兄弟で不登校になる理由と親が心がけたい対応とは【対談:不登校支援塾長×児童精神科医】
子どもひとりが不登校になり悩んでいたら、いつの間にか兄弟姉妹も学校に行かなくなり…。育て方のせい?この先どうなるの?と不安がめぐる中、「兄弟(姉妹)の不登校」について不登校支援塾長の長澤啓さんと児童精神科医の三木崇弘さんが語ります。
兄弟で不登校になのは親のせいじゃない
「学習支援塾ビーンズ」で不登校、ひきこもりの復学支援に携わっている塾長の長澤啓さん。兄弟姉妹で不登校中という家庭の支援も行ってきた彼は、多くの親が抱えている「子ども達が不登校になったのは自分のせい、私の育て方のせいかもしれない」という罪悪感に対して「自分を責めないで欲しい」と話します。
「そもそも、兄弟のどちらかが不登校になり、その後、もうひとりの子も不登校になったとき。その原因は家庭にはありません。大前提として『学校が楽しくない!』という思いが、それぞれの子の中にあり、原因は学校生活にあります。
そして『学校が楽しくないからどうしようかな…』と考えたときに、家の中に不登校中の兄弟(姉妹)がいることで、不登校という選択肢が身近になります」(長澤さん)
あくまでも、兄弟姉妹の不登校は、不登校へのトリガーに過ぎず、原因は学校にあると話す長澤さんは、次のように続けます。
「不登校になる原因が学校にあるとしたら、親としてはどうしようもないですよね。親は『学校が楽しくない』という子どもの思いを変えることはできませんからね」(長澤さん)
また、児童精神科医の三木崇弘さんは、新型コロナウィルスによる社会の変化が不登校のきっかけになったケースも見てきました。
「以前は、つらくても何とかがんばって学校に行っていた子が、ふと気づくんですよ。『お父さんもお母さんも出勤してたから学校に行ってたけど、(コロナの影響で)お父さんは仕事が休みになって、お母さんはリモートワークで、お兄ちゃんは不登校で、なんで僕だけが学校行かないかんの?』と学校に行く理由が分からなくなってしまう。
それでも、元々『学校が楽しい』『学校でやりたい事がある』という子は今まで通り登校するんですよ。ただ、本当は無理をしていたり、参っていたりした子の中には行けなくなる子もいましたね。
ただし、例外として子どもの気力が失われて学校に行けない(がんばれなくなる)こともあれば、不登校以前に家庭から逃げるために学校へ行っている場合もあります」(三木さん)
子どもが自分を責めても否定はしない
また、不登校中の子の中には「社会になじめない自分はダメだ」と自己否定をする気持ちが強くなっている子も少なくありません。不登校中の自分を追うように(実際は違うのですが)兄弟姉妹も不登校になった姿に「家族をこんな風にしてしまったのは自分のせいだ」と、より自分を責めてしまう子がいても不思議ではありません。
「兄弟が不登校になったからということに限りませんが、僕が出会ってきた家庭の中にも親子ゲンカの最中に、不登校中の子が『結局、僕のせいでこの家庭はメチャクチャになったんでしょう?』みたいなことを言って、親がその言葉に傷ついてしまうケースを何組も見てきました」(長澤さん)
子どもを大切に思う親としては、子どもの悲痛な思いに対して「あなたは悪くない」と反射的に言いそうになってしまいますが、長澤さんは子どもの発言を否定するのはおすすめしません。
「理屈が通っていることや正論を言えば子どもが納得できるかというと、そうではありません。逆に、自分がいかにダメなのかということを子ども自身が立証しようと意固地になってしまい、不毛な親子げんかに発展してしまいがちです。不登校中の子は、自己否定をしがちです。親は子どもが自己否定をしたら、そのことを否定するのではなく、自己否定をする子どもをそのまま受け止めて、認めてあげることで愛情を示してほしいと思います」(長澤さん)
子どもへの返答に困ったら「あ、そう」でいい
三木さんも長澤さんの意見に大きくうなずきます。
「僕も基本的に子どもが言っていることを打ち返す(言い返す)ことはしませんし、物事の是非や正しさを争う意味は無いなと考えています。少し冷たい言い方に聞こえるかもしれませんが、子どもが思っていることは外から操作することはできません。だから、もし子どもに対してどう返答したらいいのか困ったら『あぁ、そう』『ふーん』『へぇ』でいいと思います。
ただ、僕の場合は、その場で『うーん』と悩むことが多いんですよ。『僕はそんなことはないと思うんやけど、うーん。でも君はそう思うんか、うーん…』とひとりごとのようにつぶやく。子どもに言い返すことはしなくても『そうは思わないよ』というメッセージを伝えるようにしています」(三木さん)
親ができる最良の対応策は楽しく暮らすこと
もうひとつ、否定せずに相手(子ども)を認める方法として三木さんが教えてくれたのは、「その子といて楽しそうにすること」です。
「僕はよく接客業のお姉さんたちを例に挙げるんですが、彼女達の一番の才能はお客さんといるときに楽しそうにすることだと思うんです。どんなことを言っていても楽しそうにしていますよね。日常生活の中でも学生時代にやたらとモテる子、いろいろ失敗してんのに許される子の共通点って、とにかく本人が楽しそうに暮らしていること。やっぱり一緒にいるときに楽しそうにしてることは、相手に対する一番の承認なんですよね」(三木さん)
ただ、楽しそうにすることは、悩みを抱えている保護者にとって具体的な行動よりも難しいかもしれません。
「僕も深刻な状況の親御さんにこそ『お父さんやお母さんがしっかり休んでくださいね』と言うんですが、『私の話はいいんです』とげっそりした顔でおっしゃるんです。でも、親御さんが自分をケアして自身のコンディションを整えることが結果的に子どものコンディションを整えることになるんです。自分のことを考えることに罪悪感を持たないで欲しいです」(長澤さん)
見習うべきはヤクルトスワローズ!?
診療時には、当然医師として具体的な見立てや対処もアドバイスしている三木さんも「どんなに正しい対応も、調子が悪いとうまく出来ない」と話します。
「僕は、ぜひヤクルトスワローズのピッチャーの運用を見て下さいと言っているんです。去年、高津監督が就任してからスワローズはピッチャーにしっかり休みを取らせているんですよね。そうすると、『まぁまぁ』だと思われていたピッチャーが結構良いピッチングをするんですよ。一方、どんなにいいピッチャーでもヘトヘトだと打たれてしまうこともある。『能力やポテンシャルがあること』と『それをしっかり発揮実行できる』という関係は、親御さんの例だと『正しい対応を知っていること』と『それがちゃんとできる』の関係だということができます」(三木さん)
注意が必要なのは片方が復学したとき
兄弟姉妹で不登校となると、一緒に過ごす時間が増えて兄弟げんかが増えるようなことはないのでしょうか?
「僕が見てきた限り、兄弟姉妹がどちらも不登校のときは、意外と兄弟同士の関係性が良かったりするんですよね。ただ、注意してほしいのは、兄弟姉妹のどちらかが復学したときです」(長澤さん)
例えば、長子が高校進学をきっかけに学校に通えるようになったとき、親は「この子はもう大丈夫かも」と、ひとつ肩の荷を下ろせそうなものですが、実際には家庭内が大荒れになるケースが多いそう。
「不登校を継続中の弟(妹)からすると『一緒だと思っていたお兄ちゃん(お姉ちゃん)が、楽しそうに学校に行っている』『お父さんもお母さんも、学校に通っていることをすごく喜んでる。え?じゃあ僕は?』と混乱してしまうんですよね。一方、兄(姉)としても自分が学校に戻ったことを弟(妹)がごにょごにょ言っていることにストレスを感じていて、場合によっては不登校に戻ってしまう可能性もあります。
もちろん兄弟は別の人間なので個々として見る必要はありますが、家族はお互いに影響し合う関係性の集まりとして動いています。だから、兄弟の状況が変わったら、『家族の状況がどうのように変化してきていて、どう動くべきか』という俯瞰の視点を持つことも必要です」(長澤さん)
子どもたちそれぞれの生き方や考え方は尊重しつつも、家族は繋がって、影響し合っていることを忘れてはいけないようです。
個別の時間を作ることで兄弟の対立を避ける
ですが、兄弟姉妹が同時に復学する可能性は低いはず。親は具体的にはどのように動けばよいのでしょうか?
「兄弟それぞれに個別の時間をつくることをお勧めしています。今までお母さん、お父さんがどっちの子にもゆるっと、ふわっと対応をしていたとしたら、『お母さんは弟(妹)に対してこの時間、個別に時間をとる』『お父さんは兄(姉)とふたりだけの時間を絶対につくる』など、夫婦で相談して個別の対応をプランニングすると良いかもしれません」(長澤さん)
状況が変わるときというのは、必ず「あいつだけいい思いをしている」という感情が兄弟間に生まれてしまうそう。だからこそ、ほかの兄弟姉妹をシャットアウトした個別の時間を作り、子どもがそれぞれ「お父さん(お母さん)は私のことが大事なのね」と安心できることで「家族の変化」を乗り越えることができそうです。
「見立てを間違ってもいいんです。ただ、手を打って、反応を見て、検証することをして欲しいですね。そもそも自分の子育てに疑いを持って悩んでいるというだけでも、我々の立場からすると安心できる親御さんだなと思います。僕らがいくら子どもの心の専門家でも、親御さんの方がその子のことに絶対詳しいし、その子のことを想っています。自分のコンディションを整えることも大切にしながら、親としての自信を持って過ごしてください」(三木さん)
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エディター、ライター、環境アレルギーアドバイザー。新聞社勤務を経て、女性のライフスタイルや医療、金融、教育、福祉関連の書籍・雑誌・Webサイト記事の編集・執筆を手掛ける。プライベートでは2児の母。