもこの進め方で行われる必要はありません。複数の段階が同時に行われるような進め方もありえます。
1.課題の設定
探究学習に最も重要なプロセスと言われるのが、課題の設定です。
小学校や中学校で行われる総合的な学習の時間では、教師の指導を受けつつ課題を選択、解決していく中で生徒が自身の生き方を考えていくという進め方が主流になっています。
一方、高等学校における探究学習では、課題設定の際に生徒自身の在り方、生き方から生まれてくる課題を見つけ、選択することが期待されています。
例えば、体験学習の中で生徒自身が気づいた環境問題に焦点を当てたり、シュミレーションを通して発見した課題に対する取り組みを行ったりします。
といっても、探究学習に先生側の支援の取り組みが全く必要ないわけではありません。
先生には生徒の未来像を憧れの職業、未来への不安、理想の社会など具体的な形にし、現実とどのようにずれがあるかを顕在化させる支援の役割が求められます。現実と未来像のずれは、課題設定(どうすれば課題解決できるのか)のための大きなポイントになるからです。
2.情報の収集
このプロセスでは、課題解決のために必要な情報を収集します。情報収集の仕方は多岐にわたります。例えば、次のような情報収集方法が考えられます。
情報収集の方法の例
- 図書館での調査
- インターネットを使った調査
- アンケート調査
- インタビュー(現地、リモート)
- 電話調査
- 手紙での問い合わせ
このプロセスでは、収集の仕方によって蓄積できる情報や蓄積方法にも違いがあることを認識するのがポイントです。
例えば、図書館やインターネットを使って検索することは、効率的に幅広い文字情報を集められる一方、誰かが調べ加工した二次情報しか手に入らないという面もあります。一方でインタビューや電話調査の取り組みは、時間がかかるものの、当事者の実際の声を音声形式で集められます。
このプロセスで教科ごとに学んだ知識を活かすこともできます。実験・研究の際には理科、手紙やアンケート作成には国語の知識が役に立つでしょう。結果、横断的な学習を深めることにもつながります。
3.整理・分析
このプロセスでは、生徒は整理、分析に取り組みます。
整理・分析の際には、課題の内容にあった手法を選ぶ必要があります。
ヒントになるのが「中学校学習指導要領(平成 29 年告示)」に登場する「考えるための技法」です。
- 順序付ける
- 比較する
- 分類する
- 関連付ける
- 多面的に見る・多角的に見る
- 理由付ける(原因や根拠を見付ける)
- 見通す(結果を予想する)
- 具体化する(個別化する,分解する)
- 抽象化する(一般化する,統合する)
- 構造化する
(参照:「中学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説総合的な学習の時間編」)
「考えるための技法」を具体的にするための道具に、思考ツールがあります。例えば、分類するには「ベン図」、関連付けには「コンセプトマップ」が支援ツールとして有効です。
ただ、指導の際は思考ツールを使うことが前提となり、生徒の自由な思考力を妨げてしまうことが無いように注意が必要です。
4.まとめ・表現
最終プロセスでは、整理、分析した結果をまとめ、表現します。
まとめるというと、レポートや論文のようなテキストベースの形式が想像されるかもしれません。もちろんこれもまとめや表現の一種です。
ただし、探究学習ではより多様な形式でまとめ・表現を行うことを考えてもよいでしょう。
例えば、パネルディスカッションを開くことも一つのまとめの形です。パネルディスカッションは、自分自身の取り組みを他者に聞かせるだけでなく、その調査結果について他者から意見を募る場となります。他者と対話し意見交換することで、探究学習の取り組みに対する発表者の認識がより深まり、明確になっていくでしょう。
イベントの実践や、映像作品の作成などもまとめ・表現の一種になります。
なお探究学習では、一つの決まった答えにたどり着くことが目的ではありません。まとめ・表現のプロセスを経た結果、改善が必要な新しい課題を見つけることもあるでしょう。そんなときはまた1から探究学習を始め、学びを深めていきます。
探究学習が生まれた背景とは?
ITの普及、AI(人工知能)の発達、グローバル化の加速…。ほんの数十年の間に新しい技術が創造され、社会は大きく変化し、私たちの生活はどんどん便利になっていきました。
今、私たちが生きるこの時代は「予測困難な社会」といわれています。刻々と変化する社会で生き抜くためには、学生時代の“学び”が重要であることは、誰の目にも明らかでしょう。
文部科学省は、社会の変化にあわせて学習の指導方針となる「学習指導要領」を10年に1度改定しています。直近の改定では、「社会の変化は予測しがたいが、どのような状況にあっても、子どもが自ら考えて、判断して、行動できるように」と、小中高の学習指導要領を大きく変更しました。
このような力は、ただ受け身的に知識や技能を体系的に学ぶだけでは身に付きづらいものです。どのような社会変化に置いても基盤となる力を育成するためには、主体的・意欲的に自分で考える取り組みが非常に重要です。また、教科学習で身に付けた知識を総動員し、実際の生活での課題解決に実践利用していく視点を持つことも必要になります。
探究学習のテーマや事例
では、探究学習のテーマや事例を具体的に見てみましょう。
探究学習のテーマ例
文部科学省は探究学習課題の設定に際し、以下4つの視点を意識することとしています。
- 横断的・総合的な課題(現代的な諸課題)
- 地域や学校の特色に応じた課題
- 生徒の興味・関心に基づく課題
- 職業や自己の進路に関する課題
(引用元:「今、求められる力を高める総合的な探究の時間の展開」P7)
例えば、横断的・総合的な課題の例としては、世界の国々、グローバル化、環境問題(SDGs、エネルギー問題など)に関する探究テーマが考えられます。また情報や科学技術に関するテーマもこの領域に位置します。
地域や学校の特色に応じた課題には、より身近な環境を範囲とするテーマが該当します。地元の伝統文化、商店街を盛り上げるためのイベント企画、防災計画の作成などの取り組みが該当するでしょう。
生徒の興味・関心に基づく課題では、流行や教育、医療など高校生である生徒が当事者として考えやすいテーマが該当します。
また、憧れの職業の社会的意義・役割や責任を考える取り組みは、職業や自己の進路に関する課題となりえます。
高校の探究学習の具体的な事例
宮城県立飯野高校
「地域探究」として、5人グループで活動。地域のために何ができるのかを話し合い、地元の温泉郷の活性化プロジェクトに取り組む。このグループのうち一人は、これをきっかけに地域活動に興味を持ち、温泉のある台湾へ短期留学。地域の魅力をアピールできる方法をさらに模索したいと考え、地域活性化について知見のある大学へ進学した。
東京都世田谷区駒場学園高校
シェフとして働いている卒業生が、在校生に「食育」をテーマに指導。ジビエ肉を生徒にさばいてもらうことで、食や命の大切さを伝える。
学校の先生が感じる探究学習の現状と課題
では、学校の先生は実際に探究学習をどのように感じているのでしょうか。
カンコー学生服は、全国の中学校・高校の先生1,400人を対象に「探求学習の必要性や課題」を調査。この調査結果をもとに、探究学習を実践する現場の考えと課題を解説します。
「必要」と感じる先生は中学校7割、高校6割以上
中学校では、探究学習が「とても必要」「やや必要」と答えた先生が合わせて7割以上、高等学校では6割以上となりました。
どちらの学校でも、探究学習が必要であると答えた先生の割合は半数以上となりました。学校の先生が探究学習を必要と考える理由は何でしょうか。
まず、キャリアや将来への学び、21世紀型スキルの獲得につながるという意見が見られました。生徒の知識・スキル面の伸びが、探究学習の意義としてとらえられています。
また、協働研究によって多角的に学べることを探究学習の必要性の理由としてあげる先生もいました。
これらは探究学習の目標である「急激な社会変化が起きる将来を生きるための力を育成すること」にマッチした回答と言えます。
現場における探究学習の方向性が、学習指導要領が想定していたものと一致していることが伺えるのではないでしょうか。
先生の負担や授業の在り方に課題もある
一方で、この調査からは従来とは違う授業の在り方に課題があることも見えてきます。
例えば、探究学習を「必要ない」とした先生の回答理由には、教員の負担が大きいことがあがっています。
多忙な環境下で、型通りのプログラムに当てはまらない探究学習の教材、計画時間を先生がどう確保していくのかは大きな課題と言えるでしょう。
また、生徒が主体性に取り組まないことや、調べ学習との差別化ができないことを「探究学習が必要ない」という回答理由にあげた先生もいました。
教科書を読んで問題を解く従来の授業に慣れている生徒にとって、主体的に自分で問題を見つけ、調べなさいと言われてもどうしてよいか分からないこともあるでしょう。自分ごととして意欲的に取り組めなければ、単に調べて終わってしまう状態は容易に想像できます。
探究学習の進め方については、教員側、生徒側、双方に課題があります。探究学習むけに開発された支援教材のプログラムを活用する、生徒の意欲を高めるテーマ選びのきっかけ作りなど、今後どのように改善していくのかを考える必要があるでしょう。
大人が社会人になってから後悔したことは…
株式会社新興出版社啓林館は、小学生から中学生の保護者を対象に、「子どもが社会人になるために必要な力」に関する調査を実施。アンケート結果から、「予測困難な社会」で生きる大人たちの後悔や葛藤が明るみになりました。
社会人になって身につけておけばよかったと思うこと
まず、「自分が大人になってから、基礎勉強以外の知識や能力について“もっと早く身につけておけばよかった!”と思った経験はありますか?」という質問に、約8割(79.2%)もの大人が「ある」と回答。
社会の先輩として生きる保護者たち。その大半は、「基礎勉強以外の知識や能力を取得しておけばよかった」と後悔していることがわかりました。
「基礎勉強以外の知識や能力」が具体的に何をあらわすのかというと、語学力・思考力・表現力・行動力・判断力など。
「仕事で外国人と接する場面があり、英語が話せればと思った(50代/女性/東京都)」「仕事でのプレゼンテーションに苦労したから(50代/男性/福岡県)」など、語学面や論理的に思考すること、表現力を身につけることの大切さを実感しているという声が多く見られました。
自分の子どもに学んでほしいこと
そんな自らの反省を経て、自分の子どもには「身につけてほしいことがある」のでしょう。
続く、「知識以外で子どもたちに身につけてほしい力や学ばせたいことはありますか?」という質問には、8割以上の方が自身の子どもたちに身につけてほしい力や学ばせたいことが「ある」と答えています。
子どもが社会人になるために必要な力とは
それでは、今を生きる保護者たちが思う「子どもが社会人になるために必要な力」とは、一体なんなのでしょう?
「子どもたちに教えたい、これからの社会人に必要だと思うことは何ですか?(上位3つまで)」の回答を見ると、半数以上(56.2%)が「コミュニケーション力」と答えていました。次いで「自分の意見を持てる力」(35.5%)、「自分の意見を人に伝えられる力」(33.5%)が続いています。
今は高度な計算も事務処理も、ボタンひとつで機械に任せられるような時代です。そのため学力よりも、人との触れ合いや自分なりの意見を持つこと・伝えられることに重きを置いている保護者が多いことが分かります。
また、「新しいことに挑戦する力」(27.5%)や「新しいアイデアを生み出せる力」(25.8%)が必要だと感じる保護者も少なくありません。
小中高校の「学習指導要領」改定のポイントとは?
「予測困難な社会」を生きる子どもたち。どのような社会にも適応できる大人になれるよう、文部科学省が学習指導要領の内容を大きく変更したことは前述の通りです。
この新学習指導要領は、アンケートで分かった「大人たちが社会を生きる上で必要な力」が身に付くものなのでしょうか? 小中高校、それぞれの改定ポイントを見ていきましょう。
小学校の新学習指導要領の改訂内容
2020年度から実施されている小学校の新学習指導要領の主な改定ポイントは、「英語」「プログラミング教育」「道徳」です。
- 英語:小学3年生より授業に導入
- プログラミング教育:すべての学校で必修化。論理的思考を養う
- 道徳:「道徳科」として正式な教科に。自分の価値、他人の価値を知ることでいじめや自殺撲滅を図る
中学校の新学習指導要領の改訂内容
2021年度から実施されている中学校の新学習指導要領の主な改定ポイントは、「英語」「プログラミング教育」です。
- 英語:コミュニケーション能力を養い、他国の文化への理解を深める
- プログラミング教育:プログラミングを使った問題解決やネットワークの活用法について学ぶ
高校の新学習指導要領の改訂内容
2022年度に新しく実施される高校の新学習指導要領の主な改定ポイントは、「主催者教育」「消費者教育」「学びの方法」です。
- 主催者教育:「公共」という科目が導入される(代わりに「現代社会」が廃止)。ペアやグループでの活動を通して、社会に対して積極的に関われるようにする
- 消費者教育:消費者契約の大切さや権利などを学習
- 学びの方法:ディベートやディスカッションを通して、コミュニケーション能力の獲得を目指す
答えのない問題に向き合うための「親の心得」
予測困難な社会において、答えがないことや、答えがいくつもあることは珍しくないでしょう。
そんな時に大切なのは、子どもが何かを質問してきたとき、「わからない」で終わらせないことです。
「私もわからないな。よし、一緒に調べてみようか!」と親子一丸になって楽しむ姿勢でいれば、日常生活が学習の場に早変わりします。時には難しいテーマもあるかもしれませんが、お子さんの知的好奇心を大事にしてあげたいですね。
学習指導要領改訂により、小中高の学習内容が大きく変わりました。自主性・主体性を大事にした教育で、これからの社会に必要な力を伸ばす学習が行われるようになります。
予測不能な社会を生き抜くために、大きな変革を迎えた“教育”。新しい学習内容を参考に、ご家庭でも未来のための働きかけをしてみてくださいね。
<参考資料>
・文部科学省「今、求められる力を高める総合的な探究の時間の展開」
・政府広報オンライン「2020年度、子供の学びが進化します!新しい学習指導要領、スタート!」
・大分市立竹中中学校「たけしか」
・文部科学省「小学校プログラミング教育に関する概要資料」
・Education Career「徹底解説!学習指導要領「生きる力」の内容と改訂のポイント」
・一般社団法人Fora「今さら聞けない!探究学習ってなに?考え方、目的、メリット」
・コエテコ「高校から始まる探究学習って何のこと?特徴や学習内容を徹底解説!」
・みらいい「【小学校で探究学習は始まっている!】3つの小学校と2つの民間の企業を紹介!」
・VIEW2 高校版 臨時増刊号 2020「予測困難な社会を生きる力を育む 探究学習 一歩前へ」
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