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2023.05.27

育休復帰がこわい。「ママ×教員」両立の難しさ……なぜママ教員は離職してしまうのか

年々深刻化する教員不足。「働きたいけど、働けない」「教師という仕事は魅力だけど……」後ろ髪をひかれながら、教職を辞するママ教員もいます。なぜ彼女たちは、教員であることを諦めなければならなかったのでしょうか。

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深刻化する教員不足。その背景は?

ニュースや新聞等でも目にする機会が増えた、教員不足の話題。

日本大学の末冨芳教授らの調査によると、2023年度4月の始業日時点で、公立小中学校の実に2割以上で教員が不足したまま、新年度を迎えたことが明らかになりました。

小学校では20.5%、中学校では25.4%もの学校で教員不足が生じています。この数値は、2022年度よりも増加傾向にあり、教員不足は年々より深刻化していると断言できるでしょう。加えて、教員の精神疾患による休職者も年々増加しています。始業日ですでに足りていない人員が、年度途中で更に減る可能性も大いにあるということです。

教員が足りない学校現場では、担任不在のまま、授業を分割して担当したり、管理職が教壇に立ったりと、その場しのぎで補う事態が起きています。これでは、子どもたちによりよい教育を提供できないばかりではなく、最前線で働き続ける教員たちへの負担も重くなる一方です。

こうした教員不足の実態を受け止め、文部科学省も動き始めています。給与などの処遇の改善や働き方改革、学校の運営体制の検討を進めるとした方向性が示されました。

しかし、教員不足の解消には、今後かなりの時間を要するでしょう。

一般社会や若年層には「教員=大変、キツイ、ブラックな働き方」といったマイナスのイメージが深く深く染みついています。このイメージが払拭され、「教員=魅力的な仕事」と認識されるのには、長い年月と大規模な改革が必要となりそうです。

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教員の労働環境が、しばしばニュースで取り沙汰されています。生徒の人生に関わるやりがいのある仕事ですが、あまりの大変さに疲れ果ててしまう方も多いようです。その影響.....

育休復帰がこわい――ママ×教員、両立の難しさ

教員不足が話題となる昨今。教員として働きたい人材は大切にしたいところ。

ところが、働きたくても働けない。教員で在り続けることを諦めざるを得ない人もいます

それが、子育て世代のママ教員たち。家庭と仕事とを両立させ、持続可能な働き方をしたいと思いつつも、泣く泣く教員であることを諦め、離職を選択するママたち……。いったい何がママ教員たちの足を止めているのでしょう。

労働時間

まず、労働時間の問題が挙げられます。

近年、働き方改革が叫ばれてはいるものの、多岐に渡る業務内容やその量の膨大さ、部活動や保護者対応なども相まって、残業時間が長くなってしまうことが原因の1つと言えるでしょう。

すると、

  • 家庭で我が子とゆっくり過ごす時間が取れない
  • 園や学童のお迎えは、1番最後の常連に……
  • どちらかの実家にいつも頼りっきり

なんてことに。ふと、「このままでいいのだろうか」「家庭をもっと大切にしたい」という迷いが生じるのも頷けます。

また、平日の帰宅時間が遅くなることだけにとどまらず、部活動の練習や試合、終わらなかった授業準備や成績処理などでやむを得ず休日出勤をすることも。中には、子どもと一緒に寝て、午前3時に起きて仕事をするというママ教員もいます。プライベートの時間を犠牲にして働かざるをえない風潮がいまだに残っているのです。

勤務環境・人員体制

また、勤務環境・人員体制も要因の1つでしょう。

学級担任は有休が取りづらい立場であることが多いようです。

ただでさえ深刻化している人手不足。補充をお願いする教員を探すことが難しい場合もあるでしょう。人手不足の大変さを痛感する中で休みを取るとなると、肩身の狭い思いをしながら、補充計画や教材を準備し、引継ぎを行わなければなりません。有休を取ることにも、精神的・物理的負担が大きいのです。

子どもがいると、急な体調不良でお休みをしたい、子どもの園や学校行事、懇談会に参加しなければならない、旗振り当番やPTAでの遅刻や早退……などもありますよね。どちらかの実家が近くにあるなど、頼れるサポートがあるからこそ続けられるといった声も耳にします。

現に、妊娠・出産を機に離職を決意するママ、育休復帰後にやはり家庭を大切にしたいと、教職を辞するママ教員たちを目にしてきました。

「離職」を頭の片隅に、選択肢の1つとして悩みながら育休に入ったものの、出産以前の働き方を考えると、やはり家庭との両立は厳しい。教員として働きたい思いと、家庭を大切にしたい思い――。不安や葛藤を抱えるのも無理はありません。

ママ×教員として働き続けるために必要なことは?

では、子育てしながら教員を続けることはできないのでしょうか。

もちろんそんなことはありません。現に筆者も子育てをしながら教員を続けています。ただし、遅くまで残って仕事をしていた働き方から、何かを“変える”必要があります

職場や雇用形態を変える

一口に教員と言っても、非常勤講師などの非正規雇用形態を選択することもできます。部活動が負担になっているのであれば他の校種に変える、条件の合う私立学校を探してみるなど、より自分の生活スタイルに合った労働環境を探すことも1つの手段でしょう。

学習支援員やサポートスタッフなどの他の先生の補助を行うポジションであったり、人員が十分で複数人で情報を共有しながら運営を行う体制が整っていたりすれば、有休をとることにも後ろめたさは感じづらいかもしれません。

働き方を変える

子どものお迎え時間等、タイムリミットがある中で働くためには、業務の選別・効率化の必要があります。今まで何となく慣習化してやっていた仕事でも、削減できる業務はないのか見直したり、ICT機器を導入し簡略化したりすることで、業務の時短をはかることが有効になるでしょう。

従来は、宿題1つとっても、ページや単元を選択する・印刷する・丸付けをする……と時間も手間もかかっていました。筆者もしょっちゅう、漢字ドリルやプリント、日記帳を持ち帰っていたものです。

現在は、タブレット端末を用いることで、授業中の課題の配布や提出、宿題の集約等を行うことができます。GIGAスクール構想により、授業の方式や教員の働き方にも変革を起こすことが可能になったのです。対子どもだけではなく、懇談会や注文などの保護者向けのアンケート類もデジタル化することで、印刷・配布・回収・集約の手間を省くことができます。

これらは、ほんの一例にすぎません。同様に、より効率化・簡略化した働き方ができないか模索し、従来の惰性で続けている慣習を見直していく姿勢を持つことが両立には必要です。

考え方を変える

教員の仕事に、終わりはありません。授業も、よりブラッシュアップしようと思えば思うほど、時間もかかります。時間をかけようと思えば、いくらでも時間をかけられてしまうのです。

あくなき探究心・向上心はすばらしいことですが、それがかえって自分を苦しめていることも……。教育への情熱やこだわりがあるママ教員こそ、バーンアウトしてしまう姿も目にします。

もちろん教員としてそういった姿勢は大切にすべきであることは間違いありませんが、家庭との両立を目指す上では、考え方をチェンジする必要もあるのかもしれません。仕事は仕事と割り切る姿勢仕事も家庭も100%は難しいということを念頭に置くことも大切です。これが実は簡単なようで難しいものです。

上記はあくまでも、これらはママ自身で努力できる、個人の業務内容の範疇にすぎません。

本来は、業務内容の見直し・学校運営体制の改善など、学校や自治体、国全体として抜本的な制度の見直しがなされれば解決しない問題も山積しています。形骸化した不要な業務の削減、ICTの導入による簡略化、民間企業への委託など、時代と共に教員の在り方も変わらなければならないときが来ています。教員不足の割合の多さが、それを物語っているのではないでしょうか。

そして、これらの改革が進むことは、ママ教員だけではなく、教員志望者の増加にもつながるはずです。ただし、こちらはまだまだ時間がかかりそうというのが現状でしょう。

子育ても、仕事も大切に――。

ママとしても教員としても、笑顔で輝く女性たちが増えますように。

我が子の笑顔。学校での子どもたちの笑顔。どちらも、ママ教員の原動力になるものです。

<参考資料>
文部科学省 令和3年度 公⽴学校教職員の⼈事⾏政状況調査について(概要)
読売新聞 公立小中学校の20%以上で教員不足、昨春より5ポイント悪化…日大教授ら調査

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堀之内梢

国立大学教育学部卒業。専門教科の国語を愛し、教科担当制の私立小学校にて勤務。好きな教材は「おにたのぼうし」。好きな文法は品詞分類。学級担任として、多くの子ども・保護者と関わる。現在は教員業の傍ら、教材執筆者・ライターとしても活動中。プライベートでは1児の母。

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