【いい父親とは】泥臭さとかっこよさは常に紙一重
インスタグラムで育児にまつわる情報を発信している「ソクたまアンバサダー」。そんなアンバサダーのみなさんに、子育てや教育について、それぞれの視点で執筆してもらうコラムです。今回は、
知育インスタグラマーとして活躍中の、論文ママさいとうさんの子育てコラムをお届けします。
戦う父親に遭遇したことがある。
ハタチの頃、バーでバイトをしていたのだけど、その日、開店と同時に3人組の初見のサラリーマンがやってきた。
20〜30代の部下2人に、40代くらいの上司が一人。
3人はすでにどこかで飲んできていたようで、最初は特に変わった様子もなく談笑していた。けれど、そのうちの一人、1番年下の部下と思われる男性が放った一言で、空気は一変した。
「ていうか、さっきのこと謝って下さいよ」
そう言われた相手、40代くらいの上司は、最初は何のことか分かっていないようだった。どうやらここに来る前の居酒屋で、部下の幼い子どものことをバカにするような発言をしたらしい。
一貫してヘラヘラ笑いを貫き、「冗談やん」「怒んなよ」と穏便に済まそうとする上司を前に、
「うちの子のことバカにしたでしょ、謝って下さいよ」
と、部下からは笑い一切無しの追撃。
どうバカにしたかまで語られることはなかったけれど、相当頭にきていたのだろう。
部下の男性が「謝れや」と言ったことを皮切りに、突如始まる男二人の取っ組み合い。
上司は一回り以上も年下の部下にタメ口をきかれたことが我慢ならなかったようだった。
残るもう1人の男性は止めることができずにオロオロするばかり。
ガチの掴み合い(「殴り合い」ではないところに僅かな理性を感じる)で、店内の空気もヒートアップ。
当時その店は長方形の間取りをしていたのだけど、2人の男は掴み合ったまま端から端まで右往左往に移動し、ドッタンバッタンOOSAWAGI。
挙句、スタッフ用のバックヤードにまで突進していく始末。大の男2人が一緒に倒れていく様は、なかなかの迫力であった。
その隙に残る1人がお会計を済まし、もみくちゃになった2人を店の外へ。
その瞬間。
「すみませんでした!」
大声でそう言い、アスファルトの上で土下座したのは我が子をバカにされた側の部下の男性。
先ほどまで目を血走らせ、掴み合っていた姿から一転、漂う「やっちまった感」
「まぁ…いいよ、俺も悪かったし。ごめんごめん」的なことを言いつつ上司もまた、振り上げた拳の落とし所が見つかったことに安心しているかのようだった。
そうして和解した(か、どうかは分からないがとりあえず一件落着した)男たち3人は、ぐちゃぐちゃになったカウンターチェアと床に落ちたバックヤードのカーテンを残して夜の街に消えていった。(fin.)
当時の私はまだ若かったので、暴れまわる成人男性2人を前に「大乱闘スマッシュブラザーズみたいだった」くらいの感想しかなく、なんなら「いい歳してウケるんですけど」とさえ思っていた。
しかし、10年以上前のこの出来事は忘れられることなく私の脳裏に残っていて、定期的に思い返しては自問している。
あの部下の男性は、「かっこいい父親」なのか? それとも「ただの浅はか」なのか?
たとえ冗談であっても、我が子を悪く言われることは、身を引き裂かれるより辛い。それについては子どもを産んでから、より一層共感したポイントだ。
とはいえ、果たして一般のサラリーマンは、上司と部下という絶対的上下関係がある状況で、あそこまで感情を剥き出しにして怒れるものなのだろうか。
もし誰かに息子のことをバカにされたとしたら、夫ならどうするだろうと考えた。
おそらく彼は我慢することを選ぶ。
相手は明日からも毎日顔を合わせなければいけない相手。自分の出世に響くかもしれない。居づらくなるかもしれない。
「会社」という組織において円滑な人間関係が築けるかどうかはもはや死活問題。だからあの部下の男性も、前の店では一旦飲み込んで我慢したのではないか。
が、やっぱり許せない。
大切な我が子をバカにされて、そういう感情が湧き上がってくるのは自然なこと。(多分酒の勢いもある)
そうして感情を爆発させたのち、自分の犯したことの重大さや、経済的にも背負っていかなければならない家族の存在に我に返り、0コンマ1秒で地面に土下座。
いちいち泥臭くてどう考えてもスマートではない。
だけど確実に、漢である。
あの人のことを全く知らないけれど、そう思ったら
「あぁ、あれ以上に最高のお父さんはいないかもしれない」
とさえ思った。
しかし一方、「我慢する」というコマンドを選ぶこと。これもまた正解。
我が子に直接何か言われたわけではない。自分だけが我慢すれば何事もなかったかのようにその場は回る。働く父親は通常家庭内の経済の主軸。(もちろん例外アリ)
独身ならば会社を辞めようとどうなろうが自由だ。しかし「家庭」を背負った男の責任感は計り知れない。
もし安易にキレて会社に居づらくなり、それが脅かされるようなことがあれば、家族もろとも共倒れ。妻も、世間も、彼らが逃げ出すことは決して許さない。
もし私が男なら、こんなプレッシャー、正気を保っていられないかもしれない。
結論、これについて今でも私の中で正解は出ていない。
絶対的に暴力はいけないことだし(この場合先に手を出したのは上司だけど)
グッと堪えてスルーするのが大人なのかも……とは思う。
それでも私達は、男とか女とか関係なくここぞという時、相手にNOを突き付ける強さを常に持っているべきではないか。戦わねばならない時があるのでは。
彼らだけではない。私達妻が知らないだけで、父親たちは家の外でそういった戦いを日々繰り広げているかもしれないな。
アカデミー賞授賞式でクリス・ロックをビンタした、ウィル・スミスのように。
そうと思うと、いつもは視界に入るだけでハラワタが煮え繰り返る、床に脱ぎ散らかされた夫のパンツや靴下も、「まぁ片付けてやるか」という気持ちになってくる。
明日はケチらず、夫のサラダにアボガド入れてあげよう。
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