「発達障害かと思ったら違った」ケースや「心配しすぎ」という声への対応、子どものために必要なこと
ニュースやネットでも「発達障害」という言葉を見かけることが多くなりました。そのおかげで「適切な支援に出合えた」という親子もいれば、過敏に「息子(娘)は発達障害かも」とモヤモヤを抱える親も増えています。「子どもに違和感があったら病院にいったほうがいいの?」「発達障害は疑うべき?」など、保護者の悩みに対して、これまでに3000件以上の子育て相談に対応してきた三好恵子さんが伝えるアドバイスとは?
親が「発達障害かも」と感じるとき
発達支援センターをはじめ、学童保育、保育園、居住支援相談センターなどで、さまざまな親子と向き合ってきた三好恵子さん。その中にはわが子の発達障害を疑う相談も少なくなかったそうです。
「発達障害を疑って相談に来るのは、3~5歳の親子が多いです。小学校高学年ぐらいになると相談にくる親子数は少なくなりますが、高校生になって相談につながるケースもありました。
相談にくるきっかけは、保育士など周囲の人から支援センターを勧められた人、親御さん自身が育てにくさを感じているケースが多いです。3~5歳の場合、『かんしゃくを起こしやすい』『嫌なことがあると泣き続ける』『暴れて何を言っても伝わらない』など、育てにくさから『発達障害ではないだろうかと疑う』という方は多いですね」(三好さん、以下略)
保護者なりに一生懸命、子どもと接しても上手くいかない毎日。育てにくさに「どうして?」「つらい」「私の育て方が悪いの?」など、さまざまな思いが日々積み重なっていく中で、「発達障害かもしれない」ということに育てにくさの答えを求めてしまう面もあるのかもしれません。
ただし、最も相談が多い3~5歳の子は、発達障害の診断がつけ(き)づらい年代でもあるそうです。
「発達障害の診断は小児科や児童精神科医しかできないので、私たち相談員は医師につなげることしかできません。ですが、実際に受診しても3~5歳は成長速度の個人差が大きい年代なので診断がつけづらいんです。『〇歳までに〇〇ができなければ発達障害です』といった単純なものでもないので、結局は医師から『様子を見ましょう』と言われて終わってしまうケースも少なくありません」
「様子を見ましょう」=「安心」ではない
医師だけでなく、子どもの発達障害を疑ったとき保育園・幼稚園・学校の先生に相談して「様子を見ましょう」と言われてきた人もいるかもしれません。よく言われる「様子見」という言葉ですが、三好さんは「『様子見=安心』ということではない」と話します。
「『様子を見ましょう』と言われたことに安心している保護者の方もいますが、『様子見=発達障害ではない』ということではないんですよね。今は診断がつかないけれど、今後は分からないということなので、『様子見というのは、まあ別に気にしなくていいんだ』と思って、そのままにしておくと特性の凸凹は大きくなってしまう可能性があります」
発達障害の疑いが消えるケース
一方で、親御さんの中では「発達障害かもしれない」と思っていても、成長していく過程でその疑問が消えていくケースもあります。
「例えば、先ほどの『かんしゃくを起こしやすい』『嫌なことがあると泣き続けたり、暴れたりして何を言っても伝わらない』という子たちの場合、発語が遅かったり、追いついてなくて、『伝わらない』『解ってもらえない』ゆえに泣いたり、怒ったり、暴れたりという表現で伝えてくる子もいます。その場合、言葉を習得し、感情を伝えれるようになっていけば育てにくさ(発達障害への疑い)は消えていきます」
うまくいかない子育てや子どもの不器用さに『この子は発達障害』『発達障害かもしれない』ということで頭がいっぱいになってしまうかもしれません。しかし、小学生であっても、苦手なことができるようになるには時間がかかるものです。
「誰にでも長所短所があり、苦手なことはあります。本人が困っていることにどう対応していくか、どう習慣づけていくかを考えたり、ゆっくりでも子どもができるようになっていく姿を見るうちに、『この子は絶対発達障害』という決めつけに変化が出てくるかもしれません。ただし『子どもに対してどうしたらいいか分からない』と思うのであれば、ひとりで抱え込まずに、発達支援センターや民間の相談サービスなどを利用してくださいね」
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では、発達障害の診断を受けることを急ぐ必要はないのでしょうか。
「子ども自身が生きづらさを感じているのであれば、診断は受けたほうがよいでしょう。というのも、以前、以前相談センターに勤務していたときに男子高校生(A君)の親子が相談にきたことがありました。
A君には毎日バスが一緒になる女子高生がおり、(実際には挨拶をしたこともない関係ですが)彼の中で彼女は”知り合い”という認識になっていたんですよね。だから、ある日、彼女について行ってしまいました。しかし、彼女にとってA君は、話したこともない知らない人。A君の行動は、ストーカー行為と判断されてしまい、彼女のお母さんが心配して警察に通報をしたそうです。
A君の母親に話を聞くと、これまでも周囲の方から発達障害を疑うようなことを言われたことはあるのですが、IQが高く、凶暴・多動というわけでもないのでそのままにしてきたそうなんです」
ですが、三好さんが当事者であるA君に話を聞くと、とても苦しんでいたことが分かりました。
「『生きづらかったよね』『大変だったね』と言葉を投げかけると、彼は涙が止まりませんでした。周りの求めるコミュニケーションというものが分からない世界でひとりきりで生きてきた彼は本当に生きづらかったと思います」
発達障害を疑ったらすぐに診断を受けるわけではないとしても、本人の困りごと、生きづらさを解決するために診断が有効かもしれないと思うのであれば医療機関へ相談をしてみてください。
発達障害の診断を受けて変わること
では、発達障害と診断を受けることで何が変わるのでしょうか?
「例えば、障害児通所支援事業者等のサービスを利用する際に利用料の自己負担額が減る「受給者証」は、市区町村から交付される証明書ですが、『発達障害である』という診断がなくても医師が療育の必要性を認めれば申請できる自治体もあります。
また、受給者証の交付基準は自治体によっても異なるので、自治体の発達支援センターや福祉課に相談してみてくださいね」
一方、発達障害に関連する障害者手帳は、『精神障害者保健福祉手帳』『療育手帳(知的障害もある場合)』になりますが、取得には医師による『発達障害である』という診断が必要になります。障害者手帳は、取得すると就職の際に障害者求人に応募できたり、一部公共料金が割引されたりします。
「ほかにも、周囲からの接し方が優しくなる傾向があると思います。例えば、これまでは、『なんだよあいつ』『ふざけないで、きちんとやって』という見方をされてきた子に対して、周囲が『そうだったからなのか』と理解してもらうことができ、ある程度受け入れられるようになります。
一方で、本人が『だって私は発達障害だから』と開き直ってしまったり、努力することを諦めてしまったりすることもあります。そんなときは、親だけでなく、教師や療育の専門家など周囲の大人が支えていかなければいけません。
私は、『(発達障害)だからといっても、いつも誰かが助けてくれるわけではないよ』という話をして、『だからこそ少しでも努力していこう』と励ましたり、過去より良くなった点や成長しているところを見つけて認め、ほめます。自己肯定感や達成感も大切にしながら、最終的には自立して社会に貢献できるような人になっていくようサポートしています」
「気にしすぎ」という声は気にしないで
「発達障害かもしれない」とモヤモヤする保護者をさらに悩ませるのが、「心配しすぎ」「今の人はすぐに障害だって言う」「誰にだって凸凹はあるのに」など周囲の言葉。子育てのしづらさに悩む保護者は、より子育てに自信をなくしたり、孤独だと感じたりしてしまうことでしょう。
「勇気を出して悩み事を打ち明けても理解してもらえていないと傷つきますよね。ただ、子どもの発達に関しては、ナイーブな話題なので相手も気遣ってしまうところもあります。だから、いいことでも、悪いことでもあまり相手の言葉を深く受け止めなくてもいいのかなと思います」
それよりも赤ちゃんの頃から、ずっとその子のことを見てきたあなたの感覚を信じて欲しいと話す三好さん。
「子どもや子育てについて悩んだら、『でもうちの子は大丈夫』と見て見ぬ振りをしないでください。あなたの気づきが、子どもの将来を変えていくきっかけになります。大切なわが子のことですから、神経質になり過ぎてしまってもおかしくないんです。それは、お子さんときちんと向き合っているという証。自分をほめてくださいね」
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エディター、ライター、環境アレルギーアドバイザー。新聞社勤務を経て、女性のライフスタイルや医療、金融、教育、福祉関連の書籍・雑誌・Webサイト記事の編集・執筆を手掛ける。プライベートでは2児の母。