ピグマリオン効果の正しい活用法|子育てに役立つ「ほめる技術」とは
「人は周囲から期待をされると、期待されないよりも成果を出す」という、ピグマリオン効果。
「ほめることはやる気を生み出し、学力向上につながる」といわれていますが、果たして本当はどうなのでしょうか。教育総合研究所を主宰する諸葛正弥さんが解説します。
目次
ピグマリオン効果とは
「人は周囲から期待をされると、期待されないよりも成果を出す」という、ピグマリオン効果ですが、いつから、どのような根拠に基づいて広がっていったのでしょう。
発端は1964年のアメリカにさかのぼります。
当時、教育心理学者R.ローゼンタールは、サンフランシスコの小学校で「ハーバード式突発性学習能力予測テスト」(※1)と名付けたテストを実施しました。
テストの内容はごく一般的なものでしたが、教師には「このテストによって今後の成績の向上が予測できる特殊なテストである」と伝えました。さらに、テスト後には、テストを受けた中から無作為に生徒を抽出し、「この生徒たちは今後の成績が伸びる」と教師に伝えたのです。
その後、選ばれた生徒とそうではなかった生徒との成績の伸びを比較すると、選ばれた生徒の方が成績の伸び率が高いという結果になりました。
このことから、「人は周囲から期待をされると、期待されないよりも成果を出す」という結論が導かれて、ピグマリオン効果という言葉で広まり、「ほめることはやる気を生み出し、学力向上につながる」という風潮が加速することになったのです。
ピグマリオン効果の落とし穴
ピグマリオン効果の基となる上記の実験ですが、どのように感じましたか? 下記のようなことは考えられないでしょうか?
例えば、「この子は伸びる」といわれている子が教師の想定よりもできなかった場合、教師は「自分の指導法がよくないのではないか」と考え、自信の指導についての課題を研究し、改善しようとしたのかも知れません。
また、伸びるといわれている子の成績を上げるために特に目をかけていくでしょうから、公平に授業をしていたとはいえない可能性もあります。
そうなってくると、そもそも実験自体の信憑性が若干疑わしいのではないかと感じませんか?
確かに、子どもは「期待をかけられている」と自覚することで、自分に自信が芽生え、努力する意欲が向上することがあります。ですが、単に期待をかけたり、ほめたり(認めたり)すれば成績が向上すると結論づけ、ピグマリオン効果を子育てに受け入れようとしても、果たして望むような結果が得られるとは限らないのです。
ピグマリオン効果へ導くほめる技術
子育てにピグマリオン効果を取り入れようとすると、子どもを認めていることや期待していることを表すために、むやみに子どもをほめる保護者もいます。
しかし、実は”ほめる”というのは簡単なことではありません。落とし穴があるので要注意です。
では、どうすればよういのでしょうか。効果的にほめるには7つの勇気づけと呼ばれるほめる技術(※2)が必要です。
ほめる技術(7つの勇気づけ)
- 加点主義になる
- ヨイ出しする
- プロセスを重視する
- 協力原理
- 人格を重視する
- 聞き上手になる
- 失敗を受容する
上記のような”ほめる技術”を考慮せずむやみにほめても、ピグマリオン効果を台無しにするばかりかむしろ逆効果になりかねません。
そうならないためにも、上記の中から特に取り組みやすい2点を挙げ、ピグマリオン効果をより正しく活用するための方法を紹介していきます。
【ほめる技術①】加点主義になる
加点主義とは、減点方式ではなく加点方式で言葉をかけていこうというもの。子どもができないことに注目するのではなく、どこが良くなったのか、という進歩や成長を共に喜ぶ姿勢での言葉がけを行うことです。
ほめ方例
サッカーを習っていても点が決められない子どもに言葉がけをする場合…減点方式の場合…「1年間も続けてきても活躍できないなんて」加点方式の場合…「前回の試合と比べて、全体によく走れるようになったし、顔も上がるようになったね」
【ほめる技術②】プロセスを重視する
文字通り、物事に取り組んでいるときの途中経過に注目する姿勢です。
私たち大人はどうしても経験上、先に結果が見えてしまい、子どもに対して「なんて要領が悪いんだろう」「こうすれば簡単にできるのに」と感じてしまって手や口を出してしまいがちです。
しかし、子どもは未経験のことや慣れていないことに一生懸命に取り組んでいる最中であり、結果が悪くても子どもが自分の力で乗り越えていく過程こそが成長において大切です。大人は手や口を出すのではなく、見守ることが大切です。
結果よりもそこまでに行ったことに寄り添う態度は、子どもの小さな進歩や退歩を受け入れる姿勢ともいえます。
ほめ方例
テストで満点を取った子どもに言葉がけをする場合…結果重視の場合…「満点とってすごいね!とっても嬉しいわ」プロセス重視の場合…「これまでコツコツ復習ノートを作って毎日見直してきたからだね」
喜びを分かち合うのもほめると一緒
前述の「結果重視はよくない」という考え方に矛盾しているように感じるかもしれませんが、「結果について子どもと一緒に喜ぶ」という姿勢ならほめることは悪いとは思えません。
例えば、大きな大会で勝利したり、試験に合格した子どもに、「やったね!すごいね!」とほめてはいけない、というのはさびしいですよね。
むやみにほめるというのは避けた方が良さそうですが、ここぞというときに子どもと一緒に喜び、大いにほめることは、親子の気持ちをつなぎ、共感と感動を分かち合う上でも必要な行為といえるでしょう。
子どもとの関わり方に単純な正解はありません。ピグマリオン効果を正しく活用していくためにも、“子どもの成長においてほめるべきところかどうか”という視点を常に持ちつつ、ほめる技術をうまく使い分けていってください。
※1:Rosenthal, R. & Jacobson, L.:”Pygmalion in the classroom”,Holt, Rinehart & Winston 1968 ※2:「勇気づけの心理学」
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大手進学塾で長年指導を行ない、2007年に「イラスト図解でわかるプロ教師力アップ術55」(明治図書)を出版。教育委員会・各種学校などで教員研修を行ないながら、私立中高一貫校の学校改革などを手掛けている。また、「ロボット教室」や「学習教室まなび-スタイル」の運営、「よい子を育む家」の監修なども行ない、教育について幅広く活動を行っている。