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2021.01.28

聴覚優位タイプとは?見るより聞くほうが理解しやすい子の勉強方法を専門家が解説

見ることよりも聞くことのほうが理解しやすく、記憶しやすい特性をもつ聴覚優位タイプの子どもたち。平均的な能力をもつ子どもに合わせた学校の授業の場合、特性とうまくかみ合わずに苦労することがあります。そこで、彼らの特性を理解するために臨床発達心理士の米田奈緒子さんが聴覚優位タイプの子どもたちの特徴や向いている学習法などについて解説します。

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聴覚優位の定義と割合とは

聴覚優位という認識が生まれたのは1996年のこと。イギリスの教育学者であるスミスが新しいことを覚える際の子どもたちの情報の取り入れ方を下記の3タイプに分類し、“知覚の優位性”という考え方が世界に広がっていったことに始まります。

VAKモデル

  • 視覚優先型(Visual):視覚情報の処理に優れている(視覚学習者)
  • 聴覚優先型(Auditory):聴く事を通して理解することに長けている(聴覚学習者)
  • 運動感覚/触覚優先型(Kinesthetic):実際に触ったり動いたりすることを通して学ぶ(運動感覚学習者)

この分類は、3タイプの頭文字を取って「VAKモデル」とよばれ、現在、教師はその子の特性に応じた指示の出し方を工夫したほうがいいと考えられています。

ちなみに2001年の、アメリカの教育学者であるミラーの発表によると、小・中学校および高校の生徒のうち29%が視覚優位型、34%が聴覚優位型、37%が運動感覚/触覚優先型であるということが判明しています。

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聞く力は「注意」「記憶」と関係がある

では、上記の聴覚優位の説明にあった「聴くことを通して理解することに長けている」とはどういうことなのでしょうか。簡単に言い換えれば、聴覚優位型は、視覚や運動感覚(触覚)で得る情報よりも聴覚で得た情報のほうがインプット(記憶)されやすいということです。

心理学の用語で「マガーク効果」という言葉があり、人は視覚情報と聴覚情報が混ざり合うと錯覚を起こすことが分かっています。

例えば、「が・が・が」と発音している人の無音動画を見せながら、「ば・ば・ば」と発音している音を聞かせた後、何と発音していたかを質問すると「が」や「ば」ではなく「だ」と答えるという研究がされています。

このように、人は視覚や聴覚の情報の混乱から全く別の錯覚を引き起こしてしまうことがありますが、聴覚優位の子の場合は、先ほどの実験でも聴覚情報を優先的に記憶して「ば」と答えると思われます。

また、“聴く”ということに関していえば、「カクテルパーティ効果」という言葉を聞いたことがありますか? 

パーティ会場のような沢山の人の声が混ざり合うような場所で、人は無意識のうちに耳に入ってくるたくさんの音の中から自分と話している相手の声を聴き分けて話をすることができますよね。このことをカクテルパーティ効果といいます。

人の聴覚は混ざり合う音源の中でも自由に選択して特定の音に注意を向けることができます。これは人が持つ「聞く力」の中の「選択的注意」という心理的な能力によるものですが、聴覚優位の場合、この選択的注意という能力が強いのです。

聴覚優位と聴覚過敏は違うもの

一方、聴覚優位に似ている言葉に「聴覚過敏」というものがあります。しかし、この2つは似て非なるものです。

例えば、パーティ会場のようにたくさんの音があふれている場合、聴覚過敏の人は周囲の音がすべて等しく耳に入ってしまうため話し相手に集中することができないといわれています。

聴覚優位と聴覚過敏は聴覚に特性があるという点は同じです。しかし、聴覚過敏の場合は選択的注意という力が弱く、耳から情報を取り過ぎて混乱をしてしまうのです。

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聴覚優位タイプの特徴とは

ここまで読んでいただいて分かるように聴覚優位というタイプは、聞き取ろうとする言葉や音源に注意を向けることができ、さらに聞いた音について正しく記憶する力があるということのようです。

そのため、下記のような特徴的な行動が考えられます。

聴覚優位タイプの子の特徴的な行動

  • 小学校では教科書を音読などで聞いて覚えてしまう
  • 中学校の英語の暗唱や国語の朗読が得意
  • 教師の話をしっかりと聞いて覚えているので、叱られることが少ない
  • みんなの先頭に立って教師の指示を伝えて活動できる
  • 人の発言を正確に覚えているので「言った・言わない」というトラブルになりづらい

ただし、音への記憶がよすぎるということは良いことばかりではありません。人の陰口が耳について離れずに苦しむというようなことが起きるかもしれません。あまりに高すぎる能力は逆に子どもを苦しめる原因にもなります。

聴覚優位タイプの子が苦手と感じやすいこと

次に聴覚優位タイプの子が普段の生活の中で苦手だと感じやすいことを挙げてみました。

ぱっとみてわからない

聴覚優位タイプの子は、ひと目見て情報を得ることがあまり得意ではないため、地図を見て目的地に行くことは苦手かもしれません。また、視覚優位の子が周りを見て動くのに比べて周囲の変化を見て察することができず、人の指示を待っているうちに出遅れてしまうということもあります。

自分で読むより読んでもらう方が好き

本を読むことが苦手で文字を拾い読みするよりは、読み聞かせてもらう方が読書を楽しめるということになります。

文章の中の文字のまとまりをつかむことが苦手

読み書きにつまずくお子さん達の中で、聴覚優位タイプのお子さんは、音読する時に耳で聞いて覚えてしまって、文字をしっかりと読んでいないということがあるようです。

例えば「にわにはにわ うらにわにもにわ にわとりがいる(庭には二羽、裏庭にも二羽、にわとりがいる)」という文章があるとします。

聴覚優位タイプの子は一度聞けば覚えられるのですが、文字で読もうとするとどこで言葉が区切れるのか分かりにくく、一文字ずつ拾いながら読んでいくようになってしまう、というケースが考えられます。

聴覚優位の子の勉強法

それでは、いよいよ聴覚優位タイプの子の勉強をサポートするためのアドバイスを紹介しましょう。

漢字、九九、詩、英単語は唱えて覚える

漢字を覚える際は、何度も書くよりも漢字を物語の様に唱えて覚える方が、ずっと楽しく覚えられます。

例えば、“頭”という字の場合は、「いちくち、そいち、いちのめは」と唱えて覚えたり、“親”という字を「立」「木」「見」と分解して、「木の上に立って見る親」と唱えて覚える方法があります。

自分で唱えて自分の耳から情報をいれることを“リハーサル”といいますが、自分の声を使って暗記していく方法は聴覚優位タイプの子には有効です。算数の九九や国語の詩、英語の暗唱、芝居のセリフも同じように聞いて覚えることができるはずです。

このように聞くことで覚えたり、考えたりする人は自然と言葉が増えて豊かな思考を持っているといわれています。

「不思議の国のアリス」の著者ルイス・キャロルは、人の顔を見分けることが苦手な「相貌失認」だったため、聴覚優位になって言葉を豊かに操ることができるようになったそうです。たくさんの物語を聞かせて、豊かな想像力(創造力)を育んであげましょう。

手順を図ではなく口頭で聞くようにする

例えば、図工や家庭科などで物を作るとき。作り方を図で見て手順を知るよりも、言葉で段取りを説明してもらう方が作業を進めやすいタイプです。

「まず、これをしてね。次にこっちを持って…」と言葉で手順を説明してもきちんと覚えていられます。

このような説明がないと「何をどうすれば良いか、見てもわからない」「どちらを動かせばいいのかわからない」と戸惑ってしまうかもしれません。

モノづくりの場面では図を見るだけではなく言葉で解説をしてもらえるように学校に相談してあげると安心して取り組めます。

周囲の大人ができるサポートとは

勉強以外の面では聴覚優位の子をどのようにサポートしていけばよいのでしょうか。

子どもが見落としていることを言葉で補う

耳から言葉で聞く方が理解しやすいタイプのお子さんには、 言葉で具体的に説明をしたり、全体の段取りを知らせたりすることで、学習や作業の見通しを持つことができるようになります。

トラブルの理由を分かりやすく話す

友達とのやりとりの中で話が食い違うことは学童期にはよくあることですが、聴覚優位の子の場合、友達が言った言葉を記憶しすぎているために、周囲の子と意見が合わず孤立するような場合もあるかもしれません。

その場合は「あの子は自分が言ったことは覚えていなかったんだね」と周囲の子と必ずしも記憶力が同じではないことを説明して寛容になれるようにサポートをしてあげましょう。

大人自身が発言に責任をもつ

大人が言ったこともしっかりと覚えていますから、指示を出す大人も謙虚にならなければいけません。「お母さん、さっきと言っていることが違うなあ」と子どもに指摘されたら、素直に認め、状況が変わったことなどを言葉で説明しましょう。

子どもの能力は発達をする

子どもの脳は質量ともに発達途中です。聴覚そのものが成熟した後、視覚認知(見て情報を得ること)が伸びていく可能性もあるので、聞くことだけを頼ることがないよう「しっかりと見る、見分ける」ということを意識するように声がけもしてあげてください。

見ることに注意を傾けたり、集中するように声をかけたりすることで耳からも目からも豊かな情報が取り入れられるチャンスがあります。得意なことも伸ばして、苦手なことにチャレンジできるようにしてあげられたらいいですね。

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米田奈緒子

臨床発達心理士。日本発達心理学会会員。三重県児童発達支援管理責任者。三重県教育委員会不登校支援アドバイザー。三重県スクールカウンセラー、東京都特別支援教室巡回相談心理士を経て、現在は三重県内の公立機関で検査や講演を行う。また、三重県障害児通所支援施設「ラーニングルームふぁせっと」で療育プログラムの作成、相談、検査などを行っている。

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