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2022.05.08

発達障害、特性が強い子の学習や高校進学のために親ができることとは

成績や学力について誰よりも悩み、苦しんでいるのは子ども自身かもしれません。原因が自分の特性によるものであればなおのことでしょう。画一的な学校教育や受験では学力を伸ばすことが難しい子ども達に必要な学習法、親ができることを都内で学習支援塾を主宰する川下耕平さんに伺いました。

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自信を無くした子に必要なこと

子どもが学校の勉強についていけないとき、多くの場合、一般的な学習塾や家庭教師を考えるのではないでしょうか。しかし、そこでも勉強についていけず、さじを投げられたらどこを頼ればよいのでしょう。

東京都杉並区にある「学習支援塾すたでぃあ」は、学習に困難がある子どもの個々のレベルや背景に合わせた学びを提供する塾です。塾長の川下耕平さんによると、生徒の割合は、普通学級の発達障害・グレーゾーンの子が7割、特別支援学級の子が2割、普通学級の定型発達の子が1割。大半の子に共通しているのが、“勉強が嫌いになってしまっている”ということ。

「これまで学校の先生や親御さんから叱責されたり、周りと比較して自分が出来ないことを感じていたりしています。自分なりに努力をしてきたけどダメだったという子もいます。『自分はできないんだ』という気持ちが強く、『どうせ勉強しても…』という諦めの気持ちがどこかにあります」(川下さん、以下略)

そんな子ども達に対して川下さんが行うのは、自信を取り戻させながら学ぶ喜び体験を重ねていく学習です。

「この塾では、できる問題に取り組んできちんと理解させることから始めます。できる問題を積み重ねながら、次はこの問題に取り組んでみようと学習を進めていき、できない問題を無理矢理やらせるようなことはしません

できないことへの視点を変える

“できない問題をやらない=できないまま”でもいいのでしょうか。

「学習はステップアップしていくものだと考えると、登れない階段(できない問題)は、すごく怖いだろうと思います。ですが、学習は上を目指すのではなく、横に広げて行くものだと考えるとどうでしょう。

もし、登れなかったら、『この階段は上がれないけど、こっちの道(問題)に行ってみようかな』と、登れない階段を通過しなくても進める道はあるんです。こんな風に勉強に対する認識を少しずつ変えていくことが必要です」

例えば、特性として”集中力がない”場合、文章題や長文読解のような”集中力を持続させる”ことが必要な問題を解かせることは、本人に苦痛を強いることになります。“集中力をつけるための学習”ではなくて、「短い時間でできる学習は何か」「集中力が続かなくても点を取るためにはどうしたらいいか」という風に視点を変えていくということ。

“何でもみんな同じようにできなくてはいけない”という画一的な学校教育からこぼれてしまった子に合った学び方(=戦い方)を身に付けていくという視点が必要です。

親が学習への固定概念を変える必要性

ですが、どこまでが特性によるもので、どこまでは視点を変えることで子どもができるようになっていくのか保護者が判断するのは難しいもの。「やる気になればできるようになるんじゃないか」「危機感や本気度が足りなんじゃないか」と思ってしまうこともあるのではないでしょうか。

「確かに、私たちは学習の様子を見ることで、どこまでができることなのかということが感覚的に分かるんですが、(保護者には)難しいですよね。ただ、『うちの子は頑張ればできるんです』という考え方だと、無意識のうちに子どもに求める成果が高くなってしまうんです」

しかも、ハードルが高く設定されてしまっている家庭の子は、不思議なことになかなか伸びないそう。

「子どもの中に『できないのは自分ががんばってないからだ』という思いがあるので、塾の講師が言うことを素直に受け入れられないんです。やり方・視点を変えることを受け入れられないとなかなか伸ばすことができません」

いくら愛情によるものであっても、親の言葉や考えが子どもにとって呪いになってしまうこともあります。だからこそ、親自身が「できることが当たり前」といった学習への固定概念や経験則を捨てて、子どもよりも先に子どもに合わせた学びを受け入れることが重要なのだそう。

「例えば、私の塾では最初の面談で『この塾ではできない問題はしません』と伝えますが、受け入れられない親御さんもいます。ですが、その抵抗感が子どもが学習を嫌いになってしまった問題の核心であるという認識をもってもらうことから始めてほしいですね」

というのも、保護者が子どもに対して高いハードルを設定してしまう背景には保護者自身が自分の親や社会からジャッジされてきた経験、苦しい思いがあるからではないかと川下さんは感じているそう。

「お母さんの話を聞いていると、お母さん自身が育ってきた環境の影響やお母さん自身が背負い過ぎてしまっていると感じることがあります。まずは、お母さん自身が力を緩めて、背負っている荷物をおろしてほしいんです。こだわりを捨てて子どもを見ることで子どもに優しくなれたり、子どもの現状をジャッジするのでではなく受け止めることができるようになれるかもしれませんよ」

特性が強くても成績が上がる理由

できない問題はしない方針でありながらも、「学習支援塾すたでぃあ」では成績を挙げていく子がほとんどです。

例えば、中1の2学期の中間テストで数学が35点だったA君は、本人の解き方のプロセスを分析し、教科書通りではない解きやすい方法で問題に取り組むことで潜在能力を引き出すことができ、中2の1学期の中間テストでは78点を獲得しました。

また、勉強への苦手意識からノートもほとんどとっていない状態だった小学生のB君は、入塾前はテストに解答すらせず点数が付けられない状態だったが、本人の好きな文章を読み解いていくことで少しずつ前向きになっていき、どの教科も総じてテストの点数も上がって小6の1学期には80点以上を取れるようになりました。

「私も口では『テストの点数にはこだわるな』と言いますが、テストの点数が上がると子ども達は喜ぶんですよね。親御さんも喜ぶし、私も褒めますし、テストで点数取れるような指導はせざるを得ないところはあります。

ただ、勉強をめちゃくちゃ好きになるかといったら難しいですし、順調に力をつけていける子もいれば、なかなか伸びない子もいます。少なくとも点数に表れるまでは1年位はかかります。でも、自分のペースで、自分に合ったレベルの学習をじっくりと安心してできる環境があることが子どもが学習意欲を持つために大切なことだと思います」

できなくても叱責される嫌な思いをしないで勉強できることで、『すぐにテストの点数が伸びないなら意味がない』ということではなく、学ぶ喜びを取り戻すことでペースはゆっくりでもいつかがんばった成果は結果として表れることでしょう。

高校進学は「知ること」から始まる

また、中学生には「勉強ができないと高校進学ができないのではないか」という不安もあります。

「東京の場合、受験科目が多い都立高校に比べて私立高校だと受験科目も少ないですし、推薦制度を利用して受験の負担を減らすこともできるかと思います。発達障害やグレーゾーンの子にはいいかなと思います。学校によっては受け入れ体制もあるのでわが子に合いそうな学校は調べれば分かると思います」

自分に合った高校を選んで文化祭で実行委員を務めていたり、1日も休まず通っていたり、中学時代よりのびのびと高校生活を送っているという話を卒業生からもよく聞いていると川下さん。

「ほかにも、都立ならエンカレッジスクールやチャレンジスクールなど不登校や発達障害の子達を受け入れる学校もありますし、高等専修学校という道もありますよ。

親御さんの世代と受験の状況は変わっています。先入観を捨てて、まずはイチから知ることから始めてください。目の前の成績が悪くて、そこまで気持ちが追いつかないかもしれませんが、不安になって子どもを追い立てるのではなく、正しい情報を知ることが大事だと思います」

今は落ちこぼれが必然的に生まれる状況

成績が悪く、学校の勉強についていけない子の学習支援をしている川下さんですが、教えながら今の中学生の勉強のレベルの高さには疑問も感じていると話します。

今の中学生が学んでいる内容はかなり高度だと思います。本来は義務教育ですから、生きていくために必要な最低限のことが分かればいいはずなんですが、大人が勝手にハードルをどんどん上げておきながら、クリアできないと『落ちこぼれ』だと嘆いている状態なのではないでしょうか」

ハードルを上げていく背景には、国際社会の変化や社会で求められる人材が変わってきたことがありますが、有無をいわせずに高度な学びに投げ込んでおきながら「この子はできない」「落ちこぼれ」というのもいかがなものでしょう。

また、川下さんの主宰する塾では、“学習支援塾”という名で子どもの背景に関わらず、その子に合わせた学びを提供していますが、川下さんの造語であり、一般的には“発達障害専門”“不登校専門”などとカテゴライズしている塾が多いよう。

「中には、その塾に通うことで子ども自身が『自分は発達障害なんだ』と自認して傷ついたり、周囲から『あの子は発達障害なのね』と思われることにハードルを感じたりするご家庭もあると思います。背景に関わらず、あらゆる子ども達が学ぶ喜びを感じる機会がもてる社会になってほしいですね」

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浜田彩

エディター、ライター、環境アレルギーアドバイザー。新聞社勤務を経て、女性のライフスタイルや医療、金融、教育、福祉関連の書籍・雑誌・Webサイト記事の編集・執筆を手掛ける。プライベートでは2児の母。

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