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2022.11.17

グレーゾーンとは|ほかの子と違う、育てにくい子の育て方に答えはある?

普通級の授業や学校生活についていけないわけではないけれど、ほかの子と比べると違和感があるわが子。「もしかするとグレーゾーンかもしれない」と思うことはありませんか。何となく知ってるけど疑問も多いグレーゾーンについて自閉症スペクトラム支援士の冨樫ちはるさんが解説します。

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記事を執筆したのは…

冨樫ちはるさん

自閉症スペクトラム支援士、ABAセラピスト、保育士、子育てコーチ。公立小学校で相談員として勤務中。「発達凸凹応援団ワン・シード」主宰。発達凸凹の良い所を見つけて伸ばす「ペアレントトレーニング」にコーチングを併用して、親の自分軸を整えながら子育てを応援する講座を企画・運営。

グレーゾーンとは

黒から白へのグラデーションを描いた時、黒でもないけど白でもない、濃いグレーから淡いグレーまでの曖昧な部分を”発達”になぞらえて表現したのがグレーゾーンです。また、物事は白か黒かだけではなく、さまざまな可能性があることから、最近はパステルゾーンと表現する人もいます。

グレーゾーンは障害などのような診断名ではなく、明確な定義はありません。

医療機関では発達検査などをした上で、「発達の凹凸や偏りがありますが(ASD、ADHDなどの)診断がつくほどではありませんね。いわゆるグレーゾーンです」といった表現をします。

つまり、グレーゾーンは診断基準を満たさないけれど特性があるということ。診断はつかなくとも何らかの支援や配慮が必要な状態と考えてよいでしょう。

グレーゾーンでも病院へ行くべき?

わが子のことはよく分かっていても、その子が同年齢の子たちの中でどのような位置にいるのかは分かりづらいものです。

親は「発達障害の診断を受けるほどではないだろうな」「おそらくグレーゾーンだろうな」と思っていても客観的にみると「かなり偏っている」「診断レベル」という場合があれば、「他人の目から見ても検査をしても凸凹ですらない」という場合もあります

もし、親または本人が「どのくらいの凸凹なのか、はっきりさせたい」「どんな所が得意で、どんな所に困難を持っているのか知りたい」と思うのであれば受診をしてみるのもよいでしょう。発達検査をすることで凸凹の度合いが見え、医師や心理師のアドバイスを受けることができます。

また、子どもはある程度の年齢になると病院で受診することに対して何かを察知することがあります。必ずしも「受診すべき」ということはありませんので、子どもの気持ちも考えながら検討してみてくださいね。

発達障害のグレーゾーン

ひとことで発達障害といってもさまざまな診断があります。グレーゾーンの子の場合、下記のような傾向がありながらも診断に至るほど特性が強くないと言うことになります。

また、下記の発達障害は単独でみられることもあれば、重複していることもあり、特性にはそれぞれ「強弱」があります。

自閉症スペクトラム(ASD)

強いこだわり・臨機応変な対人関係が苦手・コミュニケーションが取りづらい・細部にこだわらず全体を見る力が弱い・実行機能(ものごとを順序立てて考える力)が弱い。

注意欠如・多動症(ADHD)

不注意、多動性・衝動性がある。※体の多動性がなく、不注意だけだとADD(不注意優勢型)と呼ばれる。

学習障害・限局性学習症(LD)

読み・書き・計算・推論など、特定の分野に本人の努力では補えない、極端な苦手さがある。

上記以外にも、マヒなどの運動障害がないにも関わらず、ボールを蹴ったり、字を書いたりすることなどに困難がある発達性強調運動症(DCD)があります。

知的障害のグレーゾーン

上記の発達障害は、知的障害を伴うこともあれば伴わないこともあります。

知的障害とは、「知的能力(IQ)が70未満」「日常生活や社会生活への適応能力が低い」「発達期(18歳以下)に生じている」などの基準によって生活に困難があり、支援が必要な状態のことです。

知能はIQの数値で以下のように分類されます。

知的障害の重症度(IQ)

  • ~85:標準知能
  • 70~84:境界線知能 
  • 50~69:軽度知的障害
  • 36~49:中度知的障害
  • 20~35:重度知的障害
  • 19以下:最重度知的障害
  • ※医療機関によって基準となる数値が違う場合があります

知的障害の場合、知能検査でIQの数値が出るため、「知的障害のグレーゾーン」という言い方はあまりしません。

ですが、あえて言えば、知的障害と標準知能の間にある「境界線知能」がグレーゾーンと考えることができ、「普通級か支援級か」と多くの保護者が迷うのも「境界線知能」の子の場合です。

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グレーゾーンの子の特徴や困りごと

グレーゾーンは診断がないので、特徴や行動に定義はありません。ただ、保護者が「うちの子はグレーゾーンかもしれない」と感じる行動には下記のようなことがあります。

小学校低学年の特徴や困りごと

小学校低学年のグレーゾーンの子は日々の生活の中で次のような言動を見せることがあります。

【小学校低学年】特徴や生活面での困りごと

  • 生活習慣を身に付けるまでに時間がかかる
  • できることとできないことの差が大きい
  • 似たようなことでも、できることとできないことがある
  • 独特のこだわりや儀式的な行動をする
  • できないわけではないが、毎回指示や説明が必要
  • 言葉や行動が達者なだけに、わざと間違えたり、怠けたりしているように見えてしまう

【小学校低学年】特徴や学習面での困りごと

  • 支援級に行くほどではないが普通級では周囲のペースに合わせられない
  • 支援級では浮きこぼれ(吹きこぼれ)、普通級では落ちこぼれる
  • 支援級ではできることが多いので、ほかの子のお世話係の役割を担わされたり、ほかに手がかかる子がいると放っておかれたりする
  • 普通級では、ほかの子の手を借りなければいけなかったり、さまざまな活動をこなしきれず叱責の対象になったりして自己肯定感が下がる/li>
  • 授業中に当てられていないのに答えを言ってしまう
  • 授業中に立ち歩いたり、落ち着かずソワソワしたりして注意されることが多い
  • 入学当時は周囲についていけていたが、気づいたときには置いてけぼりになっている
  • 常に全力で頑張らなくてはいけなくなり、疲弊してしまう
  • 周囲から「できない子」「怒られて当たり前の子」という目で見られて、いじめやからかいの対象となる

小学校高学年の特徴や困りごと

高学年になってくると思春期ならではの困りごとも出てきます。

【小学校高学年】生活面での特徴や困り事

  • 周囲の目を気にせず、身だしなみに気を配ることがない
  • 精神的に幼さが残る子が多いため、思春期に差し掛かっているクラスメイトとのズレがでてくる
  • 「群れて元気に遊ぶ人間関係」から「精神的な結びつきや会話で深まる人間関係」への移行についていけない
  • コミュニケーションや人間関係の苦手さゆえ、ほかの子の言っていることがよくわからず、孤立したりいじめの対象になりやすい
  • 自分が周囲と何となく違うという違和感があるものの、うまく表現できなくて相談できない
  • 周囲のズレを感じていてもプライドがあるので無理に合わせようとして疲れる
  • 視野が狭く興味が限定されていて、社会のルールの習得が遅い
  • 応用が効かず、場にあった行動がとれない

【小学校高学年】学習面での特徴や困り事

  • 小学3年生ごろから学習面での苦手さが表面化する
  • 画数の多い漢字が増えたり教科書の文字が小さくなったり、ノートの罫線も細くなるので板書や読みの苦手さが顕著になる
  • 低学年の頃はできていたため、周囲から「努力が足りない」と言われてしまう
  • 周囲と少しずつ差が出てくるが、本人も「もっと頑張ればできるはず」と思ってしまい、限界に気づけない

小学2年ごろまでは、教科書の絵や文字を見れば分かるような内容が多いが、3年生以降は空間認知(見えていないことを想像する)力が必要になってくるため、ASD傾向がある子にとっては辛い場面が出てくるようになります。

【中学生】生活面での特徴と困り事

中学生になると周囲との差も小学生の頃よりも明らかになっていきます。

【中学生】生活面での特徴や困り事

  • 考え方や行動が幼いが生活年齢としての思春期は来るのでアンバランスさが目につく
  • できないことがさらに増え、体の成長とともに親も違和感を感じやすい
  • 小学校時代からの生活の変化に順応できない子も多く、不登校やいじめのターゲットになりやすい
  • 友達とのズレがますます大きくなり、孤立することがある
  • 「中学生」と言われることや制服を着ることで、切り替えしやすくなり規律正しく一気に成長する場合もある
  • 規範意識が高いので、礼儀正しく言葉遣いも丁寧である反面、凹凸が目立ち、つかみどころのない人と表現されることもある

【中学生】学習面での特徴や困り事

  • それまでの積み重ねによってかなり差が出る
  • 興味、関心によって得意・不得意が分かれる
  • 知能には問題がなくても、対人や関係や課外活動(部活動や委員会)に苦手さがあり、学習に影響が出てしまうことがある
  • 計画を立てたり優先順位をつける力(実行機能)が弱いため、テスト勉強などは何から手をつけていいのかわからない

中学時代は、これまでグレーゾーンとされてきた子でも改めて「普通級なのか」「障害の枠へ入るのか」を再度考える分かれ目のタイミングになります。そのため、小学校までは普通級でも支援級に移るという子が出てきます。

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グレーゾーンの子育てへの支援

グレーゾーンは、確定診断がないため「療育手帳」「精神障害者手帳」を取得することはできません(※)。

ただし、児童発達支援・放課後等デイサービスは、診断がなくても特性に応じて受給者証を取得できる場合もあります。市町村の福祉課の窓口に相談をしてみましょう。

※二次障害として精神障害を患っている場合など、手帳取得の基準を満たすケースもあります。市町村の児童相談所などに相談を

学校へ合理的配慮をお願いする場合

学校では、診断がない場合でも必要に応じて合理的配慮をしてもらえることになっています(発達障害者支援法の第5条 第3項)。

ただし、合理的配慮を教師が理解していないこともあり、児童・生徒側から希望した場合に快く配慮してもらえる場合と、「特別扱いはできない」「甘え」などの理由で拒否をされる可能性もあります。

学校の方針や教師との関係性によって対応が異なるほか、依頼する内容やタイミング、言葉の選び方によって結果が違ってくるケースもあります。学校には特別支援コーディネイターがいるはずなので、同席してもらいながら教師としっかり話し合いましょう。

病院で「グレーゾーン」と言われているのであれば、そのことも伝えた方がより理解してもらいやすくなります。感謝の気持ちを伝えながら、「無理のない範囲で結構ですので…」と、気を付けて欲しいところを伝えましょう。

また、グレーゾーンの子の中には、学校ではいつも注意をされて、連絡帳にできないことがたくさん書かれてしまう子もいます。親の目から見ると、その子にもいい所はたくさんあるのに「家庭でも、しっかり指導してください」と言われてしまうと落ち込みますよね。

合理的配慮をお願いする際には、ぜひそんな子どものいい面、出来ることも学校側へ伝え、小さなことでもほめてあげて欲しいことをお願いしてみてください。家庭も子どもに対して真摯に取り組んでいる姿勢を見せましょう。

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発達障害傾向があると言われたことがあったり、「うちの子はグレーゾーンなのかしら」と思っている保護者にとって本格的な集団生活が始まる小学校は不安がいっぱいなのでは.....

グレーゾーンの子育てのヒント

「グレーゾーンということは、黒(発達障害)ではない」「定型発達の子と同じ」と考えていると、本人に大きな負担を強いることになってしまいます。要求が高くなったり、「がんばればできるはず」と苦手の克服を強要したりすることになりかねません。

グレーゾーンの子を育てる上で壁にぶつかったとき、私がおすすめするのは「発達障害の子どもに有効な育て方を実践すること」です。

近年、厚生労働省でも推奨するようになった「ペアレント・トレーニング」では、子どもを変えるのではなく、親の対応を変えることを目標としています。発達障害に特化していると思われがちですが、どんな子どもに対しても有効です。

私も講師として100人以上の保護者・支援者の方に実施してきましたが、「定型発達のきょうだい児にも同じ対応をしたら、親子関係がとても良くなった」という感想の声をよく聞きます。

「ペアレント・トレーニング」では子どもの良い所を見つけてほめることや、わかりやすい指示や伝え方、注目と計画的無視を必要に応じて使い、良い行動を増やす方法を学びます。子育ての基本ともいえる手法は、発達障害の有無に関係なく、子どもの自己肯定感を高めます。

ペアレント・トレーニング実践例

では、「ペアレント・トレーニング」を用いた子育て方法をよくある子育ての悩みにあてはめて紹介します。

お悩み

うちの子は物の管理ができません。部屋はいつも足の踏み場もなく、ちらかっています。片付けさせると出来るのですが、片付けの習慣が身に付きません。ゲームばかりして、宿題もなかなか手をつけません。やっと宿題をやる気になってもまず部屋の片づけから、となります。いつも母親が手伝わなければ片付けも宿題もできません。

「手伝わないと片付けも宿題もできない」という表現を、「手伝えば片付けられる」「手伝えば宿題ができる」という風に、「~すればできる」という表現に変換しましょう。

また、手伝いが必要ということは、お子さんの目標をもっと下げて「机の周りだけは自分でする」など、ポイントを絞るといいでしょう。部屋全体を常にきれいに保つのは難しいものです。

また、物がありすぎるのであれば、増やさない工夫をしましょう。相談して使わないものはマメに捨て、大切なものだけを残す中で、不要なものは処分することも学べます。

時間の使い方のルールを決める、片付いた状態の写真を貼ってモデルとするなど視覚的な支援も良いかも知れません。

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親を不幸にしようと思って問題行動を起こす子はいません。 周囲を困らせる子は、それ以上に本人が困っているのです。

子どもが困っていることに気付いても、親はどうしたらいいのかわからない。それはいつ、誰にでも起こることです。価値観がどんどん変わる現代は、自分の親とも意見が合わないことも多いものです。

発達に関しては、ここ20年ほどでさまざまな研究が進んでいます。自分の今までの常識が、当たり前ではなくなってきています。多分、あなたの知らないことがまだまだたくさんあるはずです。

「育て方が悪い」
「もっと〇〇しないとダメだ」
「甘やかすな」

そんな心無い言葉に傷つけられてきた方もいらっしゃるでしょう。

子どものことを口にすることで、自分や子どもを否定するような気持ちになる怖さがあるかも知れません。でもそれ以上に、今まで頑張ってきたあなたを肯定してくれる人は、たくさんいます。

どうか一人で抱え込まずに、誰かに相談してください。あなたと同じ悩みを持っている人や、同じ経験をした人がたくさんいます。 ほんの少しの勇気が、親子が笑顔で人生を歩んでいく最初の一歩になるはずです

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冨樫 ちはる

自閉症スペクトラム支援士、ABAセラピスト、保育士、子育てコーチ。公立小学校で相談員として勤務中。「発達凸凹応援団ワン・シード」主宰。発達凸凹の良い所を見つけて伸ばす「ペアレントトレーニング」にコーチングを併用して、親の自分軸を整えながら子育てを応援する講座を企画・運営。

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