難関私立中に一般入試で合格。サッカー元日本代表が「文武両道」を実現できたわけ
森岡隆三さんといえば、2002年のFIFAワールドカップ日韓大会の開幕戦でキャプテンを務めた人物ですが、実は難関中学の受験を一般入試で突破した「文武両道の人」でもあります。
我が子に勉強もスポーツも頑張ってほしい(そして両方で結果を出してほしい)と願う保護者は、彼がどのようにしてサッカーと勉強を両立していたのかを知りたいと思うでしょう。今回は、その理由が明かされたトークイベントの内容を紹介します。
森岡隆三(もりおか・りゅうぞう)さんは1975年横浜市生まれ。幼稚園からサッカーを始め、一般入試で桐蔭学園中学に進学。桐蔭学園高校を卒業後、清水エスパルスを中心に活躍し、日本代表としても38試合に出場。2000年シドニーオリンピックや2002年ワールドカップではキャプテンを務めた人物です。2008年に引退後、現在は清水エスパルスのアカデミーで若手の育成にあたっています。
今回レポートするイベントは、最先端キャリア教育オンラインスクール「DreamDriven(ドリームドリブン)」の代表・鹿嶌將博さん(以下、鹿嶌さん)と森岡隆三さん(以下、森岡さん)が中高の同級生だったという縁で実現しました。
当日語られた森岡隆三さんの小学生時代の勉強とスポーツの両立方法や、チャレンジ精神が培われた理由について、前後編で紹介します。
大人に「勉強をやれ」と言われた記憶はない
鹿嶌さん:森岡さんは中学受験をされていらっしゃいます。「寝ても覚めてもサッカーという少年期を過ごした」と新著(『すべての瞬間を生きる PLAY EVERY MOMENT』)に書かれていましたが、中学受験をすることはどのように決められたのでしょうか?
森岡さん:2つ年上の兄が中学受験をしたんです。兄もサッカーをやっていたのですが、私にとって非常に憧れの存在でもあって。その兄が受験をして私立の中学校に行くということになり、「同じような道を」と思っていたんです。
兄は、サッカーで今のヴェルディ(昔の読売クラブ)のジュニアユースにセレクションで入った。自分もそういう道を辿りたかったけれど、とてもサッカーの部分では自信がなくて。だから兄よりも少しでもいい中学に入れたらいいなと思っていました。(桐蔭学園中学は)家から自転車で行ける距離ということもあって、気がついたら受験に向かっていた感じです。
鹿嶌さん:私も同級生ですから同じ中学校を受験しているわけですが、簡単に受かるレベルの中学校ではなかったですよね。
森岡さん:正直、結構勉強したと思います。ただ、受験勉強というモードに入ったのは、小学5年生の夏休み明けぐらい。それから塾でいわゆる受験対策みたいなところに入って勉強しました。意外と勉強は好きだったんですよ。
鹿嶌さん:塾に入るまでも勉強はしていたんですか?
森岡さん:当然サッカーのボリュームの方が大きかったですね。でも、テストで点が取れる取れないは別にして、勉強に対する苦手意識はあまりなかったんです。
まわりの大人の関り方が良かったのだと思います。親に勉強をやれと言われた記憶はないし、宿題をやって学校に持っていったら、先生にも褒めてもらえるわけじゃないですか。単純に褒められるのが好きだったんでしょうね。
今思い返してみると、先生に恵まれたなとも思います。小学生時代、落書きが好きだったんですよ。例えば宿題のプリントの余白にキャプテン翼を書いたりして。そういうのを描いていったら、「いらんもん描いて!」みたいな感じで怒られがちだと思うんですけど、そういうのも褒めてもらえた。だから、宿題が嫌だと思うことはなかったですね。
鹿嶌さん:まわりの大人がありのままを認めてくれたんですね。
森岡さん:そうですね。今思い出しましたが、作文のコンテストがあったときに、自分の中ではあまり上手に書けたと思っていなかったけれど、そこに対して先生がいい感じに補足をして、「いいじゃん。もうちょっとこうしたら?」とアドバイスしてくれたこともありました。
指導者として先回りするのではなくて、“いい発問”をしてくれた。いい問いがきて、自然と自分の中の答えが引き出されて、それが褒めてもらえて。その作文で何か賞をとったりはしなかったけれど、クラスの中で褒めてもらえたということもありましたね。
だから、勉強はやらされるものではなくて、自然とやるものになっていた。そんな習慣からやっていたのが小学校時代の勉強だったんじゃないかな。そこに受験モードに入ったのが、5年生だった。
受験勉強のストレス解消が、ボールを蹴ることだった
鹿嶌さん:受験モードに入ってからは、サッカーは封印されていたのですか?
森岡さん:封印はしていなかったですね。バランスを取ってやっていました。
水・土とサッカーをやっていたのが、1日行けない日が出てきたりはしましたけど。土日に塾でテストがあるじゃないですか。そんな時は、テストが終わってからサッカーの試合に駆けつけて、少ししか出られないこともありましたね。
当然、ストレスは溜まりましたよ。だけど、その一番の解決方法がボールを蹴ることだったんです。
鹿嶌さん:時間を見つけてはボールを蹴って、といった生活だったんですか?
森岡さん:そうですね。受験の前日もボールを蹴っていました。でも親から「受験前なんだから!」と言われたことはありませんでした。
中学受験とスポーツの両立のコツ
鹿嶌さん:多くの子どもや保護者が中学受験とスポーツの両立に苦労をしているかと思います。両立のコツはありますか?
森岡さん:勉強に苦手意識を持たないようにさせてあげるのが一番だと思います。個人的に、これがサッカーをやりながら勉強をして、中学受験ができた理由だと考えているので。
また、いい意味での逃げ道を用意してあげることも大切だと思います。僕にとっては、それがサッカーや漫画を読むことでしたが、タイムマネジメントがうまくできていないとか、ストレスを抱え過ぎちゃっているようなら、親がサジェスチョンをしてあげるのはいいかもしれない。
例えば、日々の学習の中で、時間配分や息の抜き方をアドバイスしてみたり。大事なのは、勉強する時間を増やすことではなく、集中する土壌を作ってあげることだと思いますね。
鹿嶌さん:勉強以外の楽しみを取り上げるのではなくて、タイムマネジメントをサポートしてみては、ということですね。
森岡さん:そうですね。子どもの発育は大事だから、寝る時間はちゃんと確保してあげなきゃいけない。それによって体や脳がしっかり成長しますから。睡眠時間を削ってまで勉強するとなると、もしかしたら人によっては逆効果になっちゃうかもしれませんよね。
でも、起きている時間のタイムマネジメントは、大人でも難しいわけじゃないですか。そこの部分は上手くサポートしてあげた方がいいかなと思いますね。
子どもが壁に突き当たったとき、親にできること
鹿嶌さん:私たちが通っていた中高は、テストごとにクラス分けをするような学校でしたが、勉強とサッカーとの両立は大変ではなかったですか?
森岡さん:個人的には嫌いじゃなかったですよ。1つのモチベーションになりましたし。
小学校高学年から中高時代にかけて苦労したのは、サッカーの方ですね。子どもの頃から自分なりにサッカーに打ち込んできたというような環境下で、簡単には結果が出なかった。試合に勝ったり、自分が選抜チームに選ばれたりといった分かりやすい活躍とは全く無縁の世界にいたので。
一方で、憧れであった兄は、大会に行けばメダルを持って帰ってくる。そこでの劣等感や挫折感ですね。学生時代に一番苦労したというか、悶々としたのはそういうところだったかなと思っています。
鹿嶌さん:その悶々としたものに、どうやって立ち向かわれたのですか?
森岡さん:自分の中の支えになったのは、友人たちでした。ちょっと浮かない顔をしていると話を聞いてくれたりして、何とか踏みとどまれたかなというところがありましたね。
今思うと、これ以上何をやったらもっとサッカーが上手くなるのだろうと、トンネルの中で出口がなかなか見えないような状態、そういうときが最も苦しい。
もしかしたら、勉強もそうかもしれない。なかなか頑張った成果が結果として表れてこない時、もどかしくてしょうがないですよね。
鹿嶌さん:自分がやりたくてやっていてももどかしいですよね。そんな時、親にできることって何かあるのでしょうか?
森岡さん:特に育成段階というのは社会的な成功というよりも、一歩でもいいから前に進んでいるかどうか、成長し続けているかどうか。そのプロセスを見てあげるのが、まわりの大人がやるべきことなんじゃないかな。勉強もそうだし。他のことでもそうだけど。
良い点を取れたというのは、あくまでも結果であって、それよりも理解ができているのかといったことの方が大事。サッカーの話で言うと、「試合では勝てなかった。だけど、今日は前回よりも手応えのあるプレーが1つでも多くできたよね」みたいなところを大人が認めてあげる。
子どもが課題感を持って取り組んでいることに対して、まわりの大人が良いフィードバックをすることが、子どもが上手くいっていない時には非常に大事なんじゃないかな。それも過保護になり過ぎずに、ギリギリのところでいいチャレンジをさせてあげると良いと思いますね。
―――後編に続く。
(後編では、森岡隆三さんがチャレンジ精神を身につけられた理由を紹介します)
森岡隆三さんの著書『すべての瞬間を生きる PLAY EVERY MOMENT』(徳間書店、1,600円+税)では、彼が幼少期から現在に至るまでにサッカーを通して得た学びが詰まっています。選手として、人間として、どう考え、どう苦しみ、どう受け入れ、そしてどう歩み続けてきたのか。子どもに逞しく生きて欲しいと願う保護者にとって示唆に富む名著です。
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