漢字の書き順に意味はある? 覚えるメリットと間違えやすい漢字も紹介
漢字の学習で、必ずと言っていいほどついてくる“書き順”。でも、「書き順が間違っていても漢字自体が合っていればいいのでは?」と思ったことのある保護者も多いのではないでしょうか。そもそも、子どもに「正しい書き順を覚えるのは何のため?」と聞かれて答えられるでしょうか…。現役教師の須貝さんに、漢字の書き順について教えてもらいました。
漢字の書き順はテキトーでもいい?
「漢字さえ書ければ、書き順は覚えなくてもいいんじゃない?」と思っている人は、少なからずいるでしょう。私自身も、そう思っていた時期がありました。しかし、書き順はその漢字の成り立ちからできていることを知り、意識するようになりました。
『新国語授業を変える「漢字指導」』白石範孝著(文溪堂)の中で、元・筑波大学附属小学校の教員で、現在は明星大学教授を務める白石先生はこう話しています。「今の国語の授業は、子どもたちの『どうして』に答えられていない」。
漢字指導も同じです。なぜ、正しい書き順を覚える必要があるのかを子どもに教えることが大切なのです。
今回はなぜ正しい書き順で漢字を書かなければいけないのか、書き順にはどのような意味があるのか考えます。
その前に、現在の学校での書き順の指導がどのように行われているのかに触れておきましょう。
漢字の書き順、学校ではどう指導してる? どれくらい重要視してる?
書き順のテストであれば別ですが、正しい漢字が書けているかどうかのテストでは、多少バランスが整っていなくても〇にしてしまう先生が多いようです。かくいう私も○にしていました。明らかに書き順がおかしいと分かったときには、個別に注意したりみんなの前で書き順を確かめたりということはあります。テスト用紙に「こっちから、書き始めるんだよ」など、注意書きをすることもありました。
私の経験や実感から、学校ではそれほど漢字の書き順を重視していないように感じます。書き順が違うからといって、漢字テストで×をつける先生はそれほど多くないように思えるからです。もちろん、あくまでこれは私の実感による推測です。
とはいえ、学校や塾の授業の中では正しい書き順に触れる教師がほとんど。
教え方としては、“指書き”・“空書き・“なぞり書き・“写し書き”があります。学校や塾、中学受験対策の際にも使える覚え方なので、参考にしてみてくださいね。
漢字の書き順の教え方
①指書き
えんぴつを持たず、人差し指だけで筆順通りに漢字を書かせること。お手本の漢字を指でなぞらせたり、指で机の上に書かせたりします。
ポイントは、画数を数えさせながら書かせること。伸ばして書くところやはねるところは、イントネーションを変えて言わせるようにしましょう。口で唱えると耳からも情報が入るため、漢字が覚えやすくなるのです。この段階で、子どもに漢字を覚えさせましょう。
②空書き
空中に指で書かせることで、指書きで子どもが正しく覚えたかどうかを確認できます。
③なぞり書き
薄く漢字が書かれている紙やドリルなどを用意します。薄く書かれた紙がなければ、赤えんぴつで薄く漢字を書いてあげても良いです。指で正しく書けるようになったら、次はえんぴつで丁寧になぞらせます。
④写し書き
最後は、自分で手本の漢字を見て書きます。すでに指書きで覚えているので3回程度、練習書きをすればOK。
①ができたら②、②ができたら③というように、順番に進めていくと良いですよ。
しかし、漢字の書き順について学校で重視されていない現実も少なからずあるようなのに、正しい書き順を覚える必要はあるのでしょうか。次章で解説しましょう。
漢字の書き順を正しく覚えることにはメリットがある!
結論から言うと、私は漢字の書き順を覚えるメリットは“ある”と考えます。
理由は、次の二つ。
- バランスの良い整った漢字になる
- 覚えやすくなる
書き順が正しいと、バランスの良い整った漢字になる
「書き順が違うだけで、そんなに漢字の形が変わるの?」と思う人もいるでしょう。
まず、“必”という漢字で見てみましょう。
“心”と先に書いて、最後に“ノ”を最後に書くという書き順をする人もいるのではないでしょうか。小学校や塾などの授業でもよく取り上げられますが、心から先に書くのは間違いとして教えられます。カタカナのような“ソ”を書くところから始めるのが、正しい書き順とされています。
上の画像を見てもらうと分かると思いますが、①の“心”から書き始めるより、②の方がバランスが良いですね。書き順が違うだけで、全く違う漢字のように見えることもあるのです。生徒からも「全く違う!」 という声が上がったことがあります。
覚えやすくなる
書き順には、ある程度の原則があります。どのような原則があるのかについては後ほど解説しますが、原則を知っておくことで書き順を覚えやすくなります。
漢字の書き順は昔と今とで変わった!?
保護者の中には、わが子の教科書を見て「漢字の書き順が親の時代と変わってる?」と思う人もいるようです。では、実際はどうなのでしょうか。調べてみましょう。
何と、現在小学校で教えている漢字の正しい書き順は、実は唯一絶対のものではないのです!
小学校の授業で書き順を教えるときに、よく取り上げられる漢字があります。“上”という漢字です。私は、先輩教師から次のように授業で扱うのが良いと教わりました。
「川という漢字を書いてごらん」と言って、子どもに空書きをさせます。さすがに書き順を間違う子はめったにいません。
次に、“山”という漢字を書かせます。これも、書き順を間違う子は多くはありません。
最後に、“上”と書かせます。“上”の書き順は2通りに分かれます。
【2パターンに分かれる“上”の書き順】
①たて → よこ → よこ
②よこ → たて → よこ
現在、小学校で正しいとされる書き順、国語の教科書や漢字ドリルなどでは①の“たて→よこ→よこ”が正しいとされています。
しかし、『筆順のはなし』松本仁志著(中公新書ラクレ)の中で、“上”の書き順について書かれています。
“たて→よこ→よこ”でも、“よこ→たて→よこ”でも、書き順は「どちらも正しいとはいえないが、誤りでもない」とあるのです。これは、どういうことなのでしょうか。
漢字の書き順は、学習指導上の混乱を避けるためのものだった!
当時の文部省がまとめた「筆順指導の手引き」(昭和33年)では“たて”からの書き順が示されていますが、一方で、この手引き以外の書き順でも誤りではないとしています。
この「手引き」のねらいには「本書に示される筆順は、学習指導上に混乱を来たさないようにとの配慮から定められたものであって、そのことは、ここに取り上げられなかった筆順についても、誤りとするものでもなく、また否定しようとするものではない」とあります。
つまり、“正しい書き順は一つではない”ということなのです。
「筆順指導の手引き」が出される前、一般的には“よこ”からの書き順でよく書かれていたようです。また、昭和16年から国民学校期で使用された「第5国定国語教科書」の教師用書所収では、どちらの筆順も書かれ“よこ”からの書き順の方が上位にきているとのことでした。
このような理由から、どちらの書き順も間違いではないということになるのです。
漢字の書き順は、文部省が決めたといっても過言ではありません。
現在の小学校では、指導上の混乱を防ぐため「筆順指導の手引き」に沿った書き順を教えています。“上”という漢字の書き順を“たて→よこ→よこ”を正解として教えているのは、そのためだったのです。
「わが子が習った書き順と親世代が習った書き順と違う」「変わったのではないか?」と思う人がいるのは、このあたりのことが関係しているのかもしれませんね。
漢字の書き順を正しく覚えるための3つのコツ
“正しい書き順は、実は一つではない”ということであっても、やはり学校や塾で教わる正しい書き順を覚えることは大切です。書き順のテストに影響したり、バランスの良い漢字を書くことができるようになるからです。
ここでは、現在の小学校で教えている“正しいとされる漢字の書き順”を覚えるためのポイントを解説します。
方法① 漢字の学習方法を知る
先述した「漢字の書き順の教え方」や下記の記事でも、詳しく解説しています。
漢字の覚え方にはタイプ別のコツがある 小学生でも覚えられる漢字学習のステップ
方法② 漢字の成り立ちの学習を取り入れる
漢字の書き順には、それなりの意味があります。漢字がどのようにして出来上がったかのかという成り立ちを教えると、書き順の意味が分かってくるものです。
よく取り上げられる漢字に、“右”と“左”があります。“自分から見た右手、自分から見た左手”が元になってできた漢字です。
正しい書き順とされているのは、
- 右:ノ → 右 ※ノから書き始める
- 左: 一 → ノ → 左 ※一から書き始める
漢字の成り立ちとは全く関係ありませんが“どちらが先か”の覚え方として、私は“野口の右手”と覚えています。こちらだけ覚えれば左は“よこ”からだと分かりますよね。生徒たちにも、この覚え方を伝えたことがあります。
方法③ 漢字の書き順の原則を知る
漢字の書き順には、原則があります。中には例外もありますが、原則を知っておくことで正しい書き順で書ける漢字は確実に増えます。いくつか、書き順の原則を紹介しましょう。
(1)上から下へ 三・上など
(2)左から右へ 川・湖など
(3)交わるときは、よこからたてへ 十・土など
(4)中で交わるときは、たてからよこへ 田・王など
(5)一画か二画のものに挟まれるときは、中から外へ 小・水など
※ただし、“火”や“快”などのりっしんべんはこの原則に当てはまらない。
(6)外側を囲むものがあるときは、外から中へ 同・円など
(7)はらいは、左が先 人・文など
(8)貫く画は最後 中・車など
(9)内側の“折れ”は、折れからはらいへ 男・分など
(10)外側の“折れ”は、はらいから折れへ 風・九など
(11)横画(横の線)を貫く線があるときは、たてからよこへ 感・成など
(12)横画(横の線)を貫く線がないときは、よこからたてへ 灰・石など
特に間違いやすい漢字・特に間違えやすい漢字の書き順
子どもはもちろん、親自身も間違った書き順(現在の小学校で習う書き順とは違う書き順)で覚えている漢字があるかもしれません。ここでは、特に間違えやすい漢字と特に書き順を間違えやすい漢字についていくつか紹介します。どこが間違いやすいかを解説するので、参考にしてみてくださいね。
間違えやすい漢字
- 天 二本目の線が長くなってしまう
- 百 白の部分を自としてしまう
- 春 5画目のはらい、2画目の横線から出ていない
- 育 月とはらってしまう
- 無 4~7画目の縦線が2画目の横線についている
- 夢 草冠にならずに四の部分とつながっている
- 気 4画目のはらいがはらいになっていない
- 好 女としてしまい、4画目がななめにはねていない
- 聞 耳としてしまう
- 競 ルの部分を2か所とも同じように書いてしまう
- 心 はねるべきところで、はねていない
※はね・はらいなどには許容範囲もありますが、ここでは原則としてはねるところ、はらうところではらっています。
書き順を間違えやすい漢字
正しい書き順(現在の小学校で教えている書き順)を示しておきます。
特別な漢字…凸凹の筆順
“漢字の書き順の原則”に当てはめてみると、正しい書き順が分かってきます。書き順が分かると漢字そのものが覚えやすくもなります。
現在、小学校で教えている漢字の書き順は、アニメーションで分かりやすく解説しているものもあります。楽しみながら覚えることができるので、お子さんと一緒に見てみるのも良いかもしれません。
https://kakijun.jp/page/0303200.html
【参考文献:『国語授業を変える「漢字指導」』白石範考著 文溪堂】
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東京都小学校準常勤講師・塾講師・ライター。30校以上の教育現場で教えてきた経験があり、進学塾では主に国語を担当。教師が集まる民間教育団体であるTOSS相模原・和(のどか)会員として指導法を学んでいる。https://www.toss.or.jp/