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2020.12.07

ペアレントトレーニングとは?【Vol.1】親も子もより穏やかに過ごせるように

発達障害を持つ子どもを育てる親や養育者に向けて開発された「ペアレント・トレーニング」。子どもとのより良い関わり方を具体的に学べる多くのスキル(子育ての技術)が含まれており、行政機関や病院といった専門機関を中心に実施されている注目のプログラムです。今回は、全2回にわたりペアレント・トレーニングを解説します。これを読めばペアレント・トレーニングが分かる! 第1回目は、ペアレント・トレーニングがどういうものなのかについて詳しく紹介しましょう。

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監修者

河内美恵さん国立障害者リハビリテーションセンター病院
臨床心理 主任心理判定専門職 (発達障害・支援センター併任)

東京学芸大学大学院教育学研究科学校教育専攻心理学講座修士課程修了。国立精神・神経センター精神保健研究所、中央大学、東京都公立小学校スクールカウンセラー、まめの木クリニック・発達臨床研究所等を経て現在に至る。専門は発達臨床心理学。日本を代表する精研式(まめの木式)ペアレント・トレーニングの実践者でもある。著書に『こうすればうまくいく 発達障害のペアレント・トレーニング実践マニュアル』『保育士・教師のためのティーチャーズ・トレーニング 発達障害のある子への効果的な対応を学ぶ』(共に中央法規出版)、『スクールカウンセラー活用マニュアル』(コレール社)、『読んで学べる ADHDの理解と対応(訳書)』(明石書店)など。

そもそもペアレントトレーニングってなに?

1960年代から、アメリカで発展してきた「ペアレントトレーニング」(以下、ペアトレ)。もともとは“育てにくい”といわれる子、指示に従えなかったり攻撃的な行動を取ったりする子どもに対応するプログラムとして開発されました。

その後、日本におけるペアトレのスタートラインとなったのは今から約20年前の1990年代。

対象は、発達障害のある子どもの保護者。行動理論を背景としたプログラムで、「環境調整や子どもへの肯定的な働きかけを学び、保護者や養育者の関わり方や心理的なストレスの改善、子どもの適切な行動の促進と不適切な行動の改善を目的」として研究・実践が進められ、発展してきました。

つまり、ペアトレは子どもの障害を治すためのものではなく、保護者が子どもの行動を理解し、子ども一人ひとりに合わせたより効果的な対応を身に着けるためのプログラムということ。

  1. 子どもがより適応的な行動を身に着けること
  2. 親子の悪循環を断ち切り、より良い親子関係を築くこと
  3. 子どもの自尊感情や自己有能感を改善すること
  4. 保護者や養育者の子育てに対する自信を取り戻すこと

を目的に開発されたプログラムなのです。

親に向けたトレーニング(=訓練)と聞くと「がむしゃらに頑張らないといけないプログラムなんじゃないか」「自分の子育てを否定されてしまうんじゃないか」と心配する人がいるかもしれませんが、うまくいっている部分はそのままに、もしうまくいっていない部分があれば、ほんの少し新しい方法を取り入れてみようというもの。今まで一生懸命に悪戦苦闘してきた子育てを否定するものでは、決してありません。親も子もちょっとした工夫を取り入れることで、無理せず穏やかにより良い日常を送っていくためのコツが得られるプログラムなのです。

日本を代表する精研式(まめの木式)ペアトレの実践者でもある河内美恵さんは、「親も子も日常を“よりラクに”、“より楽しく”過ごせることが目的。“必死に頑張る”プログラムではないんですよ」と話します。

現時点では、希望する全ての親がペアレントトレーニングを受けられるわけではない

現在、日本で実践されている代表的なペアトレの対象は、発達障害のある子どもとその疑いのある子どもを持つ保護者。子どもの年齢はプログラムによっても異なりますが、おおむね3~10歳くらいです。

医療機関・大学の研究室・教育センター・保健所・発達支援センターなどで行われ、プログラムは1グループ4~8名の保護者と、複数の専門家とで進めていきます。

個人面接のような形式で行うことも可能ですが、場合によっては専門家が親の話を聴くというだけで終わってしまうこともあるようです。その点、グループで行うと互いの苦労や悩みといったエピソードを共有したり、「こんな時はこういう方法が有効だったよ」などと知恵を出し合ったりしやすくなります。また、子育てに悩み孤独を感じている親にとって仲間との出会いは何よりも心強いものになります。

「子育てに悩んでいるから受講したい」と思う人は多いでしょう。しかしながら、専門家の数や場所に限りがあるため“子育てに悩んでいる”全ての保護者が受講するのは現時点ではなかなか難しいようです。

代表的なペアレントトレーニングは3種類

発達障害の子どもを持つ親のサポートとして注目され、全国で実践が広がっているペアトレ。しかし、その一方で「これって、本当にペアトレ?」というものもあるようです。

河内さんによると、日本で行われている代表的なペアトレは3つあるとのこと。

いずれも「この子が悪いわけではない、私の育て方の失敗でもない、でも今変えられるのは私の行動だけ。だからまずは私の関わり方を変えることから始めてみよう」という考え方に立ち、一つひとつの行動に注目し、親が子どもへの適切な対応を学ぶためのプログラムになっています。

以下に、その3つのプログラムを紹介しましょう。

3つの代表的なペアレントトレーニングのプログラムの特徴

精研(まめの木)・奈良式ペアレントトレーニング

成立の経緯活動形式プログラムの特徴
アメリカUCLAで開発されたADHD*のある子どもの保護者向けプログラムが基盤。現在は、発達障害全般のプログラムに発展している。全体での講義とグループワークで各回のテーマを学習。ロールプレイを重視。家庭で実施する課題を設定し、次回のプログラムで発表・シェアする。回数は10回程度。親子関係の悪化を改善・予防するため、保護者の否定的な関心を肯定的な関心に変化させるために、子どもの適切な行動を見つけ、それをほめる(肯定的注目を与える)。専門用語は用いず日常的表現を多用。

肥前式ペアレントトレーニング

成立の経緯活動形式プログラムの特徴
 国立肥前療養所(現・肥前精神医療センター)の行動療法の実践に基づき、知的障害を伴うASD児の保護者を共同治療者として育てるプログラムが出発点。現在はADHDにも適用できるよう発展している。前半は全体での行動理論の講義、後半は3名程度の小グループで講義の内容を家庭でどのように生かすのかを話し合う。回数は10回程度。保護者が行動理論の基本を理解し、新しい問題に対応できるようにする。子どもの問題行動の改善や適応的な行動の定着を重視。

鳥取大学式ペアレントトレーニング

成立の経緯活動形式プログラムの特徴
応用行動分析に基づいて知的障害を伴うASD**のある子どもを持つ親向けのプログラムとして開発。現在は、発達障害全般のプログラムに発展している。講義とグループワークからなり、ホームワークを家庭で実施。回数は6~8回程度。ASDと知的障害が中心のため、不適切な行動への対応は環境調整と代わりとなる望ましい行動の獲得に置く。ホームワークでは、家庭での療育的な課題や関わりを重視。

*ADHD:「注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害」の略
*ASD:「自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害」の略
(『DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引き』より)

ペアレントトレーニング実施者はどんな人がなっているの?

ペアトレはリーダー(ファシリテーター)・サブリーダー(サブファシリテーター)と呼ばれるスタッフにより進行されています。実施に際して彼らの職種は問われていないものの、子どもの発達支援に関わる専門家であり、適切な養成研修を受けた人日々の研さんを継続できる人であることが望ましいとされています。

ペアレントトレーニング実施者に求められる専門性

  1. ペアトレの基本要素を理解して、保護者に助言できる(各プログラムの養成研修を受けていることが望ましい)
  2. 保護者のこれまでの関わり方を否定せずに、子どもに適した関わり方を提案できる(子どもの発達や発達障害の知識と臨床経験を持っている)
  3. 子どもの成長や保護者の療育スキル獲得を小さなことから発見してフィードバックできる(保護者の小さな成功を見つけて、ほめる!)

グループによっては「ペアレント・メンター」といってペアトレを受講した親が補助治療者として参加する場合もありますが、リーダーの専門性が担保されていることはペアトレが正しく機能するために欠かせない要素であるといえます。

ペアレントトレーニングではどんなことをするの?

日本における代表的なペアトレは、主に3つ。先述したように、「精研式(まめの木式)・奈良式」「肥前式」「鳥取大学式」です。開発の経緯や重きを置くものに多少の違いはありますが、どのペアトレにも共通する基本要素「コアエレメント」を含んでいます。

ペアレントトレーニング・プログラムの核となる「コアエレメント」

「コアエレメント」とは、わが国の代表的なペアレントトレーニング・プログラムに共通している要素で、プログラムの核となるものです。ペアトレに参加する保護者や養育者が何を学ぶのかを示しており、以下の6つが含まれています。

  • 行動理解(ABC分析)
  • 環境調整(行動が起きる前の工夫)
  • 子どもの行動の3つのタイプ分け
  • 子どもの良いところ探し&ほめる
  • 子どもの不適切な行動への対応
  • 子どもが達成しやすい指示

次に河内さんが実践している精研式(まめの木式)ペアレントトレーニングを例に挙げ、どのようなことを行うのかを紹介しましょう。

「精研式(まめの木式)ペアレントトレーニング」のプログラムの内容

「精研式(まめの木式)ペアレントトレーニング」は、基本的に2週間に1回、毎回少しずつ異なったテーマを段階的に積み上げていく「ステップ・バイ・ステップ」方式でプログラムが構成されています。夏休みなどの長期休暇はお休みになるため、期間としては約6ヵ月に渡る全10回のプログラムです。参加メンバーの人数は4~8名程度で、1回あたりの時間は90分~120分くらい

セッション1オリエンテーション(目的・グループの進め方・他己紹介など)
子どもの行動を3種類に分けてみよう
 セッション2肯定的な注目を与えよう
ほめ方のコツ
スペシャルタイム
セッション3好ましくない行動を減らす① ~上手な無視の仕方~
セッション4好ましくない行動を減らす② ~無視とほめるの組み合わせ~
セッション5子どもの協力を増やす方法① ~効果的な指示の出し方①~
 セッション6子どもの協力を増やす方法② ~効果的な指示の出し方②~
 セッション7子どもの協力を増やす方法③ ~より良い行動のためのチャート(BBC)~
 セッション8制限を設ける ~警告とペナルティーの与え方~
セッション9学校・園との連携
セッション10全体の振り返り

参加型のプログラムだから、自分の子育てに生かしやすい

毎回、その日のテーマについてリーダーからプリントを用いて説明があり、必要に応じてロールプレイやワークを行いながらプログラムは進んでいきます。ロールプレイで親役や子ども役を行うことで、自身の行動を客観的に振り返ったり、子どもの気持ちになってほめられるうれしさを実感したりする人も少なくないようです。

メンバー全員が発言する機会が設けられることでメンバー同士が意見交換・情報共有し、子育てに新しい視点を取り入れることができるのもグループで行うメリットです。また他ではなかなか言えない子育ての悩みや愚痴を気兼ねなく発言できる安心感のある場が提供されることで、自然と知恵を出し合ったり、互いをねぎらい支え合ったりというグループが本来持っている力が加わり、プログラム以上の力を発揮することもしばしばなのだとか。

意見や質問が活発に交わされた後、各セッションの終わりに家庭で実践する簡単な宿題が出されます。参加者は次回までの2週間、宿題に取り組み、次の会のはじめに実践報告を行います。

現在、ペアトレを受講できるのは発達障害のある子どもとその疑いのある子どもを持つ保護者が中心ですが、プログラムの内容には子育て中の全ての親に役立つスキルがたくさん含まれています。

ペアトレのもっとも重要なスキルとなるのが“ほめる”ということ。子どもをほめることが少なかったり、ほめ方がマンネリ化したりということはないでしょうか? 

次回の記事では、ペアトレのセッション内容の中から「子どもの行動を3つに分ける」「効果的なほめ方」「スペシャルタイム」など、どの家庭の子育てにも役立つスキルについて詳しく解説します。

ペアレントトレーニングとは?【Vol.2】全ての子育てにスキルを生かす
ペアレントトレーニングとは?【Vol.2】全ての子育てにスキルを生かす
発達障害を持つ子どもを育てる親や養育者に向けて開発された「ペアレント・トレーニング」。前回の記事では、ペアレント・トレーニングの概要を解説。2回目となる今回は“.....

【参考文献】

  • 『こうすればうまくいく 発達障害のペアレント・トレーニング実践マニュアル』上林靖子監修/北道子・河内美恵・藤井和子著(中央法規出版)
  • 『ペアレント・トレーニング実践ガイドブック』(一般社団法人 日本発達障害者ネットワーク JDDnet 事業委員会/協力:日本ペアレント・トレーニング研究会)

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濱岡操緒

岩手県出身。大学卒業後、ゲーム会社で広報宣伝職を経験した後、ママ向け雑誌やブライダル誌を手掛ける編プロに所属。現在はフリーランスのエディター&ライターとして活動中。一人息子の中学受験で気持ちに全く余裕がない中、唯一の癒しとなっているのが愛犬と過ごす時間です。

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