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2022.05.19

【ビリギャルが伝えたいこと②】学びは最も確かな未来への投資。子どもたちには学びの楽しさをたくさん体験してほしい

小林さやかさんのコロンビア教育大学院での研究テーマは、人の学びのメカニズム。「子どもより先に、大人がまずは変わらなければならない」と感じたことが、留学のきっかけになったといいます。今の日本の教育について思うこと、子どもたちの学びの意欲には何が必要なのかを教えてもらいました。

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講演だけでは子どもたちを救えないという無力感

大学卒業後、私はウエディングプランナーとしてキャリアをスタート。2014年にフリーに転身、その後はビリギャルとして講演や教育現場でのインターン、学生や親向けのイベント・セミナーの企画運営といった活動を行ってきました。2019年には、聖心女子大学大学院に進学し、2021年に修士課程を修了。そして、2022年の3月にコロンビア教育大学院に合格しました。

社会人になってからの受験勉強は、想像以上に大変なものでした。学生であれば塾や学校の先生、親のサポートがある場合が多いですが、大人の受験は情報収集から自分で行わなければなりません。

また、120点満点の英語検定試験TOEFLで100点突破というのがアメリカのトップスクール合格には必須の条件ですが、半年間勉強して初めて受けたTOEFLは62点。それを100点まで上げるというのは偏差値を40上げるのと同じくらいしんどいことです。TOEFLはネイティブであっても100点を取るのが難しいといわれるほどのテストなので、とにかく1年半必死に勉強しました。

TOEFLがクリアできたら、次は自分のビジョンを伝えるエッセイの執筆。学びたいという思いだけでは合格できないので、自分の人生を丁寧に棚卸しして分析していきました。自分の目標を言語化することが受験勉強のモチベーションにはなりましたが、受験勉強というより就職活動をしているような感覚でしたね。

ではなぜ、ここまでして私が留学したいと思ったのか。そこにはやはり、私の原点である“坪田先生との出会い”が大きく影響しています。

必要なのは大人の学習観を変革すること

この7年ビリギャルとして活動し、普通であれば私の話なんか絶対に聞いてくれないような人たちにも話を聞いてもらえました。

私の講演を聞いてくださった方々から「もともと頭良かっただけだろうと思っていたけど、自分も頑張ってみようと勇気をもらった!」「さやかちゃんみたいに慶應に行く!」など、本当に多くのうれしい反応をいただいてきました。しかし、同時に、考えさせられるメッセージもたくさん届きました。

「さやかちゃんはいい先生に出会えて、信じてくれるお母さんがいて良かったですね」
「私にはそんな人はいない。こういう子どもたちがたくさん存在していることを、忘れないでほしいです」

こういったメッセージを見るたびに、無力さを感じたものです。そして「私には無理」と挑戦する前から諦めてしまっている子どもたちの人生を明るく照らすためには、講演だけしていてはダメなんじゃないかと思いました。

彼らの周りの大人が変わらなければ、何も変わらない。子どもの能力を信じて引き出せる大人が増えれば、子どもたちの未来は必ず変わる。坪田先生のような教育者を増やして、日本の教育を変えたい。そのためには、私自身が学ばなきゃいけないと思ったんです

「日本の学習観をアップデートする!」という大きな目標を掲げて

コロンビア教育大学院を選んだ理由は、優秀な先生と同期が集まるトップスクールで認知科学を学びたかったから。認知科学とは、「人はどうやって学び、賢くなるのか?」という問いを科学的な視点で解明する学問です。私は本来、教育システムや授業などは、人間の学びのメカニズムにおいて既に明らかになっている、科学的に正しい前提に基づいてデザインされるべきだと考えています。

例えば、ある文脈で獲得した知識を、後にまた別の文脈で生かすことができる働きを認知科学では「転移」と呼びますが、学習プロセスの中でいかにこの転移を引き起こすことができるかによって、学びの質は変わります。子どもたちが勉強に興味がもてないのは、教科書の知識や授業での学びを現実社会と切り離しているから。身近な事例を使うことで定着率や理解度、モチベーションは上がるはずです。

聖心女子大学大学院では学習科学・認知科学の理論を学びながら、渋谷区立笹塚中学校と共同で子どもの学びに関する研究を1年半にわたり行いました。

私が立てた仮説は、「教師の学習観が変われば子どもたちの学びも変わる」というもの。

学校では、先生が一方的に生徒に知識を与える「知識伝達型授業」が未だ一般的ですが、私は現場の先生方と協働し、この“教師中心”の授業から“学習者中心”の授業に切り替えました。よく、「アクティブ・ラーニング」とか「探究学習」といわれるものですね。先生が授業中にすることは、その授業で生徒たちが向かう重要な問いを投げかけ、生徒らの主体的な学習のサポーターとなること。

私たちが取り入れた学習法は「知識構成型ジグソー法」と呼ばれるものでしたが、ここでは先生が答えを提供するのではなく、生徒自身が生徒同士の対話を通して彼らなりの答えをつくり上げていきます。仲間の話を聞くことで、いろいろな考え方があるということを知ることもできます。

この授業を経験した子どもたちは「自分で考えるって楽しい」「いろんな考え方を知れて面白い」など、非常にポジティブなリアクションを示してくれました。

【ビリギャルが伝えたいこと①】信じてくれる大人がいれば子どもはチャレンジできる
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そして、この研究で私が立てた「大人の価値観や学習観が変われば子どもたちに良い影響をもたらすことができる」という仮説は、確信に変わりました。先生たちの生き生きとした表情、伝え方、そして何より“学ぶ”に対しての捉え方が変わると、子どもたちの学びに顕著な変化が見て取れたのです。この生徒らの変化に誰よりも驚いたのは先生たち自身でした。「あんなに楽しそうな生徒を見たのは初めてです」と先生方がうれしそうにお話しされるのを見て、この変化をもっと多くの教育現場で起こせるようにサポートしたいと思いました。

なぜ勉強するのか。子どもの疑問にテキトーに答えてはいけない!

勉強するのは、なぜでしょうか。テストで良い点数を取るためでしょうか? では、その先には一体、何があるのでしょうか?

偏差値至上主義であり、知識伝達型授業が主流の日本では、この問いを前にすると矛盾が生じてしまいます。

「あなたのために言っているのよ。勉強しなさい」
「大人になったら分かるから、だまされたと思って勉強しておきなさい」

こんな曖昧な伝え方では、子どもは「じゃあ、頑張ろう!」とは思えません。まずは勉強する意味を大人がもう一度じっくり考えてみることが重要ではないでしょうか。

ソクたま読者の皆さんも、子どもの頃「この勉強は、将来なんの役に立つの?」と感じたことがあるのではないでしょうか。同じことを、現代の子どもたちも思っています。

私も高校生の頃、「もう死んでる侍のこと覚えて、何の役に立つの?」「サインコサインって誰が使うわけ?」と思っていました。でも、いま世界で起きているあらゆることは歴史を知らなければ理解できないし、数学的思考は世の中で生きていく上での大きなアドバンテージになることを、大人になってやっと知りました。多くの人が、大人になってやっと勉強する意味に気付きます。

一つひとつの学びが全てリアルな世界とつながっているという実感が子ども時代にたくさん得られたとしたら、きっと多くの子どもたちは、言われなくても進んで勉強するようになると思いませんか

知識と経験が自分と大切な人を守る武器になる

“勉強する意味”は、人によって違うはず。でも、一つ確実に言えることは“学んだことがリアルな社会で生かせる生きた知識やスキルでなければ、意味がない”ということ。ここがつながれば、やはり子どもたちだって「学ぼう」と思うと思うのです。

私は子どもたちに、学ぶことは「いつか守りたいものができたときのための備え」であると伝えてきました。

勉強するのは自分のためではなく、誰かのためにするものだと思うんです。

例えば、あなたにいつか赤ちゃんが生まれて、その子は放っておいたら一人では生きられない。つまり、あなたに知識やスキルがないと、その子を守ることも生かすこともできない。私は、大人になったときに、何かを成し遂げたいと思った時、社会の不条理を解決したいと思った時、命をかけてでも守りたいと思うものができたときのために、武器や盾となる“生きた知識”を得るのが“勉強する”ってことなんじゃないかなと思っています。

だから多くの人は親になると、「勉強しておけばよかった!」「子どもには勉強してほしい!」と思うんですよね。守りたいものができたから。

ビリギャルは奇跡じゃない。大人の向き合い方で子どもは変わる

勉強する意味を誰も教えてくれない。校則や社会のルールを守る意味を誰も教えてくれない。学習者自身が意味や目的を見いだせない状態のまま無理やり従わせてしまえば、良いパフォーマンスなんて発揮できないのは当然です。

子どもの「なぜ?」を放置しないで、一緒に考えてあげること。親が全て知っておく必要はありません。分からないことは「分からないから、一緒に考えよう!」で、良いと思うんです。

例えば、坪田先生は何本も一気にアイスを食べようとする娘さんに「1日に2本も食べたらだめでしょう!」と言うのではなく、「アイスにはたくさんの糖分が含まれていてね、これを取りすぎると体に良くないんだよ。だから1本にしておこうね」と丁寧に説明するんだそうです。

子ども扱いせずに、対等に、なぜそれがいけないのか、なぜこれをしないといけないのかの理由を伝える。時間がかかることかもしれないけど、とても重要なことだと私は思います。

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「Iメッセージ」で理由と願望を伝えよう

大人は、「Youメッセ―ジ」が多くなりがちです。Youメッセ―ジというのは「You have to study」といったように、“You”(あなた)が主語の伝え方。これは、一方的なメッセージになりがちです。

一方、「I think you should study, because~」(私はあなたに勉強してほしいんだ。なぜならば~)という自分の願望と理由を伝えるメッセージを“I”(私)が主語の「Iメッセージ」といいます。

「お母さんはあなたに勉強してほしいと思っているんだ。なぜならば学生の頃は勉強の意味が分からなかったけれど、大人になって知識は人生の豊かさにつながるとわかったから」

こんなふうにIメッセージで伝えると、子どもからもIメッセージが返ってきやすくなるといわれています。そして、Iメッセージのキャッチボールは子どもとの信頼関係につながります。

Youメッセージばかり使っていては「この人には、何を言っても無駄だな」と感じさせてしまったり、大人の顔色をうかがうようになったり、子どもと分かり合うことが難しくなってしまうケースがあります。

子どもだって大人に“教えたい”。話を聞いてもらえることが何よりもうれしい

大人は、子どもにたくさんのことを教えてあげたいと思うものです。でも、子どもだって親や大人に教えてあげたい、話を聞いてほしいのではないでしょうか。前回の記事で話しましたが、誰も耳を傾けてはくれなかった当時の私の話を、坪田先生は笑って聞いてくれた。私はこの時、本当にうれしかったんです。

私は「ヒーローインタビュー」と呼んでいますが、家庭で1日10分でもいいから子どもがヒーローになったつもりで話せる時間をつくってあげてほしいです。

家事をしながら片耳で聞くのではなく、全身全霊で聞いてあげてください。大人が自分の話を聞いてくれるという時間は、子どもの自己肯定感を育みます。

数年前に、コーチングの第一人者といわれている本間正人先生にこのIメッセージとヒーローインタビューを学んで「あ、これああちゃん(私の母)がずっと私にしてくれてたことだ!」と気付きました。わたしのこの自己肯定感は、母との日々の対話と言葉掛けによって育まれたものだったのです。

自己肯定感があれば、人生どうにでもなると私は思っています。愛するわが子が大人になった時、持っていてほしいと願うものは何ですか? ググれば一瞬で出てくる情報を正確に暗記する力ですか? それとも「自分ならできる!」とワクワクするものに挑戦し、自分の手で世界を広げていける力ですか?

私が学び続けるのは、学ぶことが何よりも確実な未来への投資だと知っているから。人との出会いや世界の広がり、幸福度など全部含め、確実にハイリターンが望めるものは他にないのではないでしょうか。

私はいつか、日本が「世界一幸せなこどもが育つ国」と言われるようになってほしい。そのためには、まず大人の学習観をアップデートさせなければなりません。そこに貢献できるようになりたくて、私はアメリカ留学を決めました。

ビリギャルのストーリーは、決して奇跡なんかじゃありません。私がもともと頭が良かったから受かった、という話でもありません。私にあったのは地頭ではなく、自己肯定感です。「私ならできる」と自分を信じて挑戦できたのは、私以上に私を信じてくれる母と、坪田先生がいたからです。

子どもたちの未来は、周りの大人の在り方で変わります。皆さんどうか、子どもたちの最強のサポーターでいてあげてください。そうすれば必ず、子どもたちは自分たちの足で、力強く歩いていけるはずです。

<取材 濱岡操緒>

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小林さやか

小林さやか/1988年愛知県生まれ。慶応大学卒業、聖心女子大学大学院修士課程修了。坪⽥信貴著『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應⼤学に現役合格した話』の主⼈公ビリギャル本⼈として脚光を浴びる。自身の経験を生かし、教育現場でのインターン活動や全国各地で学生や保護者向けのセミナー、講演活動を行う。ビリギャルのアフターストーリーをつづった『キラッキラの君になるために ビリギャル真実の物語』(マガジンハウス)も話題。2022年秋にはコロンビア教育大学院に入学予定。留学日記は自身のnoteでつづっていく。 【Twitter @sayaka03150915】【小林さやか公式ウェブサイト】

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