中学受験本番まであと少し!6年生の秋に陥りがちなスランプからの脱出法
中学受験本番に向け、親子で必死に励んだ夏休み。けれどその努力が模試に反映されなかった、受験勉強に対する疲れが見えてきたなど、子どものモチベーションが失速し、親の焦りだけが加速してしまう家庭も…。最後の天王山となる本番までの数ヵ月、無事に親子で完走する術はあるのでしょうか? 受験指導専門家・西村創さんに教えてもらいます。
目次
小学6年の夏休み明けに発生する受験生“あるある”
中学受験で出題される全範囲の学習が終わり、本番に向けて最後の追い込みをかけていきたい6年生の秋。ところが、スランプに陥ったり中だるみしてしまったり、逆に失速してしまう子どもも少なくありません。まずは夏休み明けに知っておくべき受験生“あるある”を解説しましょう。
夏休みにあれほど頑張ったのに結果につながらないのはなぜ!?
夏休み明け最初に行われる9月の模試は、思うような成績が出にくいものです。なぜ夏の頑張りが反映されないかというと、一つには勉強したことが成績に反映されるのは最低でも3ヵ月かかるから。8月に勉強した成果が出るのは、早くても11月以降なのです。
その上で、小6の秋だからこそ知っておきたいのが“模試の違い”。
- 小6夏までの模試
範囲が細かく区切られていて、3ヵ月間に学習した範囲を突き詰めれば対策できる。 - 小6夏以降の模試
範囲があってないようなもので、非常に幅広い。
つまり、夏にどれだけ頑張ったとしても中学受験の全範囲を勉強できる子はまれです。9月の模試で良い成績を出せるのは、日頃から着実に勉強を積み重ねてきた子か、たまたま出題範囲が得意だった子なのです。
模試の結果に子どもが脱力してしまう
小6夏以降の模試が結果を出しにくいものとはいえ、想定外に低い成績を見てショックを受ける子も少なくありません。しかし、それは“健全なショック”。やる気を失ってしまった子に「夏休み明けの模試は成績が出ないものだから、次は頑張ろう!」と声をかけても“場当たり的な慰め”と感じてしまい余計こじらせてしまうことも…。
逆に「夏休み、全然勉強しなかった…」という子が9月の模試で想定外な好成績を出すことがあります。「うちの子、実はできるのかしら!?」と思わずうれしくなりますが実はこれ、非常に危険なサイン。
残念ながら良い成績が出たのは、たまたまです。“たまたま勉強した範囲からの出題が多かった”、“たまたま得意分野からの出題が多かった”のであって、長くは続きません。10月以降の模試で成績が急降下する、成績が乱降下して安定しないというケースがほとんどです。
ガス欠!? 夏の猛勉強の反動でだらけている
塾に缶詰め状態だった夏休みが終わり、やっと解放されたとばかりにだらけてしまう…。これもまた、夏休み明けの小学6年生にによく見られる“あるある”です。
運動会や修学旅行、卒業アルバム作りなど“小学校最後の思い出作り”に気持ちが向いて勉強がおろそかになってしまう子は前向きで良いのですが、心配なのが何も手につかず鬱っぽい状態になってしまう子。本人はだらけているつもりはなく「やろう!」という気持ちがあるのに、体が追い付いてこないことがあります。チックや頭痛、腹痛といった身体症状が現れることもあります。
本番まで時間がない! 親の焦りと不安がMAXに
ここまでは、受験生本人の“あるある”。番外編として、親の“あるある”も紹介しましょう。
よくあるのが、参考書や問題集など市販の教材を大量購入して子どもにやらせてみるというケース。
しかし塾で習う解法との違いに子どもが混乱してしまったり、塾で指示された教材をやる時間がなくなってしまったりすることが多くあります。
この時期に慌てて個別指導や家庭教師を検討したり、塾に不信感を抱いて転塾を考える親もいます。
また、母親主導で受験勉強をしてきた家庭の場合、これまで協力的でなかった父親が「〇〇中学に受からないなら公立中学に進学しろ」などと突然、首を突っ込んでくることも…。
しかし、いずれにせよ焦って判断したことは良い結果にはつながりません。
次章では、こういった“あるある”それぞれの対処法について解説していきましょう。
夏休み明けに起こるさまざまなスランプ。脱出する鍵はある?
受験本番まで残りわずか、最後の追い込みであるにも関わらず次から次へと発生する焦りや迷い。しかし、残された時間が少ないからこそ焦りは禁物です。わが子のスランプがさらなる深みにはまることのないよう、間違った対応や判断をしないことが大切です。
模試の結果に自信喪失の子を盛り立てるには?
まず大事なのは「思い込みのスランプ」を本物のスランプにしないこと。
- イライラや不安などのネガティブな感情を子どもにぶつけない
- 子どもができていることをキャッチアップし、ポジティブなフィードバックを
この時期に大切なのは、親子で気持ちを上向きにしていくこと。
夏までの受験勉強は模試を含めてインプット中心のトレーニングでしたが、9月以降はアウトプット中心に変わります。大問1から順に解いていくのではなく、問題を飛ばしたり後ろの問題から解いてみたりと、問題を瞬時に判断して解く要領の良さも求められてきます。要領が悪いと、持っている知識量に見合った得点が出せません。
また、学校会場や他塾など慣れないアウェーの環境で模試を受けることに必要以上に緊張してしまう子もいます。
こういった要因による成績不振は「思い込みのスランプ」です。
深刻に捉え過ぎると、精神的な要因から本物のスランプになってしまうこともあります。そうなる前に、早めに塾の先生と問題を共有して解決策を考えましょう。親がああしろこうしろと言ってもうまくいかないことであっても、塾の先生経由だとうまくいくこともあるものです。
学校行事や恋愛、ゲーム…他に気を取られがちな子は?
最近は受験勉強だけでなく、学校行事やスポーツなどにもしっかりと取り組ませたいという家庭が増えています。子どもが「頑張りたい」と思う気持ちは、否定せずに応援しましょう。否定するとテンションが下がってしまい、中学受験へも悪影響になるからです。
スポーツを頑張りたい子どもは、部活が充実している学校見学に行って実際に自分が入学するイメージを持たせるのも良いでしょう。視点が“今”から“入学後”に移ることで、優先順位を受験勉強に変えることができます。
9月からは合格判定が出る模試や過去問演習が始まります。
受験勉強以外のことに気を取られがちな子には、
- 現状と志望校との間にどれだけのギャップがあるのか
- ギャップを埋めるために、どれだけの努力が必要になるのか
この2点について、数字で示すことが必要です。
この時期に努力ができない子は、志望校の変更や4科目受験をやめて2科目受験に切り替えるなどの対応が必要になる場合もあります。
この点を踏まえて家族で決めておいてほしいのが、“受験のスタンス”。絶対に地元の公立中学には進学しない覚悟なのか、ある程度の偏差値以下の学校であれば地元の公立中学に進学するのか。ここがしっかりと決まっていれば、塾からも有意義な提案をしてもらえます。
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西村 創さんへの相談ページを見てみる志望校の合格可能性が60%以下なら、どうする!?
模試の合格判定が低くても、過去問の合格最低点を上回っているようであれば諦めることはありません。模試は、あくまでも模試。どこの学校の入試問題でもありません。模試の結果よりも過去問の出来の方を重視しましょう。
その上で重要なのが、第一志望校と出題傾向が似た学校で受験校をまとめていくこと。仮に直前で第一志望校を諦めることになったとしても、志望校対策がしやすいんです。また、出題傾向が似た学校は雰囲気も似ていることが多いので、実際に進学してもなじみやすいという傾向もあります。
受験勉強疲れが蓄積し、心身ともにダメージのある子は?
この時期にチックや爪かみなどの症状が出たり、鬱のような症状が出たりする子がいます。高山病のようなもので、特効薬は“下山”しかありません。
塾に行くのをやめて、受験勉強から離れて家族でのんびり過ごしてみましょう。ここで焦って症状をだましながら勉強させてしまうと、症状がひどくなってうまくいかないことも少なくありません。
入試直前の追い込み時期に塾を休む決断は、これまで頑張ってきたことや残された入試本番までの時間を思うと親としてなかなか決断できないことかもしれません。でも、受験をするのは子ども自身。完全な充電期間を作ることで一度、受験勉強から離れても入試までに自分から復帰できる子は少なくありません。
中学受験は人生の過程の一つであって全てではない。無理をして第一志望の中学に進学できても、不登校や精神疾患など新しい問題を抱えることになりがちです。中学受験のその先を長い目で見て、ゴールを設定しましょう。
小6秋以降の受験勉強はこれを優先しよう!
「クリアすべき課題がたくさんあり過ぎて、何から始めれば良いか見当がつかない」
「子どもののんびりした姿を見ると無性にイライラしてしまう」
「逆に追い込み過ぎて精神的に不安定な状態にしてしまうのではないかという不安もある」
本章では、そんな迷いが多く生じる小6秋以降の受験勉強で優先すべきことについて解説しましょう。
模試の成績表で見るべきは“表”ではなく“裏”!
小6の9月以降の模試で心掛けたいのは、成績表の偏差値や順位、合格可能性だけを見て“できた/できなかった”という二択に持っていかないということです。
分野別・問題別の正誤や正答率を見ると“知識問題ができていない”、“記述問題で点が取れない”など得点力の偏りが見えてきます。特に注目したいのが、ケアレスミス。問題の読み間違えであったり、文章の抜き出しミスや計算ミスであったり、ケアレスミスには傾向があるはずです。例えば問題を読み間違える傾向がある子は問題文の条件部分に線を引くなど、試験のときにやるべき作業を決めておくと良いでしょう。
苦手科目? 得意科目? 優先すべきはどっち?
入試までに苦手単元をできるだけなくし、得意科目をできるだけ伸ばす。これは入試前日まで続けていくべきことです。
家庭学習で取りかかる順番としては、“好きな科目だけど、苦手な単元”から始めるとスムーズにいきやすいと思います。“歴史は好きだけど近現代は苦手”など、抵抗感なく取り組めるのものから始めていきましょう。
逆に“嫌いだし苦手な単元”から始めてしまうと、前に進めずに時間だけが過ぎてしまいかねません。入試までにできること、これを一つでも増やすことが大切です。
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西村 創さんへの相談ページを見てみる塾のオプション講座は必要? 不要?
志望校別対策講座や入試問題演習など、塾でもさまざまなオプションが本格的に開講される時期。効率の良い学習のためにも、大いに活用しましょう。
家庭で過去問に取り組む場合は、古い年度から始めるのがポイント。というのも、新しい年度の過去問は塾で合格可能性を計るために取り組むことがあるからです。また、国語の物語文だけ読んでみるとか、漢字だけやってみるとか、算数の計算問題だけやってみるとか、つまみ食い的な学習法は基本的におすすめしません。
過去問に取り組む前に、塾の担当の先生に取り組み方を相談してから始めるのがいいでしょう。
全て塾任せでも大丈夫?
徹底的に塾を活用、塾で指示されたことや教材をやり切ることに注力しましょう。
成績が思わしくないと、焦りと不安で塾に対して不信感を募らせてしまうこともあるかもしれません。そういうときは、自己解決しようとせずに迷わず塾に相談してください。
これは小学5年生以下の受験生を持つ親向けのアドバイスですが、転塾は早ければ早いほど良いのです。転塾の最終ラインは小5の1月。入試間近になって後悔することがないように日頃からわが子の塾での様子を聞いたり家での学習方法を相談したりして、信頼に値する先生かどうかを見極めておきましょう。
また、家庭教師や個別指導も子どもが慣れて活用できるようになるまでにはある程度の時間がかかります。利用を検討している場合は、小6の夏休み前までに決めましょう。
中学受験当日までに、親がサポートすべきこととは
小学6年生の夏以降は、子どものサポートを兼ねて塾との連携をますます密に取る必要があります。ところが話を聞いていると、「こんなことで電話してもいいのかな?」「うちの子は特殊だから」「成績が良くないから」と相談自体をためらってしまう親も少なくない様子。誰にも何も相談できず、親が耐え切れずに直前で中学受験をやめてしまうことが一番不幸なケースです。
最後に、入試本番まで親子で完走するために実践してほしいことを紹介しましょう。
わが子にはプラスの働きかけのみ行って!
親と子の距離の取り方は、車間距離と一緒です。近過ぎると衝突し、離れ過ぎると見失ってしまう。つかず離れずの距離をキープすることが肝心です。
子どもが勉強している横についていると「字が汚い」「だらけている」などついつい口出しをしたくなってしまいますが、ここは我慢! 子どもの姿が目に入り過ぎないように、付き添うときは読書をするとか親が何か他のことをしているのがいいですね。
逆に積極的に親がサポートしてあげると良いのが、睡眠時間の管理とバランスの良い食事、そして身の回りを整えてあげること。今はまだ睡眠時間を削ってまで勉強する時期ではありません。食事面も含めて、健康管理をしてあげましょう。
この時期になると過去問を含め、塾から渡されるプリントが膨大になります。クリアファイルとファイルボックスを用意して、問題と解答用紙をセットして整理すると良いのですが、それを子どもの代わりに親がやってあげると勉強効率が上がるので是非実践してみてください。
普段は「自分の物は自分で片付けなさい」というスタンスの家庭がほとんどだと思いますが、わが子が勉強に専念するためにもこの時期だけは親主動で行ってあげてみてはどうでしょうか。
基本的には、子どもの成長にプラスの働きかけができているかどうかを気にして過ごすことが大切です。子どもにネガティブな感情をぶつけず、イライラや不安は塾の先生に受け止めてもらいましょう。
塾の先生や専門家への相談ではこれを伝えよう!
塾は子どもの合格可能性を少しでも伸ばしたいと願っているわけですから、成績の良い悪いに関わらず、遠慮なく相談して活用するべき。けれど、どのような段取りで何を伝えれば良いのか迷う親は多いようです。ここでは、塾や受験専門家に相談する際に伝えるべきことを解説します。こちらの悩みや迷いがしっかり伝わることで、より納得感の得られる回答がもらえるはずです。
相談は必ずアポイントを取ってから
塾に電話をして今すぐ対応してほしいというのは、難しい場合が多いものです。まずは、担当の先生を指名して電話や面談のアポイントを取りましょう。その際、志望校、学習態度、苦手単元など何について相談があるのか簡単に伝えておくと良いですね。
特にテーマはないけれど「とにかく話を聞いてほしい!」というのでもOK。塾の先生は、さまざまなケースの相談や愚痴を聞くことに慣れています。ため込んでしまう前に、気負わず相談することが大切です。
相談したいことを明確にしておこう
相談するときには、まず第一に家庭の「受験のスタンス」を伝えましょう。地元の公立中学への進学は選択肢にあるのか、希望する学校の偏差値帯など、できるだけ具体的に伝えることで回答も具体的になります。
また、直近の模試の成績表と解答用紙も持参するとより具体的なアドバイスがもらいやすくなります。
質問したいことを箇条書きにしたメモを持参するのもおすすめです。相談したいという思いが先走ってしまい、肝心なことを相談し忘れてしまった…ということも防げます。
相談ではなく愚痴を聞いてほしいときは、家庭での様子や本人のキャラクター、親だから知っている本人の取扱説明書的な情報を伝えても良いでしょう。たくさんの子どもたちを教えてきた経験から、タイプ別の対応の仕方を教えてもらえるはずです。
親からの相談では「家でボーッとしていてやる気が全くない」という子が、塾では全く違う姿で勉強に集中しているなど、家と塾との姿に大きなギャップがある場合もあります。子どもが塾でどういった様子なのか聞いてみることから相談してみても良いかもしれません。
中学受験の話題は周りにも相談しにくく、入試本番を前に孤独感を深めている親はとても多いものです。ネガティブな気持ちを子どもにぶつけてしまったり、不安と焦りから誤った選択をしてしまったりすることがないように、まずは行動を起こす前に塾に相談することを忘れないようにしてくださいね。
<取材・執筆 小田マリエ>
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