「性的同意年齢13歳」の日本で、家庭でできる“男の子”の性教育とは?
女の子には、生理についてや下着のことを通して性について教える機会がありますが、男の子については、差し迫って性について教える機会が少ないのが現状です。また、どう切り出して良いかわからないという保護者も多いのではないでしょうか。
2022年3月に男の子に向けた性教育の本「13歳までに伝えたい男の子の心と体のこと」を執筆されたやまがたてるえさんに、日本の性教育の現状や、家庭での性教育のきっかけづくりについてお聞きしました。
目次
日本の性教育の今
現在、公立学校の多くでは小学4年生で生理などを踏まえた性教育を行っています。以前までは女子だけに指導を行う学校が多かったのですが、現在は男子も一緒に指導を行うところも増えてきました。
一方で、平成29年改訂の学習指導要領では、性教育についての記述は特に増えたり更新されたりしていません。また、女子には林間学校や修学旅行など、学校行事のたびに生理についての指導がありますが、男子については小学4年生の次に性教育に触れる機会が中学生までないというのが実態です(学校によって外部講師を呼ぶなどのケースもあり様々ではあります)。
このような実態から鑑みても、家庭での性教育は不可欠ではないかと考えています。
2020年には年間で性教育関連の書籍が20冊以上出版されています。保護者の方が読むものや、お子さんが読むもの、中には絵本も含まれています。家庭で性について話すきっかけになる本がたくさんあるので、ぜひそれらを一つの手段として話題にしていただきたいと思います。
包括的性教育って知ってる?
学校での性教育については課題が多いものの、社会全体の関心は大きく変わっていると感じます。
LGBTQについての運動が年々活発になっているほか、包括的性教育という言葉が少しずつ浸透しており、見た目や単なる体の仕組みのことだけではなく、人間関係や価値観など、あらゆる面での性教育が必要になっていると考えられてきています。
実は、日本の性的同意年齢は13歳。これは明治時代に制定されてから変わっていません。その一方で諸外国では、十分に教育を行った上で16歳に設定されていることが多いです。
法律では13歳となっていますが、小学4年生で一律の指導をしただけで「この人と性行為をしてもよいかどうか」を正しく自己判断できるわけがありませんよね。
今回、男の子に向けた性教育の本を執筆するに当たって、自分の体に関して「自己決定」をすることの重要性をテーマとしてしっかりと訴えたいという思いがありました。将来の夢や目標に向けて自分の意思があるように、自分の体についても自分の意思で自己決定するということが当たり前にならなければなりません。
そのためには、自分の体についてや性についての知識を正しく知る、つまり「ヘルスリテラシー」を身につける必要があると思います。そうなるためには、適切な性教育を受けさせることが必要不可欠であるとともに権利であるということを、保護者の方にも子ども本人にも知ってもらいたいですね。
家庭での性教育は、いつ始めるべき?
ユネスコの「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では、5歳から学習目標が示されています。
「そんなに早くから?」と思われるかもしれませんが、そもそも、体が成長していくと性ホルモンにより異性の親への嫌悪感というものが自然に生まれます。
男の子ならテストステロンが出て母親のことがなんとなく苦手になったり、女の子ならエストロゲンが出て、お父さんの匂いがなんとなく苦手になったり。これらは遺伝子レベルで起こる、当たり前の変化です。
それに加えて、様々な知見や情報によって、性に関することを「いやらしいことだ」と感じるようになり、親と話しにくく感じてしまいます。親もそういったバイアスにより話しづらくなりますよね。
幼い子どもにはそのようなバイアスがありません。ですから、父親が生理の話をしても、母親が精通の話をしても、偏見なく受け入れられるのです。
また、早い段階で性にまつわる話ができる関係を築いていれば、何歳になっても性別関係なく「知識」として話し合えるようになると思います。逆に、大人側がバイアスやボディイメージを見せたり感じさせたりするようなことがあると、そういった関係を築くのは難しくなります。
前述のユネスコの資料にも、包括的性教育では、知識、態度、スキルを身につけることが重要であると示されています。知識があれば、性教育をするときにも堂々とした態度でいられるのです。つまり、性教育は「やり方」よりも「在り方」が重要ということですね。
男の子の性教育で必要なことは?
男の子だからといって、特別なことをする必要はありません。親が性教育を正しく捉えていれば、「男の子だから加害者、被害者になってはいけない」というネガティブなバイアスをかけずに話すことができるのです。
男の子の目に触れる可能性が高いものとして、今はネットなどで過激な「ポルノ」的表現があります。それらはあくまでフィクションであり、現実のものではないということを知らせる必要はあると思います。
その一方で、相手を思いやり、コミュニケーションの上に成り立つ「エロス」があるということもぜひ知ってほしいですね。
「13歳までに伝えたい男の子の心と体のこと」では、この二つの違いも説明しています。説明が難しい、話題に上げるには気まずいという場合は、本書などの本を通して教える方法もあると思います。
性について話すきっかけはどう作ればいい?
直接話すきっかけを無理矢理作らずとも、例えば本棚に性教育についての本を置いておくことも有効だと思います。「買ってみたから読んでみてね」と声がけするのも良いかもしれませんね。
また、私の知り合いに、お手洗いに読書スペースを置いているご家庭の方が本を置いてみたら、読んでいた様子があったことを教えてくれました。
また、性について学習があった日に「女の子の体について聞いた?」「男の子の体については何か聞いた?」などと、学校の話を聞く流れで切り出すのも良いと思います。
改めて話をするとお互いに構えてしまうかもしれませんが、学校の話の延長として話題にすれば、自然と話を広げられるかもしれません。
あとは、一緒にテレビドラマなどを観ていてキスシーンなどがあった際に、「こういうのってどう思う?」と話しかけても良いと思います。「そんなこと聞くなよ」と言われてしまうかもしれませんが(笑)。
「今はコロナでこういうことはしにくいかもしれないね」などと他愛ない話をすることも、バイアスをつくらないためには有効だと思います。ご家庭の親子関係に合わせた切り口を試してみてくださいね。
「13歳までに伝えたい男の子の心と体のこと」の活用方法
「13歳までに伝えたい男の子の心と体のこと」を、まずは親御さんに読んでいただきたいです。こういったことに関心が高いのはお母様であることが多いですが、ぜひお父様にも、そして可能ならばおじいさま、おばあさまにも触れていただきたいです。
本書では同性愛やDSDs(性分化疾患)など、大人でもまだまだ知らない、もしくは理解されていない話題を取り扱っています。
これらは昔の感覚では差別の対象になることもありましたが、それは無知からくる反応であり、知っていたらそういった反応や言葉は出ません。家族みんなで読み、性に対する感覚をバージョンアップしてほしいですね。
子どもには本棚に入れておくなどして、触れる機会をつくっていただければと思います。実際、こういった性教育にまつわる本を渡すと、自分のベッドの中でこっそり読む子も多いようです。
体の仕組みにまつわる当たり前のことだから恥ずかしいことではないと言いましたが、それでも思春期であれば、やはり照れもあると思います。恥ずかしいと感じること自体は悪くありませんから、その子にあった触れ方ができればと思います。
また、本書には書き込みができるワークスペースもあります。今の自分の考えをアウトプットするために使っていただければとても嬉しいです。
性教育は「性の健康教育」の略称だと私は考えています。健康という言葉が入るのを知っていただきたいです。それを知らずに、単なる性行為やそれに関連する体のこと、いやらしいことと思われる大人もいます。
何度も言うように、まずは大人の感覚をアップデートし、恥ずかしいことではなく自然の仕組みであり、知識として知る必要があることなのだと言う感覚を持った上で、バイアスなく子どもに伝えていただければと思います。それに本書が役に立てれば幸いです。
話をきいたのは…
やまがたてるえさん
女性の体のなやみや分からないこと、子育てのなやみをサポートしたり、体にまつわる本を出版、保護者を対象にした性教育の講座を行っている。生理が始まるころによむ「13歳までに伝えたい女の子の心と体のこと」は、たくさんの親子に読まれているロングセラーとなっている。2022年3月に「13歳までに伝えたい男の子の心と体のこと」(かんき出版)を出版。
・「13歳までに伝えたい男の子の心と体のこと」(かんき出版)やまがたてるえ著
・改訂版 国際セクシュアリティ教育ガイダンス
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