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2020.09.29
2020.10.12

”娘が嫌い”と感じるのは不自然ではない。精神科医がおすすめするわが子との向き合い方とは

親子の悩み相談室第5回目となる今回は、「娘が嫌い」と悩み、自己嫌悪に陥っている母親からの相談に、トラウマに詳しい児童精神科医の前田佳宏先生が答えます。「親子関係も人間関係のひとつなので、嫌いと感じても不自然ではない」と前田先生。「娘が嫌い」と感じてしまう原因を見つけ方や、親子関係を変えていく方法をお伝えします。

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今回のお悩み

私は娘のことが嫌いです。どこが嫌いなのかと聞かれても分かりませんが、性格も合わないし、相性が悪いのではないかと思います。見ているとイライラして、抱きつかれるとゾクッとして嫌悪感でいっぱいになります。なぜ私は娘を愛せないんでしょうか。こんな自分も大嫌いです。
(小3娘の母)

誰にも相談できず、葛藤するお母さんに、児童精神科医の前田佳宏先生はどのように回答するのでしょうか。

娘を嫌いになるのは不自然なことではない

前提としてお伝えしたいのは、親子関係も人間関係のひとつだということ。独立した個々の人間同士の関係と考えれば、親が娘や息子に対して「嫌い」と感じてしまうことがあっても不自然ではありません。

つまり、親子関係でも相性の良し悪しはあるということを考えれば、相談に書いてある「相性が悪いのではないかと思います」という考え方も間違ってはいないのかもしれません。

しかし、相性はずっと悪いまま、嫌いなままで諦めるしかないわけではありません。今回は、親子関係を変えていくためにできることを紹介します。

親子関係にも関係する相性とは

相性とはつまるところ、それぞれの性格が合うか・合わないかです。

一般的に性格は”一生変わることのないもの”として考えられがちです。もともと人には素質と呼ばれるような、自分にとって心地よく行いやすい行動があります。

例えば内向的な傾向が強い子であれば、少人数で遊んだ方がみんなでワイワイガヤガヤ遊ぶも無理せず行いやすい可能性が高いでしょう。人は自分にとって苦でない行動を選択する傾向にあり、そうした行動を繰り返すことで行動パターンがある程度決まってきます。このように築かれた行動パターンが性格と呼ばれています。

性格はこれまで生きてきた行動によって培われたものであるからこそ、その行動を変化させることで変わっていきます。

例えば以前仲の良かった友達から、ちょっといじわるなことを言われて嫌な気持ちをずっと引きづっており、友達とのコミュニケーションが上手くいかない子がいたとしましょう。友達と関わろうと思っても「どうせまた仲良くなっても、嫌なことを言われるだけだ」といった考えが抜けず、似たようなことが起きた時に同じ反応が繰り返されることで性格は形成されるのです。

このように人と接する上で今の行動パターンしか知らない、あるいは取ってきた行動パターンが少ないために、コミュニケーションが上手く運んでいない可能性が考えられます。

そこで自分からあいさつをしたり、自分が話すのでなく相手の話に耳を傾けるなど、相手とのコミュニケーション方法を変えれば、相手の反応が変わり、今までとは異なった関係性を築けるかもしれません。

今までとは異なった関係性を他人と築けるようになると、親密な関係性が構築できたり、交友関係が多様化するなど変化が生じる可能性が高くなります。そうなれば、おのずと性格も変わっていくと私は考えています。

性格が変わる可能性があるということは、相性も変わる可能性が高いということです。

今は娘さんのことを嫌いと感じているかもしれませんが、相性が変わっていけば子どもに抱く感情も変わっていくような気がしませんか?

なぜ自分の子どもを嫌いと感じてしまうのか

また、今回の相談内容の中でも印象的なのが「なぜ私は娘を愛せないんでしょうか」という一文です。「嫌いだけど愛したい」という母親としての葛藤が痛く伝わってきます。

「なぜ愛せないのか」という問いの答えを知りたいのであれば、まずは「なぜ嫌いと感じてしまうのか」という理由を掘り下げてみましょう。

実は、嫌いと感じることは物事や言動に対する一つの反応に過ぎません。人にツバを吐かれたら反射的に「不快だ」と感じてしまうことと同じように、反射的に嫌いと感じてしまうには何かしらの原因があるはずです。

「ツバを吐かれても喜べ」といわれても難しいように、嫌いだと感じている何かを無理やり好きになるのは難しいことです。それよりも「ツバを吐かれないようにする」「ツバをよける」というように原因に対してアプローチをしていくことが大切です。

しかし、今回の相談内容からは嫌いの原因が子どもの言動にあるのか、それとも相談者さん自身の心の中にあるのかは判断できません。おそらく相談者さん自身も分かっていない可能性もありますね。

そこで、嫌いの原因を見つけていくコツを紹介しましょう。

嫌いの原因を突き詰めていくコツ


嫌いの原因を突き詰めていくためにまずは、子どもに対してイライラしたり、嫌いと感じたりしたときの状況を書き出しましょう。 殴り書きでもいいので、子どもに対して感じたイライラだけでなく、日常生活でもイライラした場合、どんな時に、どういった状況で生じたのかをメモします。

メモを取ることで、どういう場面でイライラしたのか、イライラや嫌いの原因は何だったのかを客観的に振返りやすくなります。イライラの原因が子どもの言動にあるのか、もしくは、親自身の心の中にあるのかが何となく見えてくると思います。
 

親自身の心に嫌いやイライラの原因がある場合

私が診てきた患者さんたちを振り返ってみると子どもとの関係性を改善したくて相談に来た人の多くが、自分自身の中に原因があり、過去の親子関係が関係しているケースが多い印象です。

例えば、自分が悪い親だと思われたくないために、いい親であろうとしている人がいます。世間の目を気にして過剰に頑張ろうとするあまり、思い通りにいかない子どもにイライラを感じてしまうのです。

世間の目といいながらも、最も影響力があるのは自分の親のこともよくあります。自身の親から「育て方が悪い!」と思われることが嫌だったりするかもしれません。

また人によっては、自身が厳しく育てられた経験しかないため、無意識のうちに目の前にいるわが子に対しても厳しく育てようとしてしまう人もいます。

このように過去の親子関係にこころの傷を抱えている人は、愛着障害となっていることがあり、今回の相談者さんのように「自分のことが嫌い」と感じている人がいてもおかしくありません。

*愛着障害とは

養育者との間で、何らかの理由により愛着が形成されなかったことで、情緒や人間関係で生じる様々な困難のこと。従来は子どもだけの問題だとされてきたが、最近では大人にも起こりうる問題とされている。(参考:岡田尊司『愛着障害 子ども時代を引きずる人々』 光文社新書540)

子どもの言動に嫌いやイライラの原因がある場合

子どもの言動に嫌いやイライラと感じる原因がある場合は、過去に子どもから感じた“嫌い”という感覚を反芻(はんすう)しているという可能性があります。

例えば、子どもが反抗的でいうことをちっとも聞いてくれないとします。いろいろ試行錯誤したものの万策尽きて、子どもにいうことを聞かせるための方法が、もう叩くことしかないけれど、それは嫌だと思っている。とはいえ、どうすればいうことを聞かせられるか分からない…。

このような悩みすぎた辛く苦しい状況が続くと、子どもが少しでも反抗的な態度を取るだけで“また苦しまないといけない=嫌い”と反応してしまい、嫌いやイライラの感情で自分自身がいっぱいいっぱいになることも。

そのような状態になれば、子どもにも嫌い・イライラの感情が伝わり、余計反抗的な態度が加速する、という負の循環に陥りかねません。

また子どもの言動に対し嫌いスイッチが入る場合も、よくよく突き詰めると、実は過去の親子関係をひきづっているなど、自分自身の中に原因があることも。子どもの言動によって、自分自身の内側が過剰に反応していただけで、子どもだけの問題ではなかった、ということもあります。

イライラや嫌いスイッチは子どものせいではないかもしれない、という視点をもつのも役立ちます。イライラや嫌いという反応に飲みこまれず、その感情がどうして起こったのかをみつめることができればなにか発見があるかもしれません。

感情をふりかえるには、何よりもまず、イライラや嫌いという反応に気づくこと。反応を反応で返すのでなく、自分の中で何が起こっているかをみてみましょう。

自分の中の反応に支配されず、フラットに子どもに接することができれば、「大切に思いたいわが子を大切にできた」という成功体験ができ、徐々に反応自体もおさまっていきます。

また子ども自身も、親が穏やかに関わることで、反射的に反応することが減ります。そうやって、少しずつ親子の関係性が落ち着いたものになっていくでしょう。

子どもへの嫌いを変えていくためにできること

子どもに対して嫌いと感じてしまう原因が分かってきたら、次は原因を取り除いたり、どう対処したりしていけば“嫌い”と感じずに済むようになるのか考えてみましょう。

親自身の中に原因がある場合の対処アドバイス

親自身の中に原因がある場合は、原因を自分一人だけで突き詰めるのはあまりおすすめできません。

特に今回の相談者さんのように「自分のことが嫌い」と感じるほど、悩んでいる場合、考えを深めていく過程でマイナス思考に支配される可能性があります。客観性が保てるように専門家に相談をすることをおすすめします。

専門家とは心理療法を行える精神科医や、心理士、カウンセラーといった心理を扱える人のこと。親子の関係を紐解くのを手伝ってくれるでしょう。

わが子や自分自身のことが嫌いだと打ち明けること、過去の親子関係について話すことは勇気がいることだと思います。そもそも、専門家への相談に敷居の高さを感じる人もいるかもしれません。

しかし、専門家は相談に来た人に感情をぶつけたり批判しようとはしません。本人にとって役立つ時間になるようにこころがけています。

もし、何か嫌なことを言われるのではないかと不安であれば、実際の相談をする前にセラピーやカウンセリングをどのように進めてほしいかということを専門家へ伝えると、より有意義な相談ができるでしょう。

最初は相談したいことがまとまっていなくても大丈夫です。少しずつ言葉にしていくことで、自分の中で何が起こっているか、自分が何を求めていて、どうなりたいかが分かる時間になっていくでしょう。

子どもの言動に原因がある場合の対処アドバイス

例えば、言うことを聞かない子どもを叩いてしまいそうになって悩んでいるケースの場合。本来の願いは、子どもに言うことを聞かせることですよね。

そうであれば、叩くという選択肢をせずに、言うことを聞いてもらうアプローチがあれば悩まずにすみますよね。

それだけ悩んでいるのですから親自身の中には他のアプローチはないのかもしれませんが、子ども家庭支援センターやスクールカウンセラーなど、子どもとの接し方について相談できる窓口に行けば、別のアプローチを一緒に考えてくれると思います。

このようにたとえ子どもの言動に原因があるとしても親自身が子どもへの関わり方を工夫すると、子どもの行動が変わっていく可能性は十分にあります。

親・子どものどちらが原因であっても、一人で抱えこみすぎると、追いこまれて余裕がなくなり、余計にわが子に対する嫌いを加速させることになりかねません。

子どもも親自身もお互いに無理しないように、一人で悩みすぎず、ぜひ専門家への相談も検討してもらえたらと思います。

<構成・執筆>ソクラテスのたまご編集部

同じ中学生(思春期)の子がいる保護者からの質問に公認心理士の佐藤めぐみさんもアドバイスしています

親子の悩み相談室 前田先生の過去連載記事はこちら

前田佳宏

前田佳宏

医師8年目の児童精神科医。通称まえまえ先生。精神保健指定医。HSP、発達障害、愛着障害などに悩む児童と大人の人々に日々向きあっている。認知行動療法、家族療法、マインドフルネスはもちろん、ポリヴェーガル理論を含めた身体心理学と内的家族システム療法をアレンジしたアプローチを好む。人生の悩みを相談しあえるっていいよねと言いあえるコーチング学習サロン『しなここラボ』を立上げ、価値を押し付けず問いを深めあう哲学対話『ゲーテカフェ』を主宰。カフェと旅と作品鑑賞が好き。LINE@:https://lin.ee/dY8flX HP:https://littleringed.org

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