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2021.01.22

【中学生の不登校】勉強の遅れが心配な親ができること、自宅でできる勉強法とは

不登校になったことで「勉強が遅れてしまう」「全く勉強していないが大丈夫なのか」「勉強をやる気配がない」など、「勉強」面での悩みや心配を抱える保護者は多いです。学校へ行かないぶん、せめて自宅で勉強くらいはして欲しいと思い、ほかの子が毎日学校で授業を受けているかと思うと、自宅でのんびりしているわが子を見て気が気ではないかもしれません。しかし、不登校中の勉強については、元気に学校へ通えている状態とは異なる対応が必要になる場面が多いです。そこで不登校生の学習支援や受験指導、進路相談を行う阿部伸一さんが不登校中の勉強について解説します。

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勉強を望む前に考えることがある

そもそもなぜ親は子に「勉強して欲しい」のでしょうか。

「周りの子から遅れてしまう」
「受験ができなくなってしまう」
「就職できなくなってしまう」
「本人が困るからかわいそう」といったところでしょう。

上記の心配はある面では事実です。勉強を全くしなければ、学校へ戻っても居心地が悪いかもしれませんし、勉強を全くしなければ進学を希望しても叶わないかもしれません。

一方で、上記のような「勉強しないと将来困るから」という“親の思い(将来へのレール)”が子どものストレスやプレッシャーとなり不登校に至っているケースは少なくありません。

そんな状態の子に、またレールを敷くこと(将来のために勉強をさせる)、あるいは元のレールに戻そうとする(学校へ行かせようとする)ことは、ストレスを増加させるだけになる可能性が高いです。

以降の段落では、勉強との関わりについて解説していきますが、勉強について考える時は、心の傷を癒してあげること、そして気持ちを回復させてあげることも並行して考えることを忘れないでくださいね。

不登校の中学生に勉強を急がせるのは逆効果になる恐れがある

3つの事例から学ぶ不登校中の子が勉強を始められた理由

なぜ、上記のように「子どもの心のこと」について説明したかというと、「学校へ行っていないから」「周りに遅れるから」といって勉強をさせてもほとんど頭に入らないので意味がないからです。

あふれているコップにじゃばじゃばと水を注ぎ続けるようなもので、むしろ逆効果になりかねません。水を注いでいる保護者のストレスも増大し、親子ともにいいことがないのです。

では、どうすればよいのでしょう。そこで、2つほど事例を紹介します。

事例1

Aさんは、小学6年生で不登校になり中学2年生まで学校へ行きませんでした。昼夜逆転をして、ゲームをしながら過ごして、全く勉強はしていませんでした。

しかし、中学3年生になってから「高校へは行きたい」という気持ちが芽生えて少しずつ勉強を始め、なんとか全日制へ進学をしました。その後、高校生活の中で勉強の習慣もついて、今度は「大学へ行きたい」という気持ちになり、猛勉強をしました。

結果、慶應義塾大学の法学部へ現役で合格し、その後も勉強を続けたくなったようで、今春からは大学院へ進学予定です。

事例2

Bさんは、高校1年生で不登校になり、やはり昼夜逆転で全く勉強はせずに映画を見たりして自宅で過ごしていました。そのような生活を1年以上しており、高校は退学。それでもしばらくは同じような生活をしていました。その後「大学へ行きたい」という気持ちになって勉強に着手するようになり、高卒認定試験を経て、大学へ進学をしました。

このような事例を書くと、「2人とももともと勉強が好きだったのだろう」とか「どんな勉強法で遅れを取り戻したのだろう」などと思うかもしれませんが、どちらも大きなポイントは「しっかり休んだこと」です。

保護者目線で言えば「やる気になるまで待った」わけです。どちらの生徒も年単位で勉強しない時期を過ごしています。つまり、やはり不登校中の子に勉強をさせるためには「子どもが勉強に意識がいくのを待つしかない」ということになります。

親の“待ち方”が子どものやる気を左右する

とはいえ、「もうさんざん待ってますけど!」「すでに待ち続けている」という保護者にとっては「なぜウチは違うんだ」となるでしょう。

実は、同じ“待つ”でも、その“待ち方”、つまり勉強しない間にどう接しているのかによって、気持ちの回復度合いが変わりますし、勉強をする気になるかどうかも変わってきます。そこで、もうひとつ事例を紹介しましょう。

事例3

Cさんは、中学1年生で不登校になりました。成績優秀で進学塾でも最上位のクラスでトップの成績をとっている子でした。

しかしピタッと学校へ通えなくなり、塾もやめて、勉強をしないどころか教科書を見るだけで体調が悪くなる状態でした。最もひどいときは、活字や数字が並んでいるを見ただけで吐き気や目まいを起こすほどでした。

目に見えて勉強どころではなかったこともあり、保護者は「勉強をさせること」は諦めて、ひたすら気持ちの回復に取り組みました。

はじめは自室にこもってしまう状態でしたが、食事の時間は雑談を大切にしたり、少し元気なときには一緒に映画を見たり、勉強や進路の話には一切触れずに時を過ごしました。勉強どころか、家の外に出られない、他人と会えない、そんな状態が続きましたが、根気よく雑談や遊びを大切にして過ごし続けました。

1年以上が経過し、ようやく外出ができるようになりましたが、ここで学校へ戻るとか塾へ通うのではなく、一緒にディズニーランドへ行ったり、野球観戦を楽しんでいました。

そんなある日、本人の部屋に勉強をした形跡があると家庭から塾へ連絡がありました。そのときは家族が勉強の話題に触れても素直に反応はしなかったようですが、ときには保護者と一緒に勉強をする日も出てきて、最近は毎日自分から勉強をしているようです。

この事例を読んで「何がきっかけで勉強をし始めたのか」が気になるかもしれません。ですが、実はきっかけは特にないのです。あえて挙げるなら、それまでの待ち方の蓄積=それまでの時間の過ごし方といえるでしょう。

すべての事例に共通しているのは、休んでいる間は良い意味で勉強はあきらめて、本人のストレス軽減や気持ちの回復に務めたことです。

待つことは大切です。それは、ただ何もしないで待つのではなく、ストレスやプレッシャーを減らしてあげよう、心の傷を癒してもらおう、といった気持ちで待つようにするのです。

そうすれば、いずれ将来のことを考えたり、勉強にも取りかかれたりする元気が出てくるはずです。

不登校の中学生には、親が余裕持って待つ姿勢が大切

勉強が気になる親が守るべき2つのポイント

事例だけでは分かりづらいと思いますので、“ただ待つ”のではない待ち方、勉強に関わる2つのポイントをお伝えします。

待つ時期の2つのポイント

  1. 目標を立てない
  2. 勉強や進路の話はしてOK

【ポイント①】目標を立てない

「目標があれば勉強をするようになる」のは確かにそうです。だからといって、無理に目標を設定させることは避けてあげて下さい。

目標がない状態の子に「目標を」と求めるのは酷です。ないものはないのです。過度のストレスがかかると、どんどん将来のことを考えるのは難しくなり、また考えたとしても悲観的なものになりがちです。

また「親に心配をかけないように」とか「目標がなければいけない」といった気持ちから、思ってもいない目標を無理やり立ててしまう危惧もあります。

そして、一度立てた目標は達成しなければならないとさらなるストレスを自分自身にかけてしまう子も多いです。自ら過度なプレッシャーをかけても勉強ははかどりません。そして「目標を立てたけど、ダメだった」と自信をなくす可能性もあります。

また、目標を立てない方が勉強しやすい子もいます。「目標から逆算して日々の計画を立てること」が合わない子の場合は、目標を立てること自体が勉強のさまたげになりかねません。そうしたタイプの子は、少し勉強をやり始めた場合もあえて細かい目標は立てずに「やれるときに、やれるだけやる」というスタンスの方が学習成果も出やすいです。

とはいえ、本人が立てた目標を否定する必要はありません。話してきたら尊重してあげましょう。そして目標達成を応援しつつも、心の中では「達成できなくても大丈夫」とプレッシャーをかけすぎないスタンスで接してあげて下さい。

不登校の中学生の中には、勉強をする際に目標を立てない方が勉強しやすい子もいる

【ポイント②】勉強や進路の話はしてOK

勉強や進路のことをどう思っているのか、「子どもに聞きたいけどなかなか聞けない」という保護者は多いです。

その話題をふって機嫌を損ねたり、無視されたりするのはつらいでしょうし、聞きづらい気持ちはよく分かります。

ですが、勉強や進路の話題は聞いても構いません。むしろ「聞きたいけど聞けない」という保護者のストレスは高い確率で本人へ伝わり、余計なストレスになる可能性があります。

ただし、大事なポイントは反応を期待しないことです。反応を期待しないとは「どうせ何も考えていない」とあきらめるという意味ではありません。「勉強の話に反応できる状態ではない」「進路のことを考えられる状態ではない」と理解してあげて欲しいのです。

勉強のことや進路のことが気にならない子はいません。たとえば中学生で「高校のことを何も考えていない」ことはありません。考えるし、意識もするけれど、どうしても悲観的になってしまうほどストレスやプレッシャー、心の傷がある状態なのです。

「高校は行きたいけど、どうせ自分には無理」「勉強した方が良いのだろうけど、どうせ続けられない」「興味のあることはあるけど、どうせできない」といった感情を、そのまま言葉にできないことで、機嫌が悪くなったり、無視をするしかないのです。だから触れて欲しくない、忘れていたい心境にもなるわけです。

「勉強しないの?」「高校どうする?」と聞いても構いません。そこで機嫌を損ねたり無視されても受け止めて、それ以上は追求せずに、雑談やリラックスできる時間を過ごせるようにしておきましょう。

自分はあきらめているわけではないのに「親からあきらめられている」と感じるのはつらいです。だからこそ、上記の点をふまえた上で、勉強や進路の話には触れても構いません。

不登校の中学生に勉強や進路の話はしても大丈夫

やる気につながるかも?自宅でできる勉強法とは

先ほど紹介した事例は勉強へのきっかけがなかったケースでしたが、私がこれまで見てきたケースの中には、心が回復したタイミングで始めることで本人のやる気につながった勉強方法があります。

その子に何が合うのかはそれぞれ違うので、「勉強方法の選択肢はいくつかもある。続かないのは本人のせいじゃない」と責めるのではなく見守る姿勢で接してあげましょう。

自宅でできる勉強方法①|YouTube

個人的に最も自宅学習をしやすい方法のひとつだと思っています。最近は質の高い授業や学習解説の動画が多く出ていますし、自分に合ったものを自分のペースで手軽に視聴できる点は、勉強法としても価値が高いです。

自宅でできる勉強方法②|オンライン授業

特にマンツーマンであれば非常に良い勉強法ですが、合う子と合わない子がハッキリします。実際に会わずにコミュニケーションがとれる気軽さが良いきっかけになる子もいますが、かえって緊張してしまう子もいます。自分の顔を画面に映さないことでスムーズに取り組めた子もいます

自宅でできる勉強方法③|通信教材

大手の通信教材は内容も充実しています。タブレット等で手軽に学習できるなど望ましい勉強法ですが、あまり無理に進めないようにしましょう。やることがたまってくると、どんどんプレッシャーになり負担が増してしまいます。続かなそうであれば、たまる前に解約できるような教材を選んであげて下さい。

自宅でできる勉強方法④|家庭教師

休む日があっても根気よく訪問してくれるよう家庭教師を事前にお願いして下さい。勉強の教え方やキャリアよりも、その理解を得られる方が大切です。

勉強だけではなく、第三者とリラックスした時間を過ごすことは回復につながりますので、そのためには「休んでも大丈夫」というくらいの余裕を持たせてあげることが必要です。

自宅でできる勉強方法⑤|問題集

問題集を選ぶポイントは、いかに自分に合ったものかということです。基礎的な勉強であれば、内容よりも文字の大きさやレイアウトで気に入ったものを選ぶほうが続けやすいものです。書き込み式が合う子もいれば、ノートを取る方がはかどる子もいます。 また、「この問題集はいいらしいよ。分かりやすいよ」と言われたものを渡されて、それさえ手につかない、分からない場合、子どもは自信を失いかねません。評判よりも本人が中身を確認してピンときたものから着手してみるといいでしょう。

そのほかの勉強方法

1冊の書籍がきっかけになり勉強がはかどった子もいますし、ある芸能人の勉強法をマネすることでやる気が出た子もいますし、家族が勉強を始めたことで一緒にやり始めた子もいます。

人それぞれ、きっかけも合った勉強法も異なりますので、さまざまな選択肢を念頭に置いておきましょう。いつか何か反応できるものと出会えるでしょうし、心がどんどん回復していけば、塾に通うなど選択肢も増えていきますよ。

不登校の子が通いやすい塾には、選び方のポイントがあります。以下の記事で詳しく紹介しているので参考にしてくださいね。

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不登校の中学生におすすめする勉強方法

待つ時間は勉強を遅れさせているわけではない

何のために勉強をするのか?

本来であれば、進学のためとか就職のためではなく、興味や関心や好奇心から勉強に取り組める子は多いです。そして勉強をすることで達成感や学ぶ喜びを知り、夢や目標を持つこともできるようになってきます。

しかし、ストレスやプレッシャーを抱え、心に傷を負っている状態では何も感じられなくなります。興味も関心も好奇心も、心に湧いてくる隙間がない、その状態で無理に勉強をしても得るものはありません。

待ち続ける家族のつらい気持ち、焦る気持ちもよく分かります。ですが、多くの不登校中の子どもたちを見てきた私が言えるのは、ストレスやプレッシャーを減らしてあげることで、勉強や進路、将来に気持ちを向けられるようになるということです。

「周囲の子から勉強が遅れていくのが心配」と思うかもしれません。ですが、回復を待っている時間は勉強を遅れさせているわけではなく、むしろ、勉強に向かうことのできる力を蓄えるための準備期間です。遅れていくように見えても、前には進んでいるのです。

“まず勉強”ではなく“まず回復”。何年もかかるかもしれませんが、その順番を間違えないようにすることが、子どものよりよい将来を選択するための最短の道だと意識しておきましょう。

阿部伸一

不登校専門のカウンセラー。不登校専門の個別指導塾、家庭教師派遣、サポート校の運営を行う。2003年より学習サービス事業の株式会社REOにて「不登校専門サポートコース」を発足。2010年より「特定非営利活動法人いばしょづくり」にて不登校経験者や保護者向けのイベントや交流の活動を開始し、各地でセミナー、講演、個別相談会、またオンラインでの活動も行っている。著書に「不登校は天才の卵」(宝島社)などがある。 オフィシャルサイト:https://abe-futoukou.jp/

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