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2021.12.13

軽度のディスレクシアの症状は?診断されない場合の理由や相談先を医師が解説

本人はがんばっているのに学力がなかなか上がらないわが子。文字の読み書きに困難を抱える学習障害「ディスレクシア(識字障害)」を疑う方もいるかもしれません。原因や診断方法、軽度のディスレクシアだったり診断されなかったりした場合の対処法や相談先について、児童精神科医の坂野真理さんに伺いました。

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この記事を執筆したのは…

坂野真理さん児童精神科医

虹の森クリニック院長/虹の森センターロンドン代表(子どものこころ専門医)。東京大学医学部附属病院小児科及びこころの発達診療部、医療福祉センター倉吉病院精神科等を経て、英国キングスカレッジロンドンの精神医学・心理学・神経科学研究所(IoPPN)にて修士号取得。現在は、日英両国において子どものこころに関する診療および情報発信を行っている。虹の森クリニック

ディスレクシアの定義とは

ディスレクシアとは、知的能力に遅れや問題はないものの、文字の読みと書きに困難さのある疾患のことを指します。正確な診断名としては、”限局性学習症”と呼ばれる診断のグループの1つに該当しますが、一般的には”学習障害”という言葉で知られています。

学習障害には、読み書きに支障を来たすディスレクシアのほかに、ディスカリキュリア(計算が苦手)などもあります。

ディスレクシアに気付くのはいつ?

ディスクレシアもディスカリキュリアも学習にともなって顕在化することが多いため、小学校への入学後、小学校低学年の間に発見される場合が多いです。

ただ、この時期に発見につながらず、中学生以降や大人になってから「自分は学習障害なのではないか」と感じて受診される人も増えています

<中学生の学習障害についての記事はこちら>

【専門家が監修】中学生の学習障害(LD)の検査方法や相談先、高校進学について解説します
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全般的な知的能力は低くないのに読み書きや計算など特定の分野だけが極端にうまくいかず、学習に困難が生じてしまう学習障害(LD)。発達障害の子どもや親の支援を続けて.....

ディスレクシアの症状とは

ディスレクシアには、下記のような症状が見られることがあります。

  

  • ひらがなやカタカナなどの文字がなかなか覚えられない
  • 音読で読み間違いや読み飛ばしが頻回にある
  • 音読が逐次読みになっている(一文字一文字読んでいる)
  • 音読で勝手読みがある
  • 音読に時間がかかる
  • 聞いた文字を正確に書けない
  • 濁音(「ば」「だ」など)、半濁音(「ぱ」など)の書字を頻回に間違える
  • 促音(小さな「っ」)、撥音(ん)、拗音(小さな「ゃ」「ゅ」「ょ」)、長音(「ジュース」の「ー」や「おかあさん」の「かあ」と延ばす音の部分)の書字を頻回に間違える
  • 文字の形がそろわない
  • マス目がないと、文字をスペースにおさまるように均等に書くことができない

こうした症状があることで、授業中に板書がうまく取れなかったり、音読や作文が苦手だったりすることがあります。また、大人になってからはメール作成や資料の理解、電話のメモなどで仕事への難しさを感じることもあるでしょう。

ただ、上記はあくまで一例であり、すべてにあてはまる人もいれば、上記以外の症状の場合もあります。

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学習障害の診断方法

では、次に学習障害の診断について説明します。

学習障害の診断は医師でないとできません。また、診断を受けずに支援の相談をすることは可能ではあるものの、支援が適切であるかどうかは慎重な判断が必要になります。

また、ディスレクシア以外の発達特性が隠れている場合も実際には多くあります。最終的には診断につながらない場合があるとしても、ディスレクシアだけを念頭に置くのではなく、きちんとした発達障害全般のアセスメント(評価)を受け、ディスレクシアの診断の有無に関わらず、専門の医師を受診することが必要です。

医師のもとでは、通常、次のような2つの検査を行います。

【検査①】知能検査

ウェクスラー式知能検査(WISC-IVなど)に代表される知能検査を行い、知能指数(IQ)を測定します。ディスレクシアにおいては、IQが平均の範囲内にあることが必要ですので、IQが平均以上であるかどうかを調べます。もしIQが平均の範囲を下回る場合には、ディスレクシアには該当しません。

<WISC-IV検査についての記事はこちら>

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5~16歳11ヵ月の子ども向け知能検査WISC-IV(ウィスクフォー)。福祉や医療、教育現場ではよく知られる検査ですが、健康診断や就学前検診で初めて名前を聞いた.....

【検査②】読み・書きの検査

日本では改訂版 標準 読み書きスクリーニング検査(STRAW-R)、K-ABC-II、音読検査などが使用されます。

上記の検査を通じて、IQと読み・書きの力に差があり、IQは平均以上であるにも関わらず、読み・書きの力が著しく低い場合にディレクシアだと診断されます。

なお、読み書きの困難さの原因となるような脳の疾患がないかなどを調べるために、頭部MRI検査、脳波検査などを場合によっては行うことがあります。ただし、MRIや脳波検査のみでディスレクシアを診断することはできません

ディスレクシアの診断基準に当てはまる読みと書きの困難さは、もともとは文字の音と文字を結びつける力(音韻認識)によるものとされてきました。

しかし、ほかにも目で見た情報を処理する力(視覚認知)耳から聞いた情報を処理する力(聴覚認知)など、それぞれの理由から読字・書字に苦手さを来たしている子どもたちがいます。

現在は、このような音韻認識以外の苦手さによる読み書きの困難さのある子どもたちも、ディスレクシアと診断されるようになってきています。

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ディスレクシアと診断されないケース

上記のような検査を用いて、学習障害の診断は行われますが、学習の困り感があるもののディスレクシアとは診断されない子どもたちが実際には多くいます。

その理由のひとつが、この分野の専門知識を持つ医師(子どものこころ専門医、小児神経専門医、児童精神科医)が、人数が極めて少なく、受診することが容易ではないからです。受診するまでに何ヵ月も待たなければならない状況が続いています。

その結果、医師以外に相談せざるを得ず、「おそらく〇〇でしょう」と正確ではない診断名を伝えられ、それを正式に捉えてしまっている家庭も多いのが実情です。

また、適切な知識や資格を持たずに発達障害専門と称して検査や助言指導を行っているケースや、診断に必ずしも必須ではない検査(脳波検査など)を受けさせる医療機関も見られているので注意が必要です。

一方で、ディレクシアと診断されていないものの学習に困りごとがある子には、次のようなケースが考えられます。

  1. 一部の症状は認められるものの、診断基準を満たすほどの症状の強さはない場合
  2. 読字や書字の困難さを始めとした学習の困難さはあっても、ディスレクシアの定義を満たす困難さとは異なる場合

それぞれの状態については、次の段落で詳しく説明していきましょう。

【ケース①】診断基準を満たすほどの症状の強さはない場合

読みや書きの困難さの程度が診断基準を満たすほどではないが、上記の検査で読み書きの力とIQとの差が小さい場合、あるいは下記のようなケースでは、診断されない場合もあるかもしれません。

  • ひらがなや漢字は読み書きができるが、カタカナは苦手
  • 漢字の訓読みはできるが、音読みは苦手
  • 1つ1つの文字は読めているが、長文の読みは苦手
  • 日本語は問題ないが、英語の単語が覚えられない

特に、英語は日本語よりもディスレクシアの子どもたちにとって難しい言語であるため、英語の学習が始まってから気づくケースは多いでしょう。

ただし、実際には、限局性学習症(ディスレクシア)とは診断されないものの、クラスでも低い方の成績に入ってしまう程度の強い困り感のある場合には、次に説明する②のケースの方が多いのではないかと考えます。

【ケース②】背景がディスレクシアの定義とは異なる場合

ディスレクシアと診断されない場合には、困りごとの背景がディレクシアではない場合があります。

IQが低めの場合

IQがおよそ70を下回る場合は、知的発達症(=知的障害)と診断されます。一方、IQが70を上回るものの、平均の範囲のIQは下回っている場合、診断名としては何もつきませんが、通常学級の支援のない授業ではある程度の困難さが出てくることが多く見られます。

この範囲のIQを”境界知能”と呼ぶことがあります(診断名ではありません)。

しかし、境界知能であっても、ディスレクシアの前提となっているIQは平均の範囲以上のため、ディスレクシアの診断はつかないまま学習の困難さを抱えてしまうことになります。

なお、ディスレクシアは、読み書きは苦手ですが、言葉を聞いたり話したりする力は平均以上です。一方、境界知能の範囲の子どもたちは、話したり聞いたりする力にも困難さがある場合があります

認知機能に偏りがある場合

IQの問題はさらに複雑です。WISC-IVなどで示されるIQには、いくつかの要素があります。

総合のIQは平均の範囲内であるものの、非言語的なIQ(例えば、図形や絵を見て情報処理を行う力など)は低いといったように、IQで示される認知機能そのものに分野によって大きな偏りがある子どもも非常に多く見られます。

このような認知機能の偏りがある場合には、学習面でも得意な分野と苦手な分野の差が大きく見られることがあります。

例えば、視覚認知が弱い場合には、文字の形を捉えることに困難さが見られることがあります。実際に、ディスレクシアと診断されている子どもたちの中にも、実際にはこのような認知機能の偏りが見られることがあります。

また、言語性IQのみが特に低い場合、発達性言語症(Developmental Language Disorder:DLD)と診断されることもあります。

ディスレクシアの場合は、読み書きは苦手さがありますが、言葉を聞く力と話す力は平均以上の範囲に保たれています。発達性言語症は、聞く力や話す力にも苦手さがあります

しかし、ディスレクシア、知的発達症、発達性言語症のいずれの診断にもあてはまらないものの、認知機能の偏りだけが見られる場合もあり、診断はつかないまま困り感を抱えている子どもたちもいます。

ASDに関する特性が影響している場合

読み書きが苦手というよりは、作文や日記などの自由回答記述の問題が苦手というお子さんがいます。この場合は、自閉スペクトラム症(ASD)に関する特性が影響している場合があります。

ASDの特性のある子どもたちの中には、答えが一つに決まっている質問には答えられるものの、答えが複数の可能性がある質問(オープンクエスチョン)には答えられない特徴を持っている子どもがいるからです。

また、ASDの特性を持つ子どもの場合は、自分の書き方や読み方にこだわりがあり、間違いを指摘されても修正することが難しく、成績につながらない場合もあります。

手先の不器用さによる場合

手先の不器用さが強く、うまく鉛筆が持てないことなどが書字に影響している場合があります。発達性協調運動症という別の発達障害の特性が関与している場合もあります。

ワーキングメモリ・長期記憶の苦手さによる場合

認知機能のひとつでもあるワーキングメモリ(記憶を一時的に脳にとどめておく力)が弱く、記憶する力に困難さがある場合があります。

このタイプの子どもたちの中には、注意欠如多動症(ADHD)による集中の苦手さが関与している場合もあります。

また、明日の漢字テストのためには記憶できるが、1ヵ月後にテストをすると点数が取れないといったような長期記憶の弱さに関連している場合もあります。

視機能など視覚の困難さがある場合

視機能とは、見る力のことです。視力などとは異なり、動くものを見て捉える力や、目と手の協応(目で見た情報と手で書く作業をうまく合わせる)力のことを指します。

視覚に困難さがある子どもたちに表れやすいのが、文字の形を捉えることや黒板に書かれた文字をノートに写す板書などに困難さが強いという症状です。

ほかにも、光に敏感な場合や、文字を追うことが難しい”アーレンシンドローム”(診断名ではありません)も報告されています。

学習に困難さがある背景には、さまざまな理由が存在し、実際にはディスレクシアはそのうちのごく一部にすぎないのです。

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学習に困った場合の相談先

次に、ディスレクシアと診断されなくても、相談や支援が受けられる医療機関以外の場所や専門家を紹介します。

学校の特別支援教育の担当教員

まずは、各学校に配置されている特別支援教育コーディネーターや、特別支援学級・通級担当などの先生に相談してみると良いでしょう。地域の適切な紹介先を紹介してくれるかもしれません。

ただし、公認心理師・臨床心理士の資格を持っている場合でない限り、学校の教員資格のみでは知能検査などの心理検査をすることができません

自治体の教育センター

各自治体の教育委員会などが設置しています。東京などの大都市では、相談先としては最初に訪れる場所になることが多いでしょう。

公認心理士・臨床心理士などが常駐していることがあり、さまざまな検査を行っている場合があります。ただし、地方では設置されていないことがあります。

発達障害者支援センター

各都道府県に必ず1ヵ所は設置されており、大阪市・福岡市など、都道府県とは別に設置されている地域もあります。

特別支援教育士

学校での学習支援については、一般社団法人日本LD学会が認定を行っている特別支援教育士(S.E.N.S)という資格があり、検査結果を受けて実際の支援につなげるための助言などを行っています。

特別支援教育士は、特別支援教育に携わる教員が多くいます。医療の資格者では、実際の教育現場における学習支援の具体策につながらない場合でも、検査結果やアセスメントを踏まえた上で、「日ごろの学習へどう生かしていくのか」「学校でどのような支援策を受けるか」などの相談ができます。

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発達障害の子に寄り添う学習塾もある

学習塾や家庭教師のなかには、学習障害をはじめたとした発達障害や不登校といった特徴のある子のサポートに特化しているところもあります。
子どもの学習面で不安を感じたら、こうした塾や家庭教師を探してみてもよいでしょう。

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机上の勉強だけで人生は決まらない

勉強ができない子どもたちは、「努力不足」というレッテルを貼られてしまうことが多くあります。

もともと生まれつきの脳の特性として学習が難しい子どもたちは、適切な支援がなければ勉強はつまらなくなり、学習に向かう意欲や自己肯定感が徐々に低下してしまいます。そうなると、なおさら周囲からも「がんばりが足りないだけの子ども」だと捉えられてしまいがちです。

日本よりもディスレクシアが多くみられる英語圏の国では、ディスレクシアの有名人も多くいます。

俳優のトム・クルーズや、スパイダーマンの役で知られるトム・ホーランド、女優のキーラ・ナイトリー、映画監督のスティーブン・スピルバーグ、ビートルズのジョン・レノンなど、多くの有名人がディスレクシアであることを公表しています。

机上の勉強がうまくいかなくても、それだけで人生が決まるわけではありません。

内容、時間、場所など多くの職業が選択できる大人と異なり、子どもは学校で勉強するという内容以外の選択肢を選ぶことができません。学習の苦手さのある子どもたちにとって、周囲の理解と適切な支援がなければ学校は苦痛なだけの場所となってしまうかもしれません。

子どもの苦手なところを治すことばかりに注目することなく、いいところを多く引き出し、自己肯定感を高めてあげられるといいですね。

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坂野真理

虹の森クリニック院長/虹の森センターロンドン代表(子どものこころ専門医)。東京大学医学部附属病院小児科及びこころの発達診療部、医療福祉センター倉吉病院精神科等を経て、英国キングスカレッジロンドンの精神医学・心理学・神経科学研究所(IoPPN)にて修士号取得。現在は、日英両国において子どものこころに関する診療および情報発信を行っている。

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