フリースクールとは?費用や進路、不登校の子が成長できる理由を元スタッフが解説
不登校の児童・生徒が通う施設というイメージのフリースクール。一般の学校とは異なり、それぞれのペースに合わせて学習や活動ができる子どもの居場所ですが、学校に通えるようになるために通う場所なのでしょうか?フリースクールでの勤務経験がある筆者が、その特徴や子どもの進路、通うための費用といった基本情報とともに、実際の様子やどのように子どもたちと関わっていたのかを紹介します。
目次
フリースクールとは?
フリースクールの位置付けや学校数
日本におけるフリースクールとは、広い意味では「学校以外で学ぶ場、過ごす場」(あるいは「不登校の子どもが通う場」)として認識されています。(フリースクール白書2022より)
文部科学省が平成27年に実施した調査では、フリースクールは全国に474団体・施設あり、NPO法人や個人などが運営しています。活動内容や運営方針は、運営する団体ごとに多様です。
一般的にいう「学校」は、学校教育法第1条で定められた教育機関(幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学および高等専門学校)を指します。フリースクールは、この第1条に定められた「学校」ではなく、学校に在籍しながら、利用する場所です。
フリースクールの3スタイル
本来フリースクールとは、正規の学校としては認可を受けていない学校の総称です。一般的な小・中学校への登校が難しい児童・生徒が通う場所というイメージが強いかもしれませんが、フリースクールには大きく分けて3つのスタイルがあります。
<スタイル①>
不登校の子どもたちの受け皿となるフリースクールで、現在の日本で多くみられるスタイルです。
<スタイル②>
「オルタナティブスクール」と表現されるスクール。欧米の教育運動に触発されたシュタイナー教育など教育理念に従って学校が創設され、1980年代から増え始めました。私立学校として開校しているものもあります。
<スタイル③>
「新しい公立学校を創り出す会」をはじめ、公費を使ってメインストリームとは異なる学校をつくろうという市民運動によりできた学校です。1990年代から増え始めましたが、活動資金などの不足により継続が難しい学校も多いようです。
やはりフリースクールと聞くと頭に浮かべるのは、<スタイル①>ではないでしょうか。そこで、今回の記事の中では、フリースクールの定義を<スタイル➀>の場所という前提で話を進めていきましょう。
一般の学校との違いや特徴は?不登校の子が通うメリット
一人ひとりに合わせたサポートを提供
一般的な「学校」では、文部科学省が示している学習指導要領という教育課程に従って、学習を進めています。これはどの地域で教育を受けても一定水準の教育を受けられるようにするための基準です。
一方で、フリースクールはその一般的な「学校」とは違うため、決められたカリキュラムがありません。各スクールの方針に沿って運営をしており、体験学習やスクールの外での活動を重視したり、通っている子どもたちの課題に合わせたり、それぞれのスクールがカリキュラムを作っています。
そのため、個々に合わせた支援や精神面のサポートがしやすいことが特徴として挙げられます。手厚い対応ができるよう、少人数制であることも多いです。
不登校の子に寄り添う居場所になる
フリースクールに通う子どもたちは、学校に在籍していることがほとんどではありますが、フリースクールに通う目的は学校に戻ることではありません。社会に出た時に生きていけることが目的です。
学校に行けなくなることで、子ども本人はもちろんですが、保護者も悩むことがあるでしょう。不安を感じる子どもにとって、学校に行けないことは悪いことではないと寄り添う存在はとても心強く感じられるでしょう。
もちろん学校だから学べることやできる体験もあります。子どもから「学校へ登校したい」と話が出ることもあります。そんな時でも子どもたちの成長を応援してくれる大人の存在として、フリースクールとの繋がりを大切にしたいですね。
【事例】フリースクールでの過ごし方や学べること
では、実際にフリースクールではどのような活動をしているところだと思いますか? 一例として、筆者が勤務していたスクールを紹介したいと思います。
このスクールは、英語塾が母体になっており、朝から夕方までをフリースクール、夕方から英語塾を運営していました。
生徒数は多いときで5人。在籍校へ通えるようになったり、進学したりなどの事情により、人数は流動的に増減していました。 基本的には、月~金曜の週5日間に開校をしており、それぞれの児童・生徒と相談して登校日数を決め、登校した日は学校の登校日数としてカウントされていました。
授業内容は、各学年・各生徒によって異りますが“卒業後、社会で生きていくための力をつける”という基本方針があり、コミュニケーション・一般常識・基礎学力などを個々の状態に合わせて学んでいきます。
時間割は運動やリラックスなどメンタルケアの要素も取り入れており、教材は学校で使っている教科書を用いたり、学校の先生からいただいたプリントや課題を行う時もありました。
不登校になるきっかけは人それぞれですが、つまづいたところをやり直し、自分の力で生きていけるよう自立していくためのサポートしていく場所だと、フリースクールを位置づけて運営していました。
フリースクールに通う子の進路
中学生や高校生の進路
義務教育期間が終わると、進路について考えると思います。フリースクールに通う子は、毎日同じ時間に通学することへの不安などもあり、柔軟に出席日数を設定できる通信制高校や定時制高校などへ進学するケースが多いです。通信制高校でも、サポート校や高等専修学校と連携している学校などもあり、週1〜5日登校の形式をとっている学校もあります。スポーツや文化活動などに力を入れたい場合や、資格取得や専門技術の取得などそれぞれの目的に合わせて学習を進められることも良い点でしょう。
現在は、エンカレッジスクール(東京都)、フレキシブルスクール(神奈川県)など公立高校でも、不登校経験がある生徒でも入学しやすく、通いやすい学校も増えてきています。
高校を卒業した後は、本人の努力と希望次第で可能性は広がっていきます。大学入試もさまざまな方法があり、自分の得意分野や自分に合った受験方法を選ぶことも可能です。専門学校ではAO入試を導入している学校も多く、意欲などを重視したものになっており、特に学校の種別で不利になることは少ないでしょう。
【事例】日々の小さな目標達成が進学につながる
私が勤めていたスクールでは、子どもたちが何かにチャレンジする姿が見られました。
子どもたちは「遅刻や欠席するときは連絡をする」「〇ページから〇ページまで問題を解く」など自分で設定した小さな目標をクリアをしていくうちに、自分に自信が持てるようになり、「学校へ行ってみたい」「保健室だったら通えるかもしれない」「高校ではがんばりたい」と話すようになっていきました。
フリースクールに通い始めたからといって急に劇的に変化をするのではありません。日々の積み重ねが大きな変化につながり、小・中学校は不登校だった生徒が全日制高校へ進学した例もありました。
また、高校進学へ至るにはフリースクールの力だけではなく保護者や学校の先生の大きなサポートがありました。保護者は見守り続け、学校の先生は、学校の授業や進路などの情報を与え続け、“より良い進路を”と考えてくれていました。
不登校になった理由や思いは人それぞれなので、同じように周囲が支援したからといって同じ結果になるわけではありません。
学校に戻るという結果以外にも、人としゃべることが出来なかった生徒がアルバイトをスタートしたり、病気がちでフリースクールもなかなか来られなかった生徒が自分で設定した登校日数を毎週クリアできるようになったり、様々な結果が生まれました。
フリースクールのスタッフ・保護者・教員が子どものことを考えて動くことが“学校に通うことができる”以外の成長につながっていきました。
フリースクールへの登校は出席扱いになる?
前述したように、学校とは位置付けが違うフリースクールですが、学校や教育委員会との連携を行うことで、フリースクールへの登校が在籍校の出席数に数えられることもあります。
具体的にどのようなことをするか、一例を挙げると
① 出席日数の報告
② 活動内容の報告
などです。フリースクールで活動した時間や、それぞれが取り組んだ課題や活動などを報告することが必要でしょう。各自治体や学校によってその判断基準は異なりますが、出席扱いになるケースが増えてきています。
フリースクールの費用はどれぐらい?
現在は公立校内にフリースクールを開設している自治体もありますが、ここでは市町村が設置したもの以外のフリースクールの費用についてお話しします。
フリースクールにかかる費用の例
- 入学金 平均5万3,000円(入学時 ※)
- 授業料 平均3万3,000円(月額 ※)
- 教材費(副教材やプリントなど)
- 校外学習など、都度かかる費用
※参考:文部科学省 平成27年小・中学校に通っていない義務教育段階の子供が通う民間の団体・施設に関する調査
まず、入学金や月の学費等が必要です。その金額はまちまちですが、その分、少人数制で手厚い対応をしていることやカリキュラムが充実していると言えるでしょう。
また「在籍校に通う」という選択もあるため、月ごとの納入になることが多いです。その点は、塾や習い事に似ているかもしれません。
それぞれの団体や施設により異なりますが、平成27年度の文部科学省の調査によると、フリースクールの授業料の月額平均は3万3,000円、入会金の平均額は5万3,000円となっています。
教材に関しては、学校で使用している教科書やドリルなどを使い、別途副教材やプリントなどの費用がかかる場合もあります。校外学習や調理実習などその時その時でかかる費用は、学校と同じでしょう。
フリースクールの課題や問題点
フリースクールが手厚い対応や多様なカリキュラムを実施し、運営し続けるためには、資金や人材不足という課題があります。フリースクールの運営費は、主に学費や寄付から賄われていますが、学費が高くなると、保護者の経済的負担にもつながり、本当に支援が必要な子どもを支援できなくなってしまいます。
また多くのフリースクールは、それぞれの理念や教育方針を持ち、子どもたちのために運営しています。一方で、教員免許の必要性などこれといった決まりがありません。資格所持者がいれば良いわけではないですが、極端なことをいうと、場所があり、そこに不登校の子どもが通ってきていたら、フリースクールです。問題点や課題を挙げるとすれば、質の維持ということでしょう。
現時点では、その質を証明するものはないですし、その評価基準を設定することによって、各フリースクールの特色が失われることも懸念されます。
少なくとも、どのフリースクールも目の前の子どもたちのために開設しているのは間違いありません。その子どもに合う環境なのかどうか、利用する側がしっかり見極めることが重要です。
教育支援センターやサポート校との違いは?
教育支援センター(適応指導教室)との違い
フリースクールが民間の団体によって運営されているのに対し、教育支援センターは各市町村の教育委員会が開設している施設です。学校外の市の施設など公共の建物の中に設置されていることが多く、以前は適応指導教室という名前で呼ばれていました。
フリースクール同様、センターに登校し学習することができます。市町村が開設しているので、学校との連携体制で、より足並みを揃えた支援が行えます。
また、校内に教育支援センターを設置している学校もあります。学校にはいけるけれど教室には入れないなど、自分のペースに合わせて通学できる場所も増えています。
サポート校との違い
一般的にフリースクールは、小・中学生対象であることが多いですが、近年では、通信制高校やサポート校が中等部という形で、フリースクールを設置することも多くなりました。またフリースクールに、通信制高校に所属する生徒が在籍する場合もあります。
サポート校とは通信制高校に在籍している生徒をサポートする場所です。課題の提出と年に数回のスクーリングが必要な通信制高校ですが、それ以外に日常的な人とのコミュニケーションや協調性、社会性を学ぶ機会を設定するなど、登校し通信制高校の課題を進めながら、学校生活を送ることができます。高等課程の在籍はあくまで通信制高校となり、卒業校は通信制高校となります。
上記のように、フリースクールをはじめ、現在不登校であったり不登校経験があったりする子どもたちをサポートする施設は増えてきました。このほかにも不登校の子どものために特別カリキュラムを組む、学びの多様化学校(不登校特例校)は全国に35校(公立21校、私立14校)あります。
保護者や教員と一緒に未来を考えよう
不登校になるきっかけは本当にさまざまです。大人からすると「なんだそんなことか」と思うこともありました。しかし、「このままではいけない」ことは、児童・生徒本人が誰よりも分かっています。分かっているからつらいのです。
不登校の子どもとその親への支援活動を行う特定非営利活動法人「東京シューレ」の奥地圭子代表は、
学校へ行かないことへの社会の偏見や差別感は解消されず、本人の罪悪感や自責感は助長され、親は本心は登校させたく、子どもは苦しんでいる。
と日本教育行政学会シンポジウムで語っています。
もし、不登校で悩んでいる保護者の方がこの記事を読んでくださっているのであれば、“学校へ行く”という視点から一度離れて、子どもたちが“今”できることを見て、未来に繋げていくことを考えてみてください。
教員やフリースクールのスタッフは、特定の子に一生関わっていくことはできません。親の手からもいつかは離れてしまうことでしょう。そのとき、彼らが自分で生きていける術を身につけているかどうかは、とても大切なことです。
フリースクールは、通うことで学校に行けるようになるとは限りません。しかし、フリースクールは、不登校をきっかけに保護者・教員・スタッフそれぞれが、その子が生きていく上で何が必要なのかを確認し、学校に行けなかったことを成長へとつなげていけるよう協力関係を築く場になると思います。
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専門分野:教育学(美術教育、社会教育、生涯学習) 自治体の事業を教育分野からお手伝いしています。 公立小中、通信制高校、サポート校、フリースクール、保育者養成専門学校での指導経験あり。16年間小学生から留学生までいろいろな児童、生徒と関わってきました。途中大学院へ行ってからは、学校教育と社会教育の繋がりについて研究しています。