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2022.05.12

家庭の事情や貧困と学力の関係について|今、子どものために大人ができることとは

近年、「子どもの貧困」「教育格差」という言葉がよく聞かれるようになりました。一見豊かに感じられる日本ですが、貧困をはじめとした家庭の事情によって学習の機会を奪われ、成績や学力の低下に悩む子どもは少なくありません。そういった子どもを取り巻く環境が学習に与える影響と、必要な支援について、NPO法人Learning for All の宇地原栄斗さんと田尻夏希さんに伺いました。

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お話を伺ったのは…

特定非営利活動法人 Learning for All

「子どもの貧困に本質的解決を。」というミッションを掲げ、2010年に学習支援事業を開始し、その後、子どもの居場所づくり、食事支援、保護者支援など活動の幅を広げる。現在は、あらゆる領域を横断して子どもたちに必要なサポートを提供する「地域協働型子ども包括支援」の展開や、政策提言、全国の子ども支援団体との連携などに取り組んでいる。

学習機会を奪われる子どもたち

“貧困”という言葉から多くの人がイメージするのは、日々の衣食住にも事欠くような”絶対的貧困”ではないでしょうか。

一方、日本などの先進国に多く存在するのは、”相対的貧困”といい、その国の生活水準や経済環境と比較して困窮した状態、言い換えるなら、いわゆる”普通の生活”を送ることが難しい状態を指します。

厚生労働省の調査によれば、相対的貧困(世帯の所得が日本の中間的な所得の半分に満たない状態)家庭で暮らす18歳未満の子どもの割合は、2018年時点で13.5%。

子どもの7人に1人が貧困状態にあるということになります。さらに世帯類型別にみると、ひとり親世帯の貧困率は48.1%と、2人に1人が貧困状態にある実態が浮かび上がります。

貧困世帯の子どもは、なかなか周りの友達と同じように塾や習い事に通うことができません。また、家計を助けるためのアルバイトで勉強時間が確保できなかったり、経済的な理由で進学を諦めざるをえなかったりするケースも見られます。

「子どもたちと接していると、貧困によって学習面で難しい状況にある子どもの数は、非常に多いという実感があります」と話すのは、子どもの貧困の本質的な解決を目指す特定非営利活動法人「 Learning for All」の宇地原栄斗さんです。

子どもたちの居場所づくりや、無償の学習支援を通じて学習につまずきを抱えた子どもたちのサポートをしています。

「子どもの学習機会を妨げる『貧困』は、金銭的な問題だけを指すのではありません。背景に経済的な困窮がありつつ社会からの疎外感や学習環境の喪失など、複数の要因が折り重なっていると考えられます」(宇地原さん)

実際、「Learning for All」の支援拠点には、貧困世帯や不登校、児童虐待、外国籍など、前向きに学習や生活への期待を持ちながらもさまざまな事情で勉強に注力できない子どもたちが集まっているそう。

例えば、海外から移住してきた家族が学校から渡される日本語の資料を読み、複雑な受験のシステムを理解できるのでしょうか? 両親が共働きで残業が多く、小さな兄弟の面倒を見なければならない場合、集中して勉強できる時間はあるのでしょうか? 私たちにとっての”当たり前”がない環境に置かれた子どもたちは、思っている以上に多いのかもしれません。

また、多くの子どもたちに共通しているのが、『自分はどうせできないんだ』という、諦めにも似た気持ちだと宇地原さんは話します。

「学校での失敗や挫折、勉強ができなくて周囲にバカにされた経験などから、努力することへの抵抗感を持つ子が非常に多いです。でも、どんな子でも、きっと心の奥底には『できるようになりたい』『やってみたい』というポジティブな気持ちがあるはず。想像や押し付けではなく、本人がどうしたいのか、何を望んでいるのかを尊重し、時間をかけて関わっていくことが大切だと考えています。

例えば、絶対的貧困の状態にある子なら衣食住が第一ですし、虐待を受けて心身に傷を負った子は、安心できる居場所がなければ勉強への意欲なんて生まれません」(宇地原さん)

学習機会を奪われる子どもたち

子どもの学習への取り組み方が変わるとき

では、さまざまな事情で学習に集中できない子にはどんな支援ができるのでしょうか。

「大人目線で学習支援を考えると、どうしても『教えてあげる』『やってあげる』という姿勢になりがちです。しかし、大人の気持ちを優先するのではなく、子どものペースに合わせて、一人ひとりと対等な信頼関係を築く中で前向きな気持ちを引き出しサポートすることが必要です」(宇地原さん)

さらに、同法人で子ども達のサポートを行い、子ども達が変化していく様子を見てきた田尻夏希さんは次のように話します、

「ペースはそれぞれですが、どの子も時間をかけて向き合えば学習への意欲や取り組み方が変わっていきます。

印象に残っているのが、外国にルーツをもつ、ある卒業生です。拠点に通い始めた当初は日本語でのコミュニケーションも難しく、勉強をするよりもいたずらをしている時間のほうが長いくらいでしたが、関わり続けるうちに少しずつこれまでの経験や『医者になりたい』という夢まで話してくれるようになりました」(田尻さん)

それからは、受験を見据えて、まずは学校の宿題にしっかり取り組むようになり、母国が漢字圏ではないのに漢字のテストで100点をとって、嬉しそうに見せてくれたこともあったそう。

「不得意な分野もありましたが、拠点のスタッフと一緒に計画を立て、家庭でも自ら勉強を進めていました。目標を見つけたことが学習へのモチベーションにつながり、『できた』『分かった』という経験が、さらに成長を後押ししたのだと思います」(田尻さん)

学習へのモチベーションとなるのは目標だけではありません。

学習とは、学ぶ楽しさや人との対話、誰かと一緒に物事を考える経験を育む、ひとつの手段だと考えています。

学習を進めていく中で、子どもが自信をつけ、人間関係を構築し、自分なりの興味や進路を見出していくことこそが、学習本来の価値といえるのではないでしょうか」(宇地原さん)

本来の学習の意味を考え、学習支援といっても画一的なカリキュラムで知識を詰め込むようなことはしないのが「Learning for All」の学習スタイルですが、一方でテストの点数や成績を軽視するわけでもありません。

「矛盾しているように感じるかもしれませんが、『勉強したい』と来てくれた子を支援して、成績が上がらなかったり志望校に合格できなかったりしたら、失敗体験を再度繰り返すことになってしまいます。

ですから、子どもたちが自ら学ぶ姿勢を重視しつつも、結果としての“点数”を出すことに強いこだわりを持っています。その子がこうなりたい、こういう風に頑張りたいと言ってくれたことに対して、きちんと応えられるように、一人ひとりに合わせて授業内容にも工夫を凝らしています」(宇地原さん)

周囲が子どものためにできることとは

相対的貧困状態にある子どもは、生活が困窮している絶対的貧困に比べ、実態が見えづらいという特徴があります。また、学習や経済面の困りごとといったネガティブな相談は、なかなか周りには打ち明けにくいものです。

厚生労働省の生活困窮者自立支援制度では、生活困窮世帯の子どもの学習・生活支援事業を展開しており、学習や生活習慣、進学、高校中退防止など、子どもと保護者の双方に必要な支援を行っています。

しかし、宇地原さんは、「そもそも難しい状況にいる子どもは、自分からヘルプを出しづらい環境に置かれていることが多いです」と話します。

「Learning for All」でも、支援が必要な子どもにつながるのは、ケースワーカーやスクールソーシャルワーカー、行政の子ども家庭支援担当部署からの紹介が多いそうです。

「家庭の事情で学習に困りごとを抱えているからといって、当事者である子どもが行政の窓口に相談に行けるかと考えたら、まず難しいでしょう。いくらサービスを整えても、支援が必要な子どもにはなかなかつながりにくいのが実情です。そこは、学校や行政と連携をしながら、困難な状況にいる子どもたちに私たちのような存在をはじめとした居場所や学習支援の情報が届くよう、粘り強く関わり続けていくしかないのかもしれません。

一方で、子ども同士、保護者同士でゆるやかに悩みを共有できるようなコミュニティがあれば、子どもが支援につながる確率はぐっと上がります。当事者ではなくても、できるだけ周りにアンテナを張って、何か困っているサインを見つけたら学校の先生などに相談してほしいですね。

学習は子どもに保障されるべき権利です。学習の機会を失ってしまっている子どもたちに対して、学ぶ環境を提供することは、社会の責務ともいえます。同時に、当事者である子どもたちが、悩みを一人で抱え込んだり諦めたりせず、信頼できる誰かに話すことができ、支え合えるような環境を作る必要もあります。

貧困は自己責任という意見もあるかもしれませんが、決してそうは思いません。子どもの貧困を地域や社会全体の問題としてとらえ、子ども本人の声が反映される世の中になってほしいと思います」(宇地原さん)

<お話を伺った人>
宇地原栄斗さん
子ども支援事業部 エリアマネージャー
出身地である沖縄県での原体験から子どもの貧困に対して関心を持つようになり、大学在学時にLearning for Allの学習支援事業に参画。現在は葛飾区のエリアマネージャーとして拠点の運営に関わりながら、他大学との共同研究などにも取り組んでいる。

田尻夏希さん
子ども支援事業部 学習支援事業 プログラム統括
所得格差が教育格差、経験の格差をもたらすことへの疑問をきっかけに、大学2年生時にLearning for Allへボランティアとして参画し、子どもの学習指導に携わる。現在は東京都葛飾区・埼玉県戸田市にある学習支援拠点の責任者として、大学生ボランティアへの指導をはじめ、保護者や関係機関との連携を行っている。

<画像提供:特定非営利活動法人 Learning for All

加藤朋実

加藤朋実

広告代理店、企業の広報を経て、2008年よりフリーランスライターとして活動。子育て、ライフスタイル、教育、医療、住まい、グルメなど、幅広いジャンルで執筆を行う。人物インタビューや企業インタビュー、イベント取材など、取材経験も多数。そのほか、コラム原稿や書籍原稿の執筆なども手掛けている。趣味は音楽鑑賞と読書、野球観戦。プライベートでは一児の母。

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