予測できない変化の中で子どもの心身を守るためにできること
関野亜沙美
1000組以上の不登校に悩む親子の相談にのってきた不登校カウンセラーの関野亜沙美さん。新型コロナの感染拡大によって休校やオンライン授業など、今までにない状況を見てきた彼女は何を感じたのでしょうか。そこには、予測不能な生活の中で子ども達を守っていくヒントがありました。
オンライン授業と不登校の関係
昨年度の一斉休校に続き、今年度は全国の学校でオンライン授業や分散登校などの対応が取られてきました。
中でも、多くの学校で導入されたオンライン授業は新しい試みだったのではないでしょうか。家庭にいながら、場合によっては画面をオフにして授業を受けることができたため、学校に行くことに抵抗がある子や、教室に入って集団生活をすることが苦手という子でも参加しやすい傾向にあったように感じます。
これによって、これまで教室から離れた生活をしていた子が、オンライン授業への参加を通じてクラスと関わりを持てたことで、登校のモチベーションにつながったということもあったでしょう。
ですが、実はそのような例は、実際の件数としてはそんなに多くなかったように思います。
なぜなら、学校へ行くためには、朝起きて、制服に着替えて、通学のために移動するなど、さまざまな準備が必要であり、それらは、学校へ行くことに抵抗がある子にとって簡単なことではないからです。さらに、そこから集団の中で対面授業を受けるとなると多くのエネルギーや緊張感を持つことになります。
やはり、学校復帰に向けては根本的なことを解決していくというステップは、これまでと変わらないように感じています。
それぞれに合った学び方が選択できる社会へ
では、もしオンライン授業に参加し続けられるような環境があれば、学校に行かなくてもよいのでしょうか。
さまざまな選択肢の中で、自分にとっての最善を選ぶことに私は賛成です。私が勤めていた通信制高校には、毎日登校するコース、週に数回通うコース、土曜日だけ通うコース、基本はWEBで授業を受けるコースなど様々な学び方を提供していました。
最初は、毎日通うコースに所属していた生徒でも、登校することが難しくなってしまうと「学習」が止まってしまいました。自分に合った「学び方」を選ぶということは、「学びを継続する」という点において非常に大切であると考えます。
改めて感じた学校で対面授業を受ける意義
私は対面教育で教師が子どもたちと共に学び、一緒に成長していくことの意義を強く理解しているからこそ教師となり、今もなお、現場で生徒と関わりを持っています。
そのため、「学校に行かなくても良い」という選択肢を多くの子どもたちが選んでしまうことには正直、寂しさと心配があります。
学校は勉強をするだけの場とは思いません。社会に出る前にソーシャルスキルを培っていくことも学校の役割のひとつではないかと考えています。
学校という社会で、いろんな人と会話をし、友だちをつくるということや、自分のいいところを知ること、信頼できる人・頼りになる人を見つけることなど、人間関係を構築させておくことや経験は、その後の人生を生き抜いていく力になるのではないでしょうか。
また、学校を通じて他者と共有することができる思い出を持つことも、その後の人生の”心の潤い”に繋がると私は信じています。
オンラインの授業を否定するわけではありませんが、実際に、大学に入学したものの、ほとんど通学することなくオンラインで講義を受けている学生から、「人との関わりがあまりにもなく、不安で仕方がない」という不安を打ち明けられたことがありました。
オンラインで講義を受けているので、オンラインを通じて”人”とは会っています。しかし、それでも”不安”になってしまうということを聞いたときに、オンライン授業は”遠距離恋愛に似ているのかも”と感じました。
オンラインでもコミュニケーションを取ることはできるけれど、対面したときの安心感の方が強いということです。恋愛に例えてしまいましたが、この対面の安心感と充足は、恋愛に限ったことではありません。
みなさんもコロナ禍で久しく会うことができていなかった家族や友人、仕事仲間に会えたとき、やはり対面でのコミュニケーションが、どこか気持ちを温かくさせてくれたことを感じたのではないでしょうか。
学校が安心・安全の場であることが大前提ですが、学校に行き、対面教育の場で、ソーシャルスキルを体験しながら学ぶことや人とのつながりを持つことは、自信を育て、孤独から離れた生活を送ることに結び付くのではないかと考えます。
休校期間が招いた不登校のきっかけ
休校期間やオンライン授業が行われた期間というのは、ウイルスが猛威を振るっている期間ともいえます。
そのため、不要不急の外出禁止が強く呼びかけられ、子どもたちは1日中、家の中で過ごすことが強いられました。すると、どうしても”食べて寝て”という生活になることが多くなってしまい体重は増加。実際に、健康診断において体重に変化があった学校が例年以上に多かったようです。
体重が増えると、当然、体型も変化します。制服がキツくなって着られなくなっても、みんなが制服で登校する中、自分だけジャージで登校するわけにも行きません。自分の体型に向けられる周囲の視線が気になり、それが不登校のきっかけになってしまうこともあります。
また、休校期間明けから、いざ学校へ行くとなると、やはり自分の体型が気になってしまい無理な食事制限による急激なダイエットを始めてしまうことがあります。これがとても危険なのです。なぜなら、自分の体重・体型を気にし始め、過度なダイエットを行うと摂食障害を引き起こす可能性もあるからです。
さらに、不登校までいかなくても午前中だけで早退してしまう子も休校明けには増えた印象があります。
彼らの話を聞いていると、休校期間中のときは、眠くなったら昼寝をして仮眠をとったり、読書が好きな子はずっと読書にのめり込んだり、ゲームを好きな子はずっとゲームをしたりできていたにも関わらず、いざ対面授業での学校生活が始まったら自分のペースで過ごせた時間から集団生活の時間に合わせなければならない。そのことに強くストレスを感じてしまったようです。
学校に行かなければという気持ちよりも、好きなことをする時間を確保したいという気持ちが勝り、学校に対するモチベーションが下がり、学校に行くことが面倒くさいと思うようになってしまったそうです。
こういった気持ちにさせないように、教育現場は日頃から子どもたちのモチベーションを絶やさないような教育の仕掛けを用意しておくことや、人とのつながりをつくり、「家ではできないことが、学校にある」ということを納得できるような環境をつくるようにしなければなりませんね。
予測できない学校生活の変化を乗り切るために
今はオミクロン株による第6波がきていますが、今後も新型コロナやそのほかの影響で、オンライン授業や休校になることがあるかもしれません。
子どもの心身を守るためには、まずは生活習慣や食事の管理をしてあげてください。前述の通り、体重の増加は大人が思っているよりも子どもにとっては大きな問題ですので気を付けてあげてください。
また、睡眠サイクルが乱れるとイライラや不安などネガティブな感情が引き起こされやすくなります。
特に休校期間中は、オンライン授業やスマホ、テレビ、ゲーム、動画視聴など“目”だけを酷使するような場合が増えますが、体の一部だけを酷使していると、寝ても寝た感じがせずに、体の疲れがなかなか取れないそうです。
画面を見る時間を減らし、睡眠時間をしっかり取るという生活習慣は、とても大事になっていきます。
加えて、良質な睡眠には体を動かすことも大切になります。家で一緒にストレッチをするなど、少しでも体を動かすということができると、睡眠の質の向上や体重増加の抑制だけでなく、幸せのホルモンを分泌できるなどの作用があるので、コロナ禍の不安も軽減できる効果が期待できます。
とはいえ、思春期の子に、ここぞとばかりにあれやこれやと口を出しても警戒や反抗をされてしまうかもしれませんよね。できれば、素っ気ない態度を取られてもめげずに普段から声をかけるようにしてみてください。
ちなみに声をかけるときは、「〇〇をしなさい」という上からの言い方や、「〇〇はよくない」という否定ではなく、いいところを伸ばすような声掛けでいい方向へ誘導をしていってあげると本人の生きる力を育てることにもつながりますよ。
声掛けについては、こちらの記事も参考にしてみてくださいね。
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<取材・文>ソクラテスのたまご編集部
不登校カウンセラー。約10年にわたり学校教育に携わり、不登校・発達に悩む生徒、保護者の方の相談を1,000件以上担当。受け持った子どもの約8割が大学進学したなどの実績がある。これまでの知識と経験を活かし、生徒・保護者だけでなく、教育関係者向けのアドバイザーとして活躍中。