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2021.12.28

レジリエンス教育でメンタルが弱い子どもの立ち直り力を育てよう

小さなことに凹み、臆病になっているわが子。「学校でやっていける?」「今後の人生は大丈夫?」と不安になりますよね。そこで注目なのが「子どもが立ち直る力を育てる」レジリエンス教育です。不登校支援の専門家である関野亜沙美さんが解説します。

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話を伺ったのは…

関野亜沙美さん

約10年にわたり学校教育に携わり、不登校・発達に悩む生徒、保護者の方の相談を1,000件以上担当。受け持った子どもの約8割が大学進学したなどの実績がある。これまでの知識と経験を活かし、生徒・保護者だけでなく、教育関係者向けのアドバイザーとして活躍中。

メンタルが弱い子の特徴とは

自分の意見を言えなかったり、「僕(私)には無理だよ」「もうやめたい」などネガティブなことを言ったりするわが子に「うちの子はメンタルが弱過ぎるんじゃないか」と心配になってしまうこともありますよね。

ですが、学校生活に悩む子供たちと向き合ってきた関野亜沙美さんは、「メンタルが弱いことやネガティブな感情は悪いことじゃない」と話します。

「ネガティブな感情なんて、できれば無い方が良いという印象を持つ人の方が多いかもしれません。しかし、実は、ネガティブな感情は我々人間が生きていく上で必要で大切な感情なのです。

例えば、『怖い』という感情がなければ、逃げることはできません。『不安』があるからこそ、危機対策や準備をすることができます。『怒り』を感じるから戦うことができ、『落ち込む』ことは、体を休めようとする心のサインなのです。

ネガティブな感情は、生存本能からくるものだからこそ、感じやすいようになっているのですが、ネガティブ感情の性質でやっかいなのは、頭にこびりつきやすく、ときに沼にはまってしまい、なかなか抜け出せない状態なか陥る傾向があるということです。」

さらに、「そのように子どもがネガティブな考え方の沼にはまることは自然なこと」と関野さんは続けます。

「大人なら困難を感じる出来事があっても、これまでの経験値を基に『前向きに考えよう』と捉え方を変えることができると思うんです。ですが、子どもにはその経験値も経験以上の視野の広さや多角的視点をもつことは難しいですよね。仕方がないことなんです」

ネガティブ思考の子の7つのタイプ

さらに、関野さんによるとネガティブ沼にハマりやすい子には7つのタイプがあるといいます。

【タイプ①】非難タイプ

他人に対して怒りや不満を抱きやすいしまうタイプ。「うまくいかないのは〇〇のせい」「自分は悪くない」と頑固で意見をなかなか変えられない。

【タイプ②】正義タイプ

正しいか正しくないか白黒はっきりつけたいタイプ。「あんなことすべきではない」「間違っている」と感じると怒りや不満を感じやすくなってしまう。

【タイプ③】敗北感タイプ

他人と比較して、自分はみんなより劣っていると思い込んでいるタイプ。常に敗北感や劣等感、憂鬱感を抱いている。「不登校傾向の子ども達にはこのタイプが多い印象です。『自分なんか役に立たない』『何をやってもダメに決まってる』という思いが強くこびりついてしまっています」(関野さん)

【タイプ④】心配タイプ

「きっと悪いことになるに違いない」「ああなったらどうしよう」と先読みをして不安、緊張、恐れを感じてしまうタイプ。起こってもいないことに対して心配し過ぎてしまい、不安を感じている。

【タイプ⑤】諦めタイプ

「自分にできるわけない」「どうせうまくいかない」と、問題に対して無力感や脱力感を感じて動けなくなってしまうタイプ。

【タイプ⑥】罪悪感タイプ

繊細な子に多く、何か起きると「きっと自分が悪いんだ」「その失敗は私のせいだ」と自分を責めてしまうタイプ。罪悪感や不安や焦りを抱きやすい。

【タイプ⑦】無関心タイプ

「別に」「興味ない」「どっちでもいい」と、今のことだけよければいいやと思い、将来や問題に対して無関心で、そのうち解決されるだろうと目をそむけているタイプ。

ネガティブ沼にハマりやすい子は、上記7つのいずれかに当てはまるそう。どれかひとつというわけではなく、いろんなものに当てはまっている子もいます

子どもの発言や態度から、子どものネガティブ傾向が分かったら、その捉え方をどう変えていくかを考えてみましょう。

「前述の通り、ネガティブな感情は子どもが本能的に自分を守ろうとしていることの表れでもあります。真逆の捉え方に変えようとするのではなく、子どもの捉え方も一部に受け入れつつ、ポジティブな変換ができていくような促しがいいですね」

子どもの心を強くするレジリエンス教育

子ども自身の感情を受け入れつつ捉え方を変えていくために、現在、高校で不登校の支援を行っている関野さんが実践しているの”レジリエンス教育”です。

レジリエンス教育とは

レジリエンスとは、大きなストレスや逆境、困難から立ち直る力のことで、誰もがもっている力です。レジリエンス教育は、このレジリエンスを鍛え、困難な状況に陥ったときでも自分を奮い立たせ、立ち直れるように育てていくことです。

レジリエンス教育は、日本ではまだなじみのない言葉かもしれませんが、子どもの立ち直る力を鍛える教育は、海外では積極的に取り入れられています。

レジリエンス教育で立て直し力を育む

レジリエンス教育のひとつが、子どもの視野を広げて、ネガティブにしか捉えられなかった物事に出合ったときも前向きになれるような考え方を増やしてあげることです。

「ネガティブな感情は捉え方が決めるといわれています。例えば、数学が苦手な子が先生から『明日数学のテストをします』と言われたとき、『いやだな』『どうせできない』というネガティブな捉え方をしてしまうと、憂鬱感や不安で何も手につかなくなってしまい、テストでもいい結果が残せません

つまり、自分にとってネガティブな状況が起こったときに、そのままネガティブなこととして捉えてしまうと、その後の行動も結果もネガティブになってしまいます。

「ですが、もしテストがあると聞いたときに『苦手だけど、できる所だけやってみようかな』という捉え方をしたら、不安や憂鬱だけでなく前向きな意欲も生まれると思いませんか? 前向きな意欲をもって勉強やテストに取り組めば、実力以上の結果は出なくても1日分努力した結果がプラスに働くはずです。つまり、置かれた状況は同じなのに、捉え方によって感情も行動結果も変わっていくのです」

しかし、もともとネガティブ思考のある子は、なかなか捉え方を変えることはできませんよね。

「本人がネガティブな捉え方をしてしまっているのであれば、保護者が大人の広い視野で別の視点を助言をしてあげてください。これが家庭でできるレジリエンス教育です。

例えば、もしテストに向けてがんばったにも関わらず点数が悪かったとします。本人が『やっぱり私はダメだ』と言っていても、『ちゃんと苦手なことから逃げなかったのは、すごくいいと思うな』と声をかけて、『今回失敗してしまったし、次もきっと私にはできないだろう』と思わず、次に向けて前を向けるように過程を認めてあげることが心を鍛えるひとつ(レジリエンス教育)です」

レジリエンス教育を用いれば、失敗したことがあっても、声のかけかたひとつで、今後に生かせる経験(学習)になすることができそうです。

メンタルが弱い子を変える声掛け例

ほかにも、レジリエンス教育を意識した声かけにはどんなものがあるのか関野さんに教えてもらいました。

【ケース①】「学校へ行きたくない」と言われたら…

「教えてくれてありがとう」

捉え方を変える声がけも、親子の信頼関係があってからのこそ。言われた保護者自身にも不安や焦りがあると思いますが、まずは「学校へ行きたくない」という不安を伝えてくれた勇気を認めてあげましょう

【ケース②】「〇〇なんて、きっとできない」と挑戦をしないとき…

「まずは〇〇から始めてみたらどうだろう?」

押し付けではなく、提案という形で子ども自身が「それならできるかも」と思える目標を設定してうまくいくことを経験させてあげ、子どもを無力感から引き上げてあげましょう。

【ケース③】失敗をして落ち込んでいるとき…

「くやしいね。でもよくがんばったね」

くやしい、悲しいという本人の気持ちを受け止めつつ、がんばった過程を認めてあげましょう。

【ケース④】自信を失っているとき…

「あなたってやさしいところがあるよね」

性格的によいところをほめて自分自身のよさを伝えてあげましょう。

一つ一つの声掛けで劇的に子どもの考え方が変わるわけではありません。ですが、レジリエンス教育を意識した声掛けを日常的に行っていくことで、子どもには前向きな力が少しずつ育まれていくかもしれません。

子どものメンタルを強くするトレーニング

さらに、子どもの心を根本から強くする方法も教えてくれました。

「レジリエンス教育では、人間には4つの心の筋肉(レジリエンスマッスル)があると考えられており、体を鍛えるように心を鍛えるトレーニングがあります

心の4つの筋肉(レジリエンスマッスル)とは

レジリエンス教育でいわれている「4つの筋肉(レジリエンスマッスル)」とは次の通りです。

  • I haveの筋肉

「私は○○を持っています」と言えるものがあるかどうか。信頼できる人、助けになってくれる人を持ってるかどうかが、心を鍛える上での1つになります。ソーシャルサポート。

  • I canの筋肉

「私は○○ができる」と思えるような気持ちを持つこと。自己効力。

  • I amの筋肉

自分の強みも弱みも認められることができること。自尊感情、自己肯定感。

  • I likeの筋肉

好きなものや好きなことがあるといえること。ポジティブ感情。

「この4つの心の筋肉が育っていくと、レジリエンスが高まるといわれています」

関野さんは、学校でレジリエンス教育を行う際、心の筋肉を鍛えるはじめの一歩として、アイハブ、アイキャン、アイアム、アイライクに当てはまるものを考えてみるように生徒たちに話すそうです。

「『自分の長所と短所言ってください』と言われてもすぐに思い浮かばないように、アイハブ、アイキャン、アイアム、アイライクもなかなか自分からは出てこないと思います。

だからこそ、日頃から家庭で声掛けをしてあげて、子どもに自分自身のいいところを気付かせてあげたり、情報を刷り込んでいってあげることは、心を強くする上ですごく大事なことだと思います」

関野さんおすすめ3つの声掛け

  • 「あなたはこういうことできるよね」
  • 「あなたはこういうところが長所だと思うよ」
  • 「あなたはこういうことが好きだよね」

「上記の声掛けをしていくことで、アイハブの信頼できる人、助けになってくれる人は親だと気付かせてあげながら、アイキャン、アイアム、アイライクも分かるようになり、4つの心の筋肉が自然と子どもの中で鍛えられていきます

とはいえ、わが子の短所は気になっても、長所は客観的に見ることができないという人もいるかもしれません。

「ものすごいことでなくてもいいです。例えば、”3年間、無遅刻・早退、無欠席””折り紙が得意”でもいいんです。誰かと比べるわけではなく、その子は当たり前だと思っていても、『私はなかなかできないことだと思っているよ』ということをちゃんと言語化して本人に届けてあげることが大事だなと思っています」

また、保護者自身が子どもの見方を変えることでいいところが見つかることもあります。

「子どもが家でゲームばかりしていると、『いつもゲームばっかりやって』『勉強もしないで』という言葉掛けが多いと思うかもしれませんが、ゲームをしているときの集中力だけをみれば、すごいですよね。だから嫌味に聞こえないように気をつけながら『その集中力すごいね』と、親自身が考え方を少し変えてポジティブな側面で見られるようにすると意外にいいところがみつかるかもしれません」

親子向けレジリエンス教育の本を紹介

日本でも注目度が高まっているレジリエンス教育は、子どもの向け、子育て向けの本も多数出版されています。

『子どもの心を強くする すごい声かけ』

日本のレジリエンス教育の草分け的存在である足立啓美 (一般社団法人日本ポジティブ教育協会代表理事)さんの著書。レジリエンス教育の基礎知識が解説されているだけでなく、実践しやすい声掛け例や秘訣が多数紹介されています。

『子どもの「逆境に負けない心」を育てる本』

日本の学校でも効果が実証済みのレジリエンス教育プログラムが分かりやすく解説されており、家庭でも実践できます。子ども向けだけでなく、大人向けのトレーニングも掲載されているので、「子どもより私のメンタルが心配…」という人はぜひチェックしてみてください。

『イラスト版 子どものレジリエンス: 元気、しなやか、へこたれない心を育てる56のワーク』

子ども向けにレジリエンス教育について書かれた本です。子ども自身が読みながら立ち直る力を鍛えていけるように56個のワークが紹介されています。

日々の声掛けを大切にしてほしい

保護者はつい「大人になったら」「社会に出たら」という将来を見据えて、子どものネガティブな面をみて不安になってしまいますが、今の先に将来があります。

まずは、今の子どもの感情と向き合い、心を強くしていく声掛けをコツコツ積み重ねていくのがいいかもしれません。

「保護者の方々は普段から子どものちょっとした変化に敏感だと思います。ですが、何か起きたときに急に話しかけても子どもは『何か企んでいるな』と身構えてしまいます

子どもに何か起きた時だけでなく、日常的に『今日は学校どうだった』など声掛けをするのが当たり前という関係性をつくることも大切です。『別に』という素っ気ない返事に傷つくこともあるかもしれませんが、声かけを生活の一部として取り入れるようにしてくださいね」

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浜田彩

エディター、ライター、環境アレルギーアドバイザー。新聞社勤務を経て、女性のライフスタイルや医療、金融、教育、福祉関連の書籍・雑誌・Webサイト記事の編集・執筆を手掛ける。プライベートでは2児の母。

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