親が知っておきたい「キャリア・パスポート」のポイント|小学校〜高校まで12年間の成長記録
キャリア・パスポート、みなさんはご存知ですか? 小学校から高校までの12年間、子どもたち自身が自分の成長を記録し、振り返ることができるツールです。キャリア・パスポートの概要や目的、実践例、そして親の関わり方まで、幅広くご紹介します。
目次
キャリア・パスポートってどんなもの?
キャリア・パスポートとは
2020年度から、全国のすべての学校で「キャリア・パスポート」が導入されました。これは、児童生徒が自分の成長を記録するツールです。
ポイントは、小学校から高校までの12年間の学びを1冊のファイルにまとめていくこと。全国の国立・公立・私立、どの学校に通っていても、自分の成長の軌跡をキャリアパスポートに積み重ねていくことができます。
キャリア・パスポートは、卒業時には必ず本人にわたすことになっています。このツールを通じて、子どもたちは自分の成長を蓄積し、振り返りながら、将来への夢を育んでいくのです。
キャリア・パスポートの使い方
文部科学省は、キャリア・パスポートの使い方について、次のようなポイントを示しています。
- 子どもたち自身が記入する
- 全国の小・中・高校、すべての学校で取り組む
- 学年が上がるときは、先生同士で引き継ぐ
- 学校が変わるときは、基本的に子どもが持ち運ぶ
- A4サイズの用紙を使う
- 各学年で5ページ(両面使用可)までにする
サイズや枚数の上限が指定されていることで、進学や転校を経ても、12年の学びを1冊のファイルにまとめていくことができるのですね。
キャリア・パスポートの定義と目的
キャリア・パスポートの目的は、子どもたちが主体的に学ぶ意欲を高め、自分のキャリアを形づくる手助けをすることです。小・中・高の学習指導要領にも、その目的や活用の仕方が明記されています。
このツールによって、子どもたちは学校での学びが社会でどう生かせるか、将来に向けて今何をすべきかを考え、振り返ることができます。教師や保護者は子どもの頑張りを具体的に褒め、不安に寄り添いながら、成長の記録を刻んでいきます。
キャリア・パスポートの定義
キャリア・パスポートとは、児童生徒が、小学校から高等学校までのキャリア教育に関わる諸活動について、特別活動の学級活動及びホームルーム活動を中心として、各教科等と往還し、自らの学習状況やキャリア形成を見通したり振り返ったりしながら、自身の変容や成長を自己評価できるよう工夫されたポートフォリオのことである。
文部科学省「キャリア・パスポート」の様式例と指導上の留意事項
なお、その記述や自己評価の指導にあたっては、教師が対話的に関わり、児童生徒一人一人の目標修正などの改善を支援し、個性を伸ばす指導へとつなげながら、学校、家庭及び地域における学びを自己のキャリア形成に生かそうとする態度を養うよう努めなければならない。
キャリア・パスポートの目的
小学校から高等学校を通じて、児童生徒にとっては、自らの学習状況やキャリア形成を見通りしたり、振り返ったりして、自己評価を行うとともに、主体的に学びに向かう力を育み、自己実現につなぐもの。
文部科学省「キャリア・パスポート」の様式例と指導上の留意事項
教師にとっては、その記述をもとに対話的にかかわることによって、児童生徒の成長を促し、系統的な指導に資するもの。
キャリア・パスポートを通じて、子どもたちは周囲の大人に見守られながら、自分の可能性を広げ、未来への道筋を見つけていくのですね。
キャリア・パスポート導入の背景
では、そもそもなぜキャリア・パスポートは生まれたのでしょうか。これを知るためには、キャリア・パスポート誕生の背景にある、わが国の「キャリア教育」について知っておくといいでしょう。
キャリア教育とは
キャリア教育の本格的な始まりは、2018年に文部科学省が改訂した小学校学習指導要領に「キャリア教育の充実」が記されたことです。
キャリア教育の目的は、子どもたちが社会で自立し、自分らしく生きる力を育てること。ただ就職先を見つけるだけではなく、日々の学校生活全体を通じて、発達段階に応じた力を身につけていくことが求められています。
キャリア教育の背景にあるもの
キャリア教育がスタートした背景には、急速に変化する社会があります。グローバル化やIT革命、少子高齢化など、日本が直面する課題は多岐にわたります。AI時代には、知識だけでなく問題解決能力も重要です。
また、若者の就職ミスマッチや早期離職も社会的な課題になっています。多様な職業の存在を知り、自分の適性を見極める機会が少ないことが、その一因かもしれません。
キャリア教育では、こうした現状や課題がある中で、「VUCAの時代」といわれる不確実性の高い社会を生きていく力を子どもたちが、より幅広い視野で自分の将来を考える機会を早い段階から得るための学習です。
職業体験や社会人講師による講義といった従来の職業教育ではなく、子どもたちが自分の未来を主体的に切り開く力を育む新しい学びの形が、昨今のキャリア教育なのです。
キャリア・パスポートの誕生
2019年3月29日、文部科学省の事務連絡で「キャリア・パスポート」という名前が正式に使われました。ここから、全国の学校でこの取り組みが広まり始めたとされています。
キャリア・パスポートの内容と実践例
キャリア・パスポートの内容
キャリア・パスポートは、文部科学省が示す一例をもとに、各地域や学校の特色を生かしてアレンジすることが推奨されています。この柔軟性により、小学校から高校までの学びを効果的につなぐことができます。
内容は、授業や学校行事、部活動など、日々の学校生活のさまざまな場面において、キャリア教育で重視される次の4つの「基礎的・汎用的能力」を育むためのものとされています。
- 人間関係形成・社会形成能力
- 自己理解・自己管理能力
- 課題対応能力
- キャリアプランニング能力
文部科学省の例示資料をもとに、小学校・中学校・高校での実践ポイントを紹介しましょう。
【小学校】キャリア・パスポートの実践ポイント
小学校は、キャリア・パスポートを始める大切な出発点です。
まず、キャリア・パスポートの意義を子どもたちに知らせることから始めます。「自分の成長を記録するためのもの」という説明を、あたたかいメッセージとともに伝えます。
次に、小学校生活で頑張ってほしいことが示されています。これは、キャリア教育で育むべき4つの能力をもとに設定されたもの。友達との関係づくり、自己表現・協力・自主性・探究心・目標設定など、子どもたちの成長に欠かせない要素が盛り込まれていることがわかりますね。
さらに、自己分析を促すワークシートが用意されます。年度初めには目標を立て、学期末や学年末にはその振り返りを行います。学習面だけでなく、学校生活全般や家庭での活動も含め、幅広く自分の成長を確認できるようにします。
- 詳しくは文部科学省「キャリア・パスポート(例示資料案等)小学校」をご覧ください
【中学校】キャリア・パスポートの実践ポイント
中学校入学時には今の自分を振り返る機会が設けられます。これは単なる回顧ではなく、新たな目標設定の基盤となるでしょう。
次に、中学校生活を多面的に捉えるため、学習面での目標、生活面の目標、家庭・地域での目標、その他(習い事・資格取得など)の目標の4つの視点で取り組むことを考えるワークシートに取り組みます。さらに、キャリア教育で重視される4つの資質能力に基づいた評価規準を示すことで、生徒自身が自己評価を行い、成長を実感できるようにします。
中学3年時には、「小学校6年間で一番心に残っていることを 18 歳の私へ伝えよう」「小・中学校9年間のキャリアパスポートを見ながら、自分自身の成長を振り返り、18 歳の私に向けて手紙を書こう」などという問いが与えられ、義務教育9年間の総括的な振り返りが行われます。これは単に過去を振り返るだけでなく、未来への展望を開く重要な機会となります。5年後、10年後、15年後の自分をイメージする活動を通じて、生徒たちは高校生活で長期的な視点を持ち、自己の成長と可能性を考えることができるでしょう。
- 詳しくは文部科学省「キャリア・パスポート(例示資料案等)中学校」をご覧ください
【高校】キャリア・パスポートの実践ポイント
高校時代は、義務教育で培った基礎の上に、より具体的な将来設計を行う大切な段階です。
高校生活のスタートにあたっては、まず、これまでの学びを振り返ることから始めます。生徒たちは自分の強みや成長の余地を見つめ直し、新たな目標設定を行います。
この時期の記録では、生徒の自主性を大事に、授業、学校行事、部活動、校外活動など、さまざまな経験を自由に記述できるワークシートが用意されます。細かな質問による誘導ではなく、生徒自身が価値を見出した経験を自由に表現できる場を提供することで、より深い自己理解と成長の実感を促すためです。
また、卒業後の進路を見据えたワークシートにも取り組みます。ここでは、単なる職業選択にとどまらず、どのような生き方を目指すのか、社会にどう貢献したいのかという、より本質的な問いかけが行われます。これまでの記録を振り返りながら、自分の強みを活かせる生き方を探求し、具体的な進路選択へとつなげていくのです。
- 詳しくは文部科学省「キャリア・パスポート(例示資料案等)高等学校」をご覧ください
キャリア・パスポートの課題と今後の改善点
キャリア・パスポートは、子どもたちの成長を長期的に支援する画期的なツールですが、その実施にはいくつかの課題が浮かび上がっています。これらの課題を認識し、適切な改善策を講じることで、キャリア・パスポートの効果をさらに高められる可能性があります。
もっとも顕著な課題のひとつは、学校間の連携不足です。特に入学や転校の際、キャリア・パスポートの引き継ぎが円滑に行われないケースがあるようです。
この問題の根底には、引き継ぎの責任が子ども自身に委ねられている、学校間で書式が統一されていないという2つの要因があります。これらの問題により、新しい学校の教師が過去の記録を十分に理解し活用することが困難になっているのです。
また、キャリア・パスポートの記録が子どもにとって心理的負担になるケースも報告されています。過去のつらい経験を思い出すことや、本意でない記述を重ねてしまうなどの問題があり、これらへの対応は現場の教師に委ねられています。この状況は教師の負担増加にもつながっており、早急な対策が求められています。
キャリア・パスポートにおける親の関わり方
親ができるキャリア・パスポートのサポートとは
子どもたちはキャリア・パスポートを通じて、これまでの学びを振り返りながら自分の歩みや将来に向き合っていきます。
その際に有効なのが、親からのあたたかな言葉かけ。これによって、子どもは自己理解や自己有用感を高めることができます。キャリア・パスポートには、子どもを励ます存在として、教師や保護者がメッセージを記入する欄があります。学校からコメントを求められたときには、ぜひ励ましの言葉を記入してあげましょう。
キャリア・パスポートは、学校だけではなく家庭での学びも含めて、子ども自身が残しておきたいと思った記録の蓄積です。親は特に家庭内での学びにおいて、苦労したことや、失敗したことも含めた「ありのままの自分」を残していけるよう、何を学んできたのか・何を大切にしたきたのか見えてくるような会話や声かけを意識するといいでしょう。
【例文あり】親(保護者)からのコメント欄の書き方
キャリア・パスポートにおける保護者のコメント欄は、子どもとの対話の機会を生み出し、深い理解と絆を育む貴重な場となります。
コメントの書き方には、いくつかのポイントがあります。まず、子どもの日常生活における小さな成長や努力を具体的に取り上げること。例えば、「最近、自分から進んで宿題に取り組む姿勢が見られるようになってうれしいです」といった具体的な言葉は、子どもに自分の成長が認められていると感じさせます。
また、子どもの将来の夢や目標に対して、その前向きな姿勢を肯定的に評価し、あたたかい励ましの言葉を添えてもいいでしょう。「将来、医者になりたいという夢に向かって、科学の本をたくさん読んでいる姿勢がすばらしいと思います」といったコメントは、子どもの意欲を高め、夢の実現に向けた継続的な努力を促すはずです。
子どもの個性や長所を認め、それを伸ばすようなコメントもいいですね。「あなたの優しさと思いやりの心は、周りの人を幸せにする素晴らしい才能だと思います」といった言葉は、子どもの自己肯定感を高め、自信を持って行動する力を育みます。
コメント欄を通じた親から子どもへのメッセージは、単なる評価ではなく、子どもの成長を支え、励まし、そして共に歩んでいく親の思いを伝える大切な機会になります。具体的で、前向きなコメントを心がけることで、子どもの豊かな未来への道筋を一緒に描いていくことができるでしょう。
【コメント例文】
島根県教育委員会「キャリア・パスポート 児童生徒・保護者用説明資料」
2学期お疲れ様 まわりを見ながら友達と一緒にそして自分のできることを考えて行っていてすごいよ!人のことを考えられる◯◯(※お子さんの名前)はすてきです。きっと◯◯がこまっていたらまた次はみんなが助けてくれるからね。自分らしくこれからも過ごしてください。
- 保護者にもわかりやすい!島根県教育委員会「キャリア教育ハンドブック」
子どもたちの12年間の成長を記録し、未来への道しるべとなるキャリア・パスポートは、学校生活全体を通じて自己理解を深め、将来の夢や目標に向かって主体的に学ぶ意欲を育む大切なツールです。
その効果を最大限に引き出すには、教師と保護者の適切な関わりも不可欠です。子どもたち一人ひとりの個性を伸ばし、社会で自立する力を育む助けとなるよう、親もあたたかな声かけやコメントをしてあげたいですね。
<参考サイト>
・文部科学省「キャリア・パスポート」例示資料等について
・文部科学省 改めて「キャリア教育」とは?
・島根県教育委員会「キャリア教育ハンドブック」
・寺子屋朝日「キャリア・パスポートとは?書き方、効果的な活用事例をわかりやすく解説」
・ベネッセ教育情報 教育用語解説キャリアパスポート
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