いじめ、ヤングケアラー、性犯罪etc…子どもを取り巻く社会問題に「こども家庭庁」はどんな役割を果たすのか
コロナ禍によって虐待や貧困、いじめ、性犯罪など、子どもを取り巻く社会問題は深刻さを増しています。またヤングケアラーや、養護施設・里親の元で育った若者たちの自立など、最近注目され始めた問題もあります。
このような中で、2022年2月にこども家庭庁の設置法案が可決されました。こども家庭庁は、子どもたちを取り巻く社会の中で、どのような役割を担うのでしょうか。この記事では、こども家庭庁新設の経緯やその役割、課題について解説します。
こども家庭庁とは
「こども家庭庁」発足の背景
子どもに関する行政の窓口が複数の省庁にわかれていることが、「こども家庭庁」新設の背景にあります。
例えば幼稚園は文部科学省、保育園は厚生労働省の管轄ですが、幼稚園と保育園の両方の機能を備えたこども園は内閣府の管轄です。また少年犯罪の対策や、子どもへの性犯罪の防止策などは警察庁が取り扱ってきました。
このような縦割り行政を解消し、子どもに関する政策を行う組織を一元化すること。それによって、全ての親子に支援の手を届けることが、こども家庭庁の目指すところです。
「こども家庭庁」法案成立までの経緯
「こども家庭庁」設置法案は、2022年2月25日に閣議決定されました。これを受け、2023年4月1日に内閣府の外局として発足することになります。
実は、こども家庭庁の構想は、実は民主党政権時代から始まっていました。しかし「新しい省庁をつくるには時間がかかる」などとして度々見送られ、ようやく設置に向けて具体的に検討され始めたのが、菅義偉内閣下の2021年。
さらに自由民主党総裁選でこども庁設置に意欲を示していた岸田文雄氏が総裁に当選したことで、その動きが加速し、2022年にようやく法案が成立しました。
成立するまでに、実に10年近くかかっているのです。
名称が「こども家庭庁」になったわけ
設置が改めて具体的に検討され始めた菅内閣のころ、名称は「こども庁」となっていました。それが“家庭”の文字を加えて「こども家庭庁」に変更されたのは、次のような理由があります。
- 子どもに対する支援だけでなく、子どもを育てる「家庭」にも支援が必要なため
- 子育てに対する「家庭」の役割を重視するため
子どもが健やかに育つためには、家庭の状況が安定している必要があります。
しかし家庭において虐待を受けている子どもたち、あるいは受けていた人たちにとっては、“家庭”という言葉は重く、受け入れ難いものであるという指摘もされています。
こども家庭庁の役割
ではこども家庭庁は、これからの日本社会において、どのように機能していくのでしょう。
こども家庭庁は、大きく分けて次の3つの部門にわけられます。
- 企画立案・総合調整部門
- 成育部門
- 支援部門
具体的に各部門がどのような役割を担っていくのかを見ていきましょう。
企画立案・総合調整部門
「企画立案・総合調整部門」は、子ども政策の司令塔として、これまで各省庁が別々に行ってきた子どもに関する政策を集約・総合調整する役割を担う部門です。
基本方針によると、子どもや若者に実際に意見を聞いたうえで、こども政策に関連する大綱を作成・推進していくとされています。
またデジタル庁などと連携し、教育・保健・福祉などの情報を子どもごとに集約。データベース化するための整備を行います。
成育部門
「成育部門」は、子どもの健康かつ安心・安全な成長に関した事務を担当する部門です。
具体的には、文部科学省と協働し、幼稚園・保育園・こども園で共通となる教育や保育内容の基準を策定するとしています。
また子どもの安全を保証するため、子どもと関わる人の犯罪歴をチェックする「日本版DBS」や、子どもの死亡に関する経緯を検証し、再発防止策を講じる「CDR(チャイルド・デス・レビュー)」の導入を検討するようです。
その他にも成育部門では、妊娠・出産の支援や不登校の子どもの支援を含めたサードプレイス(NPO団体、児童館、こども食堂など)についても扱うとされています。
支援部門
「支援部門」は、さまざまな困難を抱えた子どもや若者が、その状況から抜け出すことを支援していく部門です。
具体的には、いじめや不登校、虐待や貧困、ひとり親世帯、障がい児などに対するケアを担当します。
また、近年の社会問題となっているヤングケアラーや、施設・里親の元で育った18歳以上の若者への支援についても行なっていくとしています。
こども家庭庁では、このような年齢や制度の壁を見直し、一元化するために、子ども・若者支援地域協議会(現内閣府所管)と要保護児童対策地域協議会(現厚生労働省所管)を連携していく予定です。
こども家庭庁の課題や問題点
2023年の4月には新設予定のこども家庭庁ですが、さまざまな課題も残されています。
親に従属する存在のまま
ひとつ目は、「本当に子どもたちに対して必要な支援をしていけるのかどうか」ということです。
前述の通り、もともとの構想では「こども庁」という名称だったものを、自民党の保守派や公明党の意見から「こども家庭庁」に変更しました。「子どもの健やかな成育には家庭の働きが重要であるため」というのがその理由のひとつです。
しかしこれには、「子どもは家庭内で育てられるべき」といった考えや、「子どもは親に従属する存在のまま」という考え方を認めて助長するのではないかという懸念もあります。
例えば家庭内で虐待を受けた子どもが、児童相談所で一度は保護されても、親が迎えに来たら、「子どもは結局、家庭にいるのがいいから」と家へ戻されてしまうというケースが後を断ちません。
子どもは親の従属する存在ではなく、別の人格と人権を持った個人であるという前提がなければ、現在抱えているこども関連の問題解決は難しいと言えるでしょう。
ひとつの庁で所管できるのか
ふたつ目は、「今までいくつかの省庁で所管していた業務を、子ども家庭庁だけで担えるのか」という問題です。
現に幼児教育やいじめ対策に関しては、文部科学省がその所管を譲らず、縦割り行政の完全な解消には至っていません。
こども家庭庁は、こども政策の司令塔として各省庁に対して勧告権を持ちますが、実際にはこれまで担当していた省庁と連携を取りながら政策をすすめていくことになるでしょう。
財源が確保できるのか
最後に、「財源確保」の問題があります。
こども家庭庁の財源をどうするのかということについて、2022年3月時点では、まだはっきりとした結論は出ていません。
日本が子育て関連の政策にかけている支出は、GDP(国内総生産)の約1.9%です。これは、イギリスやスウェーデンの3%に比べるとかなり低い数値と言えます。
消費税から捻出する、社会保障費に上乗せするなどの意見はあるものの、決定には至っておらず、課題として残されたままとなっています。
こども家庭庁は、別々の省庁で取り扱ってきた子ども関連の政策施行を一元化するための組織です。
こども家庭庁が新設されることで、子どもが誕生してから成人するまで途切れることなくサポートできる体制が作れたり、今まで制度の対象外になり支援が行き届いていなかった子どもたちを救えたりするメリットがあります。
子どもに関わる問題を集約し、管理・支援できる組織ができるのは、画期的なことだといえるでしょう。
さまざまな課題や懸念は残されていますが、こども家庭庁の新設により、子どもたちが伸び伸びと過ごすことのできる社会へと変わっていくことを願いたいですね。
<参考資料>
・内閣官房ホームページ「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針について」(令和3年12月21日閣議決定)
・一般社団法人 平和政策研究所「こども庁」創設をめぐる課題と家族の視点
・NHK「【詳しく】みえてきた「こども家庭庁」 どんな組織に?」
・朝日新聞デジタル「こども家庭庁」設置方針は決まっても財源が…安定的な確保見えず
・日本経済新聞「こども家庭庁、23年4月発足へ 他省庁に勧告権」
・プレジデントオンライン「子ども家庭庁」は最悪なネーミング…親の無理心中に巻き込まれる子どもが減らないワケ
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