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2024.08.20

しつけとの違いや子どもへの深刻な影響とは?心理的虐待の実態や親が気を付けることについて解説

昨今、子どもへの虐待がたびたびニュースで取り上げられますが、その多くは身体的な虐待です。しかし日常においては、身体的虐待よりも心理的虐待の方がより多く起こっている、という現状があります。そして心理的虐待は決して珍しいものではなく、どの家庭でも起こりうるものです。
今回はそんな理的虐待の説明や具体例、しつけとの違い、子どもへの影響などについて詳しく解説します。

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この記事を執筆したのは…

藤原美保さん

療育20年、放課後デイ10年運営のベテラン。子どもの「できない」に悩む親へ、行動の原因と対策に徹底的にサポート。幼少期にこそできる家庭内療育を提供。発達障害の子への性教育も。

 

心理的虐待とは?

虐待の中でも日常生活の中で親が気づかず無意識にやってしまいがちなのが心理的虐待です。心理的虐待は言葉や態度で子どもの心を傷つける行為で、直接的な暴力はなくても子どもの気持ちを無視したり否定したり、他者と比較することで、子どもの心に大きな影響を与えることがあります。親は虐待のつもりでなくても、子どもの権利を侵害している場合があるのです。

虐待と子どもの権利侵害の関係性

世界には「子どもの権利条約」という、すべての子どもたちが健やかに成長し、安全で幸せな生活を送るための権利を保障する国際的な枠組みがあります。これは国際連合が採択したもので、各国で法的に尊重されています。この条約に基づき、すべての大人には子どもの権利を守る義務があります。

虐待の種類とその影響

虐待は大きく分けて、以下の4つがあります。

身体的虐待…暴力行為により子どもの身体に直接的なダメージを与えるものです。殴る、蹴るといった暴力行為から、危険な状況に子どもを放置することまで様々です。

性的虐待…子どもを性的な対象として扱い、直接的な接触や、性的な行為を強要することです。これにより子どもの心身に非常に深刻なダメージをもたらします。

心理的虐待…言葉や態度によって子どもの心を傷つける行為です。親が無意識のうちに行っている場合も多く見過ごされがちですが、長期的に子どもの精神的健康に大きな悪影響を及ぼします。

ネグレクト(育児放棄)…子どもに必要な基本的なケアや教育を提供しないことで、身体的・心理的に子どもの発達を阻害するものです。

<ネグレクトについての記事はこちら>どこからがネグレクト?特徴や相談先、トラブルに巻き込まれない方法とは

虐待が子どもの権利を侵害する理由

虐待は子どもの基本的な権利を直接的に侵害する行為です。ここでは具体的な影響をいくつか挙げて説明します。

生きる権利を侵害する

子どもには、安全で健康な環境の中で生きる権利があります。しかし、ネグレクトや身体的虐待により、その権利が大きく侵害されます。危険な環境に置かれることで、子どもは生命の危機にさらされることがあります。

育つ権利を侵害する

子どもには、健全な環境で育ち、教育を受ける権利があります。ネグレクトや心理的虐待は、この権利を侵害し、子どもの成長や発達に悪影響を及ぼします。例えば心理的虐待による心の傷は、子どもの自己肯定感を低下させ、社会的に適応するのが難しくなることがあるのです。

守られる権利を侵害する

すべての子どもは、暴力や搾取から守られるべきです。しかし虐待が行われると、この守られるべき権利が侵害され、子どもは常に不安や恐怖の中で生活することになります。特に家庭内での虐待は、子どもが最も安心して過ごせるはずの場所での権利侵害であり、その影響は計り知れません。

意見を表す権利を侵害する

子どもが意見を述べることが許されなかったり、意見が無視されたりすることで、この権利が侵害されます。子どもが意見を述べることができない環境では、自己表現力やコミュニケーションスキルの発達が妨げられます。

心理的虐待の具体例

1. 言葉による否定

・子どもが失敗したときに、「なんでこんな簡単なこともできないの?」と言う
・「あんたなんかいなくてもいい」といった存在を否定する言葉を使う

2.他の子どもと比較する

・「○○ちゃんはもっと上手にできるのに、あなたはどうしてできないの?」と他の子どもと比較する
・成績や能力で兄弟姉妹と比較して、「お兄ちゃんみたいにしっかりしなさい」と言う

3.無視や冷淡な態度

・子どもが話しかけても、意図的に無視する
・子どもが泣いたり感情を表現しているときに、「そんなことで泣くんじゃない」と感情を否定する

4. 過度な期待やプレッシャーをかける

・「あなたは絶対に○○大学に行かないとダメ」と過度な学業成績を要求する
・「一番でなければ意味がない」と常に完璧を求める

5.脅しや脅迫

・「言うことを聞かないなら出ていけ」と脅す
・「そんなことをしたら、もう嫌いになるよ」と脅迫する

<関連記事はこちら>通告件数は8万件以上! 子供への虐待の種類と現状、すべての親にとって他人ごとではない理由とは

心理的虐待を受けた子の影響

感情的な影響

心理的虐待を受けた子どもは、抑うつ状態に陥る可能性があります。また自分の感情を適切に表現する方法がわからなくなったり、無気力になることもあります。さらに常に緊張状態に陥り、精神的に不安定になることもあるのです。

社会的な影響

心理的虐待の影響は、対人関係の困難や集中力の低下として現れることがあり、これにより学校での学業成績が悪化することがあります。子どもは自分の不安やストレスを他者にぶつけるようになり、友人関係がうまくいかなくなることもあります。

心理的影響

長期間にわたる虐待は、子どもの心に深刻な傷を残します。特に、うつ病や不安障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などの精神的な問題を引き起こす可能性があります。また自己肯定感が低下し、将来的には依存症などのリスクが高まることもあります。さらに、長期的な虐待は子どもの脳の発達にまで影響を与え、脳の一部が萎縮することがある、という研究結果も出ています。

<関連記事はこちら>怒鳴ると子どもの脳が委縮する?発達や心への影響と親が怒り方を変える4つの方法

しつけと虐待の違い

親からの質問で「しつけは必要ですか?」「つい怒ってしまう私はダメな母親でしょうか?」というものがよくあります。一方で虐待死させる親の言い分として「しつけのつもりだった」というものがよく報道されますよね。
そこで、「しつけ」「叱る」「怒る」について、それぞれの違いを見ていきます。

「しつけ」とは?

しつけの目的は、子どもが社会で適切なふるまいができるようになることです。具体的には、以下のような能力や態度を身につけることを目指すことです。

・模範を示す

親自身が良いお手本となり、子どもに正しい行動を示します。例えば、親が他人に親切に接する姿を見せることで、子どもも同じように行動するようになります。

・ルールづけ

ルールは明確で、一貫性があることが大切です。例えば、朝起きたら顔を洗うなどといったことです。社会的なマナー、ふるまいを見せて教えることで子どもにルールが身に付きます。

「叱る」とは?

子どもを叱る目的は成長や改善です。そのために社会活動において子どもの言動の何が間違っていたのか、どのように行動すればよかったのかを一緒に考えたり、教えてあげる必要があります。

つまり、叱るとは子どもに適切な言動を教え導くことなのです。この際に気を付けなくてはいけないのは、子ども自身が理解できるように教える、ということです。

「怒る」とは?

相手に不快なことをされた、権利侵害を受けた場合に起きる感情が「怒り」です。「怒り」の感情はごく当たり前のことであり、良いも悪いもありません。そして感情は自分のものであり、子どもには関係なく自分側の問題なのです。

1:子どものとった行動を見る(聞く)ことによって不快になった
2:不快になった自分の感情を子どもにぶつけた

1の外側の理由について、2の自分の感情を沸き起こしているということです。つまり、自分の都合で怒りを子どもにぶつけているわけです。そこから子どもが学ぶことは、自分を不快にさせた相手に対して怒りをぶつけても良いということです。

子どもとの接し方で気を付けること

完璧な親はいません。時には声を荒げてしまうこともありますが、その後の対応次第で、子どもに良い影響を与えることができます。

たとえば親が忙しいときに限って、子どもがいたずらをすることはよくあることです。そんなときつい大声で怒鳴ったり、イライラをぶつけてしまうこともあるでしょう。もしそうなってしまったら、まずは子どもに「怒鳴ってしまったこと」を素直に謝りましょう。大人でも失敗することはあります。それを繰り返さないようにするのが成長です。

失敗したら謝る姿を見せ、次回イライラしたときにどう対応するかを子どもに伝え、それを実行する姿を見せることは、子どもにとって「失敗したときの対応」の手本となり、良い「しつけ」となります。

心理的虐待をしてしまう親の傾向

心理的虐待を行ってしまう親には、いくつか共通する特徴があります。たとえば自己肯定感が低い、依存傾向が強い、感情のコントロールが未熟であるといった点です。また子どもに対して甘えがあったり、子どもを自分の思い通りにコントロールしようとすることもあります。さらに、子どもの評価と自分の評価を混同してしまい、子どもを通じて自分の価値を確認しようとする傾向が見られる場合もあります。

虐待からの脱却:親自身の変化が鍵

心理的虐待を行っている親が最初に取り組むべきことは、自分自身を変える努力です。自己肯定感が低く、依存傾向が強い親にとって、変化は決して簡単なことではありません。しかし、他人を変えることはできません。できるのは自分を変えることだけです。子どもに対して健全な親子関係を築くためには、まず親自身が自己変革を進める必要があります。

そのためには、まず自分自身の問題を認識することが重要です。特に、子どもがまだ幼いうちは、どんな親でも無条件に受け入れてくれるため、親はその無条件の愛に甘んじてしまいがちです。その結果、親は子どもをコントロールしやすいと感じるかもしれません。
しかし、子どもが成長するにつれ、親とのパワーバランスに疑問を感じ始めます。この時期に親が自分の行動を見直さないと、子どもはうつ傾向に陥ったり、不登校やひきこもりなどの問題を抱えることがあります。こうした事態になると、親子関係に深刻な緊張が生じ、関係性の改善が難しくなることがあります。

親として、子どもの成長とともに自分自身の役割や接し方を見直し、変化することが求められます。親自身の変化が、子どもの健全な成長と関係性を再構築する鍵となるのです。

自己肯定感を高めるための具体的なステップ

自己肯定感を高めるためには時間がかかりますが、以下のようなステップを踏むことで、徐々に改善することができます。

自分との約束を守る

自己肯定感を高めるための一つの方法は、自分との約束を守ることです。自分との約束は、破っても誰からも文句を言われることはありません。しかし、約束を守れなかった自分は、「できない自分」を積み重なることになり、その結果自己肯定感が下がります。
現実的で達成可能な目標を設定し、自分との約束を守る経験を積み重ねることが重要です。たとえば、朝7時に起きて顔を洗うといった簡単な目標を設定し、それを実行していきます。
「自分との約束」の記録をつけていくことで、自己成長を視覚的に確認でき、実績として自己肯定感が高まっていくはずです。

記録を取ることの重要性

自己肯定感が低い人はできなかったことに目がいきがちですが、記録を取ることによって、自分が成し遂げたことを視覚的に確認でき、達成感が得られます。これによりステップアップがしやすくなり、自己肯定感の向上につながります。

ただはじめのうちは何から始めたらよいのかわからない方も多いでしょう。その場合は、伴走者としてカウンセラーを利用するのも一つです。慣れてくるようになると自分でできるようになります。

まとめ

心理的虐待は、親自身も気づかず無意識に日常生活の中で行ってしまう、子どもの心に影響を与える行為です。直接的な暴力ではなく言葉や態度によって子どもの感情を傷つけるもので、子どもの基本的な権利を侵害する可能性があります。

世界中で採択されている「子どもの権利条約」は、すべての子どもが健全に成長し、安心して生活できる権利を保障していますが、虐待はこの権利を脅かす行為です。身体的虐待や性的虐待、ネグレクト(育児放棄)と並び、心理的虐待も子どもの心に大きな傷を残します。

心理的虐待を受けた子どもは、感情面や社会的スキルに悪影響を受け、自己肯定感の低下や精神的な問題に繋がることがあります。親がこのような虐待をしてしまう背景には、親自身の自己肯定感の低さや感情のコントロールが未熟であることが関わっていることが多いです。

親として重要なのは、自己変革を通じて虐待から脱却し、子どもに対して健全な接し方を学ぶことです。具体的なステップとして現実的な目標を設定し、自分との約束を守ることや、達成したことを記録することで自己肯定感を高めることが推奨されます。親自身が変わる姿を見せることで子どもの手本となり、たとえ誤ったとしてもやり直せるという影響を与え、自己肯定感の向上につながります。

心理的虐待について悩む保護者の相談先

自分がやっていることが心理的虐待なのかどうかが心配になったら、まずは相談してみてください。

地域の子育て支援拠点

子育て中の親子が気軽に集い、相互交流や子育ての不安・悩みを相談できる場になります。

児童相談所

より深刻な場合はこちらに相談しましょう。子どもにつらく当たってしまいそうな場合、自分は少し深刻だなと思われる場合は「0120-189-783(いちはやく・おなやみを)」(フリーダイヤル)へ電話してください。子どもに関わる専門家が、具体的な解決策やサポートについて一緒に考えてくれます。

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藤原美保

療育20年、放課後デイ10年運営のベテラン。子どもの「できない」に悩む親へ、行動の原因と対策に徹底的にサポート。幼少期にこそできる家庭内療育を提供。発達障害の子への性教育も。 これまでに、『発達障害の女の子のお母さんが、早めに知っておきたい「47のルール」』(エッセンシャル出版社)、『発達障害の女の子の「自立」のために親としてできること 』(PHP研究所)と2冊の本を執筆。現在も出版に向け本の執筆をつづけている中、子育てのポータルサイトにて発達障害の子の子育てコラムを連載中。

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