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2022.08.18

「もう疲れた…」発達障害児の親なら可能性がある「カサンドラ症候群」への対処法

自閉スペクトラム症(ASD),注意欠如多動症(ADHD)に代表される発達障害の特性などに起因し、身近な人の心身に不調が出てしまうカサンドラ症候群。子どもを大切に思うからこそ、様々な困難に疲弊する…。そんな保護者の苦しみから抜け出す方法を、自閉症スペクトラム支援士でペアレント・トレーニング・トレーナーの冨樫ちはるさんが解説します。

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記事を執筆したのは…

冨樫ちはるさん

自閉症スペクトラム支援士、ABAセラピスト、保育士、子育てコーチ。公立小学校で相談員として勤務中。「発達凸凹応援団ワン・シード」主宰。発達凸凹の良い所を見つけて伸ばす「ペアレントトレーニング」にコーチングを併用して、親の自分軸を整えながら子育てを応援する講座を企画・運営。

発達障害の親がカサンドラ症候群になる2つの理由

発達障害児の親がカサンドラ症候群に陥る理由は、大きく分けて下記の2つがあります。

【理由①】子どもとの関係が負担になるケース

ASDやADHDの子どもは、さまざまな特性を持っています。

幼児期だけでなく学齢期になっても「普通のこと」「当たり前のこと」が通用せず、「指示が通らない」「コミュニケーションが一方的」など、意思疎通がうまくいかないことが多いものです。

ASDは言葉の遅れをきっかけに気付かれることが多いのですが、言葉の遅れのない自閉スペクトラム(アスペルガー症候群)の場合は、むしろ言葉が早かったり大人の使うような難しい言葉を使ったりします。

しかし、一方的に自分の思いだけを話すばかりで、相手の言うことを聞いていないことが多く、なかなかスムーズな会話になりません。

知的障害がないにも関わらず静止がきかなかったり、知恵が回る分だけ大人の想像を超えたいたずらや危険な行動をすることもあります。

ただでさえ忙しい幼児期・児童期に、親は子どもの尻拭いをしたり、イライラが募ってつい声を荒げて怒ってしまいます。

「育て方が悪い」「ゲームやテレビに子守をさせているのでは?」など、周囲から批判的なことを言われてしまうと、この世からすっかり孤立したような気になって、落ち込んでしまいます

【理由②】家族以外の人間関係が負担になるケース

逆に、周囲の人からは「おかしなところのない、普通の子ども」「むしろ礼儀正しくしっかりしている」と見られることがあります。

「ルーティンをしっかりこなす」「規範意識が高い」というのも、ASDのよくある特性の一つ。

ここが強く出ると「知っている人には必ず挨拶をする」「規則をしっかり守る」という品行方正な子どもに見えます。

家庭では指示が通らず身辺自立ができていないのに、周囲からの評価が高く良い子と思われてしまうので、家での様子を伝えても「そんな風には全然見えない。うちの子の方がずっとやんちゃで大変だと思う」「あんないい子がそんなことするなんて、信じられない」といった反応をされてしまうため、「自分の方がおかしいのではないか?」という気持ちになってしまうこともあるでしょう。

また、自分やパートナーの親に相談しても「孫を悪く言うな。親のくせに自分の子がかわいくないのか?」などの冷たい言葉を浴びせられることさえあります。

カサンドラ症候群に悩んでいる母親のイメージ

実感しやすいカサンドラ症候群の症状

上記の2つの理由のような状況が長い期間続くと、「何を言っても否定されて、誰にもわかってもらえない」「自分の価値観が揺らいで、何が正しいのかわからない」と、だんだん追い詰められてしまいます。

その結果、身体面や精神面に不調が出てきます。その総称が「カサンドラ症候群」と呼ばれるもので、医学的なエビデンスに基づいた正式な診断名ではありません。

症状は下記のように多岐にわたっています。

カサンドラ症候群の代表的な症状

  • 不眠
  • 頭痛
  • 自律神経失調症
  • めまい
  • 抑うつ状態
  • パニック障害
  • 自己評価の低下
  • 孤独感・孤立感を感じる
  • 情緒不安定
  • 自己喪失感
  • 罪悪感
  • 無気力

特に病気にかかっていいるわけでもないのに、日常生活を送る中では、下記のようなことがあります。

  • 何気ない家事をしていて突然涙があふれてくる
  • 自分には何の価値もないのではないか、という気持ちでいっぱいになる
  • 早朝に目が覚めて、そこから眠れなくなる
  • 地球上に自分の味方になる人が誰もいないかのような孤独を感じる。
  • 突然、息ができないくらい苦しくなって「このまま死んでしまうのでは」と思うほどの発作が起きる
  • 仕事をしていても落ち着かず、家に帰るのが苦痛に感じる

子どもを持つ前の自分と比べたときに、あきらかに「何かがおかしい」と感じたら、カサンドラ症候群を疑ってみてはいかがでしょうか。

カサンドラ症候群は我慢では改善しない

上記の症状を自分にあてはめて「私はカサンドラ症候群かもしれない」と感じても、「このまま、嵐が通り過ぎるのを待とう」という姿勢では、状況は悪くなることはあっても、よくなることは決してありません。よくなるどころか、鬱病や本格的な体の疾患に発展することもあります。

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カサンドラ症候群から抜け出す6つの方法

では、どのようにして現状を変えていけばよいのでしょう。6つの方法を紹介します、

【方法①】発達障害の特性を知る

まずは改めて発達障害の特性を知りましょう。

書店に行けば発達障害について書かれた本がたくさん売られています。専門書以外にも、漫画やイラストを多用した読みやすい本がたくさん出版されています。また、インターネットを検索すれば、さまざまなサイトの記事や専門家の講演会の動画を見ることができます。

本に書いてある内容に対して、わが子が全ての特性を持っているわけではありませんが、定型発達(いわゆる健常)とは何が違うのかを大まかにでもいいので、まずは本やネットで情報を集めましょう。

映画やドラマ、小説や漫画などで取り上げられている作品も、楽しみながら特性を知る機会になると思います。ただし、感情移入しすぎると辛くなってしまうので気を付けてくださいね。

【方法②】言葉がけを変えてみる

言葉がけを変えてみるのもひとつの方法です。発達障害児に指示が通らない主な理由とその対策例をいくつか挙げてみます。

指示語が何をさすのかわからない場合

具体的に表現するようにしましょう。
「これ、しまっておいて」

「靴下をタンスの一番上の引き出しに入れてね」

一度にいくつもの指示を出す

指示は分ける、または文を区切って順番をつける、ホワイトボードを用意して書くのも効果的です。
「せんたくものを取り込んで、乾いた服をたたんだら、タンスにしまってからおやつを食べるよ」

「①せんたくものをとりこむ。②服をたたむ。③タンスにしまう。そしたら④はおやつだよ!ホワイトボードに書いておくから、迷ったら見てね」

やってはいけないことしか伝えない

何をすればいいかを具体的に伝える。
「フラフラ歩かないで!車にひかれるよ!」

「歩道をまっすぐ歩こうね。車の音がしたら、建物の方に寄ってね」

今回紹介している言い換えなどのアイデアは一例に過ぎません。さまざまな特性に対応する方法を知るには、ペアレント・トレーニングが有効とされています。

【方法③】パートナー・祖父母とよく話し合い、同じ対応を心がけ

やってよいこと・いけないことのルールをご家族で確認して、できるだけ同じ対応をするといいでしょう。同じことをしても「パパは笑ってるけど、ママは怒っている」ということがないようにしましょう。

この話し合いをすることで、パートナーや祖父母の協力が得られ、困難が軽減することもあります。

ただ、祖父母世代とは価値観の合わない所があるかも知れません。あまり厳密にするとみんなが疲弊してしまうので、工夫したり譲歩たり、時には距離を置くことも視野に入れてくださいね。

【方法④】知識のない人からの理解を期待しない

「学生時代からの親友だからこそ、この辛さをわかって欲しい」「ママ友にも発達障害の理解を深めて欲しい」という気持ちは、とてもよくわかります。

けれど、それはあなたが「発達障害を持つ子どもの親」だからです。発達障害児者の家族を持たない人は、発達障害に対してそれほど興味がありません。

また、身体障害のように「見てわかる・理解できる」ということが難しいため、説明しても思うようには伝わらないものです。

親友とは、子ども以外の話題で楽しむとか、子育てが一段落したらまた会おうくらいの気持ちで、どちらにしても理解を期待せず、説得や議論に発展しない付き合い方をしましょう。

幼稚園や学校が同じママ友は、子どもが卒業すると接点がなくなることも視野に入れつつ、表面的なつきあいと割り切ってみては?

【方法⑤】つらさを吐き出せる仲間と繋がる

発達障害の子どもを持つ親の集まりに参加する機会を、ぜひ作って下さい。あなたが感じているストレスや、他人に伝わらないジレンマを抱えている人は必ずいます。

親の会主催の自助会やお話会があれば、参加してみるのはいかがでしょうか。

私も、以前は対面でしたがコロナ以降はオンラインでの茶話会を続けています。「発達障害の子どもの親と初めて話をしました」「こんな気持ちで生きているのは、私だけかと思っていました」と、一人で多くの悩みを抱えていた人の多さに驚いたものです。

スマホ一台あれば、世界中と繋がれる時代。悩みを共有する強い味方にもなります。

【方法⑥】自分の人生を見直してみる

同じような診断名の、同じようなタイプの子どもを育てていても、悩みの深さや感じ方は人それぞれ違います。

どこに、どんな風に悩んでいるのか?その苦しみはどこから来ているのか?

育った環境かも知れないし、自分の親との関係かも知れません。

「発達障害児の親」という限定された枠の中で自分を評価するのではなく、一人の人間としての自分の生き方を見直すことで、子どもとの豊かな関係を築くきっかけが出来るのではないでしょうか。

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カサンドラ症候群を自分を変えるきっかけに

人は誰でも少なからず凸凹があるものですが、得意と苦手の差が大きく、社会生活や学校生活に支障がでてくるものが「発達障害」と呼ばれます。

普通や当たり前といった枠に入れようとすればするほど、本人と周囲との間に溝ができて、その板挟みになるのがカサンドラ症候群です。

カサンドラ症候群に陥る人は、真面目で誠実な人が多く、いつも誰かの目を気にして生きています。

本当に大切なものが何なのかを、この機会に自分に問いかけてみてはいかがでしょうか。あなたや家族の常識の枠を打ち破ることで、見えてくるものがあるかもしれませんよ。

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冨樫 ちはる

自閉症スペクトラム支援士、ABAセラピスト、保育士、子育てコーチ。公立小学校で相談員として勤務中。「発達凸凹応援団ワン・シード」主宰。発達凸凹の良い所を見つけて伸ばす「ペアレントトレーニング」にコーチングを併用して、親の自分軸を整えながら子育てを応援する講座を企画・運営。

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