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2022.08.24

【対談:音楽家×クリエイター】 失敗を経験に変えて、成長できる子の育て方とは

「失敗するのが嫌だ」「怒られたくない」などの思いから、失敗を怖がる子どもは少なくありません。一方で保護者自身も、「子どもに失敗させたくない」と、つい先回りしてしまうことがあります。しかし、そもそも「失敗」とは何なのでしょうか。また、保護者は、子どもの「失敗」にどう向き合えばよいのでしょうか。東京音楽大学付属高等学校校長の小森輝彦さんとプログラミングアプリ「Springin’(スプリンギン)」開発者の中村俊介さんに語っていただきました。

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話を伺った方々

(写真左)小森輝彦さん東京音楽大学付属高等学校長

日本人初のドイツ宮廷歌手。17年間ドイツに暮らし2012年に帰国。 東京音楽大学、二期会オペラ研修所等で教鞭を執り、2020年より東京音楽大学付属高校長。2019年に初CD「R.シュトラウス歌曲集」が「レコード芸術」準特選盤。


(写真右)中村俊介さんしくみデザイン代表、芸術工学博士

「Springin’」だけでなくAR楽器KAGURAなど直感的で革新的なプロダクトを開発し、アメリカやスペインなど世界各国で30個以上のアワードを獲得している。参加型コンテンツの日本におけるパイオニア的存在。メディア芸術分野での活動が評価され福岡県文化賞および福岡市文化賞を受賞。

失敗を経験に変えるキーワードは自発性

声楽家の小森輝彦さんが校長を務める東京音楽大学付属高等学校では、「ポジティブに失敗しよう」という教育ビジョンを掲げ、「失敗をし続けられる環境」の提供を目指しています。また、株式会社しくみデザイン代表の中村俊介さんは、エラーの概念がないビジュアルプログラミングアプリ「Springin’(スプリンギン)」を開発し、創造を自由に楽しむきっかけを生み出しています。

子どもにとって、失敗にはどのような意味があるのでしょうか。そもそも失敗とは何なのでしょうか。(以下、本文中敬称略)

小森:東京音楽大学付属高校が掲げる「ポジティブに失敗しよう」というビジョンは、ともすると「失敗を恐れない」という意味に捉えられがちです。しかし、「ポジティブに失敗する」と「失敗を恐れない」は、似ているようで全く違います。「失敗を恐れない」という前提には、「失敗は悪いものだ」という価値観が存在します。だから勇気をもって、失敗を恐れず立ち向かえということですね。

一方で「ポジティブに失敗する」は、「失敗は良いことだ」というところからスタートしています。失敗した上で、何故うまくいかなかったのかを学ぶことこそが大切なんです。

中村:それは「Springin’(スプリンギン)」にエラーの概念がないのと通じるところがあるかもしれません。「Springin’(スプリンギン)」は、思ったように操作(プログラミング)できなくても、違う方法を試せるので、試行錯誤や取捨選択の連続であって、エラーを感じないと思います。

小森:例えば、歌のレッスンで子どもの音程が悪い場合、そこには、「呼吸がうまくいっていない」「楽譜に気を取られている」など、必ず何か原因があるはずです。そこを正さずに、ただ音程の悪さだけを指摘しても、演奏が良くなることはありません。

子どもが何かにうまくいかなかった(失敗した)とき、保護者は、うまくいかなったことではなく、なぜうまくいかないのかということに視点をシフトできるようにサポートできるといいのかもしれません。

中村:「Springin’(スプリンギン)」でいえば、プログラミングに必要な要素をビジュアル化し、直感的な操作で作品を完成させます。ものづくりの楽しさに速く到達できるようにしているため、「もっとやりたい」「作品を作りたい」と思って失敗なんて意識しないで自ら挑戦をしていける仕組みになっています。

小森:たしかに、「~したい」という自発性は重要なキーワードかもしれないですね。新しいことを試すとき、「怒られるかもしれない」「失敗するかもしれない」と勇気を振り絞らないといけない人が多いと思いますが、自発的に「何かをしたい」と思ったときは、勇気を振り絞らなくても「気がついたら試している」という状態になっていますよね。

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「~したい」を「~しなければならない」にしない

中には、その「~したい」が見つからない子も多いようですが、子どもの自発性を高めたり、興味関心の枠を広げるために保護者ができることはあるのでしょうか

小森:大人は、子どもを上からほめたり叱ったりしてしまいがちですが、大切なのは、子どもを対等に見ることではないでしょうか。僕も、歌のレッスンで生徒を指導するときには、絶対に叱らないようにしています。叱ると体がこわばってしまうので、良い声が出るわけがないんです。

実は歌うとき、耳をふさいで歌うとほとんどの人は音程が良くなるんですよ。それは、その人自身の中に正しい音程があるからです。僕はよく「生徒は全員アーティスト」と言うのですが、人間はもともとクリエイティブ。だからそれを解放すればいいだけで、本来は何かを教える必要なんてないんです

中村:今は何に対しても「~しなければならない」ということが多すぎるような気がします。子どもに「本を読みなさい」と言うのもそう。でも、「~しなければならない」と言われると、(義務感から)やりたくなくなってしまいますよね。例えば、ゲームが好きな子だって「必ず毎日ゲームを2時間しなければならない(しなさい)」と言われたら、きっとやりたくなくなってしまうでしょう。結果的に子どもの「~したい」を奪っていっているのかもしれません。

大切なのは親の楽しそうな様子を見せることではないでしょうか。親が楽しそうにしていることは、たとえ言葉で言わなくても、子どもが自然と「やりたい」と思うようになるような気がします。

もちろん、親だけじゃなくて、親の友達や親戚でもいい。大人が楽しそうにしていて、子どもが「やりたい」と思ったらさせてみる。その点、子どもが興味をもったら、いろんな習いごとをさせるのもいいと思います。ただし、子どもが嫌がったらすぐにやめる、ということも大切です。

小森:音楽の世界では、声楽をやるなら「まず聴音やピアノ、楽典を勉強して、歌ならスケール(音階)やコロラトゥーラ(声楽技法のひとつ)ができなきゃいけない」など、いろいろな過程を経てからじゃないとといわれています。

ですが、歌いたいなら、まず歌ってみればいいんですよ。歌ってみて、できないことがあったら、そこで初めて習えばいいんです。何かを始めるときにはまず手続きが必要(~しなければいけない)という風潮を変えたいですね。

中村:プログラミングも同様で、まず「何の勉強をしたらいいですか」から始まる人がとても多いです。でも、大切なのはそこではなくて、「何を作りたいか」なんですよね。「何のためにプログラミングが必要なのか」「なぜプログラミングを学びたいのか」が抜け落ちたままのプログラミング教育には違和感があります。

ルートを決めつけなければ失敗はない

もうひとつの失敗を経験に変えるヒントが、「先を決めないこと」ではないかと話す中村さんと小森さん。それは、中村さんが人生で体現してきたことでもあります。

中村:ここまで話してきましたが、実はそもそも僕は、失敗とは何なのか、失敗の定義がよく分からないんです。というのも、これまでを振り返っても、あまり「失敗した」と感じた経験がなくて(笑)。

大学院を受験して落ちたこともありますが、「落ちたけれど、違う道を選べてよかった」としか思わなかったのは、将来を決めつけずに、そのときどきで、進む道を選んでいたからかもしれません。

小森:人生も進むべきコースを1つに決めてしまうから、「そこから外れると失敗」「その通りにいかないと失敗」ということになるのでしょう。「大学を出たら就職をして…」という流れが唯一の進むべき道だと考えてしまうと、そのコースを外れたら「失敗だ」となってしまいます。

中村:子どもの場合、学校に行けば必ずテストがあり、点数や成績がつきます。そのような環境の中で、知らず知らずのうちに「点数は高い方が良い」「成績を良くするのが正しい」「いい大学に行かなければいけない」という価値観が植え付けられているのかもしれません。

別にそれを否定している訳ではないんですよ。点数が高いこともいい大学に行くことも素晴らしいとは思うのですが、ほかに選択肢がない状況では子ども達も苦しくなってしまうのではないでしょうか。結局、本人が失敗だと思ったら、それは失敗になってしまいます。

ですが、これからの数十年は、私たち大人が生きてきた数十年とは違います。例えば、少し前にはプロゲーマーなんて職業はなかった訳で、これからの世の中がどうなるかなんて分かりませんよね。

小森:本当は子どもの上着を脱がせて動きやすくしてあげた方が良いときでも、大人はどうしても上着をさらに着せたがるところがあります。子どもが何かに失敗したと感じるなら、それは周りの大人が対応できていないからというのを肝に銘じる必要があります。

今は、自分なりの価値観と判断で生き方を選択する「ライフシフト」が是とされつつあります。世の中に無意味なことは一つもなく、活かせるかどうかは本人次第。子どもたちには、自発性を原動力に生きていってほしいですね。

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加藤朋実

広告代理店、企業の広報を経て、2008年よりフリーランスライターとして活動。子育て、ライフスタイル、教育、医療、住まい、グルメなど、幅広いジャンルで執筆を行う。人物インタビューや企業インタビュー、イベント取材など、取材経験も多数。そのほか、コラム原稿や書籍原稿の執筆なども手掛けている。趣味は音楽鑑賞と読書、野球観戦。プライベートでは一児の母。

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