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2020.04.16

「法律は子どもを守ってくれますか?」子どもの人権について考えよう【弁護士・鬼澤秀昌さんへインタビュー】 

2020年度から全国にスクールロイヤー制度が導入されたり、子ども向けに法律について解説した本「こども六法」がベストセラーになったりなど、法律的な視点を教育や子育てに取り入れられるかと考える保護者もいるかもしれません。そこで、教育に精通する弁護士の鬼澤秀昌さんに教育や子どもと法律の関係について話を聞きました。

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子どもの人権を守るためにできることとは

昨年から話題の『こども六法』(山崎聡一郎著・弘文堂)をはじめ、“子どもと法律”や“子どもの人権”について書かれた本が多数出版されています。しかし、そもそも“子どもの人権”とは、何なのでしょう。

日本では”権利を主張する”っていうと、わがままな主張という印象を持つ人が多いのかなという気がしています。例えば、子どもの権利条例を作る際に出る反対意見を見てみると『子どもに権利を認めると、僕は遊ぶ権利がある!と言って手伝いをしなくなる。そんなわがままな子に育てて良いのでしょうか!』みたいな。でも、子どもの権利ってそういうことではないですよね。子どもが子どもとして最大限能力を発揮したり、学んでいくのを保証したりすることが子どもの人権(権利)を守るということです

ユニセフの子どもの権利条約を見てみると子どもの権利は大きく分けて4つあるとされています。

<子どもの4つの権利>

①生きる権利
すべての子どもの命が守られること

②育つ権利
もって生まれた能力を十分に伸ばして成長できるよう、医療や教育、生活への支援などを受け、友達と遊んだりすること

③守られる権利
暴力や搾取、有害な労働などから守られること

④参加する権利
自由に意見を表したり、団体を作ったりできること

引用元:ユニセフ「子どもの権利条約」

「これらは守られて当たり前の権利ですよね。”権利”っていう言い方をすると難しく考えてしまうかもしれませんが、子どもの権利という言葉にこだわらず、『子どもたちの可能性を最大限実現する環境を実現するためにはどうすればいいか』という問いに変えて考えてみてはいかがでしょうか」

お話を伺ったのは

鬼澤秀昌さん弁護士・スクールロイヤー

東京都出身。司法試験合格後、教育系NPO法人の常勤スタッフとして勤務。その後、大手法律事務所を経て、2017年に「おにざわ法律事務所」を開業。第二東京弁護士会・子どもの権利委員会、日本弁護士連合会・子どもの権利委員会、学校事件・事故被害者弁護団などに所属。2019年4月より東京都江東区のスクールロイヤーも務めている。

苦しまない、傷つかない環境づくりも人権を守ること

また、LGBTをはじめとするマイノリティに対する人権を守ることは苦しまない、深く傷つかないことをいかに保証できるか」だと鬼澤さん。

「LGBTの方々の本当の気持ちは、ストレートの人には本当は分からないかもしれません。きっと自分自身のアイデンティティに苦しむと思いますし、好きな人に告白することへの精神的負担はすごく大きい。それは、LGBTの方々の自殺率の高さにも表れていると思います。でも、彼らの気持ちを100%理解できなくても、彼らがそこまで傷つくような環境は変えていかないといけないと思いますよね。それが人権を保証する事なのかなと思います」

LGBTだけでなく障害のある人や自分とは違う何かを抱えている人に対して「彼らの権利を守るためにどうすればいいのか」と考えると、何か特別なことをしなければいけないのではないかと必要以上にセンシティブに考えてしまいそうですが、「苦しませない、傷つけない」と考えると接し方のヒントが見えてくる気がします。

「いじめ予防授業や主権者教育の中で『苦しい人がいたら、どうやってみんなでそういう状況を無くせるかを考えるのが大事なんだよ』と伝えています。人権は行使するものではなく、みんなで実現していくものではないかと思います」

鬼澤さんの著書はこちら>

法律の知識には限界もある

では、子どもが法律を知ることは身を守ることにつながるのでしょうか。

「実は、弁護士でも法律に書いてある通りに白黒つけられることばかりじゃないと思うんです。例えば、友達に悪口を言われたとして、本当にひどい事例であれば名誉毀損にあたりますが、そこまで内容が悪質でない場合、法律を持ち出さなくても子どもたち同士で解決できるかもしれません。しかし、そこで法律を持ち出して『これは名誉毀損だ』って言って片方が悪いと決めつけてしまったら何も解決できなくなりますよね」

また、法律を知るとき同時に知ってほしいのは、法律は国民みんなで作るものであって変えられるということ。

「『法律は決まっているものだから守らないといけない』と考えてしまうと校則と同じですよね。法律を持ち出すことで議論が終わってしまう」

法律のせいで話し合いや理解し合うことが止まってしまってはいけません。しかし、法律が気持ちを助けてくれることはあるかもしれません。

「例えば、学校で体罰があったからクレームを入れたのにモンペ扱いされたら『私が悪いの?』って保護者は思いますよね。でも、その時に法律を見て、体罰や学校のすべきことについて自分が思っていた通りに書いてあると、『私が変なわけじゃないよね』と安心できます

また、学校と話し合いをするときにみんなが自分の思っていることを正当化し始めると話が噛み合わず成立しません。しかし、法律があると共通の基準になるので、それを基に着地点を見つけていこうとすれば話し合いが成立しやすくなります」

 

ただし、法律を基準にしてしまうことで、逆に、話し合いが難しくなってしまうこともあります。

「教育委員会や学校側も、法律を出してこられると、法的な議論をせざるを得なくなります。そうすると、柔軟な話し合いというよりも、『学校はこうすべき義務がある』『そのような義務はない』等の議論になってしまい、柔軟な解決から遠ざかってしまうことは少なくありません。それは日常生活でも一緒で、何か約束を破ってしまったとき、急に『これって債務不履行ですよね。損害を賠償してください』と言われてしまうとどうですか? そんなこと言われたらびっくりしてしまいますよね」

身を守るために得た知識のはずが、事態を悪化させてしまっては本末転倒ですよね。「法律」は使い方がとても重要なのです。

法律と弁護士の使い方

しかし、法律の使い方は重要ということは分かっても、弁護士に法律を相談するのは敷居が高い気がします。

「弁護士は、損害賠償請求や刑事告訴の時に相談するものという印象がある方が多いんですけど、私の所に来る大部分の相談はそんな事ないんです。もっと早い段階で相談にきてくれます。学校とも少し交渉を始めているけど話が進まないという方が多いですが、学校に話をする前段階で相談にくる方もいますよ」

もちろん、どんな段階でも相談料はかかるため、その点は自己判断ですが、早い段階で相談に行くことはメリットも大きそうです。

早い段階で来て頂くと今後どうしていくのかのステップを分かりやすく組み立てられるんですよね。『まずはこれをして、これがダメだったら次はあれをしましょう』『この人に対してはこういう風にお願いしましょう』など、一緒に整理できます。交渉の相手やトーン等も含めて計画が立てやすいですね」

また、計画を立てるだけでなく交渉の仕方もアドバイスをしてくれるので、早い段階から相談していたほうが話をすすめやく、心理的負担も軽くなると鬼澤さん。

「例えば、学校に対応してもらいたいことがあった場合、『法律的に言えるのはここまで。この先は法律的には、学校が無理と言ったら無理だけど、こんな感じで主張したら学校も受け入れやすいんじゃないですか』など、伝え方を一緒に考えます」

学校でトラブルがあっても相談ができずに親子で孤立してしまうことがあるかもしれませんが、弁護士に相談してもいいということも覚えておきましょう。

話を聞くことが子どもの権利を守ることになる

学校の交渉など対外的なことは弁護士や専門家に相談することはできますが、いじめなどのトラブルの場合、渦中の子どもの一番近くにいるのは、やはり家族です。子どもにまつわるさまざまな事案を見てきた鬼澤さんに親だからこそできることを聞いてみました。

「私も親歴があるわけではないのでおこがましいのですが、まず、子どもの話を聞くことが重要だと思います。学校で何かあると「そんな事あったの! 子どものために学校に行かなきゃ」と思う方は多いと思うのですが、その行動が子どもを傷つける事もあります。『明日どんな顔して学校に行けばいいんだろう』と思うこともありえるので、まずは本人の話をちゃんと聞き「お母さんから学校に話す事もできるし、○○君のお母さんに話したりもできるけど、どうする?」と本人と話をしてから次のステップを考えてください」

親は、子どもが傷つけられたと聞くとなかなか冷静ではいられません。しかし、まずは子どもと会話をして子どもの気持ちを受け止めるようにしたほうがよさそうです。

「小・中学生くらいだと、まだまだ言葉が発達していない部分があると思うので、「こういうのが嫌だったんだね、こういう気持ちなんだね」と言葉で感情を整理してあげる事でだいぶスッキリします。感情をラベリングしてあげることで、子どもの心の整理ができると思いますね」

これは、いじめられたときだけじゃなくて、自分の子がいじめていた場合でも同様とのこと。

「『何でいじめたの!ダメでしょ』じゃなく、『こういう事をしたんだね。どんな気持ちだったの?』と話を聞いてあげてください。

きっと子どもは『ムシャクシャしてたから』などと言うと思いますが、その時にも否定せずに『そうか、こういう事があって、こういう気持ちになっちゃったから、こういう事をしちゃったんだね』と感情の整理してあげる。すると、次に同じような状況になった時に自分を客観視でき行動が変わっていきます

何かがあったとき一番最初に話を聞く可能性の高いのが保護者。それは、子どもの権利を守ることにもなるそう。

いずれにしてもお子さんの話を否定せずに聞くのが最も重要なことだと思います。ただし、これは、本人を叱ってはいけないということでもないですし、子どもの意見を何でも否定せずに受け入れなければならないという訳ではありません。

ユニセフの「子どもの権利条約」の一般原則には、「子どもの意見の尊重(意見を表明し参加できること)」という項目があり、子どもは自分に関係のある事について自由に意見表明でき、大人はその意見を十分に考慮するというものです。

何かあったときに子ども自身が気持ちを話すことは、まさに子どもの意見表明です。はっきりとした「意見」でなくても、本人の気持ちだけでも、しっかりと話を聞いてあげること、そして、なんでもかんでも子どもの意見を受け入れるのではなく、子どもの意見をしっかりと考慮して行動することが、子どもの権利の実現になると思います」

法律は何か起きたときにトラブルを吹き飛ばす必殺技にはならないかもしれません。ですが、専門家がいれば力にはなってくれます。また、法律を学ぶよりも大切なのは子どもの話を聞くこと、傷つかない環境をつくること。それが子どもの権利を守ることになることを忘れずにいたいですね。

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浜田彩

エディター、ライター、環境アレルギーアドバイザー。新聞社勤務を経て、女性のライフスタイルや医療、金融、教育、福祉関連の書籍・雑誌・Webサイト記事の編集・執筆を手掛ける。プライベートでは2児の母。

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