現代のソクラテス
2019.12.24

聴覚障がい者の日常を豊かにする“音の存在” 次世代デバイスから学ぶインクルーシブな社会

教育に関わることに独自のアプローチで取り組む人に焦点を当てる「現代のソクラテス」。今回、話を伺ったのは、人懐っこい笑顔と柔和な雰囲気が印象的な本多達也さん。聴覚障がい者でも振動と光で音を感じられるデバイス「Ontenna(オンテナ)」の研究開発を行い、世界から注目を集めています。そんな彼に、ろう学校からの関心も高い「Ontenna」が誕生した背景、これからの教育について話を聞きました。

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本多達也さん富士通株式会社 Ontennaプロジェクトリーダー

1990年8月20日、香川県生まれ。公立はこだて未来大学に在学中、聴覚障がい者と出会ったことで研究の道を歩み始める。2014年に経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が主催する「未踏プロジェクト」にてスーパークリエータに認定。2016年に富士通株式会社へ入社し、翌年には世界有数の経済誌「フォーブス」が選出する「Forbes 30 Under 30 Asia 2017」に選出された。プロジェクトリーダーを務める「Ontenna」が2019年度グッドデザイン金賞を受賞

聴覚障がい者の音に対する思いと共に生まれた「Ontenna」

今年8月に発売され、次世代デバイスとして注目を集める「Ontenna」。約60~90dBの音を256段階の振動と光の強さで表現し、音が鳴っていることが分かるだけでなく、音のリズムやパターン、大きさを感じることが可能。現在、ネットでの購入ができるほか、全国のろう学校で導入され、多くの子どもたちの学びに活用されています。

 

髪の毛や襟などに身に付け、耳が聞こえない人でも振動と光によって音の特徴を体感できます。

 

そんな「Ontenna」を約7年という年月をかけて生み出したのが本多達也さん。現在は全国を巡り、実際に導入しているろう学校で子どもたちの反応や使用感などを見て回っているそう。

 

「『Ontenna』を身に付けると、それまで声を発すること、話すことを躊躇していた子でも声を出してみたり、近くにある太鼓を叩いてみたり、大人が使うことをわざわざ促さなくても、自然と自分から音を発して“音の存在”を感じようとするんです。打楽器を強く叩いてみたり、弱く叩いてみたりして、いろんな音を体感しよう、音を楽しもうとしている子どもたちの反応を見ているとうれしくなります」

 

自分の声で振動することを確認したり、初めて感じる音の存在を楽しむ子どもたち

 

 

また、聴覚障がい者について「音が聞こえないからこそ人一倍音に敏感。彼らにしかない感性があると思います」と本多さん。「Ontenna」が商品になるまでには、100人以上の人が関わり、さまざまな専門家たちの力を借りてきたそうですが、その中で大切にしてきたのが当事者である聴覚障がい者の声でした。

 

「そもそも、『Ontenna』開発のきっかけは、大学で聴覚障がい者の方と出会ったことです。大学内で手話サークルを立ち上げたり、聴覚障がい者の方々とNPO法人を立ち上げたり、一緒に過ごすなかで音が聞こえない不便さを知りました。例えば、掃除機をかけていてるのを見ていたら、彼らはコンセントが抜けても音が鳴っていないことが分からないからそのままかけ続けていたんです。彼らの普段の生活に寄り添ったデバイスを作れないだろうかと思いました」

 

そこで、視覚障がい者向けのUI(ユーザインタフェース)を手掛ける岡本誠教授の研究室へ参加。「Ontenna」のプロトタイプを作っては、聴覚障がい者からユーザーとしてのフィードバックをもらい、さらに研究に没頭する日々を何年も続けました。

 

「フィードバックでは、とにかく何でも言ってもらって彼らの意見は絶対に否定しないというルールで話を聞きました」。その姿勢は今も変わらず、「Ontenna」が商品化した今も耳を傾け続けています。

 

「今春には、大学生などの若い子たちとワークショップを開き、彼らに聴覚障がい者の人と2人1組になって『Ontenna』をよりバージョンアップさせるためのアイデアを出し合ってもらいました。今後、『Ontenna』が音を学習していくことでパーソナライズ化させていくことも検討中です」。

 

子どもの頃は、「地元の祭りが好きな普通の子どもでした」と話す本多さん

 

誰もが一緒に音を体感する時間

聴覚障がい者がいなければ生まれなかったかもしれない発明品「Ontenna」。しかし、音を振動で体感するという体験は、聴覚障がい者たちだけのものではありません。耳が聞こえなくても、聞こえても平等にできる体験です。

 

「以前、渋谷の駅前で『Ontenna』を装着してタップダンスを鑑賞するイベントを行ったんです。聴覚障がい者も健聴者もALS患者の方も一緒に光と振動を体感し、楽しさを共有するすばらしい光景でした」

 

「『Ontenna』による音の体感は、ほかにもさまざまな可能性を秘めています。例えば、映画鑑賞の際、劇中の衝撃に合わせて『Ontenna』を振動させれば臨場感のある楽しみ方ができ、アイドルコンサートで曲に合わせて観客が装着する『Ontenna』が一斉に光るように設定すれば一体感のある演出を楽しむことができます」

 

渋谷駅前で行われたタップイベントの様子

 

また、以前、ろう学校の高校生を対象に「Ontenna」をつけて狂言を鑑賞する会を行なったこともあるのだそう。「例えば、狂言師が足で床を踏む音の強弱を「Ontenna」で感じるなど、日本の伝統文化の新しい楽しみ方になりました」

 

さらに、今年8月に放送された「24時間テレビ」では、ろう学校の子どもたちが浅田真央さんとともにタップダンスに挑戦。その練習の過程で「Ontenna」が活用されました。音を感じて受け取るだけでなく、自ら音を表現するにまで聴覚障がい者の可能性を広げたのです。

 

振動と光で日常や生活に彩りを添える

このように、多くの人に共通の体験を届け、聴覚障がい者の非日常の達成感をサポートする「Ontenna」ですが、本多さんは「Ontenna」を特別な体験だけのものとはとらえていません。健聴者にとっては身近なもの過ぎて気にも留めていないような日常を彩る音も届けられると考えています。

 

「例えば、夏だったらセミの鳴き声。意識はしていなくても、そんな当たり前にある音も風景の一部じゃないかなと思うんです。もし、「Ontenna」で、セミが『ミンミン』と鳴くリズムを感じてもらうことができたら…。彼らの日常に視覚情報だけではない風景を届けたいですね」

 

本多さんのご両親は、勉強について口うるさいタイプではなく、やりたいことは否定せずに応援してくれたそう

 

最後に、世界的経済誌『フォーブス』で“天才”と称されている本多さんに、これからの教育、子どもたちの可能性について聞いてみました。

 

「プログラミング教育も始まり、発想をかたちにすることができるようになっていく。子どもでも『あったらいいな』と思ったら、自分でかたちにする術を身に付けていきます。子どもたちの想像の翼はどんどん広がっていくと思います」

 

「Ontenna」

27,280円(WEB価格・税込み)購入はコチラから

公式サイトでは、スポーツや文化イベントで活用するシーンを映像で体感することができます。

 

「ソクラテスのたまご」編集部

「ソクラテスのたまご」編集部

教育に関する有識者の皆さまと一緒に、子を持つお父さん・お母さんでもある「ソクラテスのたまご」編集部のメンバーが、子どものために大人が知っておきたいさまざまな情報を発信していきます。

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