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2022.06.21

“早生まれは不利”の通説は本当? メリットや解消法はないの?【専門家が解説します】

赤ちゃんの頃はそれほど気にならなかった、わが子の生まれ月。けれど、幼稚園・保育園への入園、小学校の入学というタイミングが来ると、周りの子の発育・発達と比較し気にしてしまう親は多いようです。“早生まれは不利”とはよく聞く言葉ですが、本当にそうなのでしょうか。子育て専門の公認心理師・佐藤めぐみさんに教えてもらいます。

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教えてくれたのは…

佐藤めぐみさん公認心理師

オランダ心理学会認定心理士。欧米の大学・大学院で心理学を学び、「ポジティブ育児メソッド」を考案。現在は公認心理師として、育児相談室・ポジカフェでの心理カウンセリング、ポジティブ育児研究所での子育て心理学講座、メディアや企業への執筆活動などを通じ、ママをサポートする活動を行う。アメリカ在住。中学生の娘の母親として子育てにも奮闘中。

早生まれが不利といわれるのはなぜ?

1月1日〜4月1日に生まれた子どものことを“早生まれ”といいますが、早生まれが不利といわれる一番の原因となっているのは、子どもの体の大きさの違いです。4月2日生まれと翌年の4月1日生まれは同じ学年になりますが、ほぼ1歳違いますよね。

大人になれば1歳差はもちろん、数歳差であっても見た目には分からないことが多いものですが子どもの場合、年齢が低いほどその差は明確です。

例えば0ヵ月の男子の平均身長は49㎝ですが、11ヵ月の子は約74㎝。およそ25㎝もの差があります。6〜7歳までは男女ともに7㎝前後成長するといわれており、体重も2㎏前後の差があるのが一般的です。

早生まれを不利に感じさせるのは体の大きさの違い?

体格の差によって顕著になるのが、身体能力的な差。0歳児の場合、生まれて数ヵ月の子は寝ているだけなのに対し、11ヵ月くらいになると早い子は歩き始める子もいます。

体の大きさが違うということは、脳の大きさも違うということ。脳の発達は心理面や認知面の発達とも関係しているため、“できる・できない”が明確になることもあるでしょう。

そして、親がわが子と周りの子との差で悩むのが、幼稚園や保育園に入園した後。できる・できないという“結果”の部分が目で見て明らかな分「Aくんはできるのに、うちの子はできない」と感じることが増えるのです。

早生まれは親も不利!?

保育園の利用は、「利用月の1日の時点で生後57日以降」とされるのが一般的。これは、労働基準法で産後56日までは就業してはいけないと決まっているからです。そのため、産休・育休中の親、特に母親はわが子の入園が遅くなることで早生まれが不利と感じることもあるようです。

また、細かい部分でいうと児童手当の支給期間が短いという点も挙げられます。簡単にいうと、支給開始は生まれた月によってバラバラであるにもかかわらず、支給終了は学年で定められているため、トータルでもらえる金額が少なくなるのです。

早生まれの悩みは成長とともに解消

早生まれが不利だと多くの親が感じやすいのは、幼稚園や保育園に入園してからと小学校に入学するタイミングです。しかし、子どもが小学校3~4年生くらいになればそれほど気にならなくなるという場合がほとんど。子どもの成長とともに子育ての悩みが変化していくことはもちろん、その頃になると周りの子との体格差も目立たなくなってくるからです。

もっとも、早生まれが不利だと感じることがなくなる時期についてはさまざまな見解があります。また、コミュニケーション能力や自制心、計画性といった非認知能力については長く差が残るという研究結果もあります。しかし、早生まれだから非認知能力が低いというわけではありません。この点について、詳しく解説しましょう。

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「学習性無力感」によって不利が長く続く場合も…

早生まれの子の親の中には、「一つ下の学年だったら…」と思う人もいるのではないでしょうか?

私がいま住んでいるアメリカでは「ダウングレード」といって、子どもの学年を一つ下げることは珍しくありません。例えば、運動能力に重きを置く家庭では、体格の差がネックになると考えて学年を下げるのです。

ダウングレードには、“褒めて育てる”というアメリカ人の子育て観が原点にあると感じています。困難にぶつかる前に親が先回りするという過保護な面はあるものの、親が子どもをうまく乗せて一段ずつ階段を昇ることができるため、経験値が上がります。そしてそれは、自己肯定感の高さにもつながっています。

日本にはダウングレードというシステムはありませんが、学年を下げることで優位になるとは限りません。何が言いたいのかというと、子どもの能力は早生まれかどうかということよりも、育て方や社会環境が大きく関わるということ。

自分を褒めることのできる子は伸びる! 子どもの自己肯定感を高めよう 
自分を褒めることのできる子は伸びる! 子どもの自己肯定感を高めよう 
小学校に上がっていない小さな子どもが「僕、すごいでしょ!」と言うのを聞いたという人、多いのではないでしょうか。時には、大人からでも「すごいでしょ! 私、頑張った.....

日本人の子どもは、世界で1~2位を争うほど自己肯定感が低いといわれています。自己肯定感が低い子どもは自分に自信を持てないことも多く「どうせ僕なんて…」「私にはできるわけがない」などチャレンジする前から諦めてしまったり、勉強やスポーツなど長続きしなかったり、自分が持つ能力を発揮できないことも…。

通常、人は困難やストレスを感じる状況に直面すると、そこから回避するための努力を試みます。しかし、不利だったり不快だったりといった状況が続くと「自分は何をしても無駄だ」「自分には能力がない」という“無力感”を学習し、回避するための行動を起こそうという気持ちが芽生えなくなってしまいます。アメリカの心理学者・セグリマン博士は、この状態を「学習性無力感」と名付けています。

もし親が「早生まれだから不利」という感覚を持ってわが子に接していると、子どもも「早生まれだからできない」と同じ感覚を抱いてしまい、学習性無力感を引き起こしかねません。この点は、親としてしっかり認識しておきたいところでしょう。

不利とは限らない!期待できるメリット

一度、早生まれを不利だと感じてしまうと、子どもの“できないこと”ばかりに目がいってしまうものです。しかし、ネガティブに捉えてばかりいても、悩みは和らぎません。いま悩んでいるところから抜け出すためにも、少しだけ見方を変えてみませんか? 

周りの子より早く社会性が身に付けられる

幼稚園・保育園など遅生まれの子より早い時期に入園するため、外の社会における学びが早い段階でスタートできます。また、先生のサポートや周りの子の影響によって、着替えや片付けなど自立した生活習慣を早く身に付けることができることもあるでしょう。

もちろん、社会性の習得には子どもの気質が関係します。物おじしない子は良い方向に働きますが、人見知りが強いような子にとっては早い入園に居心地の悪さを感じることはあるかもしれません。

努力する習慣が身に付く

早生まれの子は体が小さい分、他の子より努力が必要な場面は多いかもしれません。努力する姿を認めることで、たとえそれが結果に結びつかなかったとしても子どもの自己肯定感を向上させることができます。

ポイントは、結果ではなく過程を褒めること。努力することで伸びるということを子どもが覚えると、努力する習慣が身に付くのです。

過程を褒めることでなぜ努力する習慣が身に付くのかについては、次章で詳しく解説しましょう。

早生まれの子に不利はないか見守っている親のイメージイラスト

年齢が低いうちは周りの子より体が小さい分、親が並走してあげることは多くあるでしょう。しかしそれは、良い親子関係の構築につながる面を持ちます。親子のコミュニケーションが増えますし、子どもは親が見守ってくれるという安心感を抱きます。早生まれのわが子に手が掛かると感じる時期は、親子の信頼関係を強くする期間であるともいえるでしょう。

また、幼稚園や保育園、小学校に入るタイミングが早いので、復職や自分だけの時間が持てるタイミングが早く来るという親の視点でのメリットもあります。

親が早生まれをデメリットにしない。それが、結果的にメリットになるのです。

早生まれをデメリットにしない接し方

ここまで解説してきたように、不利になってしまう原因の多くは親や大人の言動によるものです。最後に、早生まれを不利にしない親の接し方について見ていきましょう。

小さな“できる”を褒めてあげよう

「リレーで1位が取れた」「テストの点数が100点だった」など、親はわが子の“結果”に飛びつきたくなるものですが、結果につながったその過程や、その子自身の資質を褒めるようにしましょう。

親が“才能褒め”ではなく“努力褒め”をすることで、子どもは「知性や良い行動は、努力によって磨かれるもの」という見方ができるようになるというアメリカの大学の研究結果があります。

日頃の子どもの行動で「いいな」と思えるものは、どんどん口に出して褒めてあげてください。食後の片付けができた、宿題にしっかり取り組んでいるなど、本当にささいなことでいいんですよ。

また、親が「早生まれは不利だ」というモードに傾いていると、わが子のできないことばかりに目が行ってしまうものです。そうすると、つい叱ることも多くなります。しかし、叱り方を間違うと子どもの自己肯定感を傷つけたり低下させてしまったり、子ども自身を否定してしまうということにもなりかねません。

だからこそ、わが子のできる部分を意識的に褒めることが大切なのです。叱りベースではなく褒めベースで導くことができると、子どものやる気や努力する気持ちを育むことができるはずです。

「早生まれだから」は言ってはいけない!

早生まれを言い訳にした、“諦め”の刷り込みにも注意が必要です。「早生まれだからできない」はもちろん「早生まれなのにできたね!」と伝えるのも、その背後に「できないと思っていたのに」という思いが見え隠れするのでおすすめできません。わが子が何かできたときには、純粋にその努力を褒めてあげてください。大切なのは、親がフラットな気持ちで向き合うことです。

実際、社会に出れば年上や年下の人と働くことの方が多く、さまざまな年齢の人と関わりながら生きていくものです。大人の社会で、早生まれだからできないと感じることはまずありません。

「できない」「ダメだ」という刷り込みが強いと、自己肯定感が低い状態から抜け出せません。自己肯定感は人間の心の土台となっているものですから、生きづらさにもつながってしまいます。

わが子が自分の価値観を下げてしまわないよう、「いつか追いつく」と大きな気持ちで構えていれば大丈夫です!

習い事でカバーするのはOK! ただし「回避学習」に注意して

今の時代、わが子を小学校入学前から塾や習い事に通わせる親は多いものです。“不利”と感じる前にカバーする親が増えたため、ソクたま読者の皆さんが子どもの頃よりも、早生まれを気にする人は少なくなったと感じます。

私がカウンセリングする中で「習い事はどのくらいの掛け持ちさせるのが正解でしょうか?」という質問を受けることが多くありますが、正解はありません。子どもの性格によって違いがあるので、子どもの意思を無視して親が勝手に決めてしまうのは避けましょう。一つの習い事に絞りたいと感じる子もいれば、たくさん習い事をしても楽しめる子もいます。

しかし、習い事を始めてもすぐにやめるというのを繰り返すのは避けたいものです。“つらい思いをしたらやめる”という行動が癖になることを「回避学習」といいますが、やめることで安心感を得たり、自分をリラックスさせる効果を見いだし、困難を乗り越えられない子に成長してしまいます。

習い事が続かない傾向にある子は、習い事を掛け持ちしすぎると回避学習の場数を増やしてしまうことになるため、注意が必要です。習い事は子どもの向き不向き、性格をしっかり見極めることを忘れないでくださいね。

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早生まれによって何かしらの能力差を感じるのは、幼稚園・保育園入園後から小学校低学年くらいまで。子育ての期間だけでなく、子ども自身の人生の長さで考えればほんの短い期間です。何より、子ども自身は自分が不利だとは思っていないはず。「早生まれだから…」と考えず、わが子の良い部分、得意な部分を伸ばせるように思考を転換してみましょう。

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濱岡操緒

岩手県出身。大学卒業後、ゲーム会社で広報宣伝職を経験した後、ママ向け雑誌やブライダル誌を手掛ける編プロに所属。現在はフリーランスのエディター&ライターとして活動中。一人息子の中学受験で気持ちに全く余裕がない中、唯一の癒しとなっているのが愛犬と過ごす時間です。

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