【中学受験の転塾】成功させる選び方やタイミングは?辞める塾への伝え方まで受験のプロが解説
中学受験では「成績が伸び悩んでいる」「塾と方針が合わない」などの理由で転塾する家庭も少なくありません。しかし「どんなタイミングで、どこを選べばいいのか」など悩んでしまいますよね。転塾を成功に導くコツを受験のプロである塾講師の石井知哉さんが解説します。
目次
中学受験で転塾する3つの理由
中学受験の転塾には、3つの理由が考えられます。
【理由①】成績が上がらないから
塾に通うのは、志望校に合格するためですよね。成績が上がらなければ、合格から遠ざかるわけですから、成績が上がらないことは、多くの家庭が転塾する理由になります。
【理由②】現在通っている塾に不満があるから
例えば、苦手な講師がいたり、ほかの塾生との関係が良くなかったりして勉強に集中できない、モチベーションが上がらないなど、満足のいく学習サポートやアドバイスが得られない場合は塾を信頼できなくなるでしょう。
【理由③】ほかに良さそうな塾があったから
口コミや広告などで得た情報から、より良い学習環境を整えるために転塾するケースもあります。
以上が、転塾する主な理由として考えられますが、やはり1番多い理由は「成績が上がらないから」ではないでしょうか。
もし、成績が上がっているなら、塾に対するささいな不満など吹き飛び、ほかの塾に移ることなど考えないはずです。
ですから、転塾する家庭のほとんどは、成績が上がらないことに悩んでおり、成績アップを期待して転塾をしているといえるでしょう。
転塾しない方がいいケースとは
成績アップを期待して転塾しても、プラスに作用するとは限りません。成績不振の原因によっては、転塾をしても解消できないからです。
例えば、下記のように成績が伸びない原因が子どもの勉強姿勢にある場合、転塾での解消は期待薄です。
- 塾への欠席・遅刻が多い
- 家庭学習の習慣がない
- 子どもの受験勉強へのやる気がない
ただし、上記の状況を見て単純に判断することはできません。”塾への欠席・遅刻が多い”場合でも、欠席や遅刻の理由が、「受験をしたくない」など子どもの心理(子どもや家庭の内側)によるものなら、どの塾に通っても成績が上がることはないでしょう。
ですが、欠席や遅刻の理由が塾へのアクセスや交通事情といった”子どもや家庭の外側”にあるなら、アクセスのいい塾へ転塾することで解消できそうです。
ほかにも、転塾の理由が下記のように子どもと家庭の外側にあることならば、子どもに合った学習環境に変えることで成績アップが期待できます。
- カリキュラムや教材がわが子の目標校に合っていない
- 指導方針がわが子の性格や能力に合っていない
- 授業の進みやレベルがわが子の学力や学習ペースに合っていない
具体的には次の5点を親子で話し合って、書き出してみましょう。
- 今、困っている問題はなにか?
- その問題の原因は何か?
- その原因は子どもや家庭外の内側と外側のどちらにあるのか?
- その原因は、転塾によって解消されるのか?
- その原因を解消するために、塾に何を求めているのか?
小学6年生の2月というタイムリミットがある中学受験において、むやみに転塾をしても貴重な時間をロスした分、マイナスになるケースもあることを覚えておきましょう。
転塾を成功させる5つのポイント
ここからは、転塾を成功させるための5つのポイントを伝えていきます。
【ポイント①】子どもの意思を尊重する
塾に通うのも勉強するのも試験を受けるのも子どもです。中学受験には親の役割も非常に大きいですが、主体は子どもですから、転塾は子どもが自分の意思で考えて選ぶことが大切です。
環境の変化など転塾のリスクも含めて、親子で話し合い、双方納得したうえで、転塾を決断するようにしましょう。
【ポイント②】今の塾で解決できないか検討する
転塾は、成績を上げるための万能薬でなければ、いちかばちかのギャンブルでもありません。環境の変化というリスクをはらんだ大がかりな手段ですから、今の塾で解決する手立てがあれば、そちらを優先する方が良いでしょう。
前段落で見直した問題や原因について、今、通っている塾に相談してみましょう。もしかすると、相談がきっかけで解決の糸口がつかめるかもしれません。
もちろん、塾のコンセプトや指導方針の関係上、できることとできないことがあります。相談したけれど、それでも解決できない、というのであれば、転塾を真剣に考えてよいでしょう。
【ポイント③】自分たちも変わる意識をもつ
単に転塾にするだけですべてが好転するわけではありません。転塾をきっかけに、子どもの学習姿勢や勉強方法、生活習慣なども見直して、改善していく意識をもつようにしましょう。
変わるのは子どもだけではありません。中学受験においては、子どもの学習やスケジュールなど、親による管理やサポートも必要です。
家庭でのサポートとして、できることとできないことは何なのかを少し考えてみましょう。それは新しい塾を選ぶ際の基準としても役立ちますよ。
【ポイント④】すぐに成果が出ると思わない
転塾したからといって、すぐに成果が出ると考えないほうが良いでしょう。というのも、転塾に限らず、勉強の成果はすぐには出ません。
成績は勉強の量に比例して上がっていくと考えられがちですが、実際には違います。
勉強は、ひびの入ったコップに水を入れていくようなものです。ひびから漏れるより速いペースで水を入れ続け、コップから溢れたときに初めて1段階レベルアップします。ですから、すぐに成果が出なくてもおかしなことではありません。「こんなことをやって意味があるのかな」「やり方を変えたほうが良いのでは?」といった気持ちに負けずに、コップから水が溢れ出るように水を注ぎ続け(勉強し続け)なければ成果は出ません。
ましてや、転塾をすると子どもの環境は大きく変わります。環境の変化に敏感な子どもにとって、新しい塾に慣れるまでに多くの時間や肉体的・精神的エネルギーが必要です。
人間が何かを習慣化させるとき、行動なら1ヵ月、体のリズムなら3ヵ月、思考なら6ヵ月かかるといわれています。
そのため、成績アップという目に見える成果が出るまでには、少なくとも3ヵ月はかかると考えておきましょう。「成績アップを期待して転塾したのに、全然上がらない。だから転塾しなくちゃ」と焦ったり、また転塾を考えたりすることは避けたいものですね。
【ポイント⑤】転塾ありきで考えない
転塾を考えるのは良いのですが、前のめりになり過ぎて、視野が狭くなったり思考が固まったりしないよう注意が必要です。
転塾は、「子どもにとってより良い学習環境のための転塾」であるべきですが、「転塾に向けて話し合った時間、調べた時間、考えた時間や労力がもったいない」と考えてしまうと、”転塾のための転塾”になりがちです。本末転倒ですよね。
転塾のための活動を通じて、子どもに不足しているものがはっきりしたことで、勉強に対する取り組み方が変わり、元の塾のまま成績を伸ばせることもあるということも覚えておいてくださいね。
転塾先の塾選びで失敗しない3つのコツ
転塾をすると決めたら、肝心の新しい塾選びです。転塾を成功させる3つのコツを伝えます。
【コツ①】塾に求めることを明確にしておく
塾選びをする際に、複数の塾のホームページをチェックしたり資料を取り寄せたりして、検討しますよね。ですが、具体的な比較をする前に、「塾に求めるもの」を明確にしておくと良いでしょう。
転塾という考えに至った問題と原因によって、どんな塾が合っているのかは変わってきます。万人にとって良い塾は存在せず、Aさんにはピッタリな塾でも、Bさんにはまったく合わないことも大いにあります。
わが子に合った塾を選ぶためにも、次の10点をどう考えているかをメモに書き出して、塾を選ぶ基準にしたり、塾との面談で説明したりしましょう。
- 指導形態(集団?個別?)
- 塾の規模(大規模?小規模?)
- 目標校のレベル(難関校向け進学塾?中堅校向け塾?)
- 指導スタイル(スパルタ?のびのび?)
- 学習サポート体制 (例:塾が手厚くサポート?本人と家庭に任せる?)
- 子どもにどうなって欲しいのか? (例:何がなんでも難関校合格?本人の希望を優先して無理なく中堅校合格?)
- 子どもにどうなって欲しくないのか? (例:つらい思いをするくらいなら撤退?つらい思いをしててもチャレンジ?)
- 塾に何を求めているのか? (例:子どもが塾のペースに合わせる?塾が子どものペースに合わせる?)
- 親として「これはできる・したい」というのは何か? (例:スケジュール管理、家庭学習の管理、プリント類の整理整頓、健康管理、など)
- 番親として「これはできない・したくない」というのは何か? (例:家庭学習のフォロー、勉強のわからないところを教える、塾への送り迎え、など)
【コツ②】兼塾という選択肢も視野に入れる
元の塾は続けたまま、ほかの塾をかけもちする”兼塾”という選択肢もあります。
ただし、大手の受験塾をかけもちするのはスケジュール的にはほぼ不可能です。わが子に合わせた指導を個別指導塾で上乗せして学習効果を上げるのが現実的でしょう。
実際、最難関校を目指す受験生が集まる大手塾には「塾としては細かなサポートはしないので、親が担うか、個別指導塾や家庭教師を利用してください」という方針を掲げているところもあります。
生徒ひとりずつに合わせてきめ細やかに対応できるのが個別指導の長所です。費用はかかってしまいますが、補完的に個別指導塾に通うという兼塾も有効な手段です。
【コツ③】通塾後の姿をシミュレートする
転塾先となる新しい塾に話を聞きに行き、授業日時やオプション講座、テストの頻度と内容、自習室の活用や塾からのサポート体制などを知ったら、実際に通っている姿を想像してください。
塾が想定している家庭学習の量やテストに向けた準備、振り返りなどのアクションを、具体的にカレンダーやスケジュール表に書いてみてください。そして、継続することができるのかを親子ですり合わせましょう。
塾に通って授業を受けるだけで成績が上がることはほとんどありません。授業内容の復習や反復学習、テストの解き直し、前に習った単元のおさらいなど、授業時間以外の勉強が重要なのです。
塾が求める塾以外の学習が家や塾の自習室でできるのかを具体的にイメージしながら、現実的に検討してください。どんなに魅力的に感じる塾でも「無理かもしれない」と思うのであれば合っていません。
また、塾で体験授業や授業見学が開催されるのであれば、入塾前に参加してみると良いでしょう。教室や先生の雰囲気、授業の進行速度などをつかむことができます。
転塾のタイミングは小6の夏休み前まで
中学受験の大手集団塾の場合は、入試本番に向けてカリキュラムや年間計画がガッチリ決まっています。そのため、6年の春以降は新規入塾を受け付けていません。ですから、5年から6年に上がる2、3月が実質的にラストのタイミングになります。
中小規模の塾であれば、受け入れは柔軟ですが、それでも、時期としては小学6年の7月下旬、夏休みに入る前までがリミットでしょう。9月からは総合演習に入るので、単元ごとの復習を夏休みに行うことを考えると、夏休み明け以降の転塾は非常に危険です。
ただし、個別指導塾との”兼塾”は別です。転塾のリスクをなくしつつ元の塾では足りない部分が上乗せできるので、9月以降でも可能です。
辞める塾へ退塾(転塾)の伝え方
転塾をするため、元々通っていた塾を辞めるための退塾手続きが必要となります。
新たな環境にて心機一転、頑張っていこう、という門出なのですから、角が立たない退塾の伝え方をしたいものですよね。そのためにも、転塾を決意する前の時点で、問題と原因を明らかにした段階で塾に相談しておくべきです。
普段からコミュニケーションをとって、成績が伸びない悩みを相談しておくと、退塾する際にも切り出しやすくなります。誠意をもって、退塾の希望を伝えましょう。子どもと一緒にお世話になった挨拶はしておきたいものですね。
新しい塾に移ると決めた以上、「去る塾との関係などどうなっても構わない」「これまでの不満を全部ぶつけてスッキリしよう」と、考える人もいるかもしれませんが、塾で過ごした時間のすべてが無意味だったということはないはずです。
心がささくれ立ちやすい受験生活の中でも、礼節をわきまえ、挨拶する心のゆとりをもつことが、子どもの落ち着いた精神状態につながり、充実した受験生活を過ごせると思います。
親子の決断が転塾を成功に導く
転塾を成功をさせるために大切なことは決断です。新しい塾に移ったのであれば、別の選択肢には目を向けず、自分たちが選んだ道が正しかったと信じて、ベストを尽くすことに専念しましょう。
「あっちの塾にすれば良かったかも」と過去を悔やんだり、「やっぱりこっちの塾はこのままだとダメなんじゃないか」と未来を恐れたりするより、現在と向き合うことに時間とエネルギーを注ぎましょう。それが、「あのとき塾を移って良かったね」と思える瞬間を引き寄せます。
転塾をする家庭もしない家庭も、合格発表当日、親子で笑顔でいられるように、応援しています。
子育てのお悩みを
専門家にオンライン相談できます!
「記事を読んでも悩みが解決しない」「もっと詳しく知りたい」という方は、子育ての専門家に直接相談してみませんか?『ソクたま相談室』には実績豊富な専門家が約150名在籍。きっとあなたにぴったりの専門家が見つかるはずです。
子育てに役立つ情報をプレゼント♪
ソクたま公式LINEでは、専門家監修記事など役立つ最新情報を配信しています。今なら、友だち登録した方全員に『子どもの才能を伸ばす声掛け変換表』をプレゼント中!
教育・受験指導専門家の西村創が主宰する「西村教育研究チーム」のメンバー。高校受験Webサイト「School Post」(https://school-post.com)主宰。塾指導歴20年以上。小学生から大学浪人生まで、教科を問わず個々の成長を引き出す指導を得意とする。現在は、個別指導塾2校舎を統括する傍で、千代田区麹町に超少人数制個人指導道場「合格ゼミ」を開設。長年の経験と知見を記事にして発信中。アイデアと文面の大半は、こよなく愛するビーグル犬との散歩中に生まれる。