学校の役割は知識力・集団行動力・コミュニケーション力を鍛えること/心理士・車重徳
車 重徳
心理士として、長年、発達障害などがある子どもたちのサポートをしてきた車重徳さん。子どもの知能検査である「WISC-Ⅳ(ウィスク フォー)」のエキスパートでもあります。そんな車さんが考える、学校の役割とは?
目次
学校の役割は大きく分けて3つ
私は中学校時代に不登校を経験し、当時から学校に行くことの意味についてずっと考えていました。その答えが見つからなかったため教員免許は所持していたものの公立学校の教員にはなりませんでした。
その後、心理士として活動しつつ、不登校の子、そしてグレーゾーンの子のための高校(通信制高校の技能教育施設)を作りました。中学校時代、不登校だった私が「こんな学校があったらいいな」と思う学校を自分で作ったのです。
その際、学校というものの存在を再定義し、結果的に学校の大きな役割は下記の3つだという考えに至りました。
①新しい知識を入れる場所
学校の授業や友人とのやりとり、特別活動を通じて、自身が知らなかった情報を手に入れることができるのかどうか。学校の授業や友人とのやりとり、特別活動を通じて、自身が知らなかった情報を手に入れることができるのか。
②集団行動を学ぶ場所
授業や課外活動、文化祭などのイベント、そしてさまざまな活動を通じて、集団指示の受け方や集団行動下での自身の役割の認識、場の空気を読めるか。
③コミュニケーションを学ぶ場所
授業や日常の学校生活などを通じてのコミュニケーションなど。
それでは、次から私の考える3点の学校の役割、存在意義について補足しながら解説していきます。
①「新しい知識を入れる場所」としての学校
「学校はいらない」「学校は必要ない」と言っている人の多くは、“新しい知識を入れ、知能を鍛える場所”としての学校しか、みていないのではないでしょうか。
新しい知識は確かに必要です。しかし、単にそれだけではこれからの多彩な変化が当たり前となる社会では、生きていきにくくなるのです。
②「集団行動を学ぶ場所」としての学校
今後、テレワークがどんどん普及し、社会における集団行動は機会が減るかもしれません。それでも、集団行動は学ぶ必要があります。世の中には、絶対にテレワークできない業種があり、将来どんな職種に就くのかを子どものうちに決定することはできません。
集団行動が必要な職場として、顕著なのが病院です。一人の勝手な行動が、患者さんさらには医療従事者全てに迷惑をかけてしまうことも往々にしてあるのではないでしょうか。
また、今の日本は“みんなと同じ”を求められる傾向があり、集団行動を行うにあたり“場の空気を読む力”が必要です。
そして、“みんなと同じ”であるためにどうすればいいのか分からない子は、空気が読めない人として笑われたり、イジメられたりする対象になり、集団に属しにくくなります。このことは、学校でも職場でも同じ構造ですが、社会に出てどこにも所属できないという事態は、金銭面においても生活を大きく左右します。
そのため、ある種特殊な空間で友人間でのコミュニケーションや授業を通じて場の空気を読む練習ができる学校は、集団生活をトレーニングする役割を果たしているといえるのです。
③「コミュニケーションを学ぶ場所」としての学校
世の中がどんなに変わったとしても人は一人では生きられません。どんな仕事に就いても他者とのコミュニケーションなく稼げる仕事はありません。生きていくためには、ほかの誰かとコミュニケーションを図ることが必要です。
一般的にコミュニケーションは、
・言語的コミュニケーション
・非言語的コミュニケーション
に分けられるといわれています。
敬語や集団に向けての話し方や聞き方は言語的コミュニケーションですが、場の空気を読む力や人の表情などを推測する力のは非言語的コミュニケーションに付随します。
非言語的コミュニケーションはとても抽象的です。それだけのコミュニケーションだと誤解もたくさん出ることでしょう。言語コミュニケーションと非言語コミュニケーションをどう使い分け、組み合わせれば他者に自分の意志や思いを伝えることができるのか、教師や友人、先輩、後輩など立場の違う相手にどう対応すればいいのかなど、学校はさまざまなパターンのコミュニケーションを実践練習していくには好機の場なのです。
学校に行かないとダメ、ということはない
しかし、学校も仕事も死にたくなるくらいに行きたくないのであれば、行く必要は全くありません。
なぜなら、ここまでに挙げた3つの役割はすべて代替え可能だからです。
①新しい知識
→知識はどこでも、アニメなどの好きなものも含め何からでも入れることができる
②集団生活
→学校以外のコミュニティに属せば学べる
例:ボーイスカウトや野球チームなど
③コミュニケーション
→非言語的コミュニケーションを伸ばすトレーニングがある
例:はぁって言うゲーム、認知トレーニング、視覚認知トレーニング、思考統合トレーニング、思考継次処理トレーニングなど
つまり、学校には役割があるものの代替えできないものはないと私は考えます。学校は行った方がいい。なぜなら新しい知識を習得でき、集団行動やコミュニケーションを学べるからです。
しかし、どうしても行きたくない、行けない理由があるのであれば、ほかのもので代替して学校に行かなくてもその子に必要な能力を養えばよいといえるでしょう。
車先生のWISC-Ⅳ検査を編集部が体験した記事もぜひご覧ください!
発達心理サポートセンター代表、心理士、カウンセラー、教員、保育士、介護福祉士。長年、発達障害や学習障害、精神疾患の子どもや大人のサポートや指導に従事。「WISC-Ⅳ検査」については、臨床心理士に対しての研修や指導も行っている。 https://www.wisc4.info